
1959年10月 新東宝 製作 公開 カラー作品 監督 土居通芳
恩人 酒井俊蔵(佐々木孝丸)への義理と、お蔦(高倉みゆき)への愛情の間で苦悩する苦学士 早瀬主税(天地茂)の姿を描いた悲恋映画です。
1907年に発表された泉鏡花の長編小説 [婦系図] を原作として、1934年公開の松竹作品から各社で6本製作された映画の内の5本目です。
早瀬の陸軍士官学校講師就任祝いの宴席で酒井から芸者 蔦吉(お蔦)を紹介された早瀬は、その夜から恋仲となって芸者を引退した お蔦と秘かに同棲し始めます。
ところが酒井の娘 妙子(北沢典子)との婚姻を狙うライバル河野英吉(江見俊太郎)の仲介願いを断ったことから、河野の奸計によって お蔦と同棲している件を酒井に知られて 別れる羽目になります。
湯島でお蔦に別れを告げた失意の早瀬は、酒井が託した「世界史の翻訳編纂」を故郷で行うべく九州へ向かうことにします。
東京駅ホームの待合室が映り

「8番線の列車は(午後)9時40分発 二・三等急行 下関行です」と構内放送が流れる中、三等車内には背広姿の早瀬が既に乗り込んでいます。
そこへ妙子が現れ「私 九州まで早瀬さんに付いて行きます お父様も御承知なの」と言うので、

「僕はお嬢さんを好きでしたが、運命は僕とお蔦を結んでしまいました 別れたとはいえ今更どうにもなりません」と断り 帰宅する様 妙子を諭す早瀬です。
その時 お蔦が手土産を持ってホームへ現れ早瀬を探しますが、発見したのは急行列車内で話し込む早瀬と妙子の姿です。

早瀬の説得を承知した妙子は、発車ベルが鳴り始めたのでホームへ降りて見送ります。

ベルが鳴り終わると早瀬はホームの左右に目をやり、お蔦が来ていないか捜している様子です。汽笛が鳴り響き、機関車の動輪が動き出します。

汽車の動きに合わせて歩きながら「さようなら お元気で」と伝える妙子ですが、その背後には必死にハンケチを振って存在を伝え様とする お蔦の姿がありました。

その姿を見付けた早瀬は、「あっお蔦」と呟き 頷くのみです。

そして悲し気なBGMと共に、汽車はゆっくりと お蔦の視界から遠ざかって行くのでした。

一年程過ぎたある日 お蔦は「世界史の翻訳 全巻完成 !! 功労者早瀬文学士上京す 在野の名士集め祝賀会開催」と記載された新聞を読み、俄然 早瀬への思いが募り 一目会いたくなるのが人情・・・となります。
先ず「東京~東京~」とナレーションが流れる日中 C58形蒸機が登場します。

そして下関からの急行列車の到着時刻に合わせたのか、暗くなってから東京駅のホームには早瀬を待つ お蔦の姿があります。しかし到着した列車の中を見ても、ホームを捜しても見当たりません。

