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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

322.浮雲

1955年1月 東宝 製作 公開   監督 成瀬己喜男

戦争に翻弄された男女が 共に転落してゆく姿と、腐れ縁ながら 互いに依存する様子を 淡々と描いた恋愛映画です。

戦時中 富岡兼吾(森雅之)は 農林省技官として働いていた仏印で、タイピストとして赴任してきた 幸田ゆき子(高峰秀子)と恋仲となり、帰国したら妻と別れて 結婚する約束をします。
ところが敗戦で帰国すると 母親と共に待っていた妻への愛情が再燃し、遅れて帰国した ゆき子が訪ねても つれない返事で喧嘩別れします。

孤立無援でバラックに暮らすゆき子に、ある日富岡から呼び出しがあります。待ち合わせの 中央本線千駄ヶ谷駅前に 先に着いた富岡の背後で、72系らしき国鉄下り電車が出発して行きます。
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失業中の富岡は、くたびれた靴と鞄の出で立ちで 昔の輝きは有りません。ゆき子が来ると「あんな別れ方をしたからね」などと言って歩くや、
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「どこか遠くへ行こうか」と呟き 伊香保温泉へ向かいます。


その後 またも喧嘩別れした後 妊娠が判明したゆき子は、話を付けようと富岡の家を訪ねると 既に家を引き払っていました。住んでいる人に転居先を聞いて、とある駅近くの アパートを目指します。
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ところがそこは 富岡が伊香保温泉で手を出した飲み屋の女将 おせい(岡田茉莉子)が、後を追って家出し 東京で住んでいる アパートでした。そこへ富岡が転がり込んで、住み付いていたのでした。

帰って来た富岡と喫茶店で話した帰り道 西武鉄道池袋線と山手線が交差する付近を 二人が歩く場面があります。西武鉄道351系4連電車が 夕暮れの中通過して行きます。
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富岡との関係を諦めたゆき子が「奥さんは胸が悪いの」と聞く時には、背後を311系電車らしきが通ります。
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それから おせいは追いかけて来た夫の 向井清吉(加東大介)に殺害されますが、富岡は行きつけの 中華屋の女にまで手を出す始末でした。

その後 新興宗教の 教祖となって羽振りの良い 姉の夫の弟 伊庭杉夫(山形勲)の金庫番となったゆき子は、病死した妻の葬式代を 借りに来た富岡に二万円を都合付けてあげます。
ある日ゆき子は 五十万円を持ち出し、温泉旅館に富岡を呼び出しました。そして屋久島で 農林省の仕事が決まった富岡に、連れて行ってと 懇願するのでした。

そして追いかける伊庭の手が 富岡のアパートまで迫ったので、富岡とゆき子は 急遽予定を繰り上げて 夜行列車で出掛けました。車内では漸く夢が実現して、幸せそうなゆき子です。
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続いて翌朝の姿でしょうか、牽引機が電機から 大型蒸機の替わっています。
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3輌目と4輌目の間の デッキでは、大人だけでなく子供も半分しゃがんで 沿線を眺めていますね。
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長い道中なので 寝ている富岡の隣で、ゆき子が蜜柑らしきを 食べてるシーンもあります。
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PS.
  歴代日本映画の名作投票をすると、必ずベスト5に入る名作映画です。女癖が悪い富岡に 粘り強い愛情を示すゆき子は、度々別れては よりを戻す 相互依存関係の二人ですね。

  最初の画像は 空襲で焼失した駅舎をバラック建てで仮復旧した 千駄ヶ谷駅舎が映っています。本作公開の翌年には、3代目の駅舎に建て替えられています。

  ゆき子が富岡の 転居先を探す場面で 立体交差する陸橋は 東京台東区言問通りの寛永寺橋と考えていましたが、グズグズ様からコメントが寄せられ 山手線の渋谷~恵比寿にある猿楽橋だそうです。映っている蒸機は、入替作業中の品川区の2120形と思われます。

  夕暮れの 山手線池袋~目白で 西武鉄道351系が交差する場面は、2012年1月30日発売の雑誌『アエラ』でも取り上げられていますね。(※1946年末頃の時代設定なのに、1954年製の351系は有り得ない)

