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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

209.悪魔の囁き

1955年5月 新東宝 製作 公開   監督 内川清一郎

身代金受け取りに短波無線機に繋げたイヤホンで取引相手を操り、「囁く男」として世間を恐怖に陥れた誘拐犯による犯罪ミステリー・アクション映画です。

冒頭 娘を誘拐された父親が、取引場所の東京駅へとやって来ます。 地下鉄丸ノ内線の工事も始まっている丸の内口駅舎が映った後
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一転 未だ舗装されていない凸凹砂利道の八重洲口側へ大型外車が到着します。
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鞄と風呂敷包を持った金持ち風の男が車から前年完成したばかりの八重洲本屋へと入ると、刑事が待ち構えており 母親に依る通報と知るや男は怒り出し 事件は悲劇へと至るのでした。

ある日美術館の学芸員である平田哲夫(中山昭二)の恋人 久美陽子(筑紫あけみ)が誘拐されます。短波無線機のイヤホンから流れる「囁く男」の命令で、平田は宿直日に古美術の仏像を盗み出すのです。
明け方 鞄に入れて無線機を持ち タクシーに乗ると、「渋谷へ行け」と指令されます。都電が撤去された渋谷駅西口へ向かい 運転手が気付いて通報すると、パトカーの尾行が付く中「新橋へ向かえ」と指示されます。

続いては東急 3000系とすれ違うカットの後
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クロスシートが並ぶ電車内の
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進行窓側に平田が座り、周りを刑事が囲んで座り 平田はイヤホンを耳に次の指令を待っています。
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すると不気味な声で「その電車は 9:18発 桜木町行 準急 ダイヤ通り発車した筈だ 左の窓を開けよ 次の駅で注意!」とイヤホンから平田に指令が有りますが、周りの刑事には聞こえません。
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早春らしき時期なのに いきなり窓を全開にしたので 横に座る中塚刑事(舟橋元)が「どうしたんですか」と問うと、「息苦しいんですよ」と平田は汗を拭きながら誤魔化します。
自由が丘らしき高架区間を走り、跨線橋の有る田園調布駅らしき3番線も通過します。次駅のカットでは、ホーム端からトンネルへ入りました。形と様子から、代官山トンネルです。
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トンネルを抜けると平田の耳だけに、「陸橋を過ぎたら白い旗が立っている。それを見たら直に包を窓の外に投げろ 陽子のためだ 命令はこれで終わりだ」と聞こえてきます。
続いて鉄橋らしき上をを電車が走り出すと、平田はイヤホンを外したので中塚刑事が耳に付けますが何も聞こえません。左前方の堤防上には白いジープが停まり、傍らに立つ男が白い大きな旗を振っています。
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そして男は合図するかの様に旗を振り下ろしたので、平田は窓から鞄をいきなり投げました。男は鞄を拾うと走り始めたジープに飛び乗って、慌てる刑事達を横目に悠々 逃走したのでした。
逃走するジープの背後に特徴ある中原街道の丸子橋が映っているので、この場所は東急東横線 多摩川園前~新丸子の多摩川橋梁と思われます。
刑事達には全く予想外の展開で右往左往する中
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中塚刑事は「停めろ~停めろ~」と叫んで電車を急停止させただけです。
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平田は緊張が続いた受け渡しが済んで、無線機を抱えたままグッタリした様子です。

この映画の鉄道シーンは前半のここまでですが、その後平田は犯罪組織に引き込まれたフリをして逆襲し 意外な真犯人に辿り着く 印象深い作品です。







PS.

 東京急行電鉄 東横線でロケが行われた様ですが、「東京急行」の広告が下っている車内シーンはオールクロスシートなので車両は何を使ったのでしょうか?
 窓から外を注視し 合図で鞄を投げたのでクロスシート車両での撮影が必要ですが、あの当時 東急に存在したのか小生には分かりません。

 作中で平田達が乗った桜木町行 準急電車は、自由が丘・田園調布と通過しています。映画公開の前月に復活した当時速達の東横線急行でも、両駅は停車していましたからロケ用の貸切列車を走らせたのでしょうか。
 田園調布駅の先で代官山駅を通過したのは編集上の都合でしょう。

 それにしても身代金の受け取り方で有名な「天国と地獄」が公開される8年も前に、列車から投げ渡すアイデアの映画があったのは流石 新東宝映画ですね。
 只 投げ落とす鞄の中身が、札束ではなく 古美術品である点が・・・

 また独特の低く凄味のある(囁く男)の声を「ぶらり途中下車の旅」のナレーション等で有名で、5年前に亡くなられた滝口順平氏が当時 24歳で担当されていたのも驚きです。



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コメント


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不明な車輌ですね

テツエイダ様こんばんは。

記事拝見しました。
東横線のクロスシート車は、長く存在せず、9000系で車端部に2ボックス設けられたのが最初です(ちなみに今は大井町線転属)。デモ走行では、伊豆急行の100系が伊豆急の開通前に試運転したことはありました。いずれも映画の制作年代とは矛盾するので、検討にも値しませんね(笑)。

