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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

332.美わしき歳月

1955年5月 松竹 製作 公開    監督 小林正樹

中学校の同級生三人が 戦後の生き方に悩みながらも、お互いに友情で繋がる姿と 各々の恋愛を描いた 松竹らしい青春映画です。

職探し中の医師今西(木村功)・キャバレーのドラマー 仲尾(佐田啓二)・工員の袴田(織本順吉)は中学校の同級生で、昔はお互い友情に厚い仲だった。
戦死した同級生 時岡の妹 桜子(久我美子)の墓参りに 四ツ谷駅西口らしきで 待ち合わせる場面があり、墓地での仲尾の不真面目な態度に 袴田は怒って殴りつけてしまいます。

中盤 そんな仲尾ですが 未亡人となった由美子(小林トシ子)の境遇に 親切に接するので、跨線橋の上に呼び出した由美子から 母親の療養所入所相談を受けています。
何本も線路が続く跨線橋上で待つ仲尾の下を 72系国電らしきが通り、
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由美子と話す場面では 蒸機牽引列車が駅横の通過線を 走り抜けて行きます。
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仲尾から 由美子の母親の件を頼まれた今西は、上野駅から鶯谷駅方面に 線路沿いの道を由美子と歩きながら 療養所の件と二人の仲を話しています。
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この道路からは 常磐線からの列車を牽いて来た C62形蒸機が上野駅へ入る姿や、72系らしき国電が頻繁に行き交う様子が見えています。
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その後 傷害事件を起こした袴田を 保釈する為 仲尾は奔走して金を集め、就職の為に秋田へ引越すので 桜子と別れようとする今西を諫め 仲を取り持つのでした。
終盤 秋田へ向かう今西を見送る為、上野駅には妹の紀久子(野添ひとみ)母親(沢村貞子)が来て話しています。

そこへ 保釈された袴田が駆け付けたのに 紀久子が気付き、
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今西は袴田に「お前が出られたのは 仲尾のお陰なんだ」と明かします。
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短めの汽笛が鳴ると 列車は動き出し、
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別れの言葉を交わす中 青森行の汽車はホームを離れて行きます。
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窓から手を振るのを止めた今西が 前を向いて座り直すと、視線の先に桜子の姿が映り 微笑を浮かべています。
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今西も微笑みを返すと、桜子は荷物を持って移動して来ます。「おばあさんが一緒に行ってこいって言うの」と今西に告げるのでした。

続いて 上野駅高架ホームを出発した 蒸機牽引列車が、両大師橋へ向かって速度を上げて来ました。
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橋の上からは 仲尾に由美子と娘が、秋田へ向かう今西が乗った汽車を 仲良く見送る姿でエンドマークとなります。
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PS.
 由美子が仲尾を呼び出して 待ち合わせる跨線橋ですが、配線状況から 上野駅近くの両大師橋でも 日暮里駅手前の跨線人道橋でもない様です。
思い当たるのが 東十条駅北側の跨線人道橋で、上野へ向かう汽車の 左側に東十条駅と下十条電車区が 広がっているのでは?と思われます。

 今西と由美子が歩いた 上野駅近くの線路沿い道路は「306.女中ッ子」でも登場した所で、今なら垂涎の的の様な撮影地ですね。

 今西が秋田へ向かう為 上野駅から旅立つ場面の撮影は、5番線の背後に 留置されている客車が映っている点や ホーム天井の駅名板等に違和感があります。
 また 当時大人気の 久我美子・木村功が出演するロケを、実際に上野駅で行ったら?と考えると大混乱必至です。

 想像ですが ホームの封鎖貸切が可能な 両国駅5番線に列車を仕立ててもらい、青森行のサボを架けて 大勢のエキストラを動員しての 撮影だったと推察します。(その後 各社が見送りシーンに使う場所の 先鞭をつけた様に思います)

 アフレコと思われる放送では「10:30発奥羽線周り青森行」と聞こえますが、当時 該当する列車は 上野 10:20発の111レ普通 青森行があります。
 しかしこの列車は、全線東北本線を走る列車です。(到着は翌日8:29)

 当日秋田着なら 9:00発101レ急行青葉 秋田行(福島まで青森行と併結)に乗り 21:53到着で、この列車を使うのが最速です。(福島~秋田は427レ普通列車ですが 新庄までは急行同等の快速運転)

