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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

380.約束

1972年3月  松竹・斎藤耕一プロ 製作 松竹 配給 公開  カラー作品   監督 斎藤耕一

偶然列車の中で乗り合わせた男女の 出会いから別れまでを、急行しらゆき号を舞台にして センチメンタルに描いたロードムービーです。

松宮螢子(岸恵子)は 酒乱の夫を刺殺した罪で 懲役7年となり、収監5年の今 模範囚なので監手 島本房江(南美江)の監視の元 母親の墓参りを許され 急行しらゆきに乗っています。
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とある駅から 中原朗(萩原健一)が乗って来て、螢子の向かい側の席に座ります。中原は軽い感じで 螢子に話し掛けますが、螢子に相手にされない上に 横の席にいる幼女(田代真由美)にも バカにされてしまいます。
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列車が 次の糸魚川に着くと、中原はホームの売店へ向かいます。ところが 護送中の男(中山仁)と接触し 怒鳴られますが、刑事(土田桂)に 宥められて 男は大人しく乗車しました。
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中原は 3人分の釜めし弁当と お茶を買ってきて二人に渡すと、中原が食べ出してから 螢子は「知らない人から 頂く訳にはいかないわ」と お金を渡し 房江も遅れて支払いました。

その後柏崎で、護送中の男と刑事は 下車します。
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中原が目的地を尋ねると「羽越」と螢子が答えたので、「俺も同じだ・・ア疑ってるな~」と 切符を見せるのでした。
長旅の目的地 羽越が近付いたので、螢子は洗面所で 身づくろいを整え戻って来ました。
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急行しらゆき号は 淡々と進み、
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羽越駅へと到着します。
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羽越で降りた中原は、列車の後方へ進んで行きます。
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改札口を出て 公衆電話を掛けると、予定が変わって 相手には直ぐに会えない様です。

そこで中原は 旅館から出て来た螢子につきまとい、墓参に同行して 明日12時に会う約束を 強引にさせたのでした。しかし翌日 約束の時刻になっても 事件を起こした中原は現れず、螢子は諦めて 房江と帰りの列車に乗るべく駅に行きます。
ところが改札口で 中原が現れ、必死に謝り「次の汽車にしようよ」と言います。突き放す様に 改札口を入った二人を 中原は追い駆け、連絡地下道らしきで 再度説得を試みます。

しかし螢子は 遂に自分の素性を明かし 突き放されたので、列車の発車ベルが鳴りだしても 中原は動きませんでした。
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螢子と房江は乗車します。
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ベルが鳴り終わる頃 中原は突然意を決したかの様に 階段を駆け上がりギリギリで 上りの急行しらゆき号に飛び乗ることが出来ました。
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中原が乗るのを 待っていたかの様に 螢子がデッキに居たので、
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中原は自分のことを少し明かして 呆れる房江をよそに 螢子と並んで席に座ります。
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列車は順調に進んでいましたが
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突然停車し、「温海~五十川で 土砂崩れの為停まります」と放送があります。房江が車掌に 状況を聞きに行った隙に、中原が逃亡を切り出して 非常ドアから飛び降り
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二人で駆け出して行きました。
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立ち止まった所で 抱擁を交わしますが、螢子は戻る決断をします。一方席へ戻った房江は 二人が消えたので
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車掌(日高久)に 警察への通報を要請しますが、車掌は逃走を疑い デッキから房江に確認させると 既に 二人共戻っていました。
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運転再開後の急行しらゆきは、夕暮れの日本海沿いを走ります。
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その後の駅に 45分遅れで着いたしらゆき号に、山室刑事(三國連太郎)は乗り込み 中原を探します。
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そして翌朝 終着駅まで乗って行った三人でした・・・
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PS.
  タイトルバックから 暗く寒々しい冬の 北陸本線の車窓風景が続き、松宮螢子と監視役の島本房江が乗る 急行しらゆき号にとある駅から 中原朗が乗車します。続く停車駅が糸魚川ですから、泊か黒部から中原は乗車したのでしょう。

  1枚目と16枚目の画像は 下りと上り急行しらゆき号らしきが、海に近い駅として名高い 信越本線 青海川駅を通過する様子と思われます。実在地点と進行順が合っていない点は、作品の出来栄えに免じてください!

  中原は糸魚川で 釜めしを購入しますが、当時発売していた 250円の(えび釜めし)と思われます。併結していた 急行白馬(金沢~松本)の切り離しがあり、6分停車なので 余裕で買い出しに行けた様です。

  柏崎で中山仁達が下車するまでは 実物通りだった急行しらゆき号ですが、一行が降りた羽越駅は 何故か架空駅名です。街中で国道8号線の歩道橋を渡るので、北陸本線と信越本線の沿線です。編集ミスか・・・
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の画像カットがありました。

  物語的には羽越は 直江津が該当しそうですが、何故か逆戻りした敦賀でした。キハ58系を使った 標準的なDC急行のはずが、10枚目の画像は 接続する小浜線の列車でしょうか。

  翌日の上り急行しらゆき号は不可解にも 乗車したとたん「この列車は 秋田 新潟 直江津 富山方面の しらゆき号です 次は鷹ノ巣」と放送が有ります。となると 奥羽本線 大館から、一行は乗車したのでしょうか。

  更に上記の放送では 何処行なのかを 言いませんが 中原が検札を受けた時、車掌は「終点 名古屋までですね」と言って 発券しています。
  これは岐阜県にある 女子刑務所である 笠松刑務所を 想定しているので、夜行DC急行 名古屋行として 設定している様です。上り急行しらゆきとして 富山まで来ると切り離し、0:02発車で高山本線を 急行のりくら8号に併結で走り 5:14に名古屋着と空想します。


