
度重なる水爆実験の放射能への被害妄想に取り付かれた中島喜一(三船敏郎)と、彼に翻弄される家族の葛藤を描いた映画です。
タイトルクレジットでは東京 日本橋交差点らしきを行きかう、都電各線の様子がバックに映っています。28系統(錦糸町駅~都庁前)の 3000形 3167には大勢の乗車待ち客が、日本橋停留所から乗ろうとしています。

また40両だけ製造されて早稲田車庫に配置され、15系統(高田馬場駅~茅場町)で活躍した 800形 821の姿も見ることができます。

続いて 四谷三丁目行を表示した都電が、歯科医であり家裁の調停委員をしている原田(志村喬)の家の前を走り抜けて行きます。

四谷三丁目が起終点停留所だったのは、7系統(四谷三丁目~品川駅前)・33系統(四谷三丁目~浜松町一丁目)でした。原田の家は、周囲の雰囲気から左門町辺りでしょうか。
中島は放射能の恐怖から逃れる為 一代で築き上げた資産を使って、一家全員はおろか妾親子まで一緒に南米のブラジルへ移住しようと言い出します。
大反対の息子たちは家庭裁判所に、父親の準禁治産者宣告(現 被保佐人)を申し立てるのです。原田も参加しての協議の結果、準禁治産者となった中島は何も出来なくなりました。
ある日専用線区間の長い都電 32系統に原田が乗っていると、

車内で呆然とした顔の中島を見掛けます。

声を掛けても返事は無く、

無視する様に次の停留所で降車して行きます。

国鉄大塚駅高架下の大塚駅電停の様です。
原田も続いて降りると、なおも中島に声を掛けます。

停車していた 7000形 7051が発車して行くと先を歩く中島が振り返り「何の御用ですか!」、原田は「そう仰られると困るんですが」と棒立ちです。

更に高架下歩道の角まで行った中島は速足で戻って来ると、「放射能が怖いのにアンタ方のお蔭で手も足も出ない。」と大声で言われて呆然と立ち尽くす原田でした。

PS.
タイトルクレジットのバックで、賑やかな日本橋交差点らしきを行き交う都電や自動車が映っています。永代通りを行く 28・15系統の都電は映りますが、交差する 1・19・22・40系統の各線は横姿だけでナンバーが分かりません。
4番目の画像で対向する電車は、王子電気軌道時代(当時:200形)から働く 170形の 173です。1942年に当時の東京市電に合併された王子電気軌道ですが 32・27系統となった内、元々専用線区間が長かった現在の(三ノ輪橋~早稲田)が残された様です。
当時 35歳の三船敏郎はメーキャップと入念なリハーサルで 60代と設定された中島喜一を演じています。5枚目の画像の表情は見事ですね。
都電大塚駅電停場面は、有名なセット撮影です。7051の電車後部から壁タイル・レールと石畳・出口のアーチ部分まで、黒澤監督の指示で忠実に再現されています。
只 この場面にこれ程のセットを作るとは、意見の分かれるところでしょう。一転 最後の画像で犬のマークでお馴染みの小田急バスが登場するのは? 砧から近い狛江車庫から借りたのでしょうか 黒澤監督にしては・・・
終盤に中島の放火で焼失した鋳鉄工場が映りますがこれは 45日と一千万円を掛けて作ったセットを撮影後に燃やして、更に 20日と三百万円掛けて手を入れたセットで撮影したそうです。前年(七人の侍)を大ヒットさせて、予算を掛け易かったのでしょうか
タイトルクレジットのスタッフ紹介で、音楽を担当した親友でもある早坂文雄が急死したので単独明記しています。そしてエンドマークの後も約二分間に渡ってテーマ曲を、何も無い黒画面に流し続けて彼への追悼の意を表している様です。
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