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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

247. 御身

1962年10月 大映 製作 公開   監督 島耕二

商事会社に勤める矢沢章子(叶順子)は弟が掏られた50万円を工面する為 3か月契約で長谷川電機社長に身を売りますが、予想外な展開の連続に戸惑い 変わってゆく心理を描いた 恋愛映画です。

冒頭 章子の弟 矢沢利夫(六本木真)が渋谷付近の交番に被害を届ける場面で、背後を都電 6000形らしきが通過して行きます。247-20.jpg
青山通りを走る9系統(渋谷~浜町中ノ橋)らしき雰囲気です。
章子は知り合いのバーマダム 浅野公子(丹阿弥谷津子)の店を訪ねて相談し、丁度来店した長谷川虎男(宇津井健)に公子が出資を持ち掛けます。
長谷川は 3か月契約で 50万円を了承し、章子は 50万円の小切手を受け取ることが出来ました。すると長谷川は早速 章子を店から連れ出し、タクシーに乗って東京駅へ向かうので緊張する章子です。

しかし見送りだけを依頼されたのでホッとすると、その顔を長谷川に指摘されてしまいます。二人は東京駅のホームへ上がると、
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「14番線は22時発急行月光号大阪行です」と構内放送が流れる中 3号車端デッキから乗車します。
そして4号車へ入ると、開放二段式一等寝台車の様です。白い上着の乗客掛の横を通って長谷川が奥へ進むと、
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下段席から「遅いわね」と声が掛かります。長谷川は向いの席に座って、章子から鞄を受け取りました。
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瞬間に女は振り返って章子を見ると、「どなた!」と一言。章子は「失礼します」と言って逃げる様に去り、長谷川は追いかけます。247-4.jpg
売店の前を越して反対側ホームに停車する列車のデッキ前で、「あの女は 2号で、他にもう一人女がいる」と告げられます。
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そして無理やりタクシー代を渡され、列車に戻る長谷川を見送るのでした。章子が階段方向へ進むと、車内の女はカーテンを開けて章子の様子を見ています。関西へ同行する長谷川の 2号、バー「芝」のママ 香山波江(仁木多鶴子)です。
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その後 章子は恋人 和気年久(三田村元)と別れようとしますが、相手は納得しません。 一方 長谷川は男女の契約をしたのに、てんで相手にしません。そんな折 弟の利夫が上司に罵られたことから、会社を辞めてしまいます。
そこで章子は長谷川行きつけのバーで、弟の再就職を頼もうと出かけます。長谷川は現れますが この後人に会ってから 22:00の月光で関西へ出張に行くと言って直ぐ席を立つので、弟の件を話すことが出来ません。
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22:00 急行 月光の案内板が映り、章子が一等寝台 3号車内へ入って来ました。
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長谷川を探し出すと、驚く長谷川をよそに向かいの席に座ります。連れがいないことを確認すると、
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「私も大阪へ同行させてほしい」と言うので、更に驚く長谷川です。
やがて発車すると次のカットでは何故か 151系特急車両の走行シーンがあり、停車している 20系列車の横を通過して行きます。
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時間帯から 18:00発 2005M 特急おおとり 名古屋行と思われ、18:30発 3レ 特急あさかぜ号が同じ東京駅15番線への入線待ちでしょうか。

二人で和やかに話す内 EF58形電機に牽かれた列車は、横浜駅へ到着します。何故か(みずほ)らしきヘッドマーク付の列車です。247-14.jpg
ここで急に気が変わった章子は、弟のことを言い訳に降りてしまいます。
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ホームにいた乗客掛が乗り込み、折戸を閉めると同時に列車は動き出します。デッキに立つ長谷川を、名残惜しそうに見送る章子なのでした。
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 PS.

22時発の急行月光号は実在の列車ですが、作中では明らかに 20系ブルートレイン車両を模したセットの様です。ナロネ21を模して細部まで拘って作り込まれた、大映のセット製作技術の高さが現れた作品ですね。
しかも横浜駅での場面で最後は列車が動き出すのですから、何人掛かりで押したのでしょうか。惜しむらくは、東京駅のセットと階段の壁柄が同じです。でも当時は九州行特急専用の20系車両を、何故急行月光号として選んで作ったのでしょう?

22時発の列車ですから、当然最初から寝台はセットされています。ところが長谷川の寝台だけは、会話場面の都合なのか座席仕様のままです。更に長谷川一人で乗車していた場面でも同様なのは・・・
通路に足は出ますが 一等寝台ですから、寝台状態でも頭上高に余裕をもって座れます。喫煙室を使えば、更に実用的です。そもそも関西へ向かうのですから、ブルートレインでは最後の(はやぶさ)でも大阪着 午前 2:13と早過ぎて急行月光としたのか?
ならば一等座席車が無い月光ではなく 21:00発 25レ 急行瀬戸 宇野行を想定すれば スロ53 一等座席車が有り、大阪着も 7:26と実用的であり セットも作り慣れていたと思われるのですが・・・

それにしても東京駅ホーム場面のセットは、売店から反対側ホームの列車まで作り込まれていて凄いセットです。波板屋根を映さなければ、( 55.堂々たる人生 )での日活が作った東京駅ホームセットと双璧でしょう。




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コメント


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御身


小生は生まれてから一度も寝台列車に乗った事はなく、内部がどうなっているのか見たこともないが、一連のカットを見ていると実際にリアル寝台車の中にいるような感覚になるほどの臨場感です。