普通列車で行くなら 5:40発の 125レ沼宮内行が 13:29に福島着で、ここで上記と同じ14:17発427レに乗り換えると 終着秋田21:53に着き これが唯一の当日着です。
 一般には 20:35発411レ青森行(奥羽本線周り)を使い、秋田には翌日 12:34の到着の列車に乗るのが多数派でした。


 本作は観客が期待している結末に向かい、安心して観ていられる松竹らしい女性向け作品と言えるでしょう。


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331.裸の十九才

1970年10月 東宝配給 公開  近代映画協会 製作  監督 新藤兼人

極貧家庭の 7子三男に育った 山田道夫(原田大二郎)の 幼少期から 拳銃を手に入れ 連続殺人事件を起こす迄と、母タケ(乙羽信子)の 極めて不幸な 生涯を描いた セミドキュメンタリー映画です。

冒頭 米軍住宅へ空巣に入り、拳銃と実弾一箱を手に入れる山田です。そこから中学時代のマラソン大会優勝シーンに続けて、岩木山をバックに8620形蒸機牽引列車が映ります。
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車内は 集団就職時の回想場面らしく
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教師の引率で上野駅に着くと、中央改札口前の広場で(歓迎東京都)の横断幕や
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(早瀬フルーツ)の幟を持った一団が 出迎えてくれています。
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最初に勤めた所を辞めると、外国船で密航を図るが捕まり 長兄に世話になる。その後 次兄宅で 名古屋の勤め先へ行く母親と姪に会い、大阪の会社へ行くと言った山田は 一緒に新幹線に乗ります。
東海道新幹線で 名古屋駅に到着すると、母と姪は
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急いで山田の席の所へ行って 見送ります。
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しかし米屋・クリーニング屋・電器店と長続きせず、自衛隊員に応募するも 不合格となりました。

再度上京し 都心のホテルでフラついたところを 警備員に捕まり、思わず手持ちの拳銃で 射殺してしまいました。続いて連続拳銃射殺少年逮捕の、新聞記事が映る時点まで話は飛びます。
五能線の細柳駅に 気動車が到着すると、
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待ち構えた大勢のマスコミが 降りて来た母親のタケに 話を聞こうと殺到します。
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二人の警官がタケをガードして 出口へ向かいますが、跨線橋を渡ると 線路に飛び降りて先回りしようとする一団まで現れて
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改札口でへたり込んでしまうタケでした。
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そこから極めて不幸な タケの生涯が映ります。不幸な生い立ちから リンゴ剪定職人の山田半次郎(草野大悟)と 結婚したタケですが、1945年9月に 網走駅へ復員帰還すると
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早速警察沙汰を起こす半次郎でした。
その後も博打に明け暮れ、7人の子供を残して 行方不明となる半次郎。オマケに 定時制高校に通う長兄が、同級生に産ませた 赤ちゃんを残して 駆け落ちしたのでその子を引き取る始末です。

そしていよいよ残金も少なくなったタケは 青森へ帰れば金になる働きが出来ると、「二人分の汽車賃しかないので オラと絹江で小さい二人を連れて行き 働いて 呼びに戻って来る」と提案します。
雪が舞い散る 網走から旅立つ日、タケと絹江は 共に幼児をおんぶして 汽車に乗ります。
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汽笛が鳴り響き 列車が動き出すと、幼い道夫は
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「母ちゃんオラも連れていってくれよ」と叫びながら 追い駆けるのでした。
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続いて新幹線で逃避行する時点に飛び、331-21.jpg
山田はデッキへ移動して ポケットにある拳銃を確認しています。そして京都で降りて 八坂神社へ向かった山田は、行動を咎められた警備員を 又しても射殺してしまいます。

次に 山田が二年遅れて中学三年生となった時点に戻り、青森の家に 10年ぶりに現れた父を 山田は家に入れませんでした。その後 岐阜から電報が来て母と岐阜駅へ向かうと、
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父 半次郎の遺骨を持ち帰る旅となりました。