このクロスシートの車輌を子細に見ますと、ドア横の窓幅がやや狭く、600ミリに見えます(他は700ミリかと)。ドアの窓四隅に、丸みが少ないので、Hゴムと呼ばれるゴム止めではなさそうです。またクロスシートの背刷りが板張りで、さながら旧国鉄のオハ61のようですが、結局そのような電車にはちょっと思い至りません。
ただ、つり革がクロスシートの上にも付いているのは不自然で、昭和30年の映画なのに、つり革がアルミ持ち手の、戦後代用品なのも気になります。
窓配置からすると、国鉄のモハ51形が考えられますが、さすがに戦後でも、板張り背刷りシートという記録はありませんでした。
イヤホンをして、鞄を持つ男性の背刷りが、傾きすぎていて、よく見ると窓柱の位置と合ってないのも気になります。

以上のことから、撮影のために、ロングシートの車輌を、一時的にクロスシートに改装し、撮影に供したのではないでしょうか。もしかすると、既存のロングシートの上に簡易な板張りイスを載せ、窓際のエキストラは、無理な姿勢で座っていたりしそうです。
失礼いたします。

すぎたま | URL | 2016-06-07(Tue)20:04 [編集]


Re: 不明な車輌ですね

すぎたま様 コメントありがとうございます。

小生の疑問に対しての鋭い考察 ありがとうございます。小生も東急以外でのロケは無いと思ったので、分からなかったのです。

ロングシートを撮影用に改装するという大胆な推理 感服致します! なるほど つり革が車内全体に付いていて不自然ですね。
更に画像に出していませんが中間ドア部分の座席の向きが逆のドア側で、一人分の小さなガード板が付いていますが出入りする人が座っている人の足にツマズキますね。

緊急停車した時 平田の左側窓下が映っていますが、ロングシートの背ずりを外した様にも見えます。
何れにしても手作り感のあるクロスシートといい、不思議な車内で想像が膨らみます。

テツエイダ | URL | 2016-06-09(Thu)12:48 [編集]


悪魔の囁き

この作品は知る人ぞ知るカルト・ムービーの一つで、黒澤明の「天国と地獄」が「名作」/「快作」なら、この映画は「迷作」/「怪作」だ。

疾走する電車から携帯受信機の指図で身代金(古美術品)を白い旗を振る男の地点に投げ落とせ、というシーンがこの映画のハイライトだ。

仏像を電車の窓から投下すると絶対に壊れると思うがなぁ。第一、そんなことして仏様の罰が当たりはしないか。

「天国と地獄」が公開される8年前の公開ばかりでなく、87分署シリーズ(エド・マクベイン)の前者の原作「キングの身代金」(こちらは自動車の移動電話へ指示場所に身代金を落とす)よりも5年前のトリックなので、植草甚一原案は実に画期的なplotだったに違いない。

走行する電車、通過する駅、トンネル突入、鉄橋通過、河川敷で白旗を振る犯人、鞄を拾い上げる男など、後年黒澤明が下敷きにしたのではないかと思われるぐらいエキサイティングなカットの積み重ね、迫真のシークエンスに度肝を抜かれる。

ただ、観客が吸い寄せられるのはこの鉄道シークエンスだけで、これ以降は話がチグハグ、チンプンカンプンで、支離滅裂な流れとなる。

後半は「怪人二十面相シリーズ」なみと批評した人がいたが、それでは余りに江戸川乱歩大先生に失礼ではないか。

制作年には東横線にオールクロスシートの車両が存在しなかったということなので、車両は撮影用にリフォームされたものでしょう。

すぎたま氏の変則大改装説「既存のロングシートの上に簡易な板張りイスを載せ、窓際のエキストラは、無理な姿勢で座っていた?」はやはり無理があると思えます。

乗客は自然な体勢で座っているように見えますし、万一簡易な板張りイスなら、揺れる車体での着座はとても不安定で危険ではないでしょうか。

それにしても不思議な車両だ。なんらかの大掛かりな改造を施しているには違いがないが、一体どうやって撮影したのだろうか。

最後に、黒澤明はこの映画を知っていたのだろうか、見ていたのだろうか。

赤松 幸吉 | URL | 2018-12-14(Fri)14:47 [編集]


Re: 悪魔の囁き

赤松様 コメントありがとうございます。

確かに鉄道シーンの後はストーリーに疑問点が多々有りますが、低予算の新東宝映画にしては原案にも恵まれ 全体的には今観ても快作と言えると思います。

不思議な車内シーンは前コメントでも触れましたが、中間ドア部分の座席の向きが逆のドア側で一人分の小さなガード板が付いていますが出入りする人が座っている人の足にツマズキ易い作りです。
 この様な構造の設計は有り得ないので、撮影用に改造したのでは?と思います。

テツエイダ | URL | 2018-12-16(Sun)13:58 [編集]