  実車の急行しらゆき号の 一輌を貸切、様々な装いのエキストラを乗せて 延々と狭い車内ロケを行っています。 また全編に流れる 音楽担当 宮川泰の 哀愁のこもったサウンドが、本作の出来栄えを より一層引き立てていますね。

  急行しらゆき号は 本作公開7か月後に 日本海裏縦貫全線(北陸・信越・白新・羽越・奥羽)が電化された後も、10年間 DC急行の形を 頑なに保っていた 稀有な存在でした。  

  三國連太郎は 出演部分は少ないものの 刑事・裁判官・検事の三役をこなし 齋藤監督の意図に賛同し、助監督を買って出て カチンコを叩いたり 墓参シーンで粉雪を降らせたりと 全25日の撮影期間中 行動を共にして協力したそうです。  

  本作の主演配役は 二転三転して 久しぶりにフランスから帰国した 岸恵子と、ロックバンドPYG(ピッグ)の人気者 萩原健一が抜擢されました。(元々は中山仁との噂)




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379.三等重役

1952年5月 東宝 製作 公開   監督 春原正久

地方では大きな会社である 南海商事の社長桑原(河村惣吉)が 会社内外の諸問題を、腹心の浦島人事課長(森繁久彌)と共に 抜群の感覚で明るく乗り切る コメディ調の人情ドラマです。

前社長の 奈良庄右衛門(小川虎之助)が 戦後公職追放となり、総務部長だった桑原が 急きょサラリーマン社長の様に 繰り上がったのでした。
本作のメイン鉄道シーンは 東京出張に出掛ける 場面にあります。地元の南海駅へ 桑原と浦島がやって来て、
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東京には 今晩8時半の到着ですと浦島が伝えています。

桑原は「今回は 出張所へ予告せずに、出し抜けに行く」と言い、ありのままの姿を 見たいそうです。 
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そして 前方へ進むと 東京へ同行することになっていた 顔見知りの藤山(進藤英太郎)が、なんと愛人の 芸者おこま(藤間紫)を連れていたのでした。
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そこへ C58形蒸機牽引列車が 到着したので、
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一同は 二等車へ乗車します。二等寝台車の 日中状態らしく、ゆったりしているだけが 良点の様です。
端の席で 藤山はおこまと宜しく やっているところへ、浦島が食堂車から 飲み物を桑原に 運んできました。
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浦島は桑原に「車内から夫人に 電報を打って、東京へ呼びましょうか」と言うと、「お鶴を呼ぶならまだしも・・」と言って 直ぐに取り消す 桑原です。
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その後 電機に牽かれた列車が 淡々と東京へ向かうシーンに続いて
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車内では 桑原と藤山が相席し、「帰りは箱根に 寄りたいが、同行しませんか」と藤山が誘いますが 辞退する桑原でありました。
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東京駅へ到着し 一行が降車口改札を抜けた所で、
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「あなた」と 藤山に向けて 呼び掛ける声がしました。藤山が驚いて 立ち止まると、「急にあなたと旅行がしたくなって、飛行機で来たんです」と藤山の京子夫人(岡村京子)です。
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藤山はまさか 夫人が先回りしているとは驚き おこまから離れると、「えらいものが 飛ぶようになったもんだ」と呟くのでした。

更に「ところでそちらの ご婦人はどなた?」と詰め寄ると、藤山は「こちらは要するに 桑原夫人だ」とドモリ声で 逃げます。それを聞いて桑原は「要するに家内です」と、冷や汗顔で 調子を合わせざるを得ませんでした。
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翌朝 8時半の鐘が鳴る 銀座四丁目交差点の 様子に続いて、
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横須賀線の 新旧形式の電車が混ざった姿で 走る傍らにある出張所に 二人はやって来ました。
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東京出張所 視察業務が終わり、帰りも二人は 九州直通急行列車に乗った様です。
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車内で旧知の 加藤さんに 偶然乗り合わせますが、
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「ちょっとヤボ用で 来た帰りです」と語った後で 話しに花が咲いています。
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PS.
  東宝サラリーマンシリーズでは(89.ホープさん サラリーマン虎の巻)と双璧の 先駆的作品で、好評だったので 続編が数本製作されています。

  1~4枚目の画像で ロケが行われた駅は、73おやぢ様のコメントから総武本線両国駅と思われます。

  車内シーンは全て セット撮影ですが、二等車は東京~九州各地を結んだ 直通急行に連結された 寝台車のヒルネを 意識していると思われます。(テーブルは・・・)

浦島は東京到着が 晩の8時半と言ってますが、20:30到着は 当時大阪発の 4レ特別急行列車はと号でした。
近いのは 20:08着の急行阿蘇号ですが、寝台車はゼロなので対象外です。
  本作の設定に合う 二等寝台車を連結していたのは、18:55に到着する 急行きりしま号でした。

  一方飛行機の方は 日本航空の 大阪伊丹空港15:50発の便が、東京羽田空港着17:30でしたので この便を京子夫人は使ったのでしょう。
但し特急はと号は一等車を使っても4580円に対し、飛行機は6000円もしました。さすがは社長夫人ですね。

  こうして夫の行動を怪しんだ 藤山夫人は、高額の飛行機で先回りして 東京駅で待ち構えていました。
  この場面は 実際の東京駅丸の内降車改札口で 行われた様ですが、現在では到底 不可能と思われます。


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