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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

297.足にさわった女(1960)

1960年8月 大映 製作 公開  カラー作品   監督 増村保造

沢田撫松の原作を三度目に映画化した作品で、上り特急つばめ号に乗り合わせた女スリ 塩沢さや(京マチ子)と大阪の刑事 北八平太(ハナ肇)の掛け合いをコメディタッチに描いた映画です。

冒頭から前半は大半がセット撮影+若干の実車ロケを組み合わせて、東海道本線を走る上り特急つばめ号の車内鉄道シーンが延々と続きます。
最初は拳銃取引やポーカー賭博を鉄道公安官も一緒になって開いている車内が映り、
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運転席へいくとギャングが運転士に拳銃を向けて脅かしています。
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これらは野呂走(大辻伺郎)が読んでいる五無康祐(船越英二)作の「犯罪日本」という小説の空想です。

野呂の隣の席に座った学生(ジェリー藤尾)から「食べ物はビュッフェに行けばある」と聞いて行くと、
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小説家 五無康祐が記者 花輪次郎(田宮二郎)とビールを飲んでいました。
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一方 一等車では、会社役員(多々良純)が並んで座る さやのことが気になっています。
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ビュッフェから戻って来た五無も、さやの美貌に一目惚れの様子で花輪が連れて行きます。
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その後 トンネルに入るタイミングで野呂が照明を切り、名古屋に到着する時
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乗客(植木等)が列車ボーイ(谷啓)に照明不良の苦情を言いに来ます。
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そこへスリにやられた乗客が駆け込み 通り掛かった北が女スリの特徴を聞いて、さやの仕業だと直感して車内を捜しだします。これはと女性に声を掛けると、全くの別人でした。
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デッキで さやは大きな荷物を背負った老婆(浦辺粂子)に声を掛け、持っていた一等の切符と老婆の二等切符をすり替えて北に案内を依頼します。
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老婆の持っていた切符は、野呂の隣で学生が座っている席でした。暫くすると北がやってきて、どうせ休暇中だからこの先も付きまとうと言い出す始末です。
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そこで さやは列車が熱海に到着した時
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わざと十円玉を転がし、
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北が捜している隙に12号車から降りてしまいます。慌てて後を追うと、前方へ歩いて行く姿が見えました。
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急いで追い駆けると 駅員(犬塚弘)に「危ないですよ」と止められ、さやは前方の6号車に発車寸前に飛び乗ります。
駅員に取り押さえられた北は、去り行く特急つばめ号を悔しそうに見送るだけです。おまけに切符と財布も、さやに掏られてしまっていたのでした。
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そうして特急つばめ号は終着 東京駅に到着します。
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さやは6号車から野呂と降りると、ホームには姉貴分の筑前春子(杉村春子)が出迎えてくれていました。
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終盤 さやは北と一緒になりたい一心で、缶ジュースを万引きして捕まえてもらいます。大阪へ帰る普通列車に並んで座ると
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野呂が現れ、さやの足を蹴って行きます。
痛さに怒ったさやはデッキまで追いかけて、
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「邪魔しないでよ」と言って戻ります。北が読んでいた新聞には、女スリを題材にした五無康祐の新連載小説が載っていたのでした。









PS.
 本作では東海道本線上り特急つばめ号を舞台に製作されている様に思われますが、時刻表から大阪9:00発 東京15:30着の104レ特急第一つばめ号を想定している様です。
 本作公開の少し前の 1960年6月より特急つばめ号は、1号車がパーラーカー・2~5号車がロ座・6号車は食堂車・7号車は半車ビュッフェ・半車ハ座・8~12号車がハ座でした。
 本作構想段階では 1960年5月末までの特急こだま号の編成を想定してセットを組んだ思われ、3号車と10号車が半車ビュッフェで4~7号車がロ座でそれ以外はハ座でした。

 さやは熱海駅に停車したタイミングで北を翻弄して、ホームに置き去りにしました。ところが実際の時刻表では、特急第一つばめ号は熱海駅は通過です。こだま号なら第一第二 共に熱海に停車するのですが・・・
 
しかし熱海駅で実際ロケを行ったのは、北が駅員に取り押さえられ去り行く特急つばめ号を悔しそうに見送る場面だけでした。

 逃げたさやを北がホームで追い駆けるシーンは、回送列車を使って品川駅で撮影された様です。(窓ガラスに駅名板が映ってます) 更に東京駅で筑前春子がさやを出迎えるシーンも品川駅です。

 また舞台が上り特急つばめ号なので、12号車は先頭車輌のはずです。前方へ逃げたさやが6号車に飛び乗るのは逆なのですが、座席の向きを考えると仕方なく撮影したのでしょうか?




