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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

292.暁の追跡

1950年10月 田中プロ・新東宝 製作  新東宝 配給 公開   監督 市川崑

真夏の東京 新橋駅前交番の巡査 石川道夫(池部良)を中心に、警察官の日常と心中を当時の国家地方警察・警視庁協力でセミドキュメントタッチに描いた青春映画です。

冒頭 東京~神田を走る山手線か京浜線の電車が映ります。
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最後部が半車白帯の進駐軍専用車で、右端に永代通りの日本橋方向が映っています。
真夏の炎天下に警邏する石川が、新橋駅烏森口前道路を歩いています。
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交番に戻ると恋人の友子(杉葉子)が出前帰りに寄り、帰る時に頭上を横須賀線らしき電車が通っています。
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同僚 田部巡査(柳谷寛)の夜間勤務を代わってあげた明け方、山口巡査(水島道太郎)が麻薬売人の舟木隆次(長浜藤夫)を検挙してきました。ところが石川の隙を見て、逃げ出してしまいます。
夜明け頃の新橋駅前を、石川は舟木を追い駆けて行きます。
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舟木は外堀通りを渡ると工事用の足場から高架線上り、一番外側の線路上で 京浜線大宮行電車に轢かれてしまいます。
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自分の追跡から舟木を死なせて お悔みに行けば 妹 雪江(野上千鶴子)から罵られ、スト活動中の組合員とスト破りの暴力団との衝突の仲裁に動員されたりと 石川は警察官の仕事に疑問を感じて転職先を探します。
証券会社の友人から断わられた帰りに 神田~御茶ノ水を走る
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満員の中央本線車内で、偶然雪江に再会しますが問い掛けに何も答えません。
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三鷹行の63系電車がホームへ入線し、
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到着した神田駅で降りても雪江は見当たりません。
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続いて訪れた有楽町駅近くの屋上でも 戦友から断られた石川は、そこから横須賀線越しにビル内での傷害事件を目撃します。
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直ぐに現場へ急行して通報し、ここから暁の麻薬密輸団摘発へと繋がるのでした。
その捜査の途上で新橋付近の高架下から雪江の遺体が発見され、現場へ向かう人見捜査主任(菅井一郎)達が歩く上の 高架線を電機牽引客レが走行しています。
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雪江の所持品から石川宛の手紙が出てきたので、石川が捜査本部へ呼ばれて渡されます。手紙は 石川への謝罪文と 一味の悪事を伝え、兄と同じ売人となってしまい行く末の不安感を綴っています。
雨の中を石川が警邏するバックで、石川への手紙を雪江が読む形で以上の内容を伝えています。その途中 新橋駅北方向の外堀通りを歩く石川の上を、半車白帯の山手線か京浜線電車が走っています。
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その後 友子に警察官を辞めたいことを伝えていたので、化粧品セールスの仕事口を話に友子が交番へ来ます。
曖昧な返事をする石川に怒った友子が帰る時、高架線上を先頭 63系の後ろに32系・42系の混ぜこぜ 7輌編成の横須賀線らしき電車が通っています。
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PS.
 戦後5年目 真夏の東京新橋を舞台に大部分を街頭ロケで行い、真夏の暑さを感じる ドキュメンタリー的印象を 強く感じる作品となっています。
 舟木が高架線上に逃走する場面では、未だ電車が遠い内にレールに倒れ込み 前途を悲観しての自殺の様にも見えます。
当時 この区間は、未だ山手線と京浜線が同一線路を使っていました。

 横須賀線は戦中 32系で運行されていましたが 終戦後の乗客急増や車輌疲弊等から 40系・50系・63系を加え、更に1950年5月に関西から42系を大量に移籍させてブドウ色のまま走らせてもいました。
 横須賀線に新型エースの顔となる70系電車が走るのは本作公開の翌年なので、当時はこれら旧型車での混ぜこぜ編成で毎日を凌いでいた状況の様です。(その後も中間付随車は旧型のままでした)

