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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

341婚約指環(エンゲージ・リング)

1950年7月 松竹 製作 公開   監督 木下恵介

伊豆の別荘で療養する夫 九鬼道雄(宇野重吉)の元へ 週末毎に通う妻 典子(田中絹代)と、往診の為 熱海の病院から通う 医師 江間猛(三船敏郎)の淡い恋愛を描いた映画です。

冒頭 東海道本線熱海駅前では、各旅館の旗を持った 客引き番頭達が 下車客を待ち構えています。
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駅前からの伊東方面への 路線バスに遅れて飛び乗った江間は、車内でひと際大きい指輪をつけた 上品な婦人が気になります。

同じ網代の停留所で降りた二人が 80系初期型の電車が通過して行く 進駐軍向けの標識がある 伊東線の踏切で再び会うと、
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江間が 新任の訪問医師であることが分かり 典子が案内します。

その後 典子が采配する 銀座の宝飾店から 急用の連絡があり、帰る江間と 網代駅ホームで再び会います。地下の通路から階段を上がると、江間がホームにいます。
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この電車は熱海までの 区間列車の様で、二人は並んで座り 会話が弾みます。
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熱海駅では10分程の乗り継ぎで 東京行に乗る典子は、ここで下車する 江間と別れます。

後日 江間が熱海駅のホームで 伊東行の列車を待っていると、到着した列車に乗っていた 典子が気付き 網代駅まで 二等車に同乗することになりました。
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続いて 海沿いを走る区間で、鉄橋を渡る 80系電車の走行シーンが入ります。
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それから季節が進み  トンネルを出る 32系電車らしきの姿が映った後、
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東京へ戻る典子と共に 往診帰りの江間が並んで 三等車に座っています。
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来宮駅で途中下車した二人は(梅園)で お互いの思いを確認しますが、典子は夫の元に 婚約指輪をし忘れて来たことが 気になるのでした。

典子が不在の日に 往診に行った江間は 熱海行電車の中で、銀座の典子の店に行くことを思いつき 車掌に切符を見せて 東京までの乗り越しを願い出ます。
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続いて EF53形電機らしきに牽かれた 列車の走行シーンに続きます。
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典子に会うと「往診を辞めようと思う 今度来たら熱海の水口園へ来ませんか」と誘います。

次の土曜日 網代駅で待ち構えた江間は、典子に「先日の発言は取り消す」と海辺で話します。しかし これを見た近所の女から 九鬼の耳に入り、九鬼は自殺未遂を起こします。
冷静になった九鬼は典子に、「今晩にでも江間の所へ行って 謝って来てくれ」と頼みます。

着物姿で 熱海の病院受付へ行くと 手紙を渡され、「水口園で待ってます」と記してあります。しかし 駅へ戻った典子は、19:22伊東行の 改札案内放送を聞くと
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網代への切符を購入します。
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されど 改札口で思い直した典子は タクシーで水口園へ行きますが、近寄った江間が 婚約指輪に気付いた事から 冷静になり 典子を網代の家に タクシーで送り届ける 江間なのでした。

後日 高原での転地療養を 提案した江間に同意した 九鬼夫妻は、網代から 80系初期型の 東京行直通列車に乗って 熱海駅へ到着します。
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ホームでは江間が、見送りに来ています。
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九鬼夫妻と江間は 別れの挨拶を交わし、
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列車は4番線から 爽やかに去り行くのでした。
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PS.
  伊東線が舞台の本作で、公開4か月前にデビューした 80系電車は当時の最新型です。当時は旧型の32系・40系・42系等も走っていた様です。

  当時の二等車(現:グリーン車)は、普通列車なのでか 白い枕カバーが未だありませんね。

  10枚目の画像の列車は、作中では熱海 14:29発の東京行です。この列車は米原 5:20始発の 332レ東京行の様で、熱海1分停車で 終着は 16:50です。

  作中には無いシーンですが 12枚目の画像の後画像に相当する 松竹のスチール写真が、占領下当時の 熱海駅を鮮やかに表しています。
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  19:22発の列車に乗らず 水口園へタクシーで行った典子ですが、最寄り駅 来宮22:15発 伊東行終列車に乗せず タクシーで送ったのは江間の優しさでしょうか。

  14枚目の画像で 屋根の無いホーム前方で 待ち受ける江間ですが、16枚目の画像では 駅弁の立売もいるホーム中央部です? 
  九鬼夫妻は 二等車に乗ったであろうから 編成の中央部なので、16枚目の画像の位置が 本来の姿と思われます。


