
東海道本線の 特別急行列車内を舞台に、食堂車従業員と 乗り合わせた ひと癖ある乗客達との やり取りを描いたコメディ映画です。
冒頭 タイトルクレジットの最後に、当時の田町電車区~品川客車区を 一望するシーンがあります。

日本食堂品川で 食堂車コックの矢板喜一(フランキー堺)は、各種食材の上に パーラーカー専用材の入った箱を載せて リヤカーを牽いて 電車区へ向かいます。

途中で 食堂車会計の藤倉サヨ子(団令子)から、前日伝えた「結婚して大阪で食堂しましょ」の返事を 今日大阪に着く迄に してと言われます。二人の上を、EF58形電機牽引貨物列車が走っています。

田町電車区に留置中の 151系こだま号の食堂車搬入扉から 矢板が食材を積み込んでいると、先頭車乗務員扉から 乗り込もうとしている スチュワーデスから「踏み台を貸して~」と声が掛かります。

食堂車クルー全員で ブランチを食べている頃、

一等車座席では今出川有女子(白川由美)達4人の スチュワーデスがお化粧の仕上中です。

やがて回送列車として 電車区を出発すると、


12時15分 東京駅15番ホームへ入線します。某宗教団体客は、乗車前から ホームで大騒ぎの様子です。

一等乗客は スチュワーデスが出迎えますが、菓子会社社長の岸和田太市(小沢栄太郎)は 旅館の女将達の見送りを受けながらも 有女子に目を付けています。

発車時刻が迫ったので 降車した女将(塩沢とき)は、

1号車に警官が警備する中 乗り込む政治家と 目つきの鋭い警護員達を見て「ヤクザの親分じゃないの」と呟きます。

12時30分 1号車パーラーカーを先頭に出発した 特別急行こだま号は、

専務車掌 影山(石田茂樹)が 案内放送に続いて 有女子と組んで検札を行います。
一方 7号車ビュッフェから出発した 車内販売担当の、谷村ケイ子(柳川慶子)と宮川セツ子(紅美恵子)は カートを押して5号車へ行きます。
検札中の有女子から 行く手を阻まれると 前方客から声が掛かったので 強引に突破し、押された有女子は 岸和田の膝の上に乗っかってしまいました。

食堂車開店の放送があると 甲賀げん(沢村貞子)康雄(滝田裕介)親子は 直ぐに向かいますが、案内された席の向かいには 酔いどれの老人(田武謙三)が 独り言を吹いていて落ち着きません。

列車が熱海駅へ近づき

2番線へ停まると、チャイナドレスを着た 伊藤ヤエ子(中島そのみ)が乗り込み、

岸和田の隣席に座り 色仕掛けで篭絡しようとするつもりの様です。
有女子は岸和田から 店を出してやると言われ、矢板に ここを辞めて一緒に店をやろうと、食堂車の調理室内まで 押しかけて口説いています。
四時半からの 予約制夕定食 第一回目が始まると 16:43名古屋に到着し、

3分停車の間に 食堂車の給水・資材搬入時に矢板達3人は些細な事からケンカを始めてしまいます。
一方 一等車のビジネスデスクでは、女流作家が原稿を 下書きする姿もあります。

その後 ひょんなことから車内に 爆弾が仕掛けられたとの噂が広まっているところで 列車は なんと最高速度138キロに!

その時 踏切でエンコしている ダンプのせいで、列車は突然緊急停車します。



そして 矢板とサヨ子がお互いの話を 閉店となった食堂車でしている所へ、公安官の青木(堺千左夫)に追われた スリの下谷(平凡太郎)と上野(谷村昌彦)が現れ ドタバタの乱闘の末に逮捕されます。


