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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

356.警視庁物語 魔の最終列車

1956年3月 東映製作公開   監督小澤茂弘

急行列車の後部に連結されている郵便車内で 強盗殺人事件が発生し、沿線で発見した遺留品から犯人逮捕に迫る 捜査陣の活躍を描いた警察もの映画です。

冒頭 明け方に東海道本線 多摩川橋梁らしきを渡る列車が映り、
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電機・三等車7輌・二等車3輌の後部に 郵便車・荷物車らしきが連結されています。          
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郵便車の車内では 郵袋をチェックしたり 仕分けした 郵便物を本局毎にまとめた束を 郵袋に詰めたりと、終着駅が近付いた様子の 作業が行われています。
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そこへ トレンチコート姿の男が静かに侵入し、3人の職員を 拳銃で続けて撃ち倒してしまいます。
男は倒れた3人を尻目に 赤行囊(あかこうのう)を開けて 札束を確認すると、再び縛って
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腕時計も確認し 郵袋室へ移動して 扉を開けると袋を投げ落としました。

やがて列車は 品川駅手前の京浜急行電鉄「八ツ山橋梁」を潜ると、
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品川駅構内を走り
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7番線へ到着しました。
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後部の郵便車も 停車する様子が映ります。
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品川で降車する人々が 意外に多く、階段方向へ進んで行きます。
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リベット打外装の郵便車から 帽子を眼深に被った男は、人目をはばかる様に出てくると
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降車客に紛れて逃走します。
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続いてドアが開いたままの郵便車を 不審に思った公安官は、車内で倒れている3人を発見し 警視庁捜査一課へ「博多発1006列車内で 強盗殺人事件発生」と通報されました。

列車は品川10分延発で 東京駅にて現場検証が行われることになり、捜査一課の面々と鑑識課員が 東京駅9番線へと向かいます。報道陣は 階段の規制線で阻止されてしまうのでした。
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東京駅でのロケとセット撮影部分を、交互に繋いでいる様にも思えます。
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当初は 一人だけ生き残った佐藤職員(岡野耕作)の 狂言かと思われましたが、当人に拳銃発射痕跡が無かったので 外部からの侵入者による 強盗殺人事件と断定されます。

奪われた京都産業銀行の 送金赤行囊被害額は 1300万円で、犯人が目立つ赤行囊を 沿線の共犯者に投げ落としたのではと捜査が始まります。

横須賀線の70系電車らしきが走行する沿線で
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真田刑事(堀雄二)は薬莢を発見し、付近には新しい大型乗用車のタイヤ痕がありました。更に第四種踏切を渡った先で
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動員された警察犬が血液の付着した封筒を発見します。
封筒には 謎の計算式が記してあり、
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宛名が日暮里の 木村雄三とありました。若手の宮川刑事(南原伸二)が計算式を見て、「横は横浜発時刻で 品は品川着の時刻から 所要時間を出し、投下地点の通過時刻を割り出した計算式だ」と推測します。

一方 宛名住所へ向かった真田刑事は、C57形蒸機牽引列車が通過する 常磐線踏切と
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立体交差する京成電鉄高架線下を 歩いて木村宅へ向かいます。
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家には母親(千石規子)がいて、本人は四・五日帰ってこないと言います。真田は任意で 家に入れてもらった割には、机の引き出しを勝手に開けて 木村が女と写した写真を入手します。

木村が勤めていたキャバレー{八番街}隣の森田商行に 遺留品現場に残されたタイヤ痕と 同じホイールベースの大型乗用車が、頻繁に乗り付けられていることを 捜査陣は掴みます。
木村が事件に関与していると踏んで 捜していた捜査陣でしたが、72系電車らしきが走り抜ける中央線の線路近くの
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雑木林で木村の遺体が発見されました。
一見所持している拳銃による自殺ですが、本人が撃っていないので 他殺と断定されました。

宮川刑事が キャバレーの客として入店し 更に奥へ潜入して探っていると、森田の子分で 元プロレスラーの柏木(萩原満)に 殴り倒され捕まってしまいます。
一方 真田刑事が森田商行へ出向き 木村の写真を見せることで 森田と柏木の指紋を取得し、京都産業銀行強盗事件で 残された指紋と一致したことで 捜査陣は森田達を逮捕に向かうのでした。





