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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

327.樹氷のよろめき

1968年1月 現代映画社 製作  松竹 配給 公開   監督吉田喜重

安西百合子(岡田茉莉子)は愛人の高校教師杉野明(蜷川幸雄)と 別れの旅に出ますが 話が纏らず、昔の恋人に助けを求めたことから始まった 三角関係の旅を描いた愛憎劇映画です。

札幌で美容院を経営する百合子は 杉野とドライブ旅行に出掛けますが、途中でエンコした後 着いた支笏湖で 妊娠したことを告げた上で 別れ話をします。
百合子は室蘭の町へ行って 病院で診てもらうと言いますが、杉野は納得しません。翌朝旅館を抜け出した百合子を 杉野は車で追い駆けますが、又してもエンコし 横をC57形蒸機牽引旅客列車が 追い抜いて行きます。

室蘭本線支線の終着室蘭駅へ 百合子の元カレ今井和夫(木村功)が入って来て、
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出札口や待合所・売店を周って百合子を捜しています。
327-1.jpgそして到着改札口方向の外部に 百合子の存在を認め「電話をくれてありがとう」と言い、
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翌日病院へ同行し 想像妊娠が判明するや 二人の仲が復活してゆくのでした。

百合子の居場所を 突き止めた杉野は、翌日札幌へ帰る百合子を 追い掛けます。室蘭駅の2番ホームへ 百合子が現れると、
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目の前の石炭荷下ろし高架線上で 係員がセキ3000形の側面を ツルハシで叩いて 凍った石炭を落としています。
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杉野は「見送りに来た」と言いながら周囲を見回し ホームの端に立つ 今井を見付けるや、「あの男も来てますね」と 対抗心を燃やしています。

遠くから 汽笛の音が聞こえて来て、二人が見つめる中
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先頭の機関車は通り過ぎ
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今井が立つ辺りに停車しました。切り離された機関車が離れる中、今井は先頭のデッキから乗り込みました。
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百合子はそれを確認して乗車します。やがて汽笛が鳴って発車すると、見送りの筈だった 杉野も乗って来ました。
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「車はどうするの?」と百合子が訊ねると、「あんなボロ車どうでもいい」と吐き捨てる様に 答える杉野です。

杉野がデッキへ行くと 今井がいて、「僕は次の駅で降りるが、あの人とは別れた方がいい」などと言います。やがて次の駅に到着すると、今井はホームを歩いて 百合子の窓辺に寄ると 無言で見つめて去ります。
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すると杉野は百合子のバックを持つや、百合子の手を強引に牽いて 列車から降りてしまいました。
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3人はホームで話しますが纏らない中、百合子は突然 別のホームに停車中の 気動車に乗ってしまいます。
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追いかけて来た杉野は「この列車は札幌には行きませんよ」と告げますが、百合子が 聞く耳を持たないので 発車ギリギリで飛び乗りました。
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暫くすると 先の車輛から 又しても今井が 移動して来る姿が デッキ越に見えて
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百合子は思った通り、といった表情です。
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動揺した杉野は、「何処へ行くつもりですか」と問うと「ニセコ温泉へ」と言うや ニセコグランドホテルへ向かったのでした。








PS.
 百合子が室蘭駅ホームに現れた時 セキ3000形石炭ホッパー車の 側面を叩いているのは、石炭が凍って落ちないので 叩く振動で落とそうとしている様です。しかしツルハシとは?ハンマーを使っていた様に思いますが。
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 5枚目の画像で 百合子の背後に映っている蒸機は、珍しい 前部に給水温め器を搭載した 9600形蒸機の様で 入換作業担当と思っていたら、(つだ・なおき様)のコメントでD50形蒸機であり7・8枚目の画像は 9600形と訂正致します。

 7枚目の画像で 百合子と杉野が見ている蒸機は 9600形と思われますが、続いて二人の前を 岩見沢行のサボを架けた 客車を牽いて前方へ進んで行きます。
 そしてこの蒸機は 到着後に切り離され、百合子達が乗ると 反対方向へ出発して行きました。思うにこの列車は 終端駅 室蘭始発列車の回送で、室蘭区の 9600形が客車区から駅まで 最後部にC57を逆向きに連結して 回送業務を担当していたと思われます。