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340.森と湖のまつり

1958年11月 東映 製作 公開  カラー作品   監督 内田吐夢

アイヌ人としての誇りを守ろうと奮闘する 風森一太郎(高倉健)と、東京から来た画家 佐伯雪子(香川京子)の出会いを軸に アイヌ差別問題を絡めた社会派映画です。

序盤 北海道でアイヌ民族を 大学教授の池(北沢彪)に案内された雪子は 釧網本線の列車内で、かつて池が面倒を見た アイヌ人風森に 池が再会を熱望している話を聞いていた。
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その車内で 旧知の池を見かけた 山城屋(佐々木秀丸)が
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同席し 雪子のことを聞くと、雪子に描いてもらいたいものがあるので 塘路で途中下車して寄ってほしいと誘います。
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塘路駅の改札口では 山城の娘茂子(中原ひとみ)が 父親の帰りを待っていると、遥か彼方から 汽笛の音と共に煙が見えて来ます。
そこへ炭を山積みした オート三輪で立ち寄った小川(立花良文)が、「旦那はこの汽車ですか」と聞くと 茂子は嬉しそうに頷きます。
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やがて 8620形蒸機 18652号機に牽かれた、釧路行普通列車が到着します。
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前から2輌目の客車デッキから 山城に続いて降りて来た雪子は、
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池教授の元へ移動します。
山城に雪子のことを託した池は、
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「一太郎の消息が分かったら知らせてほしい」と雪子に伝え 札幌へと向かいます。
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改札口を出た山城は 出迎えた茂子に雪子を紹介すると、「願い事と言うのは、貴女に娘の絵を 描いて欲しいのです」と言い出しました。
一行が駅前広場へ出ると 旅館川口館主(花沢徳衛)が走り寄り、
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「皆さんがお待ちですよ」と言うので 茂子が山城家へ 雪子を案内します。

その後 雪子は絵画の参考にと 誘われた病院で知り合った 風森ミツ(藤里まゆみ)が 一太郎の姉だと分かり、釧路で 千木鶴子(有馬稲子)がやってる バー(カバフト軒)に 一太郎がよく来ると聞きます。

翌夜 カバフト軒へ雪子が行くと、風森がアイヌ基金として アイヌ系企業から 半強制集金することに反対する者の 元締め大岩則之(薄田研二)の 息子猛(三國連太郎)達が来て 雪子を止別(やんべつ)の海に誘います。

彼等が帰った後 店の奥から風森が現れ、「明日 大岩の所に手紙を届けてほしい」と雪子に頼みます。それを聞いた鶴子が「その役は ダイスで賭けて決めよう」と競いますが、勝ったのは雪子でした。
翌朝6時 風森が指定した釧路駅で雪子が待っていると、
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達夫少年(清水了太)が現れ 風森から託された 大岩への手紙を渡します。背後では、網走行列車の改札が始まっています。
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続いて その列車内では 雪子と達夫が向かい合って座り、達夫は駄菓子を食べながら
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「手紙は封をしていないから読んでもいいって 弟子屈の爺ちゃんに見せて 止別に持って行って」と達夫は 風森の伝言を伝えます。
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弟子屈の花守翁(宇佐美淳也)に手紙を見せると、不本意だが 仕方あるまいと 雪子に大岩への手紙を託します。

それから 大岩が期限の時刻までに 返答を出さないので 風森が大岩に襲いかかり、雪子が 銃で返り討ちを目論んだ 大岩猛の邪魔をしたことから 風森と共に逃走し 二人は深い仲となりました。

そして ベカンベ祭りの日に 風森と猛は銃で決闘することとなり 風森は顔の右半分に散弾を浴びながらも 猛を組み伏せ、駆け付けた池と雪子に アイヌ基金の隠し場所メモを託し 消え去るのでした。






PS.
  客車内シーンは全て セット撮影と思われますが、釧網本線塘路駅手前の 右カーブから進入して来る 8620形蒸機牽引列車が 良好な日照条件で映されていますね。

  この列車は 作中では13:56頃到着のですが、当時の時刻表では 該当する列車は12:20発の523レ釧路行しかありません。当時は一日に上下各5本しか、設定されていませんでした。

  塘路駅舎は 1953年に改築されて 5年半後の姿ですが、厳しい気象条件の為か 更なる年期を感じさせていますね。


  大岩猛一行は カバフト軒に 酔って現れ、止別へ帰る汽車の時間が近いと 退去します。しかし現実には、釧路から止別(やむべつ)は遠いのです。{地名はやんべつ 駅名はやむべつ}

  途中の弟子屈迄なら釧路19:58発の 最終列車で行けますが、止別となると 釧路14:35発の538レが最終です。次の16:55発540レ斜里行で21:27に着いて、一駅 11.5㎞を網元のトラックに 迎えに来てもらったのか?

  9枚目の画像は 釧路駅改札口前の待合所ですが 風森は6時の待ち合わせに現れず、釧網本線の始発 6:35の532レ網走行の改札開始後に 達夫が手紙を持って現れています。

  その後は 532レが8:41に弟子屈(現摩周)に到着し 花守翁宅に寄った雪子は、次の弟子屈 12:43発534レに乗っても止別には 15:06なので 作中の様に風森に17:00の期限を 設定されても苦しい状況ですね。



  千木鶴子(有馬稲子)がやってる バー(カバフト軒)は釧路の場末にある設定の様ですが、店内でカラスを飼っているとは如何なる趣味なんでしょう?(五社協定の中 折角 有馬稲子を呼んだ割には出番が短い!)



  


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