日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

221. 足にさわった女

1952年11月 東宝 製作 公開   監督 市川崑

休暇で東京へ向かう大阪の刑事 北五平太(池部良)と女スリの塩沢さや(越路吹雪)が上り特急列車に乗り合わせ、小説家も絡んだ珍道中を描くラブ・コメディ映画です。
1926年 日活作のリメイク作品であり、1960年にも大映で再度リメイクされています。

序盤 EF57形電機が牽く列車が映り、(大阪発東京行 特急)とテロップが入ります。
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続いて 食堂車で小説家 坂々安古(山村聡)と出版社々員が、ビールとツマミを並べたテーブルを挟んで 古来 美人の泥棒は存在しない等と話をしています。
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その話を通路を挟んだ向かいのテーブルで聞いた北は、イスを持って移動してその論争に加わり「美人の泥棒は実在します」「この汽車に乗っているかもしれない」と話すのでした。
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特別二等車内では新聞を読む岡田六右衛門(見明凡太郎)の足に、向かいの席に座る女の組んだ足先が揺れる拍子に触って気になります。相手は若い美人なので、鼻の下も伸びています。
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回転式リクライニングシートなのに何故か向い合せにして お互い足を組んでいるのでトイレに立つにも不便なのですが、不自然でもこうしないと話が展開しないのです。
7号車が特ロの列車は 32ㇾ急行阿蘇が該当しますが、セットか特別二等車を使っての撮影と思われます。
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さやは弟分の野呂(伊藤雄之助)と示し合わせて車内灯を操作し、トンネルに入っても点灯せず真っ暗です。その間に岡田から財布をスリ取って、EF57電機牽引の列車が名古見(架空駅)到着と共に逃走します。
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他にも車内ではスリ被害の男がいたので、北は動き出した列車から飛び降りて急ぎ改札口へ向かいました。ホームにある便所横で野呂がさやの荷物を抱えています。どうやら中で着換えている様です。
野呂の背後には、電車らしきが停車しています。この名古見駅場面は 三島駅を使ってロケが行われたそうなので、駿豆鉄道本線(現 伊豆箱根鉄道駿豆線)の電車の様です。
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改札の外へ出た北ですが、さやの姿はありません。ホームを見ると、東京行普通列車に乗り込む女の後ろ姿が見えます。
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そこで強引に改札を突破して、連絡地下道を通らずに線路を斜めに走り抜ける北でした。
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後ろから改札の駅員が追い駆けて来ますが、素早くホームに上った北は東京行列車の最後部デッキに飛び乗ったのでした。
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前方の窓からは、野呂がこの様子を見ていて落胆しています。
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北は車内の便所で、農婦に変装した さやを見付けます。スリを否定する さやからは 故郷の下田へ行って、両親の法事を盛大に行って父親をスパイ容疑で追い詰めた親類の鼻を明かす計画を聞きます。
暫くすると車掌室の前で、スリ騒動が起きてます。北が車掌室に入ると、腹痛を起こして運ばれたという さやが椅子に寝ています。この女がスリだという説明を、富士川橋梁通過の騒音の中でします。
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さやは隙を見て男からスリ取った財布を窓から捨てますが、お札も風に飛ばしてしまいます。そしてスリの疑いを裸になって晴らすからと、車掌室で北に確認をさせるのでした。

列車が原駅(劇中の駅名は浜駅)に到着すると、
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大きな風呂敷包を持った老婆(三好栄子)が乗って来ます。さやは野呂が座っていた席を譲ったり、親切に接してあげます。
その時突然列車が急停車します。
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車掌が前方に走って行き「線路が故障したので隣の田子の浦駅まで歩いて下さい」と告げたので、
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皆唖然としながらも 暑い中 線路上を歩いて行きます。

途中からは老婆をさやが背負い、北が風呂敷包を持って歩きます。
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更に北とさやは交代して老婆を背負い、漸く東田子の浦駅へ皆が到着することができました。
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このロケは実際 東海道本線 鈴川(現 吉原)~東田子の浦の線路上で行われたそうで、国鉄職員が付き添って通過列車の間合いを見計らって撮影した様です。多人数なだけに、現在では不可能でしょう。

