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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

173. 黒い潮

1954年8月 日活 製作 公開   監督 山村聡

井上靖の同名小説をベースに、毎朝新聞記者 速水卓夫(山村聡)が国鉄総裁 秋山(高島敏郎 )死亡の真相を 仲間と共に逆風にもめげずに追う ドキュメンタリー風の社会派映画です。

冒頭 土砂降り雨の深夜に、 フラつきながら近付くD51形蒸機牽引の貨物列車に誰かが飛び込みました。
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その様子を目撃していた初老の男 栗原(小笠原章二朗)は頭が少々弱く、後に警察の目撃対象から除外されます。
続いて常磐線 綾瀬駅 
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激しく雨が降る中 松戸行終電が到着し、最後部はクモハ 60形の様です。常磐線は事件のあった 1949年 7月の前月に松戸~取手が電化延長され、時刻改正されたばかりですので 0:23が定時の終電でしょう。

ホームにいた駅員が運転手から通告された様で、「おい 官舎のそばにマグロだとさ」と改札の駅員に告げます。「前の貨物が轢いたかも」と改札員「女かもしれんと」と追加情報も告げられます。
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当時 電車の最後部は改札口の直ぐ前で、終電は松戸行であることが分かります。数人の客が降りてくると、電車は僅かな停車時間で出発して行きました。

次に 事件現場を 9600形蒸機の 29614が牽く短編成の貨物列車が走り抜けた後、
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速水が線路際に立って謎の多いこの事件の真相究明を決意するのです。
29614は撮影当時 田端区の所属で、デフレクターを外して操車場入換業務が主な運用の他 常磐線貨物列車の短区間も担当していた様です。

また速水の部下 東野村(信欣三)と筧(河野秋武)が事件現場周辺で秋山の足取を調べているシーンでは、常磐線下り線路内を二人で話しながら歩いています。綾瀬方面は遠くまで直線区間で、線路の左右には未だ殆ど家がありません。
そこへ突然 背後から汽笛が鳴り響き、驚いた二人が
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慌てて線路外に退避して貨物列車をやり過ごします。幹線の枕木の上を歩くなど 現在の感覚では言語道断ですが、当時はよく見かけた様でそれ故事故も多かった様です。

画像で二人の前方に小さな橋が有り、下を小川が流れています。作中ではそこにいた地元の人に聞き込みをしますが、現在では五反野親水緑道となっている所で激変しています。
また画像の右手には 1929年完成の小菅刑務所(当時は東京拘置所も同居)があり、ロケ当時 鉄筋コンクリート造りの立派な建物は作中でも人物の背後で威容を誇っています。
本作は連合国占領解除後 間もない時期に製作されたので、鉄道施設を始め 事件現場となった場所もまだそれ程変化してなく 再現するには好機であったと思います。



史実では 1949年 7月 6日 午前 0:20頃 常磐線 北千住~綾瀬の東武鉄道と立体交差する地点付近で、8分遅れで通過したD51 651蒸機(水戸区)牽引の貨物 869列車が誰かを轢いて 後続の電車運転手が発見したそうです。
869列車遅延の影響か、この電車は現場を 0:25頃通過したので綾瀬発車は4分遅れの 0:27頃と思われます。
遺体が国鉄総裁 下山定則であったことから いろいろ憶測を呼び、当時の時代背景から当初自殺と思われた死因が他殺説優勢の状況となります。最終的には自殺説に傾いた警察の捜査が、高次元の圧力でボヤケ 迷宮入りとなりました。




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コメント


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新聞記者の群像劇

テツエイダ 様

 ED76であります。

 監督兼主役である「山村 総」氏は、小生が小学生の頃に夢中になった「非情のライセンス」での「特捜部長」役が印象に残っています(生意気なガキでした)。悪を絶対にのさばらせない「天地 茂」氏演じる会田刑事らが一目置く存在感。年取ったら、「ああいう大人になりてぇ」と憧れていたものです。今作も真実を求める正義感として描かれています。
 小生は、「謀殺 下山事件」との様々な比較において、「黒い潮」に一票入れたいと考えています。テーマ的に、「事件そのものの真相」を描くのか、標題どおりの「真実をめぐるマスコミの群像劇」を描くのかというスタンスの違いがありますから、単純な比較はできないでしょう。しかし、それを差し引いても、「真実」に近い描き方がなされているのは、本作であると小生は考えるのです(科学的事実を鑑みれば、下山総裁の自殺は動かし難い事実であります)。