PS.
  1006列車とは 1954年9月迄 佐世保を真夜中の2:00に出発し、山陽本線から呉線を経由して 進駐軍の関係か小駅「風早」にも停車する特殊列車でした。

  ロケ当時は 急行早鞆号として 東京と博多発着となりましたが、三等車無しで 全車二等車の豪華編成のままで 呉線経由もそのままでした。ネC・ネAB・ネAB・ネC・ネC・ロ・シ・ロ・ニ・ニの10輌編成です。

  1006レ上り急行早鞆は 博多 6:00発 ― 翌5:55 横浜着 6:10発 ― 6:40東京着でした。つまり横浜で15分も停車し、発車すると 以後は特急の様に 東京まで無停車で 品川には停車しません。

特殊列車時代から上りの横浜発着時刻を含むダイヤは 一貫して変わらず運行していた1006レだけに、空想とは言え 脚本家は何故1006列車を選んだのか不思議です。

  冒頭に登場するEF56 らしき電機が牽く列車は 三等車7輌・二等車3輌・ユ・ニの編成ですが、当時の時刻表から この列車は12レ急行明星号と断定できそうですし 脚本が12列車だったらスッキリでしたが・・・。

  ですから品川駅到着シーンの列車は 編成全てが映っていないので特定できませんが、リベット打外装の郵便車と 新しい郵便車が連なっている場面は 郵便車が2輌連結された急行列車が存在しないことから 或いは荷物専用列車の一部を映したのかもしれません。

  強盗犯が品川駅で伏目がちに降車する場面と 東京駅9番線で現場検証する場面の郵便車は セット撮影の様です。

  冒頭の明星号らしきに連結されている郵便車はスユ42形らしき、取扱使用郵便車の様です。この車輛は車内で郵便物を区分し集配最寄駅で郵便・小包を積み下ろしする車輛だったそうで、車内シーンのセットもスユ42形を想定した造りとなっています。

  多額の現金を赤行囊と言う布袋に入れて郵便物として運ぶ割には、一般急行列車に連結してカギも掛からない車輛で混載して運んでいたとは驚きです。マニ34形等の日銀券輸送車とは扱いの発想が違った様ですね。

18枚目の画像から宮川刑事が赤行囊の投下地点の通過時刻を割り出す計算式と推定しますが、当時横浜~品川の所要時間は20分でしたので画像の28分は掛かり過ぎでは?と思って時刻表をよく読むと横浜~新橋の所要時間でした。(品川での停車時間を含む)
  脚本家は時刻表の門司からの距離欄で横浜は1074.0㎞・品川1096.0㎞のところを新橋1098.9㎞の数値を間違えて使った様で、更に途中の計算式も間違えています。 24.9÷28=0.889 分速889mが正解 分速933mにはなり得ない。

メモの13.5を横浜駅~投下地点までの距離13.5㎞とすると、メモの6時07分30秒ではなく6時10分12秒となります。

更に正しい横浜~品川22.0㎞・所要20分から、13.5㎞の投下地点通過時刻は6時07分16秒です。(無理やり計算式で誤差14秒としていますが、実際には投下予定地点で待ち構えた森田の 14秒後に257m先の場所へ木村は投下した?)

  日暮里駅近くで京成電鉄の高架線と立体交差する常磐線の踏切は(338.警視庁物語 夜の野獣)等でも登場するロケの名所だった様です。

  木村の遺体発見現場近くで映る72系電車の最後尾には半室二等車が連結されています。本作公開の翌年101系電車(1959年まではモハ90系)の登場期に、中央線電車の二等車は廃止されました。(2023年度末に復活予定)

(鑑賞時に感動した本作だけに、重箱の隅を楊枝でほじくり過ぎでした! 反省!)

