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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

290.地獄

1960年8月 新東宝 製作 公開  カラー作品   監督 中川信夫

仏教系大学生 清水四郎(天知茂)が次々巻き起こる不幸な出来事の原因が自分にあるかの様に思い悩み、死の間際に 八大地獄の修羅場をさまよう姿を描いた異色ホラー映画です。

恩師 矢島教授(中村虎彦)の娘 幸子(三ツ矢歌子)と婚約した清水ですが、悪魔的行動を連発し メフィストフェレスの様に絡みつく学友 田村(沼田曜一)が重荷の毎日です。
田村が運転する車に乗ると 酔ったヤクザ 志賀恭一(泉田洋志)をひき逃げしますが、母親 やす(津路清子)に目撃され 復讐の鬼となって追われます。

清水は幸子に相談し自首しようとタクシーで警察へ向かいますが、事故にあって幸子は死亡してしまいます。これも原因が自分にあると悩む清水の元に、ハハキトクの電報が届きます。
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夜行列車で養老院を営む実家へ向かい
(天上園)の看板が映ると、その背後をC11形蒸機が4輌の客車を牽いて走って行きます。(軽便蒸機の様な汽笛音はアフレコ?)
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清水が玄関前に来ると養老院の暑い室内では老人達が下着姿で居て、開けられた窓の直ぐ近くをC11形蒸機が暑そうな蒸気の音を立てて通過して行きます。
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母親の看護は天上園に住む画家 谷口円斎(大友純)の娘で、幸子にそっくりなサチ子(三ツ矢歌子)が担ってくれていたので清水は驚きます。

今後の事を思い悩んでか下駄で線路端を歩く清水の足元が映った後、いきなり大音量の汽笛音と共に清水の背後をC11形蒸機牽引貨物列車が通過して行きます。
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その様子を見て驚いたサチ子が駆け寄り話していると突然 レールに座る田村が現れ、
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東京へ帰ってくれと言う清水の願いを断り「ここが気に入ったので当分滞在するよ」と言って清水に取り付く様です。
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更にレールに座って考え込んでいる清水の元へ父親の妾 絹子(山下明子)が駆け寄り、東京へ帰る時に連れてってと抱き付くと 突然バック運転の C11322蒸機が貨物列車を牽引して走り抜けて行きます。
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清水の母親が亡くなり矢島教授夫妻が来ると、矢島夫人 芙美(宮田文子)はサチ子を見るなり「幸子~」と泣き付き清水は更に悩み深い顔です。
天上園に縁の深い一同が集まった席で田村は各々の悪事を暴き立て、メフィストの本領発揮です。

その後 天上園創立十周年行事が催され、お祝い看板の背後をC11形蒸機が4輌の客車を牽いて走って行きます。
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会場へ人力車で向かう人もいて、時代設定が何時なのか不明です。
お祝い膳で出された魚料理で入居者が食中毒となって全員死亡し、他の人間も復讐に燃える志賀やすが持ち込んだ毒入り酒で死亡しました。
そして清水は死の間際に閻魔大王(嵐寛寿郎)の元で、八大地獄の修羅場をさまようのでした。






PS.
 清水はハハキトクの電報を受け取り 夜行列車で実家へ向かうのですが、客車内場面(セット撮影)があるだけで何処へ向かっているのか分かりません。
 C11形蒸機が4輌の客車を牽いて走って行く場面からは会津線でロケが行われたのでは?とも考えましたが、唯一ナンバーが読める C11322号機から八王子機関区武蔵五日市支区 所属機と分かりました。
 つまり五日市線沿線でロケが行われた様ですが、非電化当時とは大きく様変わりした現在では詳細なロケ場所は不明です。(それでも東京から遠い田舎の雰囲気は出ています)

 窓際をC11形蒸機が走る場面を観ると、天上園がいかに線路端に建っているかが分かります。このC11形蒸機は節目節目で脅かす様に突然現れ、その場面をより一層印象的にしている様ですね。
 本作公開日が全線電化8か月前の五日市線ですが 、工事着手前の区間で朝の通勤通学列車折り返しの下り蒸機牽引旅客列車や貨物列車を映した様です。




