
戦争に翻弄された男女が 共に転落してゆく姿と、腐れ縁ながら 互いに依存する様子を 淡々と描いた恋愛映画です。
戦時中 富岡兼吾(森雅之)は 農林省技官として働いていた仏印で、タイピストとして赴任してきた 幸田ゆき子(高峰秀子)と恋仲となり、帰国したら妻と別れて 結婚する約束をします。
ところが敗戦で帰国すると 母親と共に待っていた妻への愛情が再燃し、遅れて帰国した ゆき子が訪ねても つれない返事で喧嘩別れします。
孤立無援でバラックに暮らすゆき子に、ある日富岡から呼び出しがあります。待ち合わせの 中央本線千駄ヶ谷駅前に 先に着いた富岡の背後で、72系らしき国鉄下り電車が出発して行きます。

失業中の富岡は、くたびれた靴と鞄の出で立ちで 昔の輝きは有りません。ゆき子が来ると「あんな別れ方をしたからね」などと言って歩くや、

「どこか遠くへ行こうか」と呟き 伊香保温泉へ向かいます。
その後 またも喧嘩別れした後 妊娠が判明したゆき子は、話を付けようと富岡の家を訪ねると 既に家を引き払っていました。住んでいる人に転居先を聞いて、とある駅近くの アパートを目指します。

ところがそこは 富岡が伊香保温泉で手を出した飲み屋の女将 おせい(岡田茉莉子)が、後を追って家出し 東京で住んでいる アパートでした。そこへ富岡が転がり込んで、住み付いていたのでした。
帰って来た富岡と喫茶店で話した帰り道 西武鉄道池袋線と山手線が交差する付近を 二人が歩く場面があります。西武鉄道351系4連電車が 夕暮れの中通過して行きます。

富岡との関係を諦めたゆき子が「奥さんは胸が悪いの」と聞く時には、背後を311系電車らしきが通ります。

それから おせいは追いかけて来た夫の 向井清吉(加東大介)に殺害されますが、富岡は行きつけの 中華屋の女にまで手を出す始末でした。
その後 新興宗教の 教祖となって羽振りの良い 姉の夫の弟 伊庭杉夫(山形勲)の金庫番となったゆき子は、病死した妻の葬式代を 借りに来た富岡に二万円を都合付けてあげます。
ある日ゆき子は 五十万円を持ち出し、温泉旅館に富岡を呼び出しました。そして屋久島で 農林省の仕事が決まった富岡に、連れて行ってと 懇願するのでした。
そして追いかける伊庭の手が 富岡のアパートまで迫ったので、富岡とゆき子は 急遽予定を繰り上げて 夜行列車で出掛けました。車内では漸く夢が実現して、幸せそうなゆき子です。

続いて翌朝の姿でしょうか、牽引機が電機から 大型蒸機の替わっています。

3輌目と4輌目の間の デッキでは、大人だけでなく子供も半分しゃがんで 沿線を眺めていますね。

長い道中なので 寝ている富岡の隣で、ゆき子が蜜柑らしきを 食べてるシーンもあります。

PS.
歴代日本映画の名作投票をすると、必ずベスト5に入る名作映画です。女癖が悪い富岡に 粘り強い愛情を示すゆき子は、度々別れては よりを戻す 相互依存関係の二人ですね。
最初の画像は 空襲で焼失した駅舎をバラック建てで仮復旧した 千駄ヶ谷駅舎が映っています。本作公開の翌年には、3代目の駅舎に建て替えられています。
ゆき子が富岡の 転居先を探す場面で 立体交差する陸橋は 東京台東区言問通りの寛永寺橋と考えていましたが、グズグズ様からコメントが寄せられ 山手線の渋谷~恵比寿にある猿楽橋だそうです。映っている蒸機は、入替作業中の品川区の2120形と思われます。
夕暮れの 山手線池袋~目白で 西武鉄道351系が交差する場面は、2012年1月30日発売の雑誌『アエラ』でも取り上げられていますね。(※1946年末頃の時代設定なのに、1954年製の351系は有り得ない)
追いすがる伊庭から逃げる様に遠路はるばる屋久島へ向かう二人ですが、いつもの様に鹿児島までの旅程を妄想してみます。
1948年に屋久島へ赴任したとすると 東京 19:00 ―(5レ急行門司行)― 20:10 門司 20:30 ―(101レ普通鹿児島行)― 8:54 鹿児島【二晩夜行で所要37時間54分】
それが撮影当時の1954年10月ですと、東京 21:00 ―(39レ急行筑紫号)― 5:48 鹿児島【二晩夜行で所要32時間48分】乗り換えなしの全て急行運転の直通列車なので5時間程短くなっています。
余談ですが車内シーンは全てセット撮影で、仏印は勿論のこと、屋久島でのロケも無いそうです。
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