日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

 44.愛染かつら

 1954年4月 大映 配給 公開     監督 木村恵吾

 すれ違い恋愛映画の本家で戦前の 1938年から松竹(監督 野村浩将)で三部作製作され、戦後大映で 1948年に続いて 1954年に再度製作されたのがこの映画です。
更にその後 1962年にも松竹(監督 中村登)で二部作製作された人気作品でした。本作は鶴田浩二が松竹を辞め、フリー時代に単巻契約で出演した映画です。その後の東映所属での印象が強い鶴田浩二なので意外と知られていない本作です。

 最初の松竹作品では新橋駅ですれ違いシーンがありましたが、本作では東京駅で医師 津村浩二(鶴田浩二)が待ちますが看護婦 高石かつ枝(京マチ子)は事情があって遅れてしまいます。
 津村は窓口で京都まで二等の急行券を二枚買い、改札口でかつ枝を待ちます。15番線の発車案内パタパタは普通二三等 22:40 大阪行と出ました。そして乗車予定の23:05発大阪行急行(月光か)の改札案内放送が流れます。津村は振り返りながら改札を入ります。

 15番線ホームに上がってもかつ枝の姿はありません。44-1.jpg
そして発車ベルが鳴り始めた頃漸くかつ枝が乗るタクシーが到着します。かつ枝は入場券を買い改札からホームへ急ぎますが、和装故に足早とはいきません。
 遂に列車が動き出したので津村は後ろを振り返りながらデッキへ飛び乗ります。次第に加速してゆく列車 その時漸くかつ枝がホームへ上がる。思わず列車に駆け寄ろうとするかつ枝を「危ない!」と制して駅員が抱えます。

 京都から夜行列車で上京する場面では、津村が二等寝台車に乗り込み列車給仕に案内され8番下段に落ち着きます。
44-2.jpg
プルマン式寝台で給仕にチップを渡し、浴衣を手に取ることから形式は不明ながら二等寝台車のセットか日中借りての撮影と思われます。
 その後の走行シーンはフィルターをかけての擬似夜景ですが、山科の上りカーブでの撮影の様にも見えます。

 かつ枝が熱海にいる娘 敏子(小畑よし子)に会いに来るシーンでは、80系3枚窓先頭車が伊豆山トンネルらしきから出てくる場面から始まります。
44-3.jpg
そしてホームへ入る場面では 80系2枚窓車に準急伊豆のヘッドマークが付いています。
 二等車から降りてくる かつ枝に敏子が飛びつきます。この様子をホームの端から津村が見ていると、背後をEL牽引の列車が通過して行きます。
 高速での通過故に不鮮明ですが列車の後半に帯付車が連続していることからも、当時熱海駅を唯一通過していた特別急行つばめ号 時間帯からして上り東京行つばめ号と思われます。特別急行はと号は上下共熱海に停車していました。
 
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コメント


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愛染かつら

この「愛染かつら」(鶴田・京の大映版)は余り知られていない作品です(私も見てみたいのですが、DVD化はされていないようです)。
できるなら、松竹の「愛染かつら」「続・愛染かつら」(中村登監督 岡田茉莉子・吉田輝男)のすれ違いシーンをまとめていただけないでしょうか。2作とも松竹メロドラマの傑作で、実にスマートな出来となっています。
東京駅でのすれ違い、「続」の北海道(蒸気機関車が登場)でのすれ違いなど、これらの列車は何なのか是非知りたいです。
すれ違いドラマ(ヒロインは必ず恋人の乗る列車が発車してから駅に到着します。何故なのだ!)は鉄道と駅が重要な役割を果たしています。まさにテツエイダ様の独壇場ではないでしょうか。

赤松幸吉 | URL | 2013-08-28(Wed)18:54 [編集]


Re: 愛染かつら

 赤松様  残念ながら、1962年松竹公開の「愛染かつら 正・続」は見ていません。機会があれば、是非見てブログに書いてみたいものです。

 1938年公開の初代「愛染かつら」の総集編は見ましたが、新橋駅でのすれ違いシーンが僅かで客車の一部しか映っていないので対象外とした記憶があります。

テツエイダ | URL | 2013-08-29(Thu)21:14 [編集]


