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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

274.愛と希望の街

1959年11月 松竹 製作 公開   監督 大島渚

買い手が逃がすと元の巣に戻る鳩の帰巣本能を利用して繰り返し売っては生活費を稼ぐ少年が、善意で買ってくれた少女と本作のタイトルを裏切ることになる社会派映画です

冒頭 国鉄川崎駅東口に出来たばかりの「駅ビルかわさき」と、広場の先に在る京浜川崎駅(現.京急川崎)から続く京急本線は高架前の地上線です。
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その川崎駅東口前で武田正夫(藤川弘志)が、靴磨きのおばさん達の横で鳩を売っています。そこへ京子(富永ユキ)が通り掛かり、2羽の鳩を正夫から買います。

正夫は帰り道で玉子や野菜の他に文具を買って妹 保江(伊藤道子)が一人遊びをしている線路端へ行き、画用紙とクレヨンを渡してあげます。
誰かの銅像がある横の側線には DD12形内燃機らしきが停車していて、横の本線を C11形蒸機らしきがバック運転で通過して行く様子が映っています。
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家で秋山先生(千之赫子)と進路相談をした後、正夫は市役所通りを京急線の踏切まで先生を送って来ました。
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踏切を越えた所で別れようとした時、京子と偶然会います。
その時 踏切が閉まり、230形らしき3連が通り過ぎて行きます。
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MIYAと看板の一部が映り背後の角地に建つのは、1951年新築の小美屋百貨店です。(現.川崎DICE)

その後 京子は父と兄が勤める東洋精器に正夫の就職を頼み、先生共々応援したが不合格となってしまう。皆 憤慨するが、兄は正夫の鳩を使った詐欺行為が原因だと告げる。
京子が返した鳩を正夫が再度駅前で売るのを見掛けると、怒って又もや買取り「もう鳩は戻らない」と言って閉まりかけた踏切を無理やり駆け抜けて行ってしまいます。
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そのあとを 700形らしき電車が2連で通過して行きました。
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PS.
   本作公開の7か月前に完成した民衆駅「駅ビルかわさき」(現.アトレ川崎)は、前回ブログ(273.どぶ)の作品内で木造駅舎として映っている東口駅舎から激変しています。
   京急本線の高架化が完成したのは 1966年12月なので、それまで作中の様に踏切警手が操作する第一種手動踏切が活躍していました。

   保江が遊んでいた所は高圧配電線併設の電化された本線ながら、C11形蒸機も活躍し 側線は非電化 そしてアメリカ軍の置き土産 DD12形内燃機も在ります。
   川崎近郊でこんな所は何処なのか? ガスタンクが映る別場面もあるので鶴見線安善駅近くと思われ、品川区の DD12が米軍貨物輸送に出張していたそうです。

本作は大島渚監督デビュー作ですが、松竹幹部に変えられたタイトルには最後まで納得がいかなかったと後年まで語っていたそうです。

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273. どぶ

1954年7月 近代映画 製作  新東宝 配給公開   監督 新藤兼人

戦後復興黎明期 川崎近くのバラック部落に転がり込んできた頭の弱いツル(乙羽信子)と住民の、題名が表す様なドン底生活を描いた社会派映画です。

冒頭 東海道本線と品鶴貨物線の分岐点近くで、
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早朝通過するD51形蒸機牽引の貨物列車からこぼれ落ちる石炭を拾おうと住民が起きて来ます。
部落は品鶴線の線路端にあり 高島貨物線へと行き来する貨物列車が、東海道本線をオーバークロスする為 前方の鉄橋への登り勾配をゆっくり進んで行くのです。
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住民達は貨物列車の後を追う様に線路内へ侵入し、線路内に転がっている石炭を手持ちのバケツ等に拾い集めている様です。
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この列車は新鶴見操車場から鉄橋で東海道本線を越えて、鶴見駅から高島貨物線を通って横浜臨港線へ向かっている様です。またこの曲弦トラス鉄橋は現存しています。

