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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

 81. 顔

1957年1月  松竹 製作 公開     監督 大曾根辰夫

犯行現場で顔を見られたことから起こるサスペンス映画で松本清張の短編が原作ですが、作中の男女を入れ替え原作とは少々話が変わっています。

鉄道シーンは冒頭にあり、夜の東海道本線 草津駅で普通列車に座る石岡三郎(大木実)が曇る窓を拭きホームを見る場面でタイトルが出ます。客車は盛アホ オハ35 1210と何故か青森客車区所属です。
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「5番線停車中の列車は 23:19発の各駅停車 東京行です。まもなく4番線に上り急行列車が通過します」と深夜の様で、駅員以外人けの無いホームに放送が響きます。

やがて隣のホームをEF58 電機牽引の急行列車が入線して来ました。
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編成の6両目辺りから見守る駅員の前に、列車から男が飛び降りてきました。
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「アッ!」と駅員が声を上げる間も無く コート姿の男がホームへ転がり、何事も無かったかの様に向かいの各停 東京行に乗りました。

駅員は呆気にとられて、男に声も掛けません。そしてホームに転がる割れた壜を拾い、「ウイスキーじゃないか」「酔っぱらってるんだな」「あってらないことするな」などと話しています。
やがて発車ベルが鳴り、東京行の列車はゆっくりと発信して行きました
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男は飯島哲次(山内明)で車内を歩き、
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水原秋子(岡田茉莉子)を見つけると洗面所へ連れ出し、自分を避け 逃げようとしているなと詰め寄ります。

秋子は腐れ縁の飯島と手を切り 別のプロ野球選手と一緒になりたかったので、後からこの列車にまで追いかけてきた飯島に危機感を覚え 争いの果てにデッキから転落させてしまいます。
しかし洗面所での二人の言い争いの場で石岡に顔を見られたことから、秋子を巡るこの先の展開が始まるのです。








PS. 

東海道本線は 1956年11月に全線電化完成したのですが、東側から順次電化され最後に電化されたのが この草津駅のある米原~京都 だったのです。
故に草津駅でのロケは 1956年11月19日の全国時刻大改正以降 僅かの期間と思われます。ところが草津 23:19発の各停は大阪発 21:50の513ㇾ青森行(到着は翌々日 5:00!)なのです。

4番線を通過するのは、21:10 神戸発の16ㇾ急行銀河 東京行で草津 23:18通過の様です。先頭から8両目まで3等車 9~14両目(1号車~6号車)が2等車でハザ1両増結かな?
この時代の急行銀河は2等寝台3両2等車3両3等寝台2両と半分以上が特別料金車で、続々と連なる帯付車の豪華編成の姿が画面からも見て取れます。

東京へ逃げ帰る秋子のことを知って追い掛け、強引に飛び降りまでして追い付こうとする飯島の行動からシツコさを強調した脚本にしたかったのでしょう。
しかし電化後東海道本線の普通列車は大半が電車化され、夜行列車らしい旧客列車の東京行を追い越す急行列車という組み合わせはゼロなのです。

それでロケに際して青森行 513ㇾに東京行のサボを付けてもらい、通過する急行銀河と合わせて撮影したと思われます。なお構内放送もアフレコと思われます。
石岡の乗る 各停東京行がオハ35 なのですが所属の部分に盛アホ(盛岡鉄道管理局 青森客車区 1959年表記がアホ→アオに変更)とあることからも想像がつきます。

ダイヤから見ると佐賀から上京する石岡が乗っているのは、門司 7:26発の各停で草津を 1:06発車し東京へは 12:53の到着の112ㇾではないかと思います。
いかし追い越して行く列車は、門司 10:16発の 46ㇾ急行荷物専用列車 東京行なので話が合いません。それでこの様なロケとなったのでは・・・

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コメント


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資料によれば、これは松本清張原作の初映画化作品である。
つまり、日本映画史に燦然と輝く清張映画の記念すべき第一作目となる。

キャストに岡田茉莉子(東宝)と出るので、彼女はまだこの時期は東宝専属であった。

映画「顔」はミステリーとしても面白く一級品に近い作品なのだが、原作の素晴らしさには到底及ばない。原作はそれほど長くないが、スリルに満ちた傑作である。

ブログに記載されているように、映画化に当たって大幅に内容は変更されている。
第一、原作では岡田茉莉子の犯人役は男である。映画では女性のファッション・モデルの方が華やかだからであろう。脚本もよく練られており、それはそれでよかった。