  追いすがる伊庭から逃げる様に遠路はるばる屋久島へ向かう二人ですが、いつもの様に鹿児島までの旅程を妄想してみます。
  1948年に屋久島へ赴任したとすると 東京 19:00 ―(5レ急行門司行)― 20:10 門司 20:30 ―(101レ普通鹿児島行)― 8:54 鹿児島【二晩夜行で所要37時間54分】

  それが撮影当時の1954年10月ですと、東京 21:00 ―(39レ急行筑紫号)― 5:48 鹿児島【二晩夜行で所要32時間48分】乗り換えなしの全て急行運転の直通列車なので5時間程短くなっています。

  余談ですが車内シーンは全てセット撮影で、仏印は勿論のこと、屋久島でのロケも無いそうです。

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321.かぶりつき人生

1968年4月 日活 製作 公開   監督 神代辰巳

離れて暮らしていた 母親に騙された 木村洋子(殿岡ハツエ)は 母親と同じストリッパーとなるが、次々現れる男に 騙され愛想をつかす 男遍歴版 青春映画映画です。

冒頭 旅館をやっている男と結婚が決まったと 母親 笑子(丹羽志津)から聞かされて 名古屋から駆け付けた洋子が、到着した汽車から降りて 笑子の出迎えを受ける場面からこの映画は始まります。
C58形らしき蒸機に牽かれた列車が 終点敦賀駅へ到着すると、
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洋子がスーツケースを持って 笑子の前に現れ 改札口へと向かいます。
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旅館をやっていると聞かされていた 夫の勝チン(玉村駿太郎)は、巡業ストリッパーである 笑子の先乗り役マネージャーで 家も前の女の持ち家で資産ゼロのヒモでした。
美浜海岸の射的屋を 洋子に任せ母笑子が着いたのは、勝チンが出迎える 北陸本線 余呉駅でした。
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停車時間は僅かで 旧型客車を牽引する ED70形電機 17号機は、短笛を鳴らすと二人を抜いて走り行きました。
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その後 洋子は大阪でストリッパーとなると 演出家や振付師・ライターの目に留まり、夫々に関係を持って 仕事も変わって中央へ出ていきます。
一方 蒸機牽引列車同士が 交換する駅で、
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勝チンが降りてきました。
ホーム中央に 小さな待合室が有り、駅名板から 小浜線で敦賀から二つ目の粟野駅でした。
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勝チンが向かったのは 場末の芝居小屋で、開始を待つ客は一人だけでした。そして笑子は年齢から、普通の仕事を断られる様になってしまいます。

ピンク映画出演後に 三流週刊誌に洋子の初恋記事が載り、それを読んだ名古屋時代の チンピラ(市村博)が自分のことかと尋ねて来ました。

ところが洋子に 冷たくあしらわれると 洋子を刺し、更にナイフを振り回して 女児を人質にして逃げ様とします。

しかし失敗して女児が逃げ出した時、脇の線路上を内燃機に牽かれた貨物列車が通っています。
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PS.
    今の若い人が 本作のタイトルを見たら、運転席の後ろから 前方の線路を 凝視する テッちゃんの話かと思うでしょうか
  
  苦節の末に与えられた 神代辰巳監督の初作品ですが、日活映画衰退末期なので 低予算・表俳優ゼロ・この時代にモノクロ・併映作品も同様作では 興行成績最低も当然でした。

  それでも若狭地方まで行って ロケしたのですね。余呉駅・粟野駅は 共に人口の少ない田舎で、ストリップ劇場など 存在し得ない場所なのも苦情対処の為でしょうか。

  冒頭の場面は 駅名板等が映らない様に撮影していますが、現場の音声を絞って会話をアフレコで入れても バックから「終着 敦賀です」と聞こえています。

  名古屋から敦賀へ行くのに小浜線を使う?ですが いつもの様に妄想すると、名古屋 3:27―(1804D急行第2ちくま)→5:59 京都 6:41―921レ→12:15 敦賀

  京都から山陰本線・小浜線経由で敦賀へ向かうルートですと、この様に夜中に急行を使わないと 昼頃の敦賀に旧客列車で着けません。(それでも921レは希少な直通列車です)

  小浜線粟野駅で 蒸機牽引列車同士が 交換するシーンがありますが、当時の小浜線では4本しかない 蒸機牽引列車の内唯一の場面でした。

  どう見ても 蒸機牽引列車を 監督は意識した撮影なのに、C58形蒸機を映さず 汽笛音を流すのは 気を持たせるだけの様で胃が痛みますね。

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