日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

167. 風船

1956年2月 日活 製作 公開   監督 川島雄三

幼い頃 小児麻痺を患った影響が残る 村上珠子(芦川いづみ)は母や兄 村上圭吉(三橋達也)から疎まれている様に感じ、圭吉の愛人 山名久美子(新珠三千代)を慕うも自殺され 家族崩壊の中 自立を目指し成長する姿を追う映画です。

父 村上春樹(森雅之)は優しく珠子の成長を願っていて、珠子も頼っています。村上はカメラメーカーの社長で毎月の様に関西等への出張が有り、会社から直行でこの夜も東京駅から夜行急行 月光号で出掛けるべくやって来ました。
12番線ホームの売店で夕刊紙を買って前方へ歩き出すと、前から珠子が現れ村上は驚きます。
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「どうしたんだ。わざわざ送りに来てくれたのか、ママは?」珠子は首を振り「新城さんのお呼ばれ」と告げ寂しそうです。
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二人で神戸行のサボが掛る 4号車スロ 54特別二等車の横を歩きながら、
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珠子は学校を辞めたいと父に話します。「自分で無理だと思ったら、辞めたっていいさ」と理解ある村上です。一瞬笑顔になった珠子ですが、「でもママが・・・」と再び沈んだ顔に。
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その時発車ベルが鳴り始めます。3号車後部デッキに乗った村上に、「珠子 家に帰っても一人ぼっちでしょ。で急にパパを見たくなったのよ。」と笑顔で告げて握手を求め 列車は動き出しました。
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珠子は寂しさを隠して、精一杯の笑顔で唯一頼れる父親を見送ります。珠子の身の上を考え 心配顔の村上は、右手に持った新聞を振りながら珠子の見送りに応えながら去り行きました。
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村上が乗った3号車はデッキ上部に2等寝台と表示されていますが、二等寝台のなかでも一番安い 二等寝台C室スロネ 30で定員 32名 寝台巾60㎝・線路直角方向と現在の開放B寝台と同等です。社長ですが、倹約家の村上らしい選択です。

この東京駅での見送りシーンはこの映画の中でも重要な場面ですが、鉄道好きには?な点がいくつか有ります。当時 特急でも8時間掛かる東京~大阪は、9本も走っていた夜行急行列車で移動する人が多かったのです。
村上もその中の、月光号を利用した様です。実際の 17ㇾ急行月光は、東京駅 14番線から 22:15発車の大阪行です。神戸行は 20:30発 13ㇾ急行銀河号のみで、わざわざサボを取り換えたのでしょうか?

更に村上が新聞を買った場面で 頭上に 12番線の札が下がっていますが、12番線から出る急行は 22:00発の 15ㇾ彗星号大阪行だけなのです。月光号をはじめ他の急行は、全て華の第7ホーム 14,15番線からの発車でした。
何故こんな手の込んだ撮影をしたのか謎ですが、発車ベルが鳴り始めた後 二人の会話のバックに聞こえる構内放送からは「お待たせしました 14番線から大阪行 急行月光号の発車です」とハッキリ聞こえます。

尚 銀河・彗星・月光の何れも 3号車は二等寝台C室・4号車は特別二等車と共通です。東京~大阪を二等寝台C室で行くと 運賃 2080円+急行券 720円+寝台券 1560円= 4360円掛かりますが、急行の三等座席で行くと 合計 1170円でした。
それはともかく、乗り込む芸能人らしきを見送るファンや芸能カメラマン・大きな鞄を担いだ赤帽さん・客席の人を窓越しに見送る人々等々 次々と出ていた当時の華やかな東京駅夜行急行発車ホームの様子が映っています。

終盤 兄 圭吉の愛人 山名久美子が兄の裏切りから自殺し、久美子を慕っていた珠子は愕然とします。日暮里駅近くの谷中霊園で珠子が久美子のお墓参りをする場面で、上野から尾久区へバックで戻る回送蒸機三重連が走り行く姿が有ります。
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樹木があって明確に見えませんが、C57+C62+C57の様にも見えます。何故 谷中かと言えば、珠子の背後に この映画公開の翌年 心中放火事件で惜しくも消失した 1791年建立の谷中五重塔が映っているのです。
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幾多の大火事・震災・戦災をくぐり抜けたのに残念な事件で焼失した谷中五重塔ですが、僅かにこの映画の中にその姿を残しています。
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