愛染かつら

「愛染かつら」マニアの小生としては、この大映版(京マチ子、鶴田浩二)が長年見たく
て仕方がなかったが、この度DVDが発売されてやっと目にすることができた。

個人的には京マチ子の高石かつ枝はミスキャストだったと思うが、映画自体は大変満足のいくものだった。

日本映画でいやしくも映画と鉄道の関係を論じるなら、「愛染かつら」の東京(新橋)駅での「すれ違い」シーンははずせない。

観客は、かつ枝は発車時間にけっして間に合わず、浩三とは逢えない運命にあると知りながら、ハラハラ、ドキドキしながらスクリーンを凝視しているのだ(メロドラマ演出の教科書となっていて、何度見ても心を奪われる)。

この心憎い演出テクニークは名匠・野村浩将監督の創案によるものだが、一番鮮やかで、優れていたのは、この手法を更にスキルアップした中村登監督によるものだと思う。

戦前版「愛染かつら」(野村浩将監督 上原謙・田中絹代)では 場所は新橋駅、アナウンスなどから「23時5分発(放送では6分と聞こえるのだが) ××急行神戸行き」とわかる。

「愛染かつら」(中村登監督 吉田輝雄・岡田茉莉子)では
場所は東京駅、アナウンスや発車案内から「21時30分発 急行博多・大分行き ぶんご つくし 14番線」と読みとれる。

どちらもかつ枝が自宅を出るときに「(発車時刻までに)あと25分しかない」という台詞がある。


「愛染かつら」(木村恵吾監督)では
場所は東京駅(かつ枝が現れなかったので、『「新橋駅」と間違ったのではないか』という台詞が後で聞かれる)、「23時5分 急行大阪行き」とはっきり放送されている。

「月光」という列車らしいが、これは時刻表通りの23時5分発なのですか。

また、戦前版と中村登版の列車設定も架空ではなく実在し、時刻表通りの発車時間だったのですか。

「新愛染かつら」(久松静児監督 竜崎一郎・水戸光子)は浩三が中国より帰国後してのストーリーなので、この有名な夜のプラットフォームのシーンはない(主題歌自体も「旅の夜風」とは違っている)。

ちなみに、岡村文子は戦前から戦後に時空を隔てて映画「愛染かつら」(「新~」も含めて)すべてに佐藤婦長役として出演している。

同じ俳優が、同じ映画で、同じ配役を四度も演じるのは極めて希有な例ではないだろうか。

しかも、戦前版には「前・後編~」「続~」「完結編」があり、62年版も「続~」があるので、かれこれ10本近く一人で佐藤婦長役を演じていることになる(「旗本退屈男」や「男はつらいよ」などのシリーズものとワケが違う)。

時代も、映画会社も、監督も異なる同じ作品で、これは凄い記録ではないでしょうか。

赤松 幸吉 | URL | 2018-01-28(Sun)19:53 [編集]


Re: 愛染かつら

 赤松様 「愛染かつら」への熱いコメントありがとうございます。

 以下が お尋ねの東京(新橋)から京都へ向かう場面の、小生が解明できる範囲での実在時刻表との比較です。

【1938年作品】 1938年の時間表(当時の名称)が無いので、前後から推定します。
       1934年12月改正 新橋 23:05発 7レ急行下関行 京都 9:47着
       1940年10月改正 新橋 23:06発 7レ急行下関行 京都 9:47着 
 急行下関行 ⇒ 急行神戸行と変えているだけでほぼ同じです。1938年時点では、新橋 23:06発なのかもしれません。

【1954年作品】 急行月光は 1953年11月改正から登場し、1954年10月改正時刻表では東京 22:15発大阪行です。
        大阪湊町行の急行大和が東京 23:00発で、新橋 23:06発(当時 急行列車としては唯一停車)です。
        あるいはこの列車を示唆しているのでしょうか。

【1962年作品】 東京 21:30発博多・大分行 急行筑紫・ぶんご は実在列車です。(この時点で新橋に停車する急行は無い)


 赤松様の元祖「すれ違い」映画への考察。 歴代の看護婦長役に、映画会社を越えて配役された岡村文子の件はさすがの考察です。

テツエイダ | URL | 2018-01-30(Tue)10:22 [編集]


愛染かつら

「愛染かつら」のプラットフォームでのすれ違いは小生の日本映画一番お気に入りのシーンで、津村浩三が京都に向かった列車についてはずっと気になっていました。

列車名は? その列車は実在したのか? (映画のアナウンスと)同じ発車時刻なのか? など。

一般的に映画でのアナウンスははっきりと聞き取れないことが多いですが、戦前版はやはり(23時)5分ではなく6分発だったのですね。

これで胸の「つかえ」が取れました。

色々と調べてくださって、有り難うございました。

赤松 幸吉 | URL | 2018-01-30(Tue)15:17 [編集]