続いて出勤風景で、1951年に開業した川崎市営トロリーバスの走行シーンがあります。焼け跡が続く中を、復興に一役と運行している様です。
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次に薄暗い高架線上を走る3連 17m級の旧型国電が映ります。南武線浜川崎支線の八丁畷駅付近を行く、クモハ11形を先頭とした3連でしょうか。
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品鶴線沿いの部落にある徳さん(殿山泰司)とピンちゃんが同居する家に転がり込んだツルでしたが、二人に前借金を負わされ特飲店に売られてしまいます。
しかし店主とケンカして逃げ出し、川崎駅近くをトボトボ歩いています。背後で京急電鉄と川崎市電が並走しているので、市電の川崎駅前~商工中金前電停の辺りでしょうか。
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続いて迷い込んだのか、東海道本線と品鶴線の分岐点内を歩く場面となります。そこへ 70系横須賀線電車が、警笛を鳴らしながら通り過ぎて行くのでした。
その上には品鶴線の最初に登場した、曲弦トラス鉄橋が存在しています。
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下駄の鼻緒に隠しておいた千円札を二人に渡し住み着くことになったツルは、少々頭が弱いながらも明るく家事を担い 部落に馴染んでいきます。
部落の最寄りには品鶴線の電化された線路があり、鶴見方向から新鶴見操車場へ向かう貨物列車がEF15等の電機に牽かれて次々に通って行きます。

部落出身の弘美(木匠マユリ)とアプレ男 輝明(近藤宏)がじゃれ合う場面で、背後の品鶴線を C50形蒸機が緩急車と電車らしきを牽いています。
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次位の緩急車は片側の連結器を改造して、電車との連結アダプターとなる控車として連ねているのでしょうか。新鶴見操車場への職員輸送用列車と思われます。
続いてツルの浴衣が干してある先を、D51形蒸機が牽く貨物列車が長閑なBGMと共にゆっくりと進んで行くシーンがあります。
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その後 借金を残したまま逃げたツルの件で店主の大場(菅井一郎)が、手下の几(花沢徳衛)を連れて部落へ談判にやって来ます。
ツルがパンパンでも何でもやって返すと啖呵を切ったので、トラス橋を渡る貨物列車が背後遥かに見える道をスクーターで帰るシーンとなります。
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ツルは木造駅舎と木造跨線橋が連なる川崎駅東口で、街娼をど派手な化粧で行い返済するのでした。
西口で雨の日に客引きする場面では、南武線の発車案内と共に出札口の電車区間運賃案内板が映っています。
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借金を返済したツルに味を占めた徳さんとピンちゃんは、 学生であるピンちゃんが学費を払えず退学となりそうなので稼いでくれとツルを騙して頼みます。
また仕事帰りに輝明が親父の金庫を持ち出しカッパ沼の奥に向かったのを見たツルは、部落の皆に伝えたことから水の中に入って捜す人が続出して皆風邪をひいてしまいます。
金庫の中身がエロ写真だったことから、ツルは皆に責められ部落を出て行きます。南武線電車の見える川崎駅西口に着くと、
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特飲店の女達が駆け付け商売敵とばかりにツルは襲われてしまいます。
ツルは休憩中の交番から拳銃を盗み出し、自己防衛の為に発砲しますが警官に射殺されてしまいます。通夜の席に百貨店からツルが注文した学生服と革靴が届き、部落一同涙するのでした。






PS.
   乙羽信子さんと言えば、落ち着いて聡明な役の多い女優さんです。それがこの映画では主役ではありますが、ハチャメチャなバカ殿の様な姿で売春までして皆に馴染もうと奮闘します。
   他の映画とのあまりのギャップに只々驚いてしまいますが、彼女は役者魂で演じていたと思われます。

   カッパ沼は現在の横浜市下水処理場が出来る前の姿です。そして現在では品鶴線のトラス鉄橋に並行して、湘南新宿ラインや横須賀線用の線路が東海道本線をオーバークロスしています。
   

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