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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

 155. 遠い雲

1955年8月 松竹 製作 公開   監督 木下恵介

かつては相思相愛の仲だった石津圭三(田村高廣)と寺田冬子(高峰秀子)は石津が転勤前の休暇で帰省した折 再会し、家庭の事情から望まない結婚をした冬子が夫と死別していたことを知ります。
石津は冬子への思いを再燃させ今度こそ結婚を望みますが、亡夫の義弟 寺田俊介(佐田啓二)も冬子との結婚を望んで間で揺れる冬子の心情を中心に描く恋愛映画です。

冒頭 北海道の留辺蘂への転勤を前に久々故郷の高山へ向かう石津が乗る高山本線のC58形蒸機牽引列車を、様々な情景・色々な角度・一般映画としては異例の長さで映しています。
先ず 長い上り勾配をゆっくり黒煙を吹き上げながらC58 153が、7両の客荷車を牽いて登って来ます。
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石津は故郷が近付いたせいかデッキで陽気に唄い沿線の子供に手を振ったりしています。

続いて鉄橋を渡る姿を 横から 次に下からと角度を変えて捉えたり、カーブのかかった鉄橋を渡りながら迫り来る姿を捉えたりと 一般映画とは思えない程のテンコ盛りです。
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そして街中へ入って行く姿をロングで映した後、母や妹らが出迎える高山駅下り線ホームへC58 280が牽いて到着します。
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石津は完全停止直前に二等車デッキから飛び降り、久々の対面で皆笑顔一色です。
車で駅から実家へと向かう場面では、バックに堂々とした高山駅舎が映っています。残念ながら今年 築 80年だったこの木造駅舎も、先日 12月より建て替えで解体工事が始まったそうです。
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石津が高山駅に到着した時もホームで飲み物等の立売していた松本(田浦正己)は、中盤 冬子が駅前の公衆電話を使う場面でも駅構内のラッセル車や蒸機をバックに登場します。
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最終盤 石津が始発列車で高山を立つ日、未だ薄暗い早朝 C58 266牽引の上り列車が到着した折もホームで立売をして石津を見送っています。
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石津はデッキでお手伝いさんの見送りを受けながらも、前夜 再度同行を断られた冬子が現れるのではと改札方向を気にしています。
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その時 出札口に冬子が現れ、東京までの切符( 850円 )を求めます。
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構内放送が「高山~三分停車」と告げる中 冬子は急いで改札へ向かおうとしたその時、停車している列車から降りてきた寺田が改札へ現れ 冬子は凍りついた様にその場を動けなくなりました。
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寺田は「石津さんを見掛けましたよ ホームの後ろの方です」と告げますが冬子は答えられません。発車ベルが鳴り始め 改札が閉じられました。二人は待合所へ行くと寺田が「やっぱり東京へ行くのですか 行かないでほしいな」と説得します。
石津を乗せた列車はゆっくりと加速し、高山駅を離れて行きました。
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列車が構内を外れる時でしょうか、再度 汽笛が聞こえると冬子はベンチに腰掛け泣き出します。一しきり泣くと、吹っ切れた様な顔立ちになりました。
そして冬子は寺田に寄り添い駅を後にします。列車は冒頭の勾配区間を今度は下りなので軽々と加速して高山の街から離れて行き、冬子への思いを断ち切るかの様に線路端には昔 冬子からもらったジットの{狭き門}が転がっています。



PS.
石津が乗った朝一番の汽車とは? 本編では金沢からの出張帰りの寺田が降りてきた列車に石津が乗っています。構内放送では 5:25発岐阜方面と聞こえ、つまり富山発の夜行列車を想定していると思われます。
当時の時刻表を見ると、朝一番は 5:25高山始発の 826ㇾ岐阜行で 5:25発の部分は事実ですがアフレコ放送です。映画のスジの都合から高山本線全線通しの上り列車として設定し映している様です。

前年まで無かった夜行列車がこの年 1955年 7月の改正で岐阜 0:35発 1869ㇾ下り列車が登場、 終着 高山 4:49着ですが逆方向です。もしや5枚上の画像はこの下り 1869ㇾの到着時の姿では?
機関車と乗務員は共に交代し、1869ㇾの客車がそのまま折り返し 826ㇾになったと想像すると1番線への到着も納得いきます。上り夜行列車は笹津 23:13発 1870ㇾ岐阜行で、高山 1:39着と想定外です。

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