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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

217. 赤い殺意

1964年6月 日活 製作 公開   監督 今村昌平

東北 仙台の地で 常に受け身になって虐げられる生活に耐え忍ぶ高橋貞子(春川ますみ)が、自分を暴行した強盗犯に振り回されながらも何時しか自立してゆく様を描く映画です。

冒頭 仙台駅一つ手前の長町駅近くに住む高橋家が面している東北本線上を、常磐線からの旧客列車を仙台区のC62 7 が牽いて 轟音と共に走り去って行きました。
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貞子の亭主 高橋吏一(西村晃)は図書館司書で、東京での会議に夜行列車で出張の為 仙台駅改札口へと来ています。一晩中数多くの列車が発着する活気ある 駅構内の様子が映っています。
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高橋を見送った貞子は、仙台市電に乗って 自宅最寄りの広瀬橋電停で降りました。乗って来たのは仙台市電 長町線 400形・403長町行で、駅から付けている男の存在に気付いてない様子です。
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夜中に侵入した強盗犯 平岡(露口茂)に暴行までされた貞子は、翌朝 自宅前の線路脇に上って C60 12蒸機へ身投げ仕様としますが踏み切れないのでした。
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線路に面している高橋家では、四六時中 汽笛や列車の走行音が聞こえています。突然 雹が降り出した日には、D62形らしき蒸機が牽く貨物列車が背後を通過する中 洗濯ものを取り込むシーンもあります。
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ある日 妊娠を感じた貞子は、遠く離れた松島で診察を受けます。東北本線 松島駅で帰りの汽車を待っていると、ホームに平岡が現れ「俺と逃げてくれ 東京へ行こう」などと口説きます。

そこへC60 13蒸機が牽く普通上野行き列車が、豪快に黒煙を吹き上げながら到着します。
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乗り込んで車内を移動する貞子を平岡は延々と追い掛け、最後部のデッキでもみ合う二人をカメラは追い続けます。
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この当時 松島駅からの普通 上野行きは5本ありますが、該当するのは盛岡始発の 132ㇾで 松島を 11:32に発車して 終着上野には 21:59到着です。

そして松島駅を去り行く列車をホームから撮り続けると、更に二人がもみ合う走行中の最後部デッキを追い続けるのです。電化に備えたポールが立ち並び、接触危機を感じる迫力あるアクションシーンです。
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国鉄の協力で客車最後部に無蓋車等を増結して、そこから撮影していると思われる映像です。電化済の印象を映像から感じますが、1965年10月に仙台~盛岡を一気に電化しているので南から順次施工している様です 。
平岡が貞子と無理心中を望んでいる様なもみ合いはトンネルを過ぎても続きますが、突然 平岡は心臓発作をおこし苦しみ 東仙台駅に着いても不憫に思えた貞子は平岡を振り切ることができません。

中盤 平岡は貞子の息子にメモを託して、広瀬橋に貞子を呼び出します。しかし貞子は現れず 待ちぼうけを喰った平岡の背後を、2D上野行 81系気動車特急はつかり号らしきが通過して行きます。
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その後もしつこく現れる平岡に、貞子は手切れ金を押し付けて別れを宣言して帰ります。しかし平岡の様子が気になった貞子は市電 広瀬橋電停で下車しますが、吹雪の中 直に反対側の市電に乗って戻るのです。
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高橋が京都へ出張する日、貞子は自宅の庭から 453系電車急行に乗る夫を見送ります。その後遂に仙台駅で平岡と待ち合わせ 駆け落ちの旅に出ますが、高橋の愛人 増田義子(楠侑子)が二人を追っています。
ところが二人の乗った列車の先行列車が大雪で脱線したので、とある駅で停止したままとなります。吹雪の中 C57形蒸機らしきを先頭に停車する駅から、二人は あかばら温泉(架空?)を目指して歩くのでした。
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PS .

  今村監督が後年 最も印象に残る作品であると語った本作は、東京オリンピック前の仙台近郊でのロケが多く 大型蒸機も数多く登場する小生推薦の映画です。
  1962年7月に二代目松島駅となったこの駅から始まる二人の最後部デッキでのもみ合いは、今では撮影できない程の危険なアクションシーンであり この映画のハイライト場面と思われます。
  また 具合の悪くなった平岡を見捨てられなかった貞子は、窓を開けると蒸機が行きかう元祖トレインビューホテルとも言える 連れ込み宿へ入る場面などもあります。
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コメント


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いつも楽しみにしております♪

おはようございますm(__)m

赤い殺意の中で、高橋家の向こうを行く蒸気機関車はそのシルエットから推測致しますと、どうもD62のように思えますが、如何でしょうか? 