やがて 京都へ9分遅れで到着すると

有女子とつきあっている佐川英二(太刀川寛)が ホームで有女子を待ち構えていましたが、岸和田の話を聞くと怒って帰ってしまいました。

終着大阪へ着く時には

ヤエ子が有名な女スリの(風船のヤエ)であると分かって 皆の財布や青木の手帖も戻り、矢板とサヨ子の誤解も解けてハッピーエンドなのでした。
PS.
獅子文禄が 1960年1月から 週刊新潮に連載した「七時間半」を原作にした作品ですが、原作は 連載開始当時運転されていた 客車特急はとに乗務する(はとガール)と食堂車乗務員との間の軋轢を ひと癖ある乗客達とのやり取りと共に 描いています。
ところが本作公開の前年 1960年6月から 東海道本線昼行特急は 全て151系で電車化され、つばめ・はとガールは 廃止されてしまいます。
そこで現実には無い 東京12:30発大阪行の 特別急行こだま号を設定し、一等車のアテンダントとして スチュワーデス4名が乗り込むという 架空の設定にしての 脚本となっています。
発車時刻は 旧はと号と同じに合わせていますが 151系電車なので、名古屋到着は 40分早く・大阪到着は 1時間早くなります。
日本食堂での食堂車女性クルーの点呼では、会計係の藤倉サヨ子以下食堂車5名・車内販売2名・ビュッフェ2名・パーラー担当1名・電話担当1名の合計11名が乗り込んでいます。
男性は食堂長森山(丘寵児)・チーフコック渡瀬政吉(森川信)・矢板・他2名・ビュッフェ担当2名の合計7名体制だった様です。
田町電車区で乗り込むシーン以外に、出演者が現場でロケしたのは 東京駅での11番目画像の塩沢とき達と、12番目画像の 1号車乗り込み場面位でしょう。
9番目の入線時画像の宗教団体客は エキストラで撮影し、驚くことに 東京・京都のホーム場面 車内シーンは全てセット撮影でした。
16番目の画像は ミニチュアで 熱海到着前シーンを撮り、熱海を出ると 新幹線用の新丹那トンネル工事現場を横に

丹那トンネルへと入って行きます。

東宝のステージに 一・二等車・食堂車・ビュッフェ・パーラーカー後ろ部分の、全長80mに及ぶ 同スケールのセットを製作して 撮影したそうです。
美術スタッフが サンロクトオに向けて 製造中の工場(たぶん汽車会社東京)へ13日間通って、見学・写真撮影・採寸して シート等は模作の上に 持ち込み比較するなど 苦労の末に作ったセットだとか。
食堂車の座席と調理室の境に 会計台が右側にあり、その前に「枯れ木」と称した 斜めの飾り木があり、透明のパーテーションで 会計台と仕切られています。(調理室を含め、忠実に再現されています)

6枚目の画像で 架空のスチュワーデスが 一等席で化粧や髪を梳かしています。昔の はとガールも 乗務する一等席(当時は二等席)で 化粧直していましたが、大きな白布を 首から膝下まで掛けた上で行っていました。
清掃の終わっている 一等席で髪を梳かすなど、いくらコメディ映画としても あんまりですね。(はとガールOGが 本作を観たらガッカリでは)
18枚目の画像は 名古屋駅で 101レ大阪行の第一こだま号と 104レ東京行の第一つばめ号が、共に11:13着・11:16発の同時発着で 両列車がダイヤ通りならではのシーンですね。
パーラーカー登場場面は 謎の酔いどれ老人が 間違えて乗ろうとして 警護員に排除される場面と、

爆弾騒ぎの時 公安官が警護員の所へ来た場面程度で 室内シーンが無いのが残念です。
この時パーラー係の 藤本マサ子が、酒類が並ぶ サービスコーナーを背に立っています。

この部分は通路を挟んで 反対側に 冷蔵庫と冷水器があったそうです。(画像では警護員が冷蔵庫に 寄りかかって座っていました)

日食の点呼場面では 食堂車クルーの内マサ子が パーラーカーアテンダントとして 乗務していた様です。 しかし広岡友紀氏の記述では「飲み物のシートサービスは スチュワードさんが・・」とあるので、列車給仕の方が 行った時もあったのでしょう。
パーラーカーでは 区分室と開放室の間に 幅700㎜の乗降口があり、入ると大きな荷物置場の隣に 給仕室がありました。
7号車の半室ビュッフェで 右端に電話室があり、電話係の橘高カズ子が 乗客に取り次ぐシーンがありました。

外部からの電話も係が取り、呼び出し放送をしました。
パーラーカーの乗客だけは 外部へ電話する場合、席横の給仕ボタンを押して 給仕に頼みます。すると給仕室から ビュッフェの電話室に内線電話し、外部へ無線電話で取り次いでもらい、給仕は携帯受話器を客席に持参して 席のジャックに差し込み通話したそうです。
また1960年6月から運行開始した パーラーカーですが、泉屋・ユーハイム・コロンバン何れかの 袋入りクッキーと コーヒー・紅茶のシートサービスは 8月10日から開始だったそうです。(2枚目の画像で、箱の中身はこれでしょうか)
ラストシーンで3分程 BGMだけで パントマイムの様に ジェスチャーで、仲間が心配する中 矢板とサヨ子の誤解が解けて ハッピーエンドとなる迄を 描いているのが珍しいですね。
参考 : 鉄道ピクトリアル №109・809・815 国鉄 特急電車物語 福原俊一
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