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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

298.裸の大将

1958年10月 東宝 製作 公開  カラー作品   監督 堀川弘通

「山下清の放浪日記」を元に水木洋子が脚色し、放浪の天才画家として有名な山下清氏の青年期を描いたコメディ映画です。

冒頭 線路を歩く山下清(小林桂樹)を止めようと、山田巡査(市村俊幸)が後から追い駆けてトンネルへ入ります。
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その背後から、C57形蒸機牽引列車が来ました。
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トンネルの出口から汽笛を鳴らしながら C57形蒸機が7輌の客車を牽いて海沿いを駆け抜けて行くと、
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後から煤だらけの二人が出てきて追い駆けっこを続けます。

各地で「両親が死んで天涯孤独なので、食べ物を下さい」と言いながら放浪を続け 機関区に出入りする蒸機を眺めていると、
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同情した汲み取り屋のおばさん(沢村貞子)が阿武田の駅弁屋を紹介してくれます。
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何とか阿武田駅前の駅弁田中屋へ 住み込みで働き始めた山下ですが、何をやらせても不器用で失敗が続き 駅弁の立売を命じられます。

阿武田駅2番ホームへ上野行の列車が到着し、先輩の駅弁売りが声の掛かった所へ行って 次々に売り上げます。
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遅れて跨線橋の階段を降りて来た山下に、早速「おーいコーヒーくれ」と声が掛かります。
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ところが反対方向から「あんぱんくれ」と声が掛かると、そちらの方へ近寄ってしまう山下です。
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すかさず最初の客が「おーいコーヒーだよ」と呼びます。

どちらも気になる山下は 混乱して右往左往する内に汽笛が鳴り響き、
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列車が動き出したので 前方の客にコーヒーを渡し 後ろの客にあんぱんを渡すとホッとします。
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客から「おーい金だよ金!」と呼ばれてから追い駆けますが、ホームの端迄行っても追いつけませんでした。
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中盤 駅弁屋の同僚 中村よしお(大塚国夫)が出征するので、阿武田駅前で駅弁屋の皆が見送る場面があります。
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何組もの見送り集団が、各々「露営の歌」などを歌っています。

放浪中に精神病院へ入れられた山下は 入浴中に空襲警報が鳴った隙に 逃げ出した場面で、踏切で待たされた時 通る電車は小田急線か西武線の様です。
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PS.
 4枚目画像の山下が眺めている手前の機関車はC58形の様で、雰囲気から総武本線の佐倉機関区と思われます。奥にC57形や8620形もいる様ですが、山下が映っている6枚目の画像は千葉駅近くで撮った様です。
 
 史実でも1940年から1954年にかけて各地を放浪していたそうで、阿武田駅の田中屋(史実では常磐線 我孫子駅の弥生軒)での立売場面は史実通り 1942年の設定でしょう。あんぱんはともかくコーヒー(コーヒー牛乳?)は・・・

 最後の出征兵士を見送る場面の阿武田駅ではホームに70系電車らしきが映っていますので、中央本線か横須賀線の何れかの駅前でロケが行われた様です。(趣のある木造駅舎ですね)

 主演の小林桂樹さんは本人に会って 喋り方を研究し、無理な暴飲暴食で体形を似せて演じたそうです。作中で世の中を俯瞰する視点で鋭く論評する語りは、物事の本質を突いていて 反論しかねるシーンが多々あります。

 最後に有名人となった山下が 新聞記者同士の取材争いに巻き込まれる場面で、クレイジーキャッツの面々が映画初出演している等々 有名俳優女優が意外な役で多数出ています。
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裸の大将

この映画を初めて見たのは中学校の講堂(体育館)での全校映画鑑賞会で、当時はこのような行事(他には「キクとイサム」「蟻の街のマリア」など鑑賞)が3ケ月に1回ほどあった。

東宝喜劇人総出演の、贅を尽くした超大作(東宝の喜劇俳優の層に圧倒される)、なんせブレイク以前のクレージー・キャッツの面々までが顔を出しているくらいだから。

今見直してみると、さすが水木洋子女史脚色、この作品は喜劇の形を借りながらもメーン・ストリームには非戦、厭戦、不戦、嫌戦感が浮き沈みしていて、直情型の「ひめゆりの塔」や「原爆の子」などとならぶ、笑っている内に平和のありがたさを実感してしまう反戦映画となっていてる。

ひたひたと忍び寄るきな臭い世情(真岡での自衛隊のパレード)に「戦争をやらないのに、鉄砲を持っているのはどういうワケかな」と山下清が何度も周りの人々に詰め寄るシーンは秀逸。

冒頭に噴煙を吐きながら疾走する蒸気機関車の姿が見えるが、蒸気時代は列車がトンネルに近づくたびに、「まもなくトンネルに入りますので、窓を閉めてください」という車掌のアナウンスが流れたのを今の若い人たちはご存知だろうか。

窓を閉めないと顔が真っ黒になるだけでなく、煤で目をやられてしまう場合もあった(私も実際に被害にあって、翌日目医者通いに)。

当時は駅弁立ち売りでも「コーヒー牛乳」が販売されていたみたいですね(「コーヒー」と呼ばれていますが)。

10枚目あたりの写真では山下清が手にしている飲み物は何かとはっきりと確認できませんが、ビデオで見ますと、紛れもなく「コーヒー牛乳」だとわかります。

山下清さんが住み込みで駅弁屋に勤めていたとはこの記事で初めて知った。
更に調べてみるとその食堂(劇中「田中屋」)は「弥生軒」として現在も営業しており、また、山下清画伯製作の包装紙で駅弁が売り出されたこともあったという。

「駅弁鉄」とか「駅弁太郎」(これは小生自製のネーミングですが)と呼ばれる奇特なラッピング収集マニアにとっては、この駅弁包装紙は大変貴重なものではないだろうか。

赤松 幸吉 | URL | 2019-11-24(Sun)16:00 [編集]


Re: 裸の大将

赤松様 早速のコメントありがとうございます。

水木洋子さんの回想記を読みますと、長い時間を掛けて取材し 推敲を重ねて脚本を完成させたそうです。

赤松様のご指摘通り 本作は反戦をメインテーマに、この世の悪習慣や矛盾を指摘している様に思えます。

それにしても旅先でスケッチなどせず 八幡学園に戻った折に、脅威的な記憶力で旅先の風景を 貼り絵に再現していたとは 正に天才ですね。

テツエイダ | URL | 2019-11-24(Sun)19:42 [編集]