冒頭の草津駅のシーンでは、テツエイダさんの指摘「23時19分発各駅停車 東京行き」のアナウンスや「客車は盛アホ オハ35 1210と何故か青森客車区所属」などから、ここの鉄道設定は現実のものではなく、いい加減らしい。

ここが物語の発端となる重要なシーンになるので、徹底的に調査して時刻表通りに真実だけが持つ厳粛さのリアリティを出して欲しかった。

清張の原作ではこのシーンは山陰線京都行き上り、午前11時20分から20分間、場所は周布~浜田の間とされている。

原作の後半、男(原作では石岡貞三郎)が東京~京都間を「月光」に乗車する時間も、清張のことだから綿密に調べ上げ、時刻表通りなのは間違いがないであろう。

急行が「草津」ほどの大きな駅に停車しないとは少し驚いた。近くに県庁所在地の大津があるからだろう。

「急行から強引に飛び降りまでして追い付こうとする飯島の行動からシツコさを強調した」というテツエイダさんの説は説得力がありますが、いくらなんでもコンクリート性のフォームに通過する列車から飛び降りるのは無茶、自殺行為。

現実的には、急行で先に次の停車駅まで行って、そこで各駅列車を待っている方法を思い付かなかったのだろうか。

映画演出に不満が一つあります。

冒頭に大木実の顔のアップにタイトルの「顔」が事ありげに重なるが、これだと「顔」の意図が本来の岡田茉莉子ではなく、大木実という印象を与えてしまう。

赤松 幸吉 | URL | 2018-05-02(Wed)18:43 [編集]


Re: 顔

赤松様 詳細なコメントありがとうございます。

草津駅の場面 小生は未読ですが清張の原作ではこのシーンは、山陰線京都行き上り午前11時20分から20分間、場所は周布~浜田の間だそうですね。

本作の様に夜行列車に設定した方が、ミステリー的雰囲気は上がると思われるので変えたのでしょう。

草津駅は当時 殆どの優等列車は通過で、停車するのは準急2本だけです。大阪発 富山行の503レ準急立山でさえ通過でした。
大津でさえ急行15本の内 雲仙・さつま・彗星・安芸の4本は通過という状況でした。

草津駅で飛び降りた飯島哲次は0:01次の米原で下車し、0:19に到着する列車を待って乗り込んでも良かったのでは?と思えますね。

テツエイダ | URL | 2018-05-03(Thu)13:43 [編集]


原作との相違点が・・・

テツエイダ 様

 ED76であります。

本作の主人公「水原秋子」役の「岡田茉莉子」様は、美貌と気品のある女優であるというイメージを持っております。特に小生の印象に残るのは、昭和37年作の「秋津温泉」での「新子」役。生きる希望を失い時代に流されゆく男(長門裕之氏)に変わらぬ真情を抱きながらも、裏切られてしまう薄幸な女性を演じました。この作品は、「岡田」様のデビュー記念作品として、自ら「秋津温泉」の映画化を提案してプロデュースしたものであり、第17回毎日映画コンクール女優主演賞を受賞するに至りました。そのことをきっかけとして、監督であった「吉田喜重」氏と結婚されたのであります。
 以前、鑑賞して本サイトに投稿した「樹氷のよろめき」でも感じたところですが、影のある美貌の女性が似合います。「人間の証明」の「八杉恭子」役にしろ、過去の過ちに引きずられてしまい、強気な姿を見せつつも・・・という役どころ。また、一方では「山鳩」(本サイトでも紹介されております)で演じた、貞操観念が薄くとも純真な田舎娘「鶴江」役でのあっけらかんとした演技も「岡田」様の魅力だと考えます。
 しかし、映画女優としての矜持は人一倍強いものであり、バラエティ番組での対談の中で、「最近の若い女優さんについてどう思われますか?」という質問に、「あの方たちは女優じゃありません。タレントさんです。」と発言。「岡田」様自身は「テレビと映画は別物だ」という確信のもと、演じられていたのかと小生、驚愕したものでした。


