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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

228. 雪国

1957年4月 東宝 製作 公開   監督 豊田四郎

日本画家で東京に妻子ある島村(池部良)が越後湯沢で芸者 駒子(岸恵子)と恋仲になるも、不自由な環境の駒子と煮え切らない島村との腐れ縁を美しい雪国の自然をバックに描いた映画です。

川端康成の原作に沿って映画化されているので書き出しと同じく、冒頭 トンネルを行く列車が抜けると前方に雪景色が広がりタイトルが入ります。
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上越線 清水トンネルを抜けて原作では信号所だった土樽駅へ向かいます。EF12形らしき電機が牽く列車がゆっくりと駅に到着します。電機の次位に蒸機を連結しているかの様に、暖房車が勢いよく黒煙を吹き上げています。
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駒子の師匠の息子 行雄(中村彰)を湯沢に連れ帰る途上の葉子(八千草薫)は寒いのに窓を開けて、同駅で働く弟のことを宜しくお願いしますと タブレットキャリアを肩から下げた駅長に挨拶します。
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続いて 雪降る越後湯沢駅2番ホームに、EF57 形電機が牽く下り列車が到着します。
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和服の島村が凍てつくホームを改札口へ向かう後ろに、病で弱った行雄と彼に肩を貸す葉子の姿があります。
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この電機のプレートは EF577 と読めるので当時長岡二区所属の SG搭載電機ですが、非搭載機の運用換えなのか次位に暖房車を連結しています。

島村は駒子と恋仲となるも、冬場に暫く滞在すると東京へ帰って行きます。中盤には駒子に思いを寄せる行雄が危篤で呼んでいると葉子が知らせに来ても、帰京する島村が乗った列車に寄り添う場面があります。
駒子が雪道を線路に近付くと、右手から三重連電機牽引の列車が来ました。
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駒子は小走りで踏切へ近寄り 雪まみれになりながら、「あんたー」と叫びながら通過する客車の窓に島村の姿を捜しますが見つからない様子です。
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EF13 形電機を先頭に、二台目と三台目は共に EF15 形電機の様です。暖房車を入れても9両編成の客ㇾに電機を豪華に三重連とは、回送の電機を追加したのでしょうか。
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尚も「あんたー・島村さん・あんたー」と叫び、列車の最後部が通過すると駒子は踏切の線路上へ出ます。そして ままならぬ運命に対する苛立ちを雪玉に込めて、列車に向けて投げつけるのでした。

それから場面が切り替わる時に、ラッセル車キ100 が単線非電化路線を C11 形蒸機らしきに押されて除雪して行くシーンがあります。小出~大白川の只見線辺りで撮って、島村の心情をイメージして加えたのでしょうか。
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毎年雪の季節になると、島村が来るのではと駅の改札口で待つ駒子がいます。ある日の晩 新潟行を改札口で待っていると雪まみれの列車が 2番線に到着します。
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その時 葉子の弟 佐一郎(久保明)が後ろから走って来て、「今度 小千谷に転勤になりました」と告げるや構内踏切を渡って列車に飛び乗ります。
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駒子は手を振って見送りますが、遅れて葉子が来たので止めます。
やがて動き出した列車のデッキに立つ佐一郎に、葉子は精一杯手を振って見送るのでした。
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列車がいなくなっても改札口に向かう下車客はスキー客だけで、駒子は気落ちして 二人の間に冷たい空気が漂っています。





PS.
 
