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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

346.馬喰一代

1963年8月 東映 製作 公開   監督 瀬川昌治

馬喰の仕事に誇りを持つ 片山米太郎(三國連太郎)が 男手一つで息子を育て 跡継ぎにと望みますが、中学校進学を希望する息子との 葛藤を絡めた 親子愛を描いた映画です。

片山の妻 ハルノ(藤里まゆみ)は 息子を生みますが 難産故に亡くなり、片山は一人で 息子大平(金子吉延)を育てます。
留辺蘂へ移住し 町の尋常小学校へ転校した大平は 片山が旅馬喰に 出掛けている間に、一度は片山の求婚願いを断った ゆき(本名はきく:新珠三千代)を母親として 暮らしていました。
やがて 尋常小学校卒業が近付いた大平は、跡取りを望む父親に反して 札幌の中学校進学を願い出ます。きくは母親の形見の 懐刀を売って進学資金を造り、肺病の身で送り出します。

片山と大平(仲尾純夫)は 眺めの良い山の上で 別れの儀式を執り行い 留辺蘂駅から 一人で札幌行の 汽車に乗ろうとすると、
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津田先生(岩崎加根子)を始め 級友達が見送りに来てくれました。
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津田先生は 大平一人だけなのを見て「お父さんは?」と尋ねると、大平は無言で 山の方を見ています。山の上で馬に乗り 遠く汽笛の音を聞いた片山は、麓の方へ馬を走らせます。

汽車が動き出すと
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大平は二輌目の客車の 後部ドアの所に立って、追い駆ける級友と 別れの挨拶を交わしています。
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やがて汽車は加速して、留辺蘂駅から走り去って行きます。
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遠く走る汽車の姿を 見付けた片山は 線路沿いの道に出ると、大平が乗る汽車を追い駆け
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馬を懸命に急かして走らせます。
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そして汽車に近付くと片山は、
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「大平よ~」と大声で呼びかけます。その声に気付いた大平は
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窓を開けて、父親の姿を確認するや「父ちゃ~ん」と言いながら手を振ります。
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片山は 激しく手綱を振りながら「おっ母の言ったことを忘れるな~」と言えば、「分かった~」と大平は応えます。
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やがて 線路と並行していた 道路が離れると、片山は馬を降りて 線路に上がります。その時には 既に汽車は、原野の中を 遠ざかって行くのでした。
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暫く 追い駆ける様に 線路内を走った片山は 立ち止まると レールに耳を当て、大平との別れを 悲しみながらも 区切りを付けている様に見え エンドマークとなります。





PS.
  101と番号が付いた C1形 小型蒸気機関車だけを見ると、ロケ地の新得町や新冠からは 何処の私鉄で撮影したのか 想像も付きませんでした。
  立山重工製の 産業用小型蒸機に 似た形があったことからと、101の番号からも 道東の 某炭礦鉄道が候補に挙がりました。
  そして大平が乗った 古典客車の窓下に記された 社紋からウラが取れたので、鉄道シーンのロケは 雄別炭礦尺別鉄道で行われたと思われます。

形式140 番号 101号機関車は 1942年 本江機械(後の立山重工業)製作の 40tC1形 小型蒸気機関車で、日本冶金工業大江山工場で ニッケル鉱輸送に当たっていました。
  ところが戦後 閉山となり 1948年10月に尺別へ来たそうです。C12形蒸機が3輌となった 1962年後も残りましたが、1964年8月末に 廃車となってしまいました。

  大平が札幌へ旅立つ 留辺蘂駅でのロケは、当鉄道の事務所・機関庫も在る中心駅の 新尺別で行われた模様です。
  駅名板と札幌行のサボ程度の装飾で 同級生の見送りを受けながら 新尺別を発車した列車は、終点の尺別炭礦駅方向へ向かって 進んで行ったのです。

  11番目の画像で 大平が乗る木製2軸の ハ3客車は 1894年三田製作所製で、川越鉄道開業から使われ ⇒ ⇒ 西武鉄道と社名変更がありました。その後1949年に 尺別鉄道へ譲渡されたそうです。(1922年日本車両製との資料もあります)
  明治期に製造された 2軸単車の 木造古典客車3輌と小型蒸機機関庫が組んでの ロケ用列車は、大正時代末期の 時代設定にピッタリの 映像が撮れたと思われます。

  大平が札幌へ向かった旅を 1925年の時間表から想像すると、留辺蘂 15:14 ―(14レ)― 翌朝4:28 札幌  この列車は 網走発 函館桟橋行の 直通列車で、当時は石北本線が開通していないので 中湧別・名寄・旭川経由です。尋常小学校の放課後、見送りに駆け付けたと想像する とピッタリですね。(8:58発 502レに乗り 名寄経由で、急行列車を使っても 21:14札幌着です)
  池田経由で 根室本線を使うルートもありますが、11:01に出発しても 乗り換え3回で 翌朝 6:54の到着でした。

  本作の公開前年に 専用鉄道から夢を抱いて 地方鉄道に転換した尺別鉄道ですが、その前から運行していた 旅客列車とダイヤも変わらず 全国版時刻表にも掲載されなかったので 訪れたファンの少なかった様ですね。
  乗車するには 1962年の地方鉄道転換後も 朝夕混合列車2往復のみの運行で、しかも国鉄尺別駅で 連絡運輸を行っていたのは 貨物のみであり 乗客は尺別駅から260m離れた 社尺別駅からしか 乗降出来なかったそうです。(驚きです!)
  
