
時代は戦後復興初期。定職に就いて安定した生活を目指す 日雇い労働者 毛利修三(河原崎長十郎)の、だらしなくも前向きに苦闘する生活を描いた社会派映画です。
冒頭 早朝から日雇い労働を紹介する職安の様な所を目指す人々を映した場面で、薄暗い中 千住大橋らしきを越えて来た都電の前後に軌道敷を走る男がいます。

続いて 高架駅を出発する京成電鉄 200形らしき電車が映り、駅の出口から走り出して来る人々がいます。推測すると 千住大橋駅でしょうか、「防犯強化デー」と書かれた大きな立て看板が目立っていますね。

次に都電 3000形 3105が停止しない内から飛び降りて 駆け出す男達がいます。行先表示が北千住と読めるので、都電 21系統(千住四丁目~水天宮前)ですね。

カーブを曲がった所で停車したので、千住中組電停でしょうか 殆どの人が降りた様です。他の車が走っていないので、日光街道の路上を広がって走って行く様です。かつて千住橋戸町にあった職安を想定している模様です。
この日雇い労働の仕事もアブレる日もあって苦しいのに 借家も立ち退きを迫られ、妻 さと(河原崎しづ江)は長男 雄一(河原崎労作)長女 民代(町田よし子)を連れて東北の姉宅を頼って行くことにします。
出発の日 上野駅へ行く前に、アメ横近くの高架線沿いを歩く一家が映ります。山手線か京浜線の 63系電車が5連らしきで走行する姿が映ります。この界隈は現在と殆ど変わりない感じです。

そして一家は上野駅前へやって来て、露店の本屋で毛利は児童書を二人に買ってあげます。戦後6年目の上野駅前ではアメ車らしき乗用車が溢れて、復興期に入った様子です。

中央改札口前の明り取りのある大屋根が映り、行列に並ぶ一家の姿があります。やがて「10番線から 11:25発 各駅停車 青森行の改札を開始します」と放送があり、行列は進み始めます。
毛利は妻に金を渡そうとしますが辞退され、二人の子供を連れて改札を通ります。さとは走って12番線を目指す人々の流れの中で、後ろを振り返りながら進んで行くのでした。

毛利は三人が乗った列車を見送るべく、北方向にある両大師橋に上がります。やがて3番線らしき高架ホームを出発した蒸機牽引列車が、白い煙を吹き出しながら毛利の下を通過して行きます。去り行く妻子に向かって再起を誓っている様な表情ですね。

その後 努力しても不運や毛利のだらしなさもあって、遂には盗人の片棒まで担ぐ始末の毛利です。逃げ回った末に 簡易宿に戻ると、警官が待ち構えていました。しかし上野署へ出頭すると、妻がキセルをして捕まった故の呼び出しでした。
聞けば「姉宅も極貧状態なので、黒沢尻(現 北上)から二駅程の切符で戻って来た」そうです。余程不憫に見えたのか「本当は3倍の罰金なのだが」と言って、警察では説諭で放免してくれました。
警察を出て 鶯谷~上野らしき線炉端の高台を一家はとぼとぼと歩き、仕切り壁に座り込んで途方に暮れた顔の夫婦です。一家の背後では回送か入れ替え中なのか、小型蒸機が白煙を上げて走っています。

さとは「今夜子供たちを何処へ寝かせたらいいのか」と呟き 雨も降り出して、毛利も今後どうしたらいいのか迷っている様子です。雨の中 常磐線の 63系電車らしきが走行する姿があります。

PS.
毛利の妻が子供たちを連れて乗ったのは 上野 11:30発 113レと思われますが、この列車が黒沢尻に到着するのが 3:26頃と 真夜中です。到着後の行動を考えたら、12:35頃到着する上野 21:30発 常磐線経由の青森行 211レが適当でしょう。
また当時の運賃では、上野~黒沢尻の 3等運賃が 560円です。行きは払えた切符も、帰りは隣の六原までの 10円切符を買うのがやっとだったのでしょう。
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