原作の時代設定は 1935年頃ですが、この映画も戦前の設定のようです。上越線の全線開通は 1931年9月ですが、1941年1月には土樽が信号場から駅になっています。
そして 1967年9月に新清水トンネル開通で、全線複線化が完成しました。つまりこの映画は原作のイメージ通りの様子がほぼ残る時期に、タイトルバックから全編に渡って撮影されているのが何よりです。
原作の頃なら ED16等が活躍したのでしょうが、EF12 や EF15 でも暖房車やスハ32等の旧型客車と相まって雰囲気が出ています。また越後湯沢駅の旧駅舎・構内踏切が原作の味を出していると思われます。

1935年冬のダイヤでは 上野 13:55発 新潟行に乗ると、越後湯沢に 19:15頃到着します。清水トンネルを越える列車は一日に普通9本+急行1本で、長岡行4本・新潟行6本でした。
ロケ当時は 普通9本・急行4本・準急1本ですが、現在は上越新幹線があるので定期列車は普通が5本あるだけです。現在のダイヤで近いのは、上野 14:30発高崎行で乗り継ぎ越後湯沢には 18:21頃着きます。
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コメント


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はじめまして

鉄道には詳しくないのですが、昔の車両の写真とか映像を見るとワクワクしてきます。そして、何線の電車なんだろうととても気になる事が多いです。

今更、専門的に憶える気はありませんがとても参考になります。

これからも勉強させていただきます。よろしくお願いします。


imapon | URL | 2017-03-05(Sun)11:48 [編集]


Re: はじめまして

 imapon 様  コメントありがとうございます。

小生もシニア年代ですが、車両についてはあまり詳しくないのです。

50年前の大晦日の深夜TVで(25.續 警察日記)の軽便鉄道SLが併用軌道を走る姿を観て、古い邦画が好きになって一部分でも鉄道が登場する作品を観ると記憶に残っていました。
 
 当ブログではカテゴリー:東海道本線の(51.黄線地帯)等の作品を小生の切り口で想像して書くのが好みです。
これからもコメントで応援してください。

テツエイダ | URL | 2017-03-05(Sun)13:11 [編集]


ご無沙汰しております。

すごい、このような映像が残されているのですね。
おっしゃる通り、ED16やEF51の“戦前型”でなくても、むかしの上越線、清水トンネル、国境の風景がひしひしと伝わってきます。特にEF57の列車は感激です。電気列車でありながら、暖房車からもうもうと上がる煙と蒸気、それが夕暮れのホームに流れるさまには心騒ぎます。
またひとつ、絶対見てみたい映画ができました。幸いDVDになっているようですね。

鉄道青年 | URL | 2017-03-15(Wed)17:43 [編集]


Re: タイトルなし

鉄道青年 様  コメントありがとうございます。

本作は原作のイメージ通りの推薦作で、よくぞ あの時期に製作してくれましたと拍手を送りたい気持ちです。

今回 雪が重要な舞台設定になっている作品5本を特集した3本目に取り上げてみました。
 
本来なら4本目に銀心中(しろがねしんじゅう)がふさわしいのですが、No.56で既に取り上げていますのでイレギュラーな構成となりました。

テツエイダ | URL | 2017-03-16(Thu)19:15 [編集]


浪漫溢れる国境のトンネル

テツエイダ 様

 ED76であります。


本作の主役である「駒子」を演じておられる「岸 恵子」様は、伝説の名作である「君の名は」での「氏家真知子」役での演技が有名でありましょう。しかしながら、ご本人は「君の名は」ばかりが話題にされることに対して、疎ましいとの感情を持っておられたとの話もあり、そのイメージで演技を語られることへのアンチテーゼがあるのかもしれません。
 小生が強く印象に残るのは、昭和47年制作の「約束」での女囚「松宮螢子」役であります。女性刑務官(厳しき姑役が似合う「南 美江」様)と、真冬の「日本海縦貫線」を辿るDC急行レ(金沢・青森間のしらゆき?)の旅路が、車内の乗客たちの人間模様を交えながら描かれています。チンピラ(個性派俳優「萩原健一」氏)がいろいろとアプローチをかけて、そのたびに迷惑そうな姿を見せるのですが、次第に彼に微笑を返すようになる女囚。雪の車窓の鬱陶しさとは対照的に、二人は次第に明るく振舞うようになり、心を通わせていくのです。
 そして、帰路の列車の中で、女性刑務官のスキを見て男は螢子を列車の外に連れ出し、螢子の残り2年の刑期が終わって出所してからの再会を約束して別れるのですが・・・。ラストシーンである、夕闇の中で螢子が男を待って呆然としてしている姿。そしてそのバックに流れる音楽に、何とも言い難い悲恋が感じられる名作であります(可能であれば、ぜひ「テツエイダ様」が本サイトにて取り上げていただければ、幸甚の限りであります)。