給水温め器が煙突の前に見え、従台車が2軸、テンダーがやたら大きい…etcが根拠ですm(__)m

宮爺 | URL | 2016-09-24(Sat)06:31 [編集]


Re: いつも楽しみにしております♪

宮爺 様 コメントありがとうございます。

なるほど よく見ると、キャブにドアがありませんね。 小生には軸配置が2C2に見えて給水温め器に気付きませんでした。
また 煙突に皿型カバー付回転火の粉止が付いているので、煙突が長く見えたのです。これが付いたD62は知りませでした。

テツエイダ | URL | 2016-09-24(Sat)15:01 [編集]


市電の雪のシーンは

仙台の市電の雪が降っているシーンは、最初見たときは「良く撮ったな」と思っていました。しかし、スタッフの回想を読むと、市電の上に雪籠を吊って撮影したのだそうです。
今村昌平の作品は、さりげなく撮っていて、実はすごい工夫がしてあるというシーンが多いと思います。

さすらい日乗 | URL | 2016-10-02(Sun)09:19 [編集]


ご無沙汰しております。いつも拝見させて頂いております。
今回ご紹介の作品、東北本線の大型蒸機が数多く登場するようで、またラストの雪に中を発車していくC57もたいへん印象的です。テツエイダ様ご推奨の作品、なんとかして見てみたいものです。

鉄道青年 | URL | 2016-10-05(Wed)15:40 [編集]


Re: 市電の雪のシーンは

さすらい日乗 様  コメントありがとうございます。

貞子が広瀬川電停で降りたシーンの画像を紹介していますが、続いている反対に戻る市電に乗るシーンでは更に強く雪を降らせています。 この雪の強弱で貞子の感情を表現している様にも見えますね。

テツエイダ | URL | 2016-10-07(Fri)20:52 [編集]


Re: タイトルなし

鉄道青年 様  コメントありがとうございます。

今回10年ぶりにCSで放送されたので取り上げたのですが、事情があるのか他作品の半分以下の放送回数でしたね。

テツエイダ | URL | 2016-10-07(Fri)21:09 [編集]


名作の一つです!

 テツエイダ 様

  ED76であります。

  本作の監督「今村昌平」氏の作品では、ベストワンたる名作だと小生考えております。都会人とは異なる東北土着の「基層心理」を描いた重喜劇と呼ばれる作風。主人公をしつこくしつこく追い回すかのようなカメラアングル。「藤原審爾」氏の「赤い殺意」の映像化作品の中で最も優れた作品でありましょう。
 また、小生は「男の弱さ」が滲み出てくる強盗役の「露口 茂」氏が印象に残ります。同氏は「太陽にほえろ」の「山村精一警部補」役で一世を風靡されました。「西村 晃」(皮肉にも「春川ますみ」氏のご主人役)氏と共演された「逆転」は、「太陽にほえろ」での最高傑作だと思います。

 さてさて、「鉄」としての注目シーン(!!)は、トホホセ「松島」駅から乗り込んだ「上野」駅行の「最後尾デッキでのシーン」でしょう。東京への逃亡を企てて、貞子(春川ますみ氏)に同行を強要する平岡(露口 茂氏)。フォームからの映像で、オハ35系(?)の旧客レの後部へと移動する2人。最後部のデッキでもみ合い、ついには心中を企て、貞子を車外へ突き落そうとする平岡・・・。テツエイダ様が記されたとおり、最後尾に無蓋車でも連結して撮影されているのでしょうか。交流の架線柱に頭部をぶつけんばかりにデッキの手摺につかまる「春川」氏の演技は迫力十分で、隧道の中でも熱演が続きます・・・。
 「東仙台」駅から、デッキに座り込んで貞子にしがみついている平岡を、高校生たちが怪訝な表情でのぞき込むシーンと併せて、強いインパクトが感じられました。

 「今村昌平」監督は、基本的に「ロケーション」に拘っていたとの逸話からも、このシーンはスタントなしで決行されたのでしょうか。現在であれば、絶対にJRは許可しそうもないと思われます。時代の違いと一言で片づけられないものを感じ入るとともに、この一連のシーンはエキストラなしだったのか興味が沸きます(「松島」駅での車中の乗客たちも、「何かあったのか」といった風情でしたので・・・)。

 小生、高校生から大学生の間、長距離鈍行レを時刻表で首っ引きで見つけ出し、最後尾のPCで制覇するという「拘り」がありました。もし、このような場面に遭遇したらと考えると、何か複雑な思いがいたします。

 失礼いたしました。

ED76 | URL | 2021-10-12(Tue)13:26 [編集]


Re: 名作の一つです!

ED76 様  コメントありがとうございます

確かに松島駅停車中の乗客の表情を観ると、予告なしの撮影だったのでしょう。(勿論国鉄の許可の元でのロケ)

小生も本作を初めて観た時は、危険で迫力あるアクションに驚きました。

この部分の撮影状況についての記述は見掛けていませんが、10枚目の吹雪の仙台市電の画像場面は雨ばかりで雪が降らないので古典的に竹竿の先にザルを取り付け 紙吹雪を5人掛かりで降らせた記述がありました。

旧客PC最後部のデッキからすれ違う列車を眺め・撮影するのは小生も好きでしたよ。(埼玉のトロッコ好きの高校生が転落死してから止めましたが)

テツエイダ | URL | 2021-10-12(Tue)17:56 [編集]