 転職先を探す途中の車内で偶然雪江に会った時に車内は凄く混んでいて、ポイント通過時の揺れで左右に大きく乗客が振られます。その最中に雪江に話しかけているので、セットか借りた車内でエキストラを入れて撮影が行われたと思われます。
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 石川は東京駅から中央本線の三鷹行に乗って神田駅で降りたと思いきや、作中では「神田~神田~中央線・地下鉄線乗り換え」と山手線か京浜線に乗車して着いたと思われる放送が流れています。

 

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291.旅路

1953年7月 松竹 製作 公開   監督 中村登

生い立ちに引け目を負う岡本妙子 (岸惠子) と 奔放な人生を好む津川良助(佐田啓二) が恋仲となりますが、二人の生き方の違いに悩む 妙子の心中を描く青春映画です。

冒頭 横須賀線の 70系電車が鎌倉駅へ到着するシーンがあり、
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妙子が当地に住む叔父の岡本素六(笠智衆)の家を訪ねます。
序盤 付き合い出した津川と新橋駅前で待ち合わせた妙子は、叔父の家で前に会った阿多捨吉(若原雅夫)に会ってしまい 思わず逃げる様にかわします。

新橋駅ホームへの階段を駆け上がった阿多が 発車寸前の横須賀線に乗り込むと、1番線から 70系電車らしきが出発して行きます。
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その電車を妙子は物陰から見ています。
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妙子に好意を持つ阿多は席に座ると、妙子の事を考えている様です。(この場面はセット撮影と思われます)
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中盤 津川と深い仲になった妙子ですが 津川の生き方に疑問を感じて、叔父の家で居合わせた阿多に相談します。その二人の背後を横須賀線 70系電車が通り過ぎて行きます。
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続いて津川の仕事相手の岩本カオル(月丘夢路)が滞在する京都の都ホテル前を、京阪電気鉄道京津線の大正生まれ 20型らしき小型ポール電車が通って行くシーンがあります。
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終盤 津川が使い込みした 20万円を岡本に借りに来た妙子が 別件で置いてあった 30万円を持ち逃げし、自分が紛失したと被るつもりの阿多が 鎌倉駅で岡本を待ち構える場面があります。
鎌倉駅へ クハ76形を先頭とした 70系電車と中間に42系電車を挟んだ編成が到着し、
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駅舎から岡本が現れ 神妙な顔つきの阿多が出迎えるのでした。
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阿多が虚偽報告を岡本に告白した後 妙子が駆けつけ 岡本に持ち逃げを告白し、「二三日後には全ての事情を説明します」と告げて 信州にある津川の実家へ夜行列車で向かいます。
そして津川の実家近くの妙子は二人の生き方の違いが大きく、「別れましょう」とキッパリ津川に告げます。山間の小さな駅へ戻ると、右手から黒煙を噴き上げながら C56形蒸機牽引の混合列車が到着します。
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妙子が最後部のデッキに乗ると
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汽笛が鳴り、見送る津川が差し出す握手に応えながら汽車は動き出します。
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妙子は手を振りますが、津川は呆然と見送るばかりです。
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やがて汽車は小さくなって去り行き、エンドマークとなるのでした。
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PS.
 70系電車は当初から同一系列のみで編成組成することを前提としなかったので、新しいクハ76形の後ろに新製しなかった三等付随車を 古い 42系や 32系で挟んだ編成だった様です。
 当時の横須賀線 東京~鎌倉には毎時4本の列車が設定されていました。東海道本線と共有区間が長いので、朝のラッシュ時でも4本であって さぞや混んでいたことでしょう。

 都ホテル(現 ウェスティン都ホテル京都 )の前には京阪電気鉄道京津線があり、蹴上付近は急坂で有名でした。20型は 1914年製の 10m級小型車で、一部は鋼体化されて 1966年迄使われたそうです。
 
 本作のハイライト 別れの場面でロケが行われたのは、小海線の清里駅と思われます。当時の小淵沢~小海は一日5往復で、殆どが客貨混合列車でした。同じ小海線でも小海~小諸は気動車10往復・混合列車2往復半でした。
 妙子の別れ旅を想像すると 新宿 23:00 - (419レ) - 5:31 小淵沢 7:12 - (115レ) - 8:06 清里 11:34 - (162レ) - 12:18 小淵沢 13:27 - (424レ) - 18:11 新宿 と夜行日帰りでも現地滞在は3時間半です

