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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

 29. 夜の河

 1956年9月 大映 配給 公開  カラー作品    監督 吉村公三郎

 京都 堀川で京染の店を切り盛りする舟木きわ(山本富士子)と阪大教授 竹村幸雄(上原謙)の悲恋映画です。

 冒頭 堀川端を走る京都市電のN電 堀川線(北野線)が登場します。ポール集電に2軸4輪単車 明治生まれの姿で堀川端を颯爽と走る様子がカラーで鮮明に映っています。29-11.jpg


 唐招提寺を訪れた きわが自分の製作したネクタイをした竹村と出会い、帰り道 奈良電鉄の車内でしょうか皆で虹を見かけるシーンがあります。
 外観のシーンが無いので分かりませんが、最寄駅である近鉄橿原線西の京駅から乗り相互乗り入れしていた奈良電鉄線で帰京したとすると近鉄車両かも知れません。
 その後1963年10月奈良電鉄は近鉄に買収され現在の近鉄京都線となっています。

 中盤 きわに対して下心のある近江屋(小沢栄・・後の小沢栄太郎)と共に仕事で上京することになった きわは、近江屋が急行彗星に乗るとみるや1汽車遅らせ後続の急行に乗ります。
 近江屋は2等車の窓越しに妻の見送りを受けつつ きわのことが気になり目を泳がせます。29-22.jpg
きわは乗車後食堂車へ行くと偶然竹村に合い、ビールと紅茶でひと時を過ごします。29-33.jpg


 近江屋が構内放送の通り急行彗星に乗ったとすると京都発22:20 この後は22:32 の急行安芸と22:55 の急行月光しかありません。しかも共に食堂車は連結されてません。
 この頃夕刻以後東海道本線上りで 食堂車が付いていたのは鹿児島発東京行の急行筑紫だけで21:34発です。なので近江屋が乗った列車は1本前の21:14 発急行明星と思われます。
 その前にイノダコーヒーできわと近江屋が話すシーンを本店そっくりにセットを作って撮影した腕からして、食堂車のシーンは勿論2等車見送りのシーンもセット撮影かとも思います。
 
 きわの妹 美代(小野道子)が実家に寄った時 又も堀川線 ポール市電が映り、バックは二条城の一部からして二条城前電停で下車したと思われます。
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 このシーンではオープンデッキから運転手の姿もハッキリ見えます。明治期の姿を最後まで残した堀川線は1961年7月末をもって惜しまれつつ廃線となりました。
 

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コメント


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夜の河

大女優といわれる人はそれぞれ代表作を持っているものだが、「器用貧乏」な山本富士子に関しては、どの作品を取っても代表作と呼ぶのには「帯に短く、襷に長し」で、「夜の河」まで本当の意味の代表作はなかった。

吉村公三郎監督の「夜の河」は彼女の生涯の代表作となったばかりでなく、この作品は日本恋愛映画の至宝と言ってもよい。

絵に描いたような金閣寺、清水寺、五重塔、渡月橋など京都を象徴する観光名所を撮らなくても、このように瑞々しく京都という町を写し出せるという手引きのような映画である。

ヒロインの名は「舟木きわ」、はんなりと気高く古風な日本女性の名前である。
最近の女の子のネーミングは萌えアイドルのような外国人と紛らわしいものばかりになったが、「きわ」というような美しい和名があるのをお忘れか。

控えめで奥ゆかしい京女「せつ子」を演じた阿井美千子も素敵でほれぼれする。
「きわ」と同様に脳裏に焼きついて離れない。

2等車と食堂車のシーンは明らかにセットですね。

ロケとセットの違いは自然と勘で分かるようになりました。
ロケ撮影ではその場の気配、喧噪、臭い、人の息づかい、舞い上がる綿ぼこりまでが画面より伝わってきますが、セット撮影にはそれらが感じられません。

だからといってロケ撮影の方が優れているという意味では決してありません。

松本清張作品(「張り込み」「点と線」「ゼロの焦点」など)にはロケ撮影が臨場感や緊迫感を生み出すのに理想的だが、このような恋愛ドラマでは、落ち着いたセットの中でこそ愛する二人の語らいをしっくりと描くのに適しています。

「夜の河」の食堂車は、大映黄金期スタッフによるシックでデラックスなレストランの雰囲気を醸し出す見事なセットで、セットだからこそ、小津安二郎監督のように人物を向き合う人物を正面からとらえる「切り返しショット」が可能になったのでしょう。

食堂車のテーブルには花の生けられた細長い花瓶(一輪挿し)が窓側に置かれて(固定?)いる。
その他の食堂車シーン(「人形の歌」など)でもよく目につく。

急行のシーンは設定がわざとらしい。
列車の窓がすべて開かれ乗客全員が首を出している(こんな不自然な光景はないだろう)、
振袖姿の舞妓さんが見送りに来ているが、この時間に置屋(店)が女の子に外出を許すわけがない。
また、舞妓が送別に行かなければならないぐらいの上客(旦那)なら、2等車には乗らないだろう。

今は昔となった京都の市電だが、今でも「嵐電(京福電気鉄道嵐山本線)」はその風情を残している。

赤松 幸吉 | URL | 2018-05-09(Wed)13:35 [編集]


Re: 夜の河

赤松様 熱いコメントありがとうございます。

山本富士子の代表作との御意見ですが、小生も同感です。吉村公三郎監督によって、彼女の良いところを引き出されている様ですね。

彼女が乗ったのが急行筑紫とすると、食堂車はマシ29形でした。窓が狭いタイプの車輛で、セットも合っていますね(当時の食堂車はこのタイプが多かった)

訪れたことのある人でも本店を借りてロケを行ったと思った程 精巧に作られたイノダコーヒー本店のセット場面を見れば、大映黄金期スタッフの腕と予算の掛け方が分かりますね。

テツエイダ | URL | 2018-05-10(Thu)19:54 [編集]