
芹沢耕介(佐分利信)は 会社では戦後民主主義社会での 結婚生活のあるべき姿を講話する男だが、自分の家庭では 亭主関白を凌ぐ暴君で 妻の行動を疑い・妄想から嫉妬に狂って 家庭崩壊に至る様子を描いた喜劇映画です。
家庭での芹沢は 暴君に徹し 妻敏子(高峰三枝子)を 奴隷の様に扱い、病身の弟と 満州から引揚た妹への 金銭援助を受けている立場もあって 敏子は静かに かしづく毎日だった。
一方で芹沢は 愛人マユミ(幾野道子)を囲っていて ある日も出張らしく 社用車で 新橋駅まで送られると、

改札口で見送る 総務の吉田(河村黎吉)を 一旦入って撒いてから マユミのアパートへ向かうのでした。
その後 土曜日でしょうか 日中に帰宅する電車内で芹沢は、

探偵事務所の中吊り広告「夫婦愛の危機!!」という文字が目に留まりました。

帰宅すると 妻の出迎えは無く、敏子が弟弘三(太田恭二)を伊豆の病院へ見舞った折に知り合った 弟の先輩 塚崎積(宇佐美淳也)と 楽しそうに客間で話しているのを 聞いてしまい 浮気ではと疑います。
その夜 芹沢は激怒し 見舞いに行く事を 禁ずると命じ、承諾した敏子は 翌日弘三にと 縫い上げた浴衣を託す為に 芹沢の出掛けた後に外出します。
妻の浮気を疑る芹沢は 出勤の為に出掛けたふりをして 庭に隠れ 出掛ける敏子を見るや、塚崎と逢引きすると確信し 尾行して途中から 駅に先回りして着きました。

階段下の物陰に隠れて ホームを見ると、

敏子が電車を待っています。


やがて運転手横の窓も 板張りの荒廃した 山手線電車が到着し、

敏子が乗ると

芹沢は素早くホームを移動して 隣の車輛端のドアから乗りました。

ドアが閉まると 全てのドア上部の窓も板張りで、中央部に覗き穴の様な 丸い穴が開いています。戦後三年目の暮れに 撮影されたと思いますが、山手線の様な 代表的路線の車輛とも思えません。

車内で隣の車輛端に 敏子を発見した芹沢は、

見逃すまいと見続ける中

電車は京浜線と分離前のホームが1本で、上りの63系電車が停車中の 有楽町駅へ到着しました。

敏子が下車したので、

芹沢も後を追い掛けます。

混み合うホームで敏子を尾行し、

英語表記の案内板の下を通って 出口へと向かいます。

何も知らない敏子は 塚崎が勤務する東都新聞社へ入り、弘三への浴衣を託した後 一緒に出掛ける所も 芹沢に見られてしまいました。
その晩 芹沢は更に激怒し「浮気の現場を目撃したぞ」と一方的に決めつけ、否定する敏子の話を聞かずに 一切外出することを 禁止されてしまいます。
ところが翌日 塚崎から 弘三が危篤になったと電報が届き、敏子は病院へと駆け付けます。帰宅した芹沢は 女中から話を聞くと、嫉妬と怒りが再燃し 敏子を追い駆け汽車に乗りました。

危篤状態の弘三の元へ着いた敏子が 塚崎と一緒に見舞っているところへ 怒り沸騰状態の芹沢が到着し、「とにかく家に帰れ」の一点張りで 二人の話は全く聞かずに 塚崎を殴る始末に 敏子は泣く泣く従います。
帰りの汽車の座席で 敏子は考え込んでいる様子で、

芹沢は通路に立って 逃がさないぞと見張っている様です。

そして帰宅すると 弘三が亡くなったとの電報が着いていて、弘三の葬儀が終わると 敏子は芹沢に指輪を返し 離婚を通告します。すると一転して 芹沢は土下座し 撤回する様 敏子に懇願しますが、翌日 キッパリと拒否して 家を出るのでした。
会社には マユミと腐れ縁のヒモである 山本八郎(三井弘次)が、「俺の女房に手を出しやがって!」と 二度に渡って押し掛け 芹沢に金を要求します。八郎は暴れた挙句に 殴り付けたので 芹沢は外へ逃げ出し、会社の前を通り掛かった都電に 乗ろうとしますが

停留所ではないので乗れず 振り返れば、窓から見物している大勢の社員の前で 恥をかいたのでした。


PS.
芹沢は出張を口実にしたのか 社用車で新橋駅に送らせますが、構内では「各駅停車豊橋行が参ります」と放送が流れます。当時の時刻表で豊橋行は 9:25発の311レしかないので、偽の出張を口実に 朝から愛人の所へ向かう遊び人です。
敏子の浮気を疑った芹沢は 仕事を放り出し、尾行して向かった駅は 山手線にしては該当する風景の駅が思いつきません。1948年の姿なので激変しているのでしょうが、目白駅にしてはホーム端から先の右カーブが違います。
その後 花見牛様の 捜索コメントにより、原宿駅であることが ほゞ判明いたしました。(9~11枚目画像のロケ地は不明)
車輛も 二重屋根の モハ30形の様に見えますが、終戦から三年半以上経っているにしては 10枚目の画像の様に 板張り窓が多いですね。
それでいて 有楽町到着時の車輛は 63系と思われ、殆ど全ての窓に硝子が入っています。 或いは4枚目から11枚目迄は、山手線以外の線でロケを行った? 謎です。
ラストの都電は36系統(錦糸町駅前~築地)の新富町付近でしょうか? 3000形初期の3074です。 木造車を鋼体化改造した大型車輛で、未だポール集電時代の姿です。
タイトルで喜劇と標示していますが 全編に渡ってシリアスな内容です。でも最後の画像の様にラストで喜劇と納得もできますね。
また 芹沢が電車内で見た広告と 敏子が新聞社内で塚崎を待つ時 壁に貼られたポスターが 行く末を暗示している脚本が印象的です。

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