 

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290.地獄

1960年8月 新東宝 製作 公開  カラー作品   監督 中川信夫

仏教系大学生 清水四郎(天知茂)が次々巻き起こる不幸な出来事の原因が自分にあるかの様に思い悩み、死の間際に 八大地獄の修羅場をさまよう姿を描いた異色ホラー映画です。

恩師 矢島教授(中村虎彦)の娘 幸子(三ツ矢歌子)と婚約した清水ですが、悪魔的行動を連発し メフィストフェレスの様に絡みつく学友 田村(沼田曜一)が重荷の毎日です。
田村が運転する車に乗ると 酔ったヤクザ 志賀恭一(泉田洋志)をひき逃げしますが、母親 やす(津路清子)に目撃され 復讐の鬼となって追われます。

清水は幸子に相談し自首しようとタクシーで警察へ向かいますが、事故にあって幸子は死亡してしまいます。これも原因が自分にあると悩む清水の元に、ハハキトクの電報が届きます。
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夜行列車で養老院を営む実家へ向かい
(天上園)の看板が映ると、その背後をC11形蒸機が4輌の客車を牽いて走って行きます。(軽便蒸機の様な汽笛音はアフレコ?)
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清水が玄関前に来ると養老院の暑い室内では老人達が下着姿で居て、開けられた窓の直ぐ近くをC11形蒸機が暑そうな蒸気の音を立てて通過して行きます。
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母親の看護は天上園に住む画家 谷口円斎(大友純)の娘で、幸子にそっくりなサチ子(三ツ矢歌子)が担ってくれていたので清水は驚きます。

今後の事を思い悩んでか下駄で線路端を歩く清水の足元が映った後、いきなり大音量の汽笛音と共に清水の背後をC11形蒸機牽引貨物列車が通過して行きます。
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その様子を見て驚いたサチ子が駆け寄り話していると突然 レールに座る田村が現れ、
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東京へ帰ってくれと言う清水の願いを断り「ここが気に入ったので当分滞在するよ」と言って清水に取り付く様です。
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更にレールに座って考え込んでいる清水の元へ父親の妾 絹子(山下明子)が駆け寄り、東京へ帰る時に連れてってと抱き付くと 突然バック運転の C11322蒸機が貨物列車を牽引して走り抜けて行きます。
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清水の母親が亡くなり矢島教授夫妻が来ると、矢島夫人 芙美(宮田文子)はサチ子を見るなり「幸子~」と泣き付き清水は更に悩み深い顔です。
天上園に縁の深い一同が集まった席で田村は各々の悪事を暴き立て、メフィストの本領発揮です。

その後 天上園創立十周年行事が催され、お祝い看板の背後をC11形蒸機が4輌の客車を牽いて走って行きます。
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会場へ人力車で向かう人もいて、時代設定が何時なのか不明です。
お祝い膳で出された魚料理で入居者が食中毒となって全員死亡し、他の人間も復讐に燃える志賀やすが持ち込んだ毒入り酒で死亡しました。
そして清水は死の間際に閻魔大王(嵐寛寿郎)の元で、八大地獄の修羅場をさまようのでした。






PS.
 清水はハハキトクの電報を受け取り 夜行列車で実家へ向かうのですが、客車内場面(セット撮影)があるだけで何処へ向かっているのか分かりません。
 C11形蒸機が4輌の客車を牽いて走って行く場面からは会津線でロケが行われたのでは?とも考えましたが、唯一ナンバーが読める C11322号機から八王子機関区武蔵五日市支区 所属機と分かりました。
 つまり五日市線沿線でロケが行われた様ですが、非電化当時とは大きく様変わりした現在では詳細なロケ場所は不明です。(それでも東京から遠い田舎の雰囲気は出ています)

 窓際をC11形蒸機が走る場面を観ると、天上園がいかに線路端に建っているかが分かります。このC11形蒸機は節目節目で脅かす様に突然現れ、その場面をより一層印象的にしている様ですね。
 本作公開日が全線電化8か月前の五日市線ですが 、工事着手前の区間で朝の通勤通学列車折り返しの下り蒸機牽引旅客列車や貨物列車を映した様です。




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