終盤 集団就職に旅立つ場面に戻り 遅れて漸く駅に着いたタケは ホームを走って、
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動き出している汽車の 窓から顔を出している山田と 必死になって別れの言葉を交わすのでした。
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続いて 逃避行の旅で上野駅に現れた山田は、331-26.jpg
14・15番線ホームで
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早瀬フルーツ時代の同期 柳田に偶然再会します。彼も早瀬フルーツを辞めた後、転々と職を変えたけど ダメで秋田に帰るそうです。
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「今は大阪の会社員で、北海道出張の途中だ」と嘘をついた山田は、遠回りながら 柳田と同じ奥羽線周りの列車で青森へ向かいます。
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そして青函連絡船から 函館本線に乗り継ぎ網走へ着くと、
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懐かしいが 廃墟になったの生家に辿り着きます。この地で 自殺するつもりだった山田は 考えを変えますが、その時 釧網本線らしきを走るC58形らしき蒸機が映ります。
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それから 網走発函館行の 鈍行列車に乗って函館に着くと、
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第三の犯行を犯して 青森の実家へ行きます。ここで僅かばかり滞在して 細柳駅へ行くと、丁度到着した 反対方向の気動車から 中学時代憧れていた林咲江(鳥居恵子)が降りてきました。
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嘘だらけの近況を話すと、到着した気動車に乗ります。
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そして名古屋へ行くと
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姪のひろこが働いている様子を覗いただけで、第四の犯行に及び 何故かここで 貨物列車を牽く蒸機のカットが入ります。
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その後 名古屋駅で立ちんぼをしている 友子(太地 喜和子)と知り合い、
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新宿へ一緒に行って 束の間同棲します。
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その後盗みに入った会社で警備員に見つかり、第五の犯行に至るのでした。







PS.
 岩木山をバックに 8620形蒸機が走るカットから 五能線が思い浮かびますが、作中で仮名の細柳も 板柳駅でロケが行われたと思われます。(それにしても加害者の母親に取材する 報道陣の凄まじいこと!)

 ロケ当時 五能線では 旅客無煙化が進み、僅かしか蒸機牽引列車はありませんでした。集団就職に出発する場面の 行程を想像すると、板柳 17:20発 ―(1739レ)― 17:40川部 17:52―(637レ)― 18:55 青森 21:30―(208レ急行十和田6号)― 9:51 上野

 初めて新幹線に乗った場面で(ひかり47号)と放送しているので、東京 13:40発―15:40 名古屋 15:42―16:50 新大阪(当時は大阪万博開催時で16輛化されています)

 食い詰めたタケが網走から青森へ向かう場面は、五能線の川部駅でロケが行われています。(安直な気がしますが、悲壮感漂う別れのシーンは一級品ですね。)

 逃避行中に 上野駅ホームで 早瀬フルーツ当時の 同期柳田に会いますが、14番線なので 当初山田は 19:00発の(101レ急行八甲田2号)―6:15 青森着で行くつもりだったと思われます。

 しかし秋田へ向かう柳田と 同行しようと 19:35発奥羽本線周りの(401レ急行津軽1号)に乗ったので、終着青森には 10:01と4時間近く遅くなりました。(津軽1号は 17番線発だったのですが)
 津軽1号は北海道連絡を 想定していないので待たされ、青函連絡船は 12:15発の 21便―16:05 函館 16:25―(21D特急北斗2号)―20:46 札幌 22:05―(517レ急行大雪6号)―7:58 網走(作中の様子に合います)

 生まれ故郷の地で 自殺しようと来た網走でしたが、思い直して「函館行の鈍行に乗った」と語ります。 これを探すと網走 20:40―(普通1528レ 途中の北見~札幌は518レ急行大雪6号・札幌~函館は普通124レ)―16:35 函館

  最後に実家へ寄った後 細柳駅ホームで、憧れの林咲江に 偶然会います。混雑を避けて 夏休み中の早朝に撮影したと考えると、板柳 6:07着の 724D東能代行から林咲江は降りて山田が乗り込んだ キハ22形気動車は 6:08着発の 1721レ弘前行と思われます。




当ブログでは 貧困映画を数々取り上げてきましたが、本作は 一二を競う貧困度ではないでしょうか。永山則夫事件を題材にしていて 貧困が事件の原因だとは短絡しませんが、父 山田半次郎が負うべき責任は重いでしょう。


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