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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

306. 女中ッ子

1955年6月 日活製作公開   監督 田坂具隆

秋田から加治木家へ女中として入る為 上京した織元初(左幸子)が、悪戯っ子で家族から浮いている 勝美(伊庭輝夫)に寄り添い 慕われる過程を描いたファミリー映画です。

冒頭 単身上京した初が、上野駅中央改札口前の 広場を歩くところで タイトルが入ります。306-1.jpg
この場所は 上野駅の象徴的な所なので、しばしば映画の ロケ地となっています。
続いて 1番線ホームへ上がった初は、山手線・京浜線の共用ホームへ 丁度 到着した山手線へ乗ります。
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車窓の丸の内・飯田橋付近・更に横須賀線用 70系電車が憩う 田町電車区等がタイトルクレジットのバックに映ります。

中盤 同級生の家で 模型機関車を見せびらかされて 欲しがる勝美に、初は「本物が見えます」と木に登らせて 遠く過ぎ去る汽車を共に見るのでした。
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また学校帰りに 標識だけの 第四種踏切を渡るシーンでは、西武鉄道の 311系らしき2連が通過直後に走って家に急いで帰ります。
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初が初めての旧正月に 帰省する場面では、勝美は 友達の良一(渋沢準)と近くの高台から 初が乗る列車を見送ります。汽笛が聞こえ 駅の方を見ると、C57形蒸機に牽かれた列車が近付いて来ました。
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二人が「ハッチャ~ン」と叫びながら手を振ると、
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3輌目中央で 窓を開けてハンカチを盛んに振る初がいました。
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その後 勝美が飼っていた犬を 捨てられたことから 学校へ登校せずに家出した勝美は、帰省した初を追って 秋田へ向かったのでした。しかし車内で眠り込んでしまい 車掌さん(高品格)に起こされた時には、下車駅の形ノ館(架空駅)から3つ先の羽後院内でした。
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急いでランドセルを背負わせてもらい降りると、C51形蒸機 185号機牽引列車は出発して行きます。
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勝美と共に出発確認を行った川村助役(阪井一郎)は、勝美を駅長室へ案内します。
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勝美がウドンを食べさせてもらっていると、助役さんは 通票閉塞器を操作して 隣の駅に「412列車10分遅れ」と連絡しました。
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「今夜はもう戻る列車が無いので、明日一番の列車に乗せてあげるから心配いらない」と話してくれます。
そこへ入って来た山田としお(光沢でん助)に「織元初はお前と同郷でないか」と助役さんが聞くと、「初の実家は形ノ館よりもこの駅からバスで行った方が良い」と行き順を教えてくれました。

翌朝 形ノ館駅に C5140号機牽引列車が到着し、
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初は幼馴染(大倉節美)に見送られて帰路につきます。
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ところが車掌をしている同郷の山田から「今朝 勝美一人で、羽後院内からバスで初の実家へ向かった」と聞きます。
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バス停から実家まで 深い雪道を4㎞も歩くので 心配になった初は、駅まで馬ソリに乗せてもらった八小父(天草四郎)に 走行中のデッキから「待って~」と声を掛けると 汽車から飛び降りて 勝美の後を追ったのでした。
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遭難しかけた勝美は 雑貨屋の親父に助けられ 一晩 初の実家で過ごし、更に夜には 秋田の伝統行事を体験します。翌日 初と一緒に帰ろうとすると、心配した父の加治木恭平(佐野周二)と母 梅子(轟夕起子)が迎えに来てくれました。
こうして一件落着となり、行方不明の犬も見つかって 万事良しの結末と思いきや・・・    ラストは暇を出された初が 乗っているらしい汽車が、故郷へ向かって去り行くシーンで エンドマークとなります。
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PS.

 ロケ時は未だ 山手線と京浜線が分離運転されていなかったので、二枚目の画像でホームの柱には 大宮・池袋・新宿・渋谷方面と書いてあります。
 加治木家は世田谷区南部の 尾山台辺りを想定している様なので、三枚目の画像の前に 多摩川を渡る東横線らしきが映ります。しかし三枚目の画像は画質が変わり、明らかに地方路線の映像を繋げています。

