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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

187. 人間の壁

1959年10月 新東宝 配給 公開  企画 大東映画  製作 山本プロダクション  監督 山本薩夫

佐賀県内の小さな炭鉱町の小学校を舞台に 教職員の退職勧告撤回闘争や、児童に対する体罰から起こった父母による教師の辞職要求運動等の教育現場を描いた映画です。

序盤 新しく五年三組の担任となった志野田ふみ子(香川京子)は、問題を抱える浅井宅を家庭訪問することにした。先ず D51形蒸機が貨車を押して左方向へ通過後、ふみ子が踏切を渡って来ました。
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その直ぐ後ろを 9600形蒸機が後退運転で逆方向へと通過して行きます。ふみ子とすれ違った自転車に乗る男は、このキューロクの鼻先を横断して行きます。現在では考えられない日常がそこには在ります。
画像は一般型とは違って前部に給水温め器が取り付けられた珍しい 9600形蒸機です。操車場らしきを横断する踏切には「危険 無人踏切につき注意 津田山駅長」と看板が立てられています。

D51形蒸機が入換作業をしている横をふみ子が歩いて行くと、地面に石で絵を描いている浅井吉男(伊藤宗高)を見かけて微笑む ふみ子でした。
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次にふみ子の夫で県教祖の執行委員である志野田健一郎(南原伸二)が通勤する場面で鉄道シーンがあります。先ず津田山駅舎(横浜線の実在駅ではなく架空駅)が映ります。
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「間もなく 7:45発 下り佐世保行」の放送がある中、志野田が駅員に挨拶しながら改札を通過してホームへと向かいます。構内は通学生や会社員でかなり混んでいます。
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そして跨線橋を渡ってきた人々で込み合い「つだやま」と駅名板が表示されたホームへ、C61形らしき蒸機に牽引された普通列車が入って来ました。志野田も学生に混じって現れ、乗り込むデッキを選んでいる様です。
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客車のサボを見ると、不明瞭ですが (上野⇔平) と見えます。常磐線沿線で 上の津田山駅舎の画像に当てはまる駅を探すと、若干改装されていますが駅舎が現存する高萩駅ではなかろうかと思われます。

この映画は佐賀県が舞台として描かれていますが、海辺の洞窟を住居としている児童の家庭訪問場面等 撮影は高萩周辺の茨城県内で殆ど行われた様です。
故に 1,2 番目の画像は、高萩炭鉱等への専用線を抱えた広い側線群のある 高萩駅構内でロケが行われたのでは?と思われます。入換作業が忙しく行われ、大規模な操車場の様にも見えます。

続いて 込み合った車内で、志野田と県教祖 婦人部長の庄司春子(沢村貞子)が並んで座っています。志野田は「教師の指名退職勧告撤回闘争に励もうにも、辞めてしまう人が多いのではマイルな~」などとグチっています。
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また東京での中央大会に行った帰りの夜汽車内の場面では、志野田は吉沢県委員長(永田靖)に 中央委員の悪口をクドクド言うので「君のような存在が組織にとって一番困る」と鼻を折られてしまいます。
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中盤 激しく雨が降る日に 例の無人踏切を渡って3円安いノートを買いに行った浅井が、入換作業中の貨車と接触事故にあった旨の通報が学校に入ります。
知らせを聞いた ふみ子は駅へ駆け付け 駅長にケガの程度を尋ねますが、「とんだことになりまして、傘を差していたので貨車が見えなかったのでは」と言われ亡くなったことを告げられました。
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コメント


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人間の壁

日本映画で小学校の女教師役に最も似合わしい女優は、言わずと知れた香川京子である(男優なら内藤武敏)。
高峰秀子もいいが、少々「イケズ」先生で、機嫌が悪いと授業中にヒステリーを起こしそう。

この作品は、理知的で凛とした美貌の先生という香川のはまり役が心ゆくまで堪能できる
一編である。
こんな担任の先生なら、誰だって宿題も日番も窓ふきも毎日せっせとやりますよ。給食もきれいさっぱり平らげ、パセリだってニンジンだって一片も残しませんよ。

三ツ矢歌子も教師役で出演していたが、こぼれるようなお色気、フェロモンたっぷりで男の子たちは気もそぞろ、授業に集中できないのではないか。

少なくとも、艶めかしい淡路恵子先生でなくて安心したが。

不思議なことに、この映画は佐賀県教職組合など、佐賀の物語でありながら、佐賀から遠く離れた関東地方の高萩(茨城県)、川越(埼玉県)で撮影された(とこのブログで今知った)。

石川達三の原作ではS県と「佐賀県」を暗示しているすぎないが、映画では何度も「佐賀県」「佐賀県」と明言しているので、重要なシーンは佐賀県でロケされたと思っていたが、見事に騙された。

あれやこれやの理由や事情があろうが、佐賀の土地(ローカル)に一度も足を踏み入れない撮影メソッドにはやはり納得ができない。

そう言えば、登場人物は佐賀住民なのに佐賀弁でなく、ほとんど標準語を話していたようだ。

当時の小学校での身体検査が男子と女子(高学年でありながら)一緒の教室で行われていたのは驚き。
この映画でも女の子を上半身裸の姿で胸囲を計っているシーンがあった。

この映画は某インターネット動画配信サービスで廉価で見ることが出来ます。
このような教育映画は見ていてけっして楽しいものではないが、最近ではお目にかかれない心洗われる良心作なので、是非、皆さんも見てください。

津田山駅は、現高萩駅舎の写真を照らし合わせると駅名標だけを細工した高萩駅を津田山駅に見せかけたのは間違いがないと思います。

どうして、架空駅名に横浜線にある実在の駅を使用したのだろうか。

東京人のスタッフたちがこの横浜線の津田山駅の存在を知らなかったはずはない。

それとも、地方都市の雰囲気を出す、それらしい駅名を考え出すとなると、日本全国ある何千もの駅名とダブルのは仕方がないのだろうか。

無人踏切では列車が近づいているのに、通行人(香川京子ら)はするりとその前を横切る。昔は、このような危険な行為は当たり前だったに違いない。

赤松 幸吉 | URL | 2018-11-02(Fri)18:42 [編集]


Re: 人間の壁

赤松様 長文のコメントありがとうございます。

佐賀でロケが行えないのは、やはり日教組のカンパに頼っても自主製作に近いので苦しい台所事情からでしょうね。

津田山の駅名については、小生も不思議に思えました。 当初は佐賀県内で廃線となった内に、津田山駅が存在していたのでは?とも考えました。

本文にもある様に入換機関車が前後する合間に地元民が通行する様子は、現在では考えられない日常なのでしょうね。

テツエイダ | URL | 2018-11-02(Fri)22:16 [編集]