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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

342.地獄の波止場

1956年3月 日活 製作 公開   監督 小杉勇

製鉄所構内で 輸送任務を長年担当する 老機関士 田中万造(小杉勇)が、金庫破りが落とした金を 拾ったことから生じた 周囲を巻き込む事件を描いた サスペンスアクション映画です。

冒頭から 立派なトラス鉄橋を 夜間に 溶鋼鍋搬送貨車を牽く 小型蒸機が、高らかに 汽笛を鳴らしながら 渡っています。
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キャブ内で 田中と助手の岡野信介(三橋達也)が話していると、海霧が立ち込める 構内専用線内を 二人の男が横切って行くのを見て 怒鳴りつけます。

製鋼工場へ到着したのか 108号機が停車すると
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次に発車する迄の間、田中は岡野の許婚者である 娘の ふさ子(木室郁子)が 今日は夜勤で働いているので 職員食堂へ会いに行けばと 岡野に勧めます。
残った田中が 点検をしていると 銃声が聞こえたので カンテラを持ってその方向へ行くと、大金の入ったカバンが 線路に落ちていたので 持ち帰り隠したのでした。
やがて岡野が戻ると 再び貨車を牽いて 108号機は出発して行きますが、物陰からじっと 去り行く機関車を見つめる男がいました。
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田中が拾った金は 会社から組合に支給された 厚生資金を入れた金庫から 奪われた金 300万円で、岡野がふさ子との 結婚資金にと考えていたのを始め 皆が借りるアテに していた金でした。
事件の翌朝 構内で射殺された 犯人のカタワレである 古沢のケンが発見され、更に翌夜 何者かに岡野が襲われたことから 警察は岡野と田中の何れかが 盗まれた金を着服したのでは?と疑います。
岡野が事情聴取されている間 代わりの男と組んで乗務中に田中は、着服した金のことを考えていたので 捜査中の警察官に 危うく接触するところでした。
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翌日中 岡野は仲間から 疑いの眼で見られながら 構内通路を歩いていると、無蓋車を押している 蒸機に抜かれるや 走って追い駆けます。
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また ふさ子は職員食堂で皆が「怪しいのは岡野だな」などと話しているのを聞くと、外へ飛び出し 物蔭で泣き出す横を 誘導員が乗るバック運転の蒸機が 通過して行くシーンもあります。
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その後 田中の様子に疑問を感じた岡野が問い詰め、夜11時に岸壁で金を岡野に渡し発見したことにする約束をします。二人を追跡した犯人笠井(安部徹)が話を聞いて、岸壁手前で田中を襲い 岡野が追い掛けます。仲間の乗務員がその様子を見るや
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通報し、職員総出で 駆け付けた警察官と共に 高炉の上へ逃げた 笠井を追い駆けます。
最後は 笠井が再び 田中に襲い掛かるのを見た岡野が、笠井を突き飛ばし 銑鉄の中へ転落したのでした。

田中は 108号機に連結された(コト236)無蓋車に安置され、妻 貞江(北林谷栄)とふさ子が駆け付け 田中に泣き付きます。
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そして 岡野は涙を拭きながら 108号機のキャブに乗り込むと、
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長々と汽笛を3度鳴らして発進し 朝まだきの トラス橋を渡って行くシーンで エンドマークとなります。
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PS.
  冒頭の立派なトラス鉄橋を渡る 産業用C形蒸機の姿から クレジットには有りませんが、 日本鋼管川崎製鉄所(現 JFEスチール東日本製鉄所)の 渡田地区にある製鉄高炉から 扇島にある製鋼工場に溶鋼を運んでいた専用線でロケが行われたと推察します。

  当時の日本鋼管川崎製鉄所内には 製品積み出し用の岸壁を含めて、多数の専用線と 輸送用に多数の小型蒸機が 構内には存在していたそうです。

  撮影用に使われた 108号機が実在していたか不明ですが、3桁ナンバーで近い番号の蒸機は実在していました。8枚目の画像で TKKの銘板が付いていますが、これは架空の 東洋鋼管株式会社として撮影したので 撮影用の銘板を取り付けたのでしょう。

  当ブログ(34.この天の虹) 八幡製鐵以来の、製鉄所構内専用線での 産業用小型蒸機の活躍が映る作品ですね。

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コメント


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貨車がレアもの

テツエイダさんこんにちは。

もしかすると鶴見製鉄所での撮影かもしれないです。貨車は溶銑輸送車で、一部は国鉄籍を得ていた時期が存在します。国鉄籍を得たのは、鶴見線を走るため、車籍が必要となったためで、シキ200形とされ、当初7輌がありました(当然、国鉄籍にならない分がもっとたくさんあったのではと思います)。
その後除籍と再車籍編入を繰り返して、結局1973年頃?までに廃車となったようですが、この手の産業貨車が出てくる映画は大変珍しいと思います。
シキ200形と画像の貨車は若干リベットの位置などが異なりますが、車体の形状は全く同じです。
108号機については、正面と側面のナンバープレート字体が異なるので、おそらく架空番号でしょう。木製のプレートを作成し、本来のプレートの上に仮貼りしてのではないでしょうか。