 六枚目の画像で 勝美と良一の二人がいるのは 国立科学博物館裏の線路端と思われ、絶好の位置から上野駅高架ホームを発車する列車を見事に捉えています。

 帰省した初を追って 勝美は朝 登校するふりをして家出して、秋田の形ノ館(架空駅)を目指します。その行程を想像すると、上野 9:00 ―(101レ急行青葉)― 14:01 福島で4輌分離 14:17 ―(427レ・新庄から普通列車)― 19:12 院内 (仮に上野をもっと早朝の列車に乗っても、接続列車は無く 到着時刻は同じです)

 院内駅は実在しますが 1904年の開業以来 院内だけで、頭に 羽後は付きませんので 架空駅とも言えます。なお 勝美が寝込んでしまい 車掌に起こされるシーンや、後の初が車内で山田車掌と 会うシーン等の車内シーンは 全てセット撮影です。

川村助役が「今夜はもう戻る列車が無い」と言ったのは、奥羽本線 院内からの上り列車は 18:34発 414レ上野行が普通列車の最終で 20:18発 402レ急行鳥海上野行では 3駅戻る釜淵駅には停まりません。

翌朝 初が形ノ館駅から乗車しますが、この駅は釜淵ではなく 難読駅名として有名な 及位(のぞき)駅の昔の様子に似ています。院内の隣駅である 及位だとしても 前日に戻れないことは同じです。

 初が加治木家へ戻ろうと乗ったのは、及位 7:03発 438レ普通列車福島行と思われます。この列車は 12:29福島着で、12:49発の 128レ上野行普通列車に乗り継げば 19:56に上野到着です。


 初は 勝美が密かに犬を飼っていたのを取り持ったり 何かと家族から浮いた存在だった 勝美を諭して 家族がまとまる手助けをしていただけに、切なさと やるせなさを感じさせる ラストの納まり方が 悲し気な蒸機の汽笛の音と共に より印象深い作品となっています。

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コメント


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女中ッ子

救いようのないラストには評価が割れる(たぶん大多数の観客がズッコケたことだろう)が、とにかく感動大作。

上野駅中央改札口前広場は2~3度しか行ったことがないが、何度も映画のシーンで見たことがあるので懐かしく感じる。

上京してきた若い娘がここを根城とするチンピラに騙され、どこかに連れて行かれるというお馴染みの聖地。

国立科学博物館裏の線路端の見送りシーンはよほど念入りに準備しておかないと、他の乗客が汽車の窓から首を出したり、手前の線路に対向車両がやって来たりすると、このようなタイミングのよい「絵」はなかなか撮れないでしょうね。

勝美が秋田に向かう車内シーンは間違いなく全てセット撮影だと思いますが、うどんを食べる駅長室などもセットだろうか。

窓から見えるプラットフォームに本物の列車が通り過ぎているように見えるが。

小学生が一人でランドセルを背負って遠くに旅行しているのに、車掌や他の乗客が不審に思い、何故親元や警察に連絡しないのか、そんなことを考えてたら面白くはない。

左幸子がデッキから飛び降りるシーンは、本当に(スタントマン)が飛び降りているが、どのような理由があれ、女性が走行中の汽車からダイブなどするものだろうか。
映画では自殺するシーンを除いて、女が疾走列車より身を投げる所を見た記憶にない。


及位(のぞき)駅には大笑い、Peeping Tom?ですか。
ここの駅長は列車が到着するたびに「のぞ~き」「のぞ~き」とアナウンスしているのでしょうか。

田辺 靖雄(♪「ヘイ・ポーラ」)が子役に出ているのは意外、ポスターには端役ながら堂々と名前が載っている(後年作成したポスターかもしれないが)。

赤松 幸吉 | URL | 2020-03-15(Sun)14:49 [編集]


Re: 女中ッ子

 赤松様 早速のコメントありがとうございます

当時 上野公園付近の線路端は 高いフェンスも無く、羨ましい程 汽車を眺め易かった様ですね。
 
陽当たりの方角を考えると、昼過ぎに 撮影が行われたと思われます
条件に合うのは、7番線を 13:25に発車する 429レ平行普通列車となります(この時間帯 手前の5・6番線に発着する列車はありません)

駅長室でのシーンは、セットではなく本物を借りて撮影されたと思います
通票閉塞器の操作音は、アフレコと思います

及位(のぞき)駅は戦前から、難読駅名の最高峰として有名だったそうです 現在は無人駅で、寂しいです
勝美の兄 雪夫役は、子供時代の田辺 靖雄なんですね  台詞も少なく兄弟ケンカのシーンが目立つ程度です。

テツエイダ | URL | 2020-03-15(Sun)19:03 [編集]