  その後 尺別炭礦は 1970年2月末に 閉山となりましたが、住民の引っ越しの為 4月15日迄 毎日4往復の 臨時ダイヤで運行して幕を閉じたそうです。


  参考文献 : [炭礦技術 23巻8号]  [尺別鉄道の50年 大谷晴彦著]  [鉄道ピクトリアル№173号]

  



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コメント


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太平洋に沈む夕日が印象的uでした

 テツエイダ 様

 新参者のED76であります。

 馬喰の父親役の「三國連太郎」氏は、「飢餓海峡」「大いなる旅路」「大いなる驀進」「にっぽん泥棒物語」「死の十字路」などなど、個性的かつ多彩な人物像の演技力で、小生は日本を代表する名優のお一人と考えております。馬上からの子別れシーンをぜひ見てみたいものです。
 さて、「尺別」駅は平成31年3月に廃止されてしまい、現在は「尺別信号所」となり、駅舎とフォームは姿を消しています。その年の10月に出張で釧路行の途中に「Sおおぞら」の車中から眺めましたが、茫洋たる葦原の平原に奥に太平洋を望むレイアウトは、宗谷線の「抜海」付近の日本海・釧網線の「斜里」付近のオホーツクと双璧な風景ではないでしょうか。
 炭鉱が無くなり、往年は「C12」も活躍していた駅周辺は廃屋が寂しげで寂寥さにあふれておりましたが、平成20年8月に「滝川・釧路」を当時結んでいた「日本最長距離鈍行レ」(現在は災害不通中)で眺めた夕日は素晴らしいものでした。
 真夏の「帯広」でのキハ40の車内温度は「35℃」。汗びっしょりでしたが、十勝の東端「浦幌」から丘陵を抜けて海が見えた途端、車内温度は「26度」に。そして、大きく開けた窓からの風が、涼風から冷風になった時に着いた「尺別」の駅。その時眺めた葦原の奥の水平線に沈む美しい夕日は、赤く染められた空とマッチしていて、今でも心に残っております・・・。

 P.S
  小生、本サイトに刺激を受けて、数日前「大いなる驀進」を鑑賞いたしましたが、往年の「佐久間良子」様・「中原ひとみ」様・「久保菜穂子」様の3者三様の美貌に釘づけとなりました!!

 失礼いたします。

ED76 | URL | 2021-10-04(Mon)12:52 [編集]


またも貴重映像

またも貴重な映像ですね
本江機械-立山重工製のC-1 タンク40t機は同社製では最大クラスとして知られていますが案外写真が無く101は初めて見ました、フロントデッキ上に元空気溜めを搭載していたとは予想だにしておりませんでした、まるで日立製産業用蒸機のようです。貴重なクラシックムード満点な木造2軸客車とはミスマッチですが客車主体で見れば時代設定にギリギリ合っておりますね。北海道の炭鉱鉄道なら寿都鉄道、上芦別鉄道なら明治時代の輸入ボールドウィン製8100形や9200形が現役でしたがボギー客車しか残っていなかったので機関車は良くても牽引する客車が時代的に合いませんね。

N.N.LC33100 | URL | 2021-10-04(Mon)21:52 [編集]


Re: 太平洋に沈む夕日が印象的uでした

ED76 様  コメントありがとうございます。

小生も北海道が大好きで通算9回渡道し、飛行機で往復したことは一度だけです。(スキーツアーパックでしたが、アルファーコンチネンタルエクスプレス号乗車が付いてました)

海辺の車窓としては、(抜海)(斜里)(庶路)(厚岸)(落石)付近の眺めが印象深く残っています。


PS. 「大いなる驀進」の本文と画像更新を今週末に行います。

テツエイダ | URL | 2021-10-04(Mon)22:29 [編集]


Re: またも貴重映像

N.N.LC33100 様  コメントありがとうございます。

雄別鉄道の方なら全国版時刻表にも掲載されていて、訪れたファンも多かったので写真も多く残されている様に思います。

同じ系列でも尺別鉄道は注目されず 101もフロントデッキ上に元空気溜め が特徴なのと、ハ1・2・3の4輪単車の客車と社紋から特定できた次第です。 映像では僅かしか映らない新尺別駅舎も、尖った三角屋根が特徴で もう少し映して欲しかったですね。 

テツエイダ | URL | 2021-10-04(Mon)22:44 [編集]