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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

279.キューポラのある街

1962年4月 日活 製作 公開   監督 浦山桐郎

鋳物工場の多い川口の街で貧困と向き合う中学三年生 石黒淳(吉永小百合)を中心に、北朝鮮帰還で悩む在日コリアン家庭を並行して描いた社会派映画です。

冒頭 川口の説明をする途中で、京浜東北線の 72系電車が県境の荒川橋梁を渡る走行シーンがあります。
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次に淳の弟 タカユキ(市川好郎)・金山サンキチ(森坂秀樹)・ズク(西田隆昭)の三人が、下校時 荒川河川敷を歩いています。その背後の荒川橋梁を、電機が旧型客車を牽いて渡って行くのでした。
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タカユキが両親とケンカして家を飛び出した夜には、線路端にある公園で横をキハ58系らしきDC急行列車(準急?)が通過して行く姿があります。
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その後 進学費稼ぎの為 パチンコ屋でアルバイトを始めた淳でしたが隣の塚本克己(浜田光夫)に見つかり、土手上を話ながら歩く横を 70系電車らしきが走り抜けて行きます。
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修学旅行に持参する小遣いの金額が千円となったが貧困家庭の淳と金山ヨシエ(鈴木光子)は、土手道を歩きながら「私達には無縁の話だ」と考えが一致します。
そこへ裕福な家庭の中島ノブコ(日吉順子)が淳に話しかけてきたので、ヨシエは自転車に乗って先に行きます。その先には電機が無蓋車を長々と牽いて、荒川橋梁を渡る貨物列車の姿が見えます。
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タカユキが工場へ泥棒に入ったのを見付けた淳が公園で主犯のノッポ(川勝喜久雄)とタカユキを問い詰める場面の背後では、電機がゆっくりと旧型客車を牽いています。4両目には一等車を繋いでいます。
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また教室の窓から自転車に乗るヨシエを見かけた淳は、追い駆けてパチンコ屋を辞める話をします。するとヨシエも北朝鮮へ帰る話を悲し気にする場面で、電機が重連で貨物列車を牽いています。
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失職していた淳の父親がノブコの父親のお蔭で再就職できたのに自ら辞めてしまい、家の中が荒れ放題の最中に修学旅行に出かけた淳です。しかし駅までの途中でノブコの姿を見かけた淳は、引け目から思わず物陰に隠れて修学旅行に行きません。
集合場所の川口駅前では淳が来ないので、野田先生(加藤武)は心配顔です。
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一方 淳は荒川の土手に寝転んでいると、その横を皆が乗ったらしき京浜東北線 72系電車が通り過ぎて行きます。
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続いて川口駅改札前にタカユキが現れ、浦和鑑別所へ行く為自動販売機で切符を買います。
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その後ろから淳が弟に気付かず現れ、窓口で浦和迄の切符を買っています。

終盤 川口駅から北朝鮮へ帰還した在日コリアンの金山サンキチでしたが、翌日タカユキが見かけます。事情を聞けば上野から新潟行きの特別列車に乗ったが途中で残った母親が気になって、大宮駅で降ろしてもらったそうです。
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大宮駅で父と姉と別れ、この駅で在日コリアン人々と共に見送るサンキチでした。
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最後は改めて北朝鮮帰還団の一員として特別列車に乗ったサンキチを見送る場面です。川口陸橋上で手を振る淳とタカユキの前に、EF53形らしき電機が次位にマヌ31形暖房車らしきを繋いだ列車が現れサンキチは窓から手を振って応えています。
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車内から身を乗り出してサンキチが手を振るシーンでは、サッポロビール川口工場専用線と無蓋車が映っていますね。
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PS.
 この映画では荒川の土手と荒川橋梁を中心に16か所以上の鉄道シーンがありますが、明確に映っている場面が少ないのは残念ですね。
 浦山監督は荒川の土手と荒川橋梁が気に入った様で、明らかに列車が人物の背景に入る様にタイミングを合わせて撮影した場面が多いですね。

 大宮駅の次の駅はこの当時土呂・東大宮駅は無く、8.9㎞先(遠い!)の蓮田でした。高崎線の方は、現在と同じ宮原駅ですね。

 淳とタカユキが川口陸橋上からサンキチを見送る場面では、左端のサッポロビール川口工場専用線から東北本線下り線まで一気に跨ぐ片渡り線が見えています。
 末期のサッポロビール川口工場専用線では 1986年に廃止されるまで、日車製 15tDLが日通川口支店に依って製品出荷の為に運営されていました。



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コメント


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キューポラのある街

1962年製作のこの映画が吉永小百合の初期の代表作であることは衆目の一致するところ。

これ以降長く止めどない女優生活が今日まで続き、数々の「大作・話題作」に出演してきましたが、これを超える作品が出ていない。

また演技の幅も、「キューポラの~」の時とそんなに変わっていないようです。

監督の浦山桐郎にも同じこと(この処女作を越える作品を生み出せなかった)が言えます。

荒川沿いの河川敷はよく映画のロケ地に選ばれていますが、この土手は「朝を呼ぶ口笛」や「下町の太陽」などに出てきた場所と違って、ずっと荒川上流の東北本線の橋梁附近なのですね(私にはすべて同じエリアに見えますが)。

監督やカメラマンはどうしても絵になるコンテ(構図)が欲しいので、人物の背景に列車を走らせる演出が多いですね(この映画にしてもこんなにタイミングのよく、列車の通過ばかりが起こらないはずですが)。

海や川がバックの場合は、明らかに撮影のためにわざわざ借り切った船を浮かばせているというシーンも多いですね。

JRの場合は多分無料・無断・無届け撮影で済むでしょうが、こちらはセットにお金が相当かかりそうです。



以下は、このブログの趣旨にまったく関係ないことなので、読み飛ばすだけでテツエイダ様の判断により掲載やコメントをしていただなくてもこちらは少しも構いません。

それは登場人物の名前のことです。

石黒淳(吉永小百合)となっていますが、私が調べた限りでは他のサイトでは「ジュン」となっています。予告編でも「ジュン」と表記されています。
「淳」はどこから引用されたのでしょうか。

これ以上に不可解なのは少し前の「悪名一代」の田村清次(田宮二郎)です。

朝吉(勝新)の名字は今東光の原作でも「村上」で、映画のシリーズで何度もそう呼ばれていますが、清次についてはどこの資料を見ても「清次」は「清次」だけで名字は載っていませんし、映画の中で使用された記憶もありません。

「田村」という名字はどこで見つけられたのでしょうか。

赤松 幸吉 | URL | 2019-03-06(Wed)19:19 [編集]


Re: キューポラのある街

赤松様 コメントありがとうございます。

名前に関しては、出来るだけ作品中のフルネームと俳優名を併記する方針で書いています。

石黒淳の名は確かに多くの資料で、他の出演者と同じくカタカナ表記の(ジュン)です。
小生としては中盤 野田先生から市の補助による修学旅行費用を受け取った際、「両親の判をもらってきてくれ」と渡された領収証の右肩に石黒淳と記載されている場面があるので漢字の(淳)を使ったのです。

同様に 悪名一代の(田村清次)も清次が起こした傷害事件の、記事が載った新聞を朝吉が読んでいる場面で記事に(田村清次)とあります。  今後も疑問点がありましたら遠慮なく伝えて下さい、可能な限りお答えします。

テツエイダ | URL | 2019-03-07(Thu)20:13 [編集]