井戸水を飲んだりして待つと、電機に牽かれた列車が到着します。皆が急いで乗り込むと、さやが時計をデッキから落としてしまったと北に告げます。それを聞いた北は、デッキから身を乗り出して捜します。
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更に線路に降りて、レールの内側を覗いて遂には客車の下に潜り込んで時計を捜します。
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その時 電機の汽笛が鳴り、ゆっくりと列車が動き出しました。北は慌てずレールの間に身を伏せて、列車をやり過ごしました。
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この場面 最低地上高の高い旧形客車とはいえ 池部良 本人が挑んだスタントだそうで、三島駅構内に用意された3両の客車を使って色々な角度からスマートに撮影されています。
北の頭上を通過した列車は、加速しながら走り去って行きました。
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さやに騙され 東田子の浦駅に取り残された北は、思案に暮れますが財布が無いことに気付いて更に怒りが増します。
しかし北の財布を掏ったのは背負われた時の老婆であり、さやも法事の費用を全額を掏られたのでした。
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その後 熱海と下田で一騒動あり、さやは人生を清算するつもりで北の目の前で万引きをして捕まえてもらいます。そして大阪へ向かう列車の三等車には、北とさやが仲良く並んで座っています。
前の席の男が持つ新聞には(明日からの連載小説 女掏摸 坂々安古)と告示されているのを見た北は呆れた様子です。さやが足を組もうとして北の足に当ると、北はさやの足を引っ叩きました。
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それでさやは、足を縮めて大人しくする様です。さやが行く末を心配すると 北は「僕は未だ刑事を辞める決心がつかない」と言うので、二人の将来に希望は持てる様です。


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足にさわった女

市川崑を「新東宝・東宝」の第一次黄金期、「大映」の第二次黄金期と分けていけば、これは第一次黄金期の才気溢れる一作である。

市川はよほど足の綺麗な女性が好きなのか、「夜来香」でも久慈あさみの legs をパッチリ、見事にスクリーンに映し出してた。

さて、「名古見」という架空駅ですが、三島駅で撮影が行われたらしきものの、これは勿論「名古屋」のことですね。

テロップで「大阪」~「東京」は実名で登場させているのに、何故、「名古屋」の駅名をそのまま使わなかったのだろうか。

「浜」駅も「原」駅で、こんな無名の駅をわざわざ改名する必要は全くなく、誰にも何の差しさわりもなかったはずだ。

当時は実際の駅名をそのまま映画に使うと、「国鉄」や地元に何らかの迷惑をかける恐れがあるので、架空駅にするという暗黙の掟でも各映画会社にあったのだろうか。

現在ではよほど反社会的な作品でない限り、駅名など地元の宣伝PRになるので積極的に協力しているのに(「鉄道員」などのロケ地ブームしかり)、昭和40年代頃まではほとんどが架空駅にするとか駅名を画面に出さない演出だったと思う。

増村保造版(これも傑作。京マチ子の足が越路吹雪に劣らずnice & slender )でははっきりと「名古屋」となっていた。

フイルムは消失しているらしいが、戦前版の『足にさはつた女』も是非見たいですね。
なんせ、岡田時彦が主演ですからね。

赤松 幸吉 | URL | 2016-11-21(Mon)18:57 [編集]


Re: 足にさわった女

赤松様 長文のコメントありがとうございます。

架空の名古見駅の件ですが、この映画製作当時の東海道本線は東京~浜松が電化区間で以西は非電化でした。
最初に電気機関車牽引の上り特急を登場させていますので、到着した駅が名古屋では違和感を観客が感じてしまうからでは?と思います。 小生としては蒸気機関車に牽かれての、名古屋到着シーンがあったら良かったのですが。
 浜駅の件は到着場面で、跨線橋に原と表示されているのが映っているだけに不明です。

二等車に座るさやの足を弟分が踏む場面でさやが大胆に足を上げるシーンには、小生を含め当時の観客は衝撃を受けたことと思われます。

戦前版も増村保造版も未見なので、機会があれば是非当ブログで取り上げたいものです。

テツエイダ | URL | 2016-11-23(Wed)10:40 [編集]


いつも楽しく拝見しています。
今回は特に多くの貴重な写真に感激いたしました。
いつもながら当時の映画と鉄道の博識の高さにただただ驚かされております。

一つ質問ですが。
4枚目の写真の特2の座席と窓の配置を持つ車両は存在したのでしょうか?
一つの窓に向かい合わせの座席と言えばオロ40等の広窓車しか思い浮かびません。セットでなければ大変興味深い車両です。
ご存じでしたらお教えいただけませんでしょうか?
よろしくお願いいたします。

黒猫 | URL | 2016-11-23(Wed)16:39 [編集]


Re: タイトルなし

黒猫様 コメントありがとうございます。

座席は特ロ用のリクライニングシートを向い合せにしている様に見えます。一方 広窓で、窓と窓の間隔が広く間が壁になっています。
この様な窓配置の二等車は オロ36・オロ40等がありますが、固定座席の並ロ車両です。

たぶんセットを作って撮影したのでは?と想像します。この他 デッキ部分の場面は、明らかにセット撮影と思われます。
しかしブログでも紹介した様にこの映画では、国鉄から3両の三等車を借りて撮影するなどリアリティに拘った作品です。

あまり車両については詳しくない小生ですが、今後もコメントをお願いします。

テツエイダ | URL | 2016-11-24(Thu)14:47 [編集]