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コメント


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地獄

これこそまさしく、日本映画が世界(宇宙)に誇れるオカルト・ムービーの超傑作である。

中川信夫監督は「東海道四谷怪談」と「地獄」の2本だけで十分、他の作品はあってもなくてもいい。

初めてこの映画を見たのは小学生のとき、町内のお盆納涼大会で公園に大きな白幕が張られ、辺りが暗くなるとともに野外上映された。

ラストで延々と続く阿鼻叫喚の地獄絵図に子どもたちは生きた心地がせず、心底恐怖に怯えた。

大人たちから「嘘をついたり、宿題をしなかったら、あのような地獄に行くのだぞ」と脅かされたとき、「これからは、きっとよい子になります」とすくみ上がったものだった。

つまり、この「地獄」は子どもたちの道徳意識を啓発し徳性を教え導く、文部省推薦(?)の優れた「教育映画」だったのである。

2枚目の写真の車内シーンは明らかにセットであると分かる。

他社の鉄道シーンでは普通はセットでも車体を微かに動かしているものだが、新東宝は電気・動力代をケチったらしい

列車、それも往時の蒸気機関車なので揺れや振動が激しく、車内や乗客も少しは「ゆらゆら」するはずだが、座席の天知茂は微動だにせず、まるで静止画を見ているようだった。

10枚目の写真、「創立十週年記念」の看板に思わずニヤリ。
新東宝にはこの種の表記ミスが時々あるのですよ。

つい先日見た「白線秘密地帯」(石井輝男監督)では看板(しかも大看板)に堂々と「トルコ風呂 最高の設備 最底の料金500円」(14分38秒頃)とありました。

すぐに間違いが分かりますか。

引き続き表記ミスについて述べるのは、大変気が引け、二の足を踏むのですが、「天地茂」→「天知茂」ですね(何かすいません)。

赤松 幸吉 | URL | 2019-08-04(Sun)20:14 [編集]


Re: 地獄

赤松様 コメントありがとうございます。

この季節に満を持して、本作を取り上げました。(今年の関東では、梅雨明けが遅かったので)

本作のハイライトは延々と続く阿鼻叫喚の八大地獄にあることは重々承知しておりますが、当ブログのポリシーに則り 前半の部分にのみ紹介したことは赤松様はご承知なので解説して頂き ありがとうございました。

「創立十週年記念」の看板部分は気付きませんでした。「天地茂」→「天知茂」も校正不足でしたので、修正させて頂きます。
五枚目の画像で(ふみきりちうい)も、単なる一文字不足なのか 方言か はたまた・・・

テツエイダ | URL | 2019-08-05(Mon)22:59 [編集]


ふみきりちうい

「ふみきりちうい」の立て札、戦前から戦後の鉄道写真でよくありますね。都会、地方を問わず存在したようです。お馴染みの汽車の絵の踏切看板(?)は、いつ頃出来たんでしょう?

つだ・なおき | URL | 2019-08-07(Wed)05:42 [編集]


Re: ふみきりちうい

つだ・なおき 様  コメントありがとうございます。

そう言われてみれば「ふみきりちうい」の立て札を、古い写真で見た様に思います 旧かなづかいでしょうか。
機関車の「踏切あり」標識は、1950年頃出来た様です。その前は線路マークの標識だった様です。

テツエイダ | URL | 2019-08-10(Sat)12:26 [編集]


直線と踏切

この直線と踏切の雰囲気から、武蔵増戸〜武蔵引田間ではないでしょうか。
今でも当時を彷彿とできます。

とおりすがり | URL | 2020-10-06(Tue)04:04 [編集]


Re: 直線と踏切

とおりすがり 様  コメントありがとうございます。

そうですか 武蔵増戸〜武蔵引田間ですか。 大きく変わった区間が多い中での、踏切部分なのですね。

(カテゴリー五日市線)の5作品以外でも「99.警察日記」等、五日市線が登場している作品がありますので読んでください。

テツエイダ | URL | 2020-10-06(Tue)22:19 [編集]