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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

357.安五郎出世

1953年4月 東宝 製作 公開   監督 滝沢英輔

侠客志望の中山安五郎(森繁久彌)が 軽便鉄道の車内で知り合った小万(越路吹雪)との縁で降りた西浜村で、水道工事完成に貢献し 村の厄介者も倒す活躍を描いた コメディ・アクション映画です。

タイトルクレジットの最後に 3輌の客車を牽いた蒸機が 橋梁を渡る場面があり、
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客車内で浪花節を唸る中山に 小万が酒を勧めます。
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小万が西浜名物に挙げた最後の「般若の暴れん坊」に 般若の哲(小杉義男)が反応しますが、小万がサラリと躱す中 西浜へと汽車は到着します。
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ムショ帰りの般若が帰って来ると聞いた村人が 村長(林幹)を先頭に駅頭で出迎えると、歓迎ラッパに反応した サカリ馬が暴れ来て 般若は倒されますが 中山の顔を見て 馬は笑い出し 鎮まったのでした。
その後 村の水道工事に参加した中山は 般若が黒幕で起こった ストライキ騒動中に、寄宿している寺の小僧 唖太(加藤大介)の協力で 工事を完成へと導き 村人に侠客の親分として認められました。

水道工事完成祝賀花興行として 旅役者一団の公演が行われた日 一座の女団員が急病で動けず 中山は小万に代役依頼に行くと、東京での結婚話が決まり 上京することになったと 中山は別れを伝えられます。
侠客の親分になった暁には 結婚する約束だっただけに 中山はガッカリして戻り、唖太の発案から 中山が代役の女方を演ずることになりました。 しかし着替えをしている所へ 木戸銭を般若に奪われ、2時の軽便で逃げられたと 一報が入ります。

更に村役場の金庫まで 破られていたと伝えられ、中山は侠客の親分として 女方の扮装のままで サカリ馬に乗って 逃走した般若が乗る軽便を追い駆けます。
先ず 小型蒸機牽引の 軽便列車走行シーンが映り、
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砂利道と線路が並走する道を 中山はサカリ馬で懸命に追い掛けるのでした。
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車内から 馬に乗って追い駆けて来る中山に 気付いた小万は誤解した様で、ドアの無いデッキから 身を乗り出して 手持ちのハンケチを振っています。

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サカリ馬は遂に、軽便を追い越してしまう場面もあります。
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やがて列車は橋梁を渡ると
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踏切の先にある駅に停車します。
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そこで追いついた中山は 馬から降りて 客車の窓辺で「般若はいるか」と叫ぶと、
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窓から顔を出していた子分の[闇の弁慶]に気付いて 車内へ上がります。
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般若と目が合うと 般若達は、
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鞄を持ってデッキから降り 逃走を図ります。
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追い駆ける中山と 般若が決闘を始めると、列車から降りた小万も 中山に声援を送ります。
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そして苦闘の末に 持ち出した小道具の刀で、般若の額をカチ割ったのでした。 そこで気絶した中山は 般若を殺したと思い込んでいましたが、当然 刀は竹光で 般若は タンコブだけで捕まっていました。
その顛末を 警察署の窓から見届けた小万は、再度乗った軽便列車の中で「安五郎親分・乾杯!」と手酌で ウィスキーを飲んでいます。
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PS.
  最後から6枚目の画像で、顔を出している[闇の弁慶]の 下部に描かれている社紋から、この車輛は 遠州鉄道奥山線のハ1154です。
遠鉄社紋
  これこそ DRFC68様・米田作市様から(353.黒帯三国志)のコメントを頂いた時、「冒頭部分は遠州鉄道奥山線の車輛」と言うコメントの 証拠と思われます。

  両氏からの御意見通り 作中で走っている小型蒸機は、遠州鉄道奥山線の C1907(1951年の改番前はキ9形9号機関車)です。
  1924年5月コッペル製 9.7tC形タンク機関車で、宇和島鉄道で働いた後 1933年国有化・改軌で ケ220形224として 松浦線・世知原線で使われましたが 改軌により 1944年に廃車後 佐々区で保存され 1948年9月に遠州鉄道に譲渡されました。

  遠州鉄道奥山線では 1950年4月に 東田町~曳馬野8.2㎞が電化され、以北の曳馬野~奥山は 1951年8月にDC・DL化で無煙化されました。
  翌年 殆どの蒸機は廃車・DL改造されましたが、C1907は予備機として 休車保存されていたので 本作のロケで活躍したと思われます。その後1956年6月に 廃車解体される迄 残された様です。

  最初の画像は 祝田(ほうだ)駅を出て 短い橋梁を渡り、次の都田川に架かる祝田橋梁を渡り始めた所で 車内シーンへ続いています。
  おそらく この列車の1輌目に ハ1154が連結されていて、進行右側から映して オクラ入したフィルムを裏焼して(353.黒帯三国志)の冒頭部分に使った?と想像すると謎のナロー蒸機列車の件は落着?