これが本当にセットなのでしょうか。

大映のスタッフは時代劇だけでなく、現代劇でもこのようにリアリティのあるセットを作り出していたと目を見張らせられます。

しかも、その列車を大勢のスタッフで押して動かしたらしいとは、更に驚きです。

ずっと以前は大きな駅に寝台車が停まっていると珍しくて窓越しに覗き込んだものでしたが、最近は寝台列車はまったく(ほとんど)見られなくなりました。

長距離移動は新幹線や飛行機に押されて、寝台車は過去の遺物になってしまったのでしょうか。

この映画にはお気に入りの叶順子さんが出演しています。

ちなみに、「叶順子」をインターネットで検索すれば、ずらりと先にAV女優の「叶順子」に行き当たります。しかも同じAV女優で同姓同名の「叶順子」が2名もいるのです。

我が「叶順子」は永遠に大映の憧れの女優だけであって欲しかった。

赤松 幸吉 | URL | 2017-12-09(Sat)11:57 [編集]


Re: 御身

 赤松様 コメントありがとうございます。

現状 定期運行している寝台車付列車は、特急サンライズ瀬戸・出雲だけになってしまいましたね。

かつては「本州・九州全ての県庁所在地から東京へ直通列車を!」という請願に応えてか、寝台車を連結した夜行列車が数多く運行されていました。 (237.暴力)の末尾にその究極例として、1両だけの直通列車を紹介しています。

小生 初めて乗ったのがオロハネ10形というAB寝台 合造車でした。車両の真ん中に入口があり 間違えたフリをしてÅ寝台側のドアを開けると喫煙室で更にドアを開けると、絨毯敷通路の両側に本作の様な寝台が並んでいて感動しつつも敷居の高さを感じました。
 実際乗ったのは当然 三段式 B寝台上段でした。高さ60㎝余り幅50㎝それでも横になれて、毛布もあって感激でした。

以来日本全国 今でも年に一度は寝台車に乗っています。心残りは本作で登場した開放二段式Å寝台車に乗らなかったことです。

叶順子さんは「細雪」をはじめ「女妖」や「黒い樹海」で印象深い女優さんでした。本作でも彼女の魅力が発揮されていますね。

テツエイダ | URL | 2017-12-09(Sat)22:46 [編集]


御身

飛び切り美人ではないけれど、なぜか男を死ぬほど迷わせる、いわゆる「男好きのする」タイプの女優がいるものです。

その象徴的存在が叶順子さんだと思います。

源氏鶏太のさしたる面白味もない原作の映画化で、叶順子の魅力がなければ、何も残らないような映画だった。
第一、全体のストーリー(プラトニック・ラブ? 大人の純愛物語?)が突飛で、風変わりで、「へんてこりん」ですよ。

でも、我が心の弁天様・叶順子のラスト・ピクチャー、食い入るように見ました。


鉄道ファンにとって、昔の映画の列車のダイヤや型などを突き止めていくのは楽しいことでしょうが、一方で(この映画のように)明らかにセットだとわかるシーンで、実物そっくりの駅構内や列車の再現に感心したり、あるいは反対にミス(goof)の発見に溜飲を下げたりするのも一興でしょう。

本物と比べて、駅構内施設や急行・月光の車両、内部の寝台席は手あか、油汚れ、煤ぼこりなどがなく、新調したばかりのようにピカピカ光っているので、かえって間違いなくセットだと思いました。

てっきり作り物と信じていた列車が動いたときはビックリ仰天、そうか、人力で動かす手もあったのか。
大映の撮影所大倉庫にはセット用の列車が保存されていて、作品ごとに微調整や手直しを施して使用していたのではないでしょうか。

先頭車両の機関車だけは本物でしょうか。

ホーム天井のトタン板(6枚目の写真)には目を丸くした。
これは大映セット技術陣(完璧な東京駅ホームを設営しているのに)のミスでなく、カメラマンが誤って天井部分も撮してしまったと言うことでしょう。

赤松 幸吉 | URL | 2018-12-04(Tue)15:31 [編集]


Re: 御身

 赤松様 コメントありがとうございます。

本作のストーリーが?なのは小生も同感です。それでも叶順子さんの不思議な雰囲気が魅力的で、トボケた感じの宇津井健とのコンビは長く印象に残ります。

別撮りの実写映像は、何故か こだま形特急電車だったり特急みずほ なのは不思議でコメントできません。

テツエイダ | URL | 2018-12-05(Wed)22:25 [編集]


精密なセット

みなさんおはようございます。

これは確かに精密なセットですね(列車走行シーン以外)。駅のカットで、柱が古レールでなく、H形鋼みたいな状態になっています。これも当時の駅施設としては考えにくいです。
車内のシーン、はしごが細すぎますね。これでは体重のある人だと、折れてしまいそう…(まあ、今ほど太った人は多くなかった時代ですが)。それとはしごには、たいていその車輌の番号が書かれていたものです。
セットだと、決定的かなと思えるのは、最後のカット、ドアの白線が、車体のそれと比べて上にずれています(笑)。
とはいえ、ここまで精密なセットを作る努力は、脱帽に値しますね。昔の人は「いい仕事」をしていたものです。

寝台特急は、「ゆうづる」(三段)、「明星」(二段)、「出雲3号」(二段化改造後)に乗りましたが、いわゆるブルートレイン形式は、意外にも上段が揺れないんですよね。あれは意外でした。特急車には、当時連結面車体上部に「アンチローリングダンパー」が付けてあり、上部の動揺を抑制していたためと思えます。A寝台への乗車経験が無いのが残念です。

すぎたま | URL | 2018-12-13(Thu)05:22 [編集]


Re: 精密なセット

 すぎたま様 連続のコメントありがとうございます。

ドアの白線に目をつけるとは、すぎたま様ならではですね。 小生もB寝台には数々乗りましたが、開放形A寝台にはとうとう乗らないままでした。

テツエイダ | URL | 2018-12-16(Sun)12:40 [編集]