 さて、「鉄」的観点(!?)からは、事件発生から時間的な経過が近い分、画像では想像できないほどの長閑な風景が展開されています。都内23区内にもかかわらず、「ハエタタキ」に沿った線路、田圃の中の無人踏切。そして、無造作に交差する「東武電車のオーバークロス」・・・。実は、事件現場は小生の「鉄」親父の実家から徒歩15分程度の所なのです。現在では、東武・JR・東京メトロと3線が交差する住宅街であり、事件当時の面影は皆無であります。
 また、昭和52年に「NHK特集」の「戦後史シリーズ」で取り上げられた際は、トホホセの「栗橋」付近がロケ地として選ばれていましたが、さすがに「架線柱」が「新幹線スタイル」であったことから、「時代考証」的には疑問符が付いてしまう部分がありました(う~ん、残念です)。
 事件当夜は、テツエイダ様が記述されている「D51 651」機が、出発前の「田端機関区」で蒸気圧が異常に下げられるとともに、運転乗務員の起こし役の職員が時間を誤ってしまうなどの状況があり、さらには下山総裁が轢断される直前に、「G.H.Qの連合軍レ」が通過した点などが、結果として謎を孕んだ形になりました・・・。


 ところで、小生は画面を飾る「60系や73系」等の旧国が大好きで、「鉄」親父の実家を訪れるたびに、「北千住」からの乗車する常磐線が「チョコレート色」であることを祈ったものです。「鉄」親父たちに酒が入れば、実家を出るのは当然21時ころとなり、「上野で夜行レを見るか」と「鉄」親父が言おうものなら、小生は夢見心地。「583系」や旧客急行レなどを眺めては、旅への憧憬を募らせた想い出がございます。

 失礼いたしました。 

ED76 | URL | 2021-10-22(Fri)18:51 [編集]


Re: 新聞記者の群像劇

ED76様 コメントありがとうございます。

貨物列車が8分遅れたのは 仮眠中の運転乗務員を起こす役の職員が 時間を誤ったのと、出発前の「田端機関区」で蒸気圧が異常に下げられたのが 原因だったのでしょうか?

小生も下山事件に関する著作を読んだことがありますが、どちらの説に重心を置いて書いたかでしたね。
キャノン機関と呼ばれた GHQ内の組織が、怪しい動きを多数行っていた印象が残っています。

テツエイダ | URL | 2021-10-23(Sat)09:59 [編集]


藪の中・・・

 テツエイダ 様

  ED76であります。

  「松本清張」氏の「日本の黒い霧」を中心とした「他殺説」では・・・、

  1 「キャノン機関の工作員」とつながりのある国鉄職員が、「田端機関区」の「D51 651」号機の「蒸気圧」を、運転不能ぎりぎりまで低下させた(出発が30分程度遅延するように。しかし、運転乗務員の技術が優秀で、遅延時間は予想よりも少なかったとのこと)。

  2 1と前後して、「札幌行の連合軍レ」を「田端操車場(尾久客車区?)」に停車させ、最前部の「ニ」に「総裁のご遺体」を搬入した。

  3 「連合軍レ」が、「荒川鉄橋」通過地点付近から工作員が合図を送り、「東武線のクロス地点手前」で徐行して、ご遺体を投下。

  4 「轢断現場付近」の工作員が、ご遺体を常磐線下り線路上に放置後、8分遅れの「貨物869列車」が轢断(遅れが当初の予想よりも短かったことから、十分な工作時間が取れなかった)。

 といった推理がなされています。

  しかし、「連合軍レ」は、あくまで旅客レ扱いですから、「田端操車場」や「尾久客車区」を経由するわけがなく、事件現場で停車したのであれば、「綾瀬」駅から「柏」駅間(ぐらい)では「遅延○分で通過」が記録されるはずですので、この推理は破綻してしまいます。当時の情勢では、「総裁が自殺」したのでは、世論や国民の同情が組合側に集まり、人員整理に対する批判が高まることを政府・G.H.Qは恐れていました。「総裁が他殺」されたとなれば、世論の「一部の反動勢力や組合」に対する支持が無くなるとした判断が、「警視庁の自殺説発表」をストップさせたとの通説がございます・・・。


  

  

ED76 | URL | 2021-10-26(Tue)13:17 [編集]


Re: 藪の中・・・

ED76様 続編コメントありがとうございます。

キャノン機関の怪しい動きについての詳しい推理論文・解説 分かり易くありがとうございます。

なにより解決に至る途上でG.H.Qの横槍が入り、迷宮入りとなった点が憶測を呼んだのでしょう。

テツエイダ | URL | 2021-10-26(Tue)23:27 [編集]