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コメント


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足にさわった女(1960)

「名物にうまいものなし」という金言があるなら、「リメイクにろくなものなし」である。

およそ、(映画界の)リメイク作品にはオリジナルの名声や栄光にケチをつけるものが多いが、戦前の絶品「足にさはった女」のリメイク2本(市川崑監督1952年と増村保造監督1960年)は不思議とどちらも文句のつけようのない傑作。

「リメイクにろくなものがあった」希有な例である。

市川版が優れているのか、増村版が勝っているのかは見る人の好みによるが、配役の観点から見ると女スリには越路吹雪の方が、刑事役にはハナ肇の方が(個人的には)よかった。

「若く目の覚めるような美人のスリ」というキャッチ・フレーズであったが、すでにこの頃の京マチ子はアゴから首元にかけてほんの少しさざ波のような小皺が出ているのだ。

この映画(増村版)は冒頭から中盤ぐらいまで列車内のドラマが長々と続き、このまま車内シーンのままで終わってしまうのではないかと途中で心配したのを記憶している。

【注目→】特急つばめ号では通過駅の熱海に主人公たちを下車させ、それを見送るシーンを熱海駅ホームで撮影しているだと!

このブログでは東京駅を神戸駅に見立てた「黄線地帯」などが紹介されているが、これはブログ史上最強の詐称撮影ではないだろうか。

「超絶技巧演出!」と称賛したい気持ちもあるが、増村保造演出でもこのような度を超えたイタズラやインチキが平然と行われていたのか、それに当時の評論家や観客は誰も指摘しなかったのだろうか。

東京駅を品川駅でロケし、窓ガラスに駅名「品川」と映っているgoof(チョンボ)はまだ可愛くて、どこか憎めないけど。

赤松 幸吉 | URL | 2019-11-13(Wed)18:27 [編集]


Re: 足にさわった女(1960)

赤松様 コメントありがとうございます。

本作への思い入れが強いのか、いつになく熱いコメントですね。戦前の「足にさはった女」を小生も是非観たいものです。

熱海駅でのロケは通過する特急つばめ号で行った方が、一般客が少なく撮影許可が取り易かったと思われます。

最初は小生も特急こだま号から降りて、ホーム上を追い駆けるシーンも全て熱海駅で撮影したと思っていました。
見送るシーンもNGを出して、しかたなく2時間後のつばめ号で撮り直したと思っていました。(実に自然な流れなので)

テツエイダ | URL | 2019-11-14(Thu)18:52 [編集]


セットが多いですね

テツエイダ様、赤松様こんばんは。

画像拝見いたしました。1枚目画像いきなりセットっぽいです。リクライニングシートなので、特ロということですが、窓がこれほど狭いのは、ナロ10形あたりでしょうか。そうするとカーテンの色味や内装色が合わないようにも思えます。もっとグリーン車系の内装色はくすんだ色ですよね。
2枚目カット、ブレーキ弁ハンドル(右手)の角が立ちすぎです(笑)。もっとRがついているものです。それと、左手はマスコンハンドル。加速のためのハンドルですが、このタイプ(MC23系)は、反時計回りには回せません(笑)。時計で言うと6時の位置が中立で、時計回りに4つの刻みがあって、10時半くらいまで回ります。画像では4時位の方向へ回していますが、これはあり得ません。よって運転台のカットは、よく出来てはいますがセットです。
ビュッフェのシーンは、サハシ153形のようで、モハシ150形とは違う形のような…。内装色も明るすぎます。
1等車の車内シーンはよく出来てしますが、よく見ると横引きカーテンと、上下に上げ下げするカーテンと両方ついています。こういう車輌は無くも無いのですが、カーテンに止め溝が無い(笑)。窓側の上着掛けが1つしかありません。よく出来ていますけどね。
植木等のカット、乗務員室内をよく再現していますが、その次のカット、「モロ150-2」という型式番号プレートと、ドアを挟んだ左側には「川崎車輌」の銘板がついています。惜しいな~。型式番号は合っていそうなのに、字体が全く違う…。川崎車輌の製造銘板も、形状は151系と153系のみに採用された特別な形状のものまでは再現出来ているのに、大きすぎます。妻壁の色も、これらの形式番号板や銘板がついているところは白色になっていて、妻壁は途中でクリーム色と白色の切り替えであったはずです。
その他細かいところでは、老婆のシーン、手すりの形状が異なる(左端)、その後のシーンで網棚の支え位置がおかしい、ドア左側の温度計の形状が似ても似つかぬもの(実物は国鉄のマーク入りの丸形)などあります。
最後の2カット、なんと背刷りの緑色は塗装です(笑)。

しかし、相当良く実物を観察して作り込んであると思います。天井のAU11クーラーの吹き出し口形状などは、ほぼ実物通りです。今まで見たセットでは、一番リアルと言ってもいいんじゃないでしょうか。ここまで正確に再現を試みた大道具さんたちの努力はたたえられていいと思いますよ。
品川駅を東京に見立てたというのも、今となるとほほえましい、そして涙ぐましい努力ですね。

失礼いたします。

すぎたま | URL | 2019-11-20(Wed)18:12 [編集]


Re: セットが多いですね

すぎたま様 細部に至るコメントありがとうございます。

本作はロザ・ハザ・ビュッフェ・運転席のセットをかなり忠実に作って撮影した様です。更に天井部分が開いていて、上からの角度で撮影できる様に製作したバージョンもあったとか。

しかし13枚目の熱海到着時の画像で、向かいのホームに停車中の湘南電車や駅名板の作りはイマイチですね。

本作の前半は車内シーンが延々と続くので、他に例がない程の車内セットを作った様です。

テツエイダ | URL | 2019-11-21(Thu)22:34 [編集]