 「顔」は、松本清張の短編の一つであり、小生は「たづたづし」と同じ不満を感じております。元々の原作では、主人公の売れない役者である「井野良吉」が映画デビューのチャンスを掴み、一躍スターの座を手に入れるのです。しかし、過去に犯した犯罪の露呈に恐れをなし、はっきりと自分の顔を見られた目撃者を殺害するか否かで、懊悩する姿が印象に残っております。
一方の映画の「顔」でありますが、まさしく「岡田茉莉子」様を主演とするために、設定上の主人公を男優から女性のファッションモデルへと変更することに。事件を追う主要な刑事役に「笠 智衆」氏(「男はつらいよ」の御前様)が配役されている意外性など、興味深い部分があるにはありますが・・・。
 小生は、「映画館での石岡の反応」がポイントになると思うのです。「愛のきずな」でも感じた細部でのこだわりが、今一つの感じになっているように感じています(別に「岡田茉莉子」様の美貌にケチをつける意味ではありません)。残念ながらラストシーンはいただけなかったのです・・・。


 「鉄」的には、「草津」で、通過する急行レ「銀河」からフォームに飛び降りた「飯島(山内 明氏)」のシーンが最も印象的です。いくら映画とはいうものの、70km前後の列車からフォームに飛び降りる・・・。現在ならCGでしょうが、実写ですよね。
 昭和30年代の映画のシーンでは、動いている客車に飛び乗ったり飛び降りたりと、自動ドアが当然である現在では、考えられない風景が多々見られています。実際、小生も母方の従妹が在していた「西千葉」で、昭和40年代に活躍していた総武本線の「千葉始発の旧客レ」の混雑していた最後尾に、高校生カップルが飛び乗る場面に遭遇しました。小学生にしてみれば、少々「刺激的なシーン(!!)」でした・・・。ただ、客車からの転落事故に、国鉄は頭を悩ましていたようであります。
 昭和31年6月25日、トカホセの「刈谷」にて、当時「春の海」で著名な琴奏者であり作曲家であった盲目の「宮城道雄」氏が、デッキからの転落事故で亡くなられております。大阪での公演へ向かうため、下りの急行レ「銀河」に乗車中、午前3時ごろ、「刈谷」構内でデッキから車外に転落。午前3時半頃に、現場を通りかかった貨物レの乗務員よりの「三河線ガードのあたりで線路際に人のようなものを見た」という通報により、救助されましたが、午前7時15分に病院で死亡が確認されたというものです。
 「宮城」氏の事故については、寝ぼけてトイレのドアと乗降口を間違えた(マロネの構造上の欠点?)との説が最も有力であり、事故発生の2年後に事故現場に供養塔が建てられました。なお、この経緯については、「宮城」氏と生前に交流のあった、鉄道ファンで有名な作家「内田百閒」氏(「阿呆列車シリーズ」)の「東海道刈谷駅」という随筆に、詳しく述べられております。


失礼いたします。

ED76 | URL | 2022-02-21(Mon)20:50 [編集]


Re: 原作との相違点が・・・

ED76 様  コメントありがとうございます。  

当ブログでは初期作品なので、深堀していない点がありますね。
映像を再確認してみると、5輌目の客車後部デッキ通過時に 手前の駅員の影から 飯島が転がりながら登場します。

時速70㎞程の列車ということは 秒速19.4mですので、1秒間に客車1輌分移動しているスピードです。
これはさすがに スタントマンでも、それなりの設備無しでは 無理でしょう。

撮影方法としては カメラを固定し、先に通過列車(急行銀河)に合わせて飯島は助走し、手前の駅員の影に入った地点で 転がり倒れ 何事も無かったかの様に 513レに乗り込む迄を撮影します。
次に30分後の通過列車(急行月光)の時 二人の駅員だけで 同じ立ち位置で撮影して、飯島が転がった時記録した5輌目の客車後部デッキ通過時までの 後から撮影した部分を前半・それ以後には 先に撮影した後半部分の映像を繋いで作品とした?

映像では5輌目の客車後部デッキ通過時に、突然右方向から列車へ向かって ライトが照らされています。
銀河と月光は同じ13輌編成で、1~6号車が帯付二等車なのも同一と 好都合でした。
ただ銀河通過後に 513レが発車してしまうので、後半部分を先に撮影する必要がありました。

以上が小生の妄想です。 返信順が後になった点は、ご了承ください。

テツエイダ | URL | 2022-02-23(Wed)12:04 [編集]