  





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355.くたばれ愚連隊

1960年11月 日活 製作 公開  カラー作品   監督 鈴木清順

淡路 松平家の跡継ぎとして東京から呼ばれた松平定夫(和田浩治)が、松平家所有物件を買収し 観光開発を目論む極東観光社長南條(近藤宏)の悪巧みを 粉砕する活躍を描いたアクション映画です。

冒頭 松平が働くレインボーアート社の親爺 相馬大作(紀原耕)が 南条が運転する車に衝突されて亡くなり、東急電鉄らしき電車が走る高架線下では
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通過時には激しい轟音と振動の中で お通夜がとり行われています。
ところがこの席に 極東観光の事故対応係が 三万円で示談の話を持って来たので、翌日 憤慨した松平が 極東観光へ自転車に乗って 殴り込みに向かう時 背後に小型の都電が走っています。
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松平が事故の賠償金百万円を 獲得した新聞記事を読んだ松平家弁護士の 井関三四郎(高品格)は、松平が先代の 隠し子であることを確認し 淡路島の本家へ連れられて行きました。
淡路 松平家六十一代目の奥方・松平郁代(細川ちか子)は 松平を気に入り 願い出を叶えます。松平は南條の企みを察知し、先回りして 次々と手を打ち 計画の進行を阻むのでした。

遂には 郁代を拉致した南條一派は、土地の権利書と人質交換だと 白土山へ呼び出します。
南條の愛人として振舞っていた 前原由紀(東恵美子)が 松平の実母だと判明し、松平を止めますが 振り切って馬に乗って駆け付ける松平です。

郁代の危機に 権利書を渡す松平ですが、そこへ警官隊も駆けつけたので 南條は小舟に乗って逃走を図りますが 渦潮に飲み込まれてしまいました。

南條の悪事の 片棒を担いでいた由紀は、郁代が止めるのも聞かず 帰京する為駅へ向かいます。
淡路交通の福良駅らしきから 電車に乗った由紀は 思い詰めた表情の中 ドアが閉まり、
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電車は洲本へ向かって 発車して行きました。
戻った松平に郁代は、未だ間に合うから 追い駆ける様に告げます。

2両編成電車の走行シーンが映った後
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松平がジープを運転して 電車を追い駆け
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途中で追いつくと、盛んにクラクションを鳴らします。気付いた由紀は、ジープに乗った松平を確認しました。
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電車を追い越し 先回りして踏切を渡った松平は、車をバックさせて 踏切を塞ぎ停車します。
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そして迫る電車に向かって 大きく手を振ります。
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踏切に近付いた電車の運転士は 万事承知の上か、警笛も遠慮気味に 車の前で停車するのでした。
松平は 電車の二両目に走り寄ると
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何故か開いているドアから 母親の由紀を受け止め抱擁し、
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「もう離さない」と呟くや 皆が窓から見ている中 車の方へ向かって行きます。
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PS.
  島にある地方鉄道として 戦後唯一の存在だった 淡路交通が登場する映画として有名な本作は、和田浩治主演の 愚連隊シリーズ第二弾として 鈴木清順監督の元に製作されました。

  日活と淡路交通・観光協会との タイアップ映画なので 淡路島の名所各地が 位置関係を無視して次々登場しますが、当時16歳の和田浩治に ジープで公道を運転させるなど 万事大らかな製作状況です。
  淡路交通の社長宅を 淡路松平家本宅として ロケに使わせている割には、最後の追い駆けシーンしか 淡路交通の車輌が登場しないのは残念ですね。

  登場した電車の片方は 南海鉄道の電8形として 1924年梅鉢鉄工所製作された木造のモハ132で、1956年6月に淡路交通へ譲渡され翌年昭和車輛工業所で半鋼体化されたモハ1010です。
  もう一輌は 1921年川崎造船製の南海鉄道 電5形モハ120で、モハ132と同時に淡路交通へ移り 半鋼体化されたモハ1011だそうです。

  淡路交通鉄道部は 1966年9月末をもって廃止されましたが、翌年水間鉄道へ この2輌は譲渡されて モハ362・363として活躍しました。

  それにしても 母親に追い付く為に 踏切にジープを停車して 強引に電車を停めて 母親を降ろすとは、無国籍映画連発の日活ならではの脚本ですね。
  おかげで 貴重な淡路交通の電車が登場する映画が、とても印象に残る 奇想天外な作品として 後世に残ることでしょう。


参考資料 : 鉄道ファン № 126

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