 本作「雪国」が、文豪「川端康成」氏による名作であることは言うまでもありません。
 よく、文学作品の映像化は、完成度が高いほど映像化が難しいと評価されてしまうことが多いようですが、物語自体は恋愛がテーマである部分が揺るぎないだけに、メロドラマとして興味深く描かれています。
 全編が、厳冬の雪に覆われたシーンが続き、身も心も寒さが身に染みてくるようです。駒子の喜怒哀楽が明確であるのと比較して、「島村(渋い二枚目「池部 良」氏)」は最後まで心に重さを持つ姿を崩しません。単調と言っては語弊があるかもしれませんが、身勝手な男の感傷を引きずっているようであり、そんな男女の暗く前途が見えない恋路が雪国の背景に見合っているようでした。
 また、撮影当時の昭和32年の越後湯沢の雪景色だけでも見応えがあります。雪国のあの圧迫感を感じさせる「白さ」は、モノクロであればこそであり、映像の美しさにも納得するものです。
 小生、10数年前「雪国」を授業で解説したことがあるのですが、女子生徒たちから、「先生は駒子たちの心の動きよりも、上越線のループトンネルやらの説明に熱心でしたね」と皮肉まじりに揶揄されたことがございました(笑)。


 「上越線の清水隧道」は開通当初から電化されており、前述のループ線も魅力的な線区。「上野・長岡」の長距離EC鈍行レで、よく訪れたものです(特に夜行は、長岡からの乗り継ぎで「新津」から「磐越西線の旧客レ」や「羽越本線の旧客レ」に接続するキワモノでした)。
 特に、豪雪期に「EC急行レの佐渡」で「新清水隧道」を抜けて、越後の地の景色が広がる時の車内の「歓声」は、忘れられないものであります。
 小生が「鉄」的に取り上げたいのは、終戦直後に発表された「電気機関車殺人事件」という短編推理小説であります。作者の「関 四郎」氏は、国鉄で技師を務められ、鉄道電化を強く唱え、国民に電化の必要性を広くアピール。そのことを目的として、昭和21年に推理小説雑誌である「新青年」に、当該作は掲載されました。
「上越線」を想定した架空の線区での、「EF18の機関士と機関助手」による清水隧道内での密室殺人をテーマとした作品であり、当時実在していた「清水隧道内の信号場」を舞台とする名作です。
 ただ、現在では「上越新幹線」が開通しており、「湯檜曽」「土合」「土樽」の各駅も往年の姿はなく、寂しさが募るばかりであります。


失礼いたします。

ED76 | URL | 2022-02-04(Fri)23:18 [編集]


Re: 浪漫溢れる国境のトンネル

ED76様 コメントありがとうございます。

上越線は夜行列車で通過した回数の方が 多い路線ですが、糸魚川の軽便ロコ撮影の帰りに ループ線からの眺めを堪能して 湯檜曽駅で下車して「とき号」の撮影をした思い出があります。

豪雪時期としては 新宿発の西武観光スキートレイン号で 深夜の越後中里に着き、翌日18:00頃 上野行として乗った時に見た 吹雪の土樽構内の様子が印象深いです。

(約束)は名画座で観て感動した作品で、勿論取り上げたいと思っています。
400回記念号後に 1970年代の近代作品?を特集して 10本位出す予定ですので、その時に 必ず取り上げることを約束致します。
その際には「羽越駅」の謎にも 迫れたらと思っております。

テツエイダ | URL | 2022-02-06(Sun)17:40 [編集]