すぎたま | URL | 2021-08-10(Tue)04:56 [編集]


108号機は本物のようです

テツエイダ様

本作に登場する108号機は妙に気になりました。なぜか108は映画屋が好きな数字で、「姿なき一〇八部隊」(1956年大映)や「警視庁物語一〇八号車」(1959年東映)などがあります。特に本作は小杉勇の現金隠匿(結果的にはネコババ)と絡んでくるので、人の欲を起源とする煩悩そのものではないですか。

なので、私は最初に「ハハァ、108のプレートをかぶせたな」と思いましたが、調べると108号機は実在した機関車(1937年製)だそうです。想像をたくましくすれば、撮影打ち合わせで機関車を下検分したさい、「お、こいつがいいぞ」との指名があったと思われてなりません。

一つだけ指摘が許されるなら、108号機のような小型機関車の汽笛はピーッとかヒョ~イといった牧歌的な鳴き方で、国鉄大型機のように勇ましい音ではないはずです。映画では大型機のような野太い汽笛が短く連打されると、登場人物の不安な気持ちが表現されて効果的だったりしますので、全否定はしませんが。

炭鉱鉄道が映画に出ることはそれなりにありますが、製鉄所は非常に珍しいと思います。私は門外漢ですが、108号機に牽引された貨車も、非常に珍しいもののようです。

73おやぢ | URL | 2021-08-10(Tue)17:31 [編集]


Re: 貨車がレアもの

 すぎたま様 コメントありがとうございます。

小生も確信があって川崎製鉄所とした訳ではありませんが、立派なトラス鉄橋と古沢のケン発見現場の埠頭に隣接して溶銑輸送車を押して小さな鉄橋を渡る蒸機が映るシーンもあるので書いたのでした。

108号機について 小生の調べでは不明ですが、(73 おやぢ)様のコメントでは 実在していた機関車だそうです。

中学生の頃 日本鋼管の塀の中で走っている蒸機が見たくて、正面から見学希望の電話をしましたが、あっさり断られた経験があります。 製造工場の見学は不可の所が大半でしたね。

反面 坑道に入らない限り 鉱山の構内専用線の撮影は、当日いきなり訪問しても大半は了承して頂けました。

テツエイダ | URL | 2021-08-11(Wed)12:27 [編集]


Re: 108号機は本物のようです

 73おやぢ様 コメントありがとうございます。

73おやぢ様ならではの視点での(108号機)解説、さすがですね ロケハンの際に見付けたのかもしれないですね。

汽笛の音については同感で、小生も観たときに違和感を覚えました。

当ブログの検索フォームから(当ブログ 34.この天の虹 八幡製鐵)を是非ご覧ください。

テツエイダ | URL | 2021-08-11(Wed)12:40 [編集]


108号の汽笛

浅学非才ながら初めて書き込ませていただきます。
108は昭和12年に川崎車両が日本鋼管向に製造した25tタンク機ですね、日本鋼管向に戦後も125まで増備されています。汽笛の音階に疑問を呈されている方が多いですが、115、116の写真では5音階汽笛を装備していますので108も5音階汽笛だった可能性も
ございます。

N.N.LC33100 | URL | 2021-08-11(Wed)22:43 [編集]


Re: 108号の汽笛

N.N.LC33100 様  コメントありがとうございます。

やはり108号機は実在していたのですね。 5音階汽笛がいかなるものか 分かりませんが、C11形蒸機並の音色だったのでしょうか。

映画会社は何故か蒸機の汽笛をアフレコにして、C12形もC62形も同じ音源を使っていたことがあるだけに、本作も同様だったのかと思ったのです。

テツエイダ | URL | 2021-08-11(Wed)23:04 [編集]


汽笛の音色

テツエイダ様
早速お返事頂きありがとうござます。5音階汽笛は1925年製のALCO8200形(C52)
以降新製された国鉄蒸機の標準仕様になりました。動態保存のC11,12,D51,C58.C57,C61
,C62などに搭載された汽笛のボゥオオーという音を聴き比べても個体差か結構音色が違います。8620形、9600形は元々は3音階汽笛でヒョ~イです。

N.N.LC33100 | URL | 2021-08-12(Thu)00:10 [編集]


Re: 汽笛の音色

N.N.LC33100 様  詳細な解説ありがとうございました。

小生この分野には全く疎く 解説を読むと、108号機の汽笛音はアフレコと決めつけられない様ですね。

かつて室蘭本線で撮影していた時 D51形牽引運炭列車が次々と来るので、C57の旅客列車が来る迄 見るだけで待っていたことがありました。
 その時 同じD51でも微妙に汽笛音が違っていた(個体差?鳴らし方差?)記憶があります。

テツエイダ | URL | 2021-08-12(Thu)09:39 [編集]