 百合子が乗車したのは オハフ60形客車と思われ、狭幅窓に 木製背ずりで シートピッチも狭そうです。今井は杉野に「次の駅で降りる」と言いましたが、母恋ではなく 4つ先の東室蘭でした。
なお 13枚目の画像は、二重窓のオハ62形とのご指摘がありました。 成る程 網棚の支持金具も明らかに違いますね。

 この駅で百合子は 気動車に乗り替えますが このロケを想像すると、乗客の少ない室蘭 12:30 ―(523レ)― 12:47 東室蘭 12:53 ―(547D)― 13:07 室蘭という行程で ロケが行われたと妄想します。

 ニセコ温泉を目指す 百合子の行程を想像すると、(523レ)― 12:47 東室蘭 12:58 ―(226レ)― 15:22 長万部 16:20 ―(105レ急行ていね)― 17:48 狩太 タクシーでニセコグランドホテルへ(作中の様に 明るい内に到着できません)


 百合子が今井を呼び出した駅は、小生にとっても 思い出深い室蘭駅でしたので 懐かしいですね。
 46年前の冬 北海道各地を 転々と撮影旅行した最後に、室蘭の旅館に3泊して 旅を締めくくった場所でした。

 そして最終日に 室蘭市内を見渡せる 測量山から撮ったのが 次の画像でした。小雪が降り止まず 不鮮明ですが、旧室蘭機関区の 扇形機関庫前を C57牽引の客レが 左方向にある室蘭駅へと向かっています。
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 既に 石炭貨物取扱は 1969年に廃止されていて、広大な構内に 貨車は僅かでした。その後室蘭駅は 1997年10月には、画像の機関庫付近に 1.1㎞路線短縮移転して 現在に至っています。

当ブログ史上ベスト7に入ると自負しております(10. 無頼より 大幹部  カテゴリ:東北本線)を、9年ぶりに加筆・画像追加いたしました!

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コメント


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樹氷のよろめき

例によって吉田喜重の映画は画面が美しく、カメラ(構図)が凄い。
1シーン1シーンが芸術的名画のように見え、これだけでもこのフイルムの価値がある。

「女のみづうみ」などと同様に吉田監督の鉄道シーンへの強いこだわりがここでも見られ、特に真冬の室蘭駅のシーンでは冴え渡る冷気が透明な画面を通して鋭く感じ取れる。

吉田監督は工場、造船所、採石場などのシーンで「カーン、カーン」とういう効果音をよく使用するので、ツルハシで貨車を叩くシーンは撮影用に(国鉄側に)注文してやってもらったのだろう。

蜷川幸雄が一般映画出演、特に主役級なのも珍しい。

【今井は杉野に「次の駅で降りる」と言いましたが、「母恋」ではなく 4つ先の東室蘭でした】

このセリフは覚えていないが、実際にホームの表示板(15枚目の写真)には「ひがしむろらん」と書かれてあるので、完璧・繊細な吉田演出としてはミスと言わざるを得ない。

室蘭は「扇形機関庫」もあったし、鉄道オタクにとっては最果ての憧れ駅だったのでしょう。

赤松 幸吉 | URL | 2021-01-02(Sat)14:21 [編集]


僭越ながら・・

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
さて僭越ではございますが、5枚目の蒸機はD50型ですね。
メインロッドが外されているので、休車(または回送中?)の様です。
7、8枚目の蒸機は9600型ですね。
セキ車の「ガンガン叩き」初めて写真を見ました。
これは貴重です(と思うのはボクだけ?)
しかし「よろめき」なんて言葉、誰が思い付いたんでしょうね。
いかにもって感じですよね(笑)

つだ・なおき | URL | 2021-01-02(Sat)21:41 [編集]