  作中の西浜駅?に到着する 3枚目の画像は、電化・非電化区間境目の 曳馬野駅で撮影されています。しかし何故か 電化区間側の 追分駅方向から、3輌の客車を伴い やって来ました。

  中山安五郎が般若を追い駆け 並走する砂利道は 国道257号線で、今度は最後尾に ハ1154を連結して 金指~祝田を 上り列車として快走し 祝田駅に到着します。
  祝田駅のホームは 反対側の一面しかないので映らず、中山安五郎の活躍に応えて 臨時停車したかの様な 映像となっています。

  遠州鉄道奥山線は 1914年に 濱松軽便鉄道として 元城~金指の開通からスタートし、1924年に 板屋町~奥山の全線が開通しています。
  1947年に遠州鉄道と合併し 遠州鉄道奥山線となり、近代化を図るべく 曳馬野まで電化し 以北区間を無煙化しましたが 客足が伸びず 1964年10月末をもって 全線廃止となってしまいました。


  参考文献 : 鉄道ピクトリアル1952年12月号  RMライブラリィ №10「追憶の遠州鉄道奥山線」  遠州鉄道40年史


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コメント


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ライブラリィフイルムの活用

黒帯三国志の謎軽便の件、解決いたしましたね。しかし堂々と裏焼きで「黒帯三国志」上映時は普通の観客
の方々も流石に気付いたのではないでしょうか。
でもコッペルの牽く3輌編成オープンデッキ客車の並行移動撮影は実に好ましいカットの連続で貴重な映像です。

N.N.LC33100 | URL | 2022-03-06(Sun)23:43 [編集]


そ、そうか!

なるほど!遠州鉄道ね!
皆様慧眼でいらっしゃる・・
よく見れば自動連結器が付いてますわ。
確かに好ましい列車です。
模型化したいです。

つだ・なおき | URL | 2022-03-07(Mon)18:38 [編集]


Re: ライブラリィフイルムの活用

N.N.LC33100 様  コメントありがとうございます。

DRFC68様・米田作市様から(353.黒帯三国志)のコメントを頂かなかったら、小生には到底 遠州鉄道奥山線には 辿り着けませんでした。

両氏からのヒントがあったので、西浜村の駅への到着シーンで 架線があった事から 曳馬野駅との予測がつきました。

今回は両氏はじめ 皆様からのコメントで、資料の少ない本作を取り上げることができて感謝致します。

テツエイダ | URL | 2022-03-07(Mon)22:34 [編集]


Re: そ、そうか!

つだ・なおき様 コメントありがとうございます。

ほんとに今回は資料が乏しく、ロケ地もまったく分からず 取り上げるのを躊躇って居りました。

それが(黒帯三国志)の回に頂いたコメントから、扉が開いた感じでありました。

 

テツエイダ | URL | 2022-03-07(Mon)22:42 [編集]


「安五郎出世」

題名「安五郎出世」からすると古典落語の名作を映画化した時代劇かと思っていたら、そうではなく、落語の方は「八五郎出世」であった。

物語は小気味よく、痛快で、結構楽しめた。中でも、越路吹雪の婀娜(あだ)っぽさは絶妙。

越路吹雪は(小生の)子供の頃にはこの顔の長い女性のどこがいいのだろうかと思っていて、時代劇良し、現代劇良し、(勿論)歌唱・バラエティー良しのこの女優(歌手)の本当の魅力に気付いたのは大人になってからであった。

『きかんしゃトーマス』のような車両が何度も登場し、鉄道ファンにとっては宝石(gem)のごとき映画だろう。

7枚目の画像に「車外乗車厳禁」という表示があり、これにはにんまり(法律では、乗客が乗車できる部分は本来車中の旅客乗用に供される部分に限られているらしい)。

確かに、戦後間もない頃は列車の屋根や側面にしがみ付く無賃乗車、デッキなどなくなった現在の列車・電車のどこにも存在しない光景が、たまに見られたものだった。

アメリカには無賃乗車を繰り返す浮浪者(hobo)を取り扱った「北国の帝王」という、とてつもないぼど面白い映画があったが、日本ではこの種の映画はないようだ。

赤松幸吉 | URL | 2022-03-08(Tue)14:14 [編集]


Re: 「安五郎出世」

赤松様 コメントありがとうございます。

落語に「八五郎出世」があったのですね。なるほど この噺をもじった様な脚本で、お鶴ではなく本作では唖太(加藤大介)の活躍が安五郎を出世へと導いていますね。

アメリカの「北国の帝王」の様な無賃乗車を繰り返す主人公の映画を邦画では知りませんが、(18.ぶらりぶらぶら物語)に若干その様なシーンがあり下関~東京を移動しています。

テツエイダ | URL | 2022-03-08(Tue)21:53 [編集]