Re: 樹氷のよろめき

赤松様 コメントありがとうございます 本年もよろしくお願いいたします。

赤松様の「特に真冬の室蘭駅のシーンでは冴え渡る冷気が 透明な画面を通して鋭く感じ取れる」のコメントは、素晴らしくこの作品を表現されていて 強く同感致します。 

作中で 札幌へ帰ろうとしていた百合子が 室蘭からの汽車に 今井が乗って来たことから 思い出のニセコグランドホテルへ変更した様ですが、過酷な雪中ロケは 吉田監督作品中 最も厳しいロケだったと推察します。

テツエイダ | URL | 2021-01-04(Mon)10:39 [編集]


Re: 僭越ながら・・

  あけましておめでとうございます こちらこそ今年もよろしくお願いします。

つだ・なおき様 コメントありがとうございます。

5枚目の蒸機はD50型でしたか D50は想定外でした。画像で薄煙が出ていますが、その後黒煙が出だします。
そしてメインロッドは 最上部に有る様に見えますので、休車ではない様です。

7、8枚目の蒸機は9600型でしたか 確かに8枚目でナンバープレートが 数字だけでデフも無い様ですね ご指摘部分を訂正させて頂きます。

若い蜷川幸雄と別れ 既婚者の木村功に「よろめく」とは、正に適役であり 吉田監督作品の 真骨頂作品ですね。

テツエイダ | URL | 2021-01-04(Mon)11:28 [編集]


祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり・・・

またまた、新参者ED76であります。
 
 室蘭駅の全盛期の様子が垣間見られた映画ですが、現在の 室蘭駅(と言うよりも、室蘭全体の変容ぶり)の姿が冒頭のままなのであります・・・。

 現在の室蘭駅は、約1キロ強ほど東室蘭寄りに移転しており、撮影当時の舞台となった駅舎は、観光協会の建物となっています。駅自体も、ローダー等石炭船積設備設置のヤードだった部分はすべてレールが剥がされてしまい、一部、胆振振興局(道の出先機関)の敷地に・・・。
 駅自体も、島式フォームが1本のみで、何か「地鉄の終点駅」のごとくで、映画の舞台となった頃の面影は、殆どイメージできません(今は、1日当たり600人程度の利用客です)。
DCの単行や東室蘭からの「ECすずらん」が化けた鈍行がのんびりと運転されている、寂れたローカル線の終着駅では、「ヒロインの岡田茉莉子さん」も唖然となってしまうでしょう・・・。

 ところで、岡田さんと蜷川さんが乗り込んだ「オハ60」(「札ムロ」か「札イワ」)なのですが、この客車が実は昭和40年代に冬のトカホセに「出張」していたことをご存じでしょうか。
 当時、品川・熱海を走っていた「東シナ」所属の客車レは、年末年始から3月ごろまで「臨時レ」として、運用を外れることが専らでした。そこでその「鈍行レ」用の客車を、全国の客車区から寄せ集めていたのであります。小生が「大いなる驀進」で「御殿場線のD52乗り鉄」旅のエピソードを記させていただきましたが、その往路国府津までお世話になった車両が、当時「札イワ」に所属していた「オハフ60」だったのです(小生のスナップ写真に「オハフ60」の姿が)。
 岡田さんらが、撮影で映っていた当該車両は、おそらく運用上、「札ムロ」か「札イワ」の所属でしたでしょうから、ひょっとしたらお二人が撮影で座られたボックスに、小生一家が座ったかもしれません(笑)・・・。

 P.S
 小生、産は東京なのですが、現在「時計台の街の高校」に勤務しており、2年前まで「東室蘭駅の近くの高校」に勤務していました。ですから、室蘭は懐かしき街であります。













     

ED76 | URL | 2021-09-28(Tue)19:01 [編集]


Re: 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり・・・

ED76 様  コメントありがとうございます。

室蘭はPS.欄でも記した様に、その昔 撮影旅行の最後に3日間を過ごした思い出の地です。

そして8年前に再び訪れて、余りの変わり様に啞然としました。新しい部分も多いのですが 街に活気が無く、寂れた印象でした。

北海道の旧客が冬場に東海道本線へ出張していたとは驚きで、1970年の万博臨時便にも出張していたのでしょうね。

テツエイダ | URL | 2021-09-28(Tue)22:16 [編集]