午後八時、九時、十時と過ぎてゆき ホームを行き交う人も次第に少なくなっていきます。列車が到着する度に、必死に早瀬を捜すお蔦ですが会うことが出来ません。

時計の針が十一時を指す頃 何時しか雪が降りだし、停車している列車の屋根にも積り始めています。冷え切ったベンチに寂しく座る お蔦にも雪が降りかかっている様です。

かくして悲しい結末へと転がって行くのでした。
PS.
原作は明治末期の話ですが、本作の時代設定は登場人物の服装や街並みが10年以上先の様に思えます。(上野不忍池の畔で、ひと時の逢瀬を楽しんでいる場面は除く)
そこで早瀬が乗った列車ですが 東京駅から出発しているので、明治期ではなく東京駅が開業した 1914年(大正3年)12月以後です。(東京駅は予算を掛けて作り込んだセットで、エキストラも多数動員しています)
早瀬の記事が一面に載った東都大学新聞も日付は不鮮明で具体的な時期が分からないままでしてが、終盤 危篤のお蔦を見た酒井が早瀬に打った電報に(2.1.22)と日付があるので 昭和 2年(1927年)と思われます。
そこから考えると早瀬が九州へ向かったのは、1925年末か翌年初め頃と推定します。そして電報の宛名の「タカナベ」から、早瀬の故郷は宮崎県高鍋と思われます。
1926年発行の時間表(1925年10月改訂版)によると、早瀬が乗ったのは東京 20:10(当時は太字で 8:10)発 三等急行下関行5レと思われます(後続の急行下関行は一・二等専用) この列車は終着駅 下関に翌日の 21:38の到着です。(所要25時間28分)
続いて 21:58発の関門連絡船に乗り換え、門司に 22:13に到着して宿に泊まります。翌朝 6:40 発 吉松行 241レに乗れば高鍋には 17:15頃の到着となり、大変な長旅です。
鉄道シーンは殆どセット撮影ですが、9枚目の画像は両国駅を去り行く蒸機牽引列車と思われます。カラー作品は当時 夜間撮影は苦手で、仕方なく夕方出発する列車のカットを入れたのでしょう。
また10枚目の C58形蒸機の登場シーンは、同じく両国駅へC58牽引の列車が到着した時 先頭部分を映したものと思われます。
恩人 酒井俊蔵(佐々木孝丸)への義理と、お蔦(高倉みゆき)への愛情の間で苦悩する苦学士 早瀬主税(天地茂)の姿を描いた悲恋映画です。
1907年に発表された泉鏡花の長編小説 [婦系図] を原作として、1934年公開の松竹作品から各社で6本製作された映画の内の5本目です。
早瀬の陸軍士官学校講師就任祝いの宴席で酒井から芸者 蔦吉(お蔦)を紹介された早瀬は、その夜から恋仲となって芸者を引退した お蔦と秘かに同棲し始めます。
ところが酒井の娘 妙子(北沢典子)との婚姻を狙うライバル河野英吉(江見俊太郎)の仲介願いを断ったことから、河野の奸計によって お蔦と同棲している件を酒井に知られて 別れる羽目になります。
湯島でお蔦に別れを告げた失意の早瀬は、酒井が託した「世界史の翻訳編纂」を故郷で行うべく九州へ向かうことにします。
東京駅ホームの待合室が映り

「8番線の列車は(午後)9時40分発 二・三等急行 下関行です」と構内放送が流れる中、三等車内には背広姿の早瀬が既に乗り込んでいます。
そこへ妙子が現れ「私 九州まで早瀬さんに付いて行きます お父様も御承知なの」と言うので、

「僕はお嬢さんを好きでしたが、運命は僕とお蔦を結んでしまいました 別れたとはいえ今更どうにもなりません」と断り 帰宅する様 妙子を諭す早瀬です。
その時 お蔦が手土産を持ってホームへ現れ早瀬を探しますが、発見したのは急行列車内で話し込む早瀬と妙子の姿です。

早瀬の説得を承知した妙子は、発車ベルが鳴り始めたのでホームへ降りて見送ります。

ベルが鳴り終わると早瀬はホームの左右に目をやり、お蔦が来ていないか捜している様子です。汽笛が鳴り響き、機関車の動輪が動き出します。

汽車の動きに合わせて歩きながら「さようなら お元気で」と伝える妙子ですが、その背後には必死にハンケチを振って存在を伝え様とする お蔦の姿がありました。


その姿を見付けた早瀬は、「あっお蔦」と呟き 頷くのみです。

そして悲し気なBGMと共に、汽車はゆっくりと お蔦の視界から遠ざかって行くのでした。

一年程過ぎたある日 お蔦は「世界史の翻訳 全巻完成 !! 功労者早瀬文学士上京す 在野の名士集め祝賀会開催」と記載された新聞を読み、俄然 早瀬への思いが募り 一目会いたくなるのが人情・・・となります。
先ず「東京~東京~」とナレーションが流れる日中 C58形蒸機が登場します。

そして下関からの急行列車の到着時刻に合わせたのか、暗くなってから東京駅のホームには早瀬を待つ お蔦の姿があります。しかし到着した列車の中を見ても、ホームを捜しても見当たりません。

午後八時、九時、十時と過ぎてゆき ホームを行き交う人も次第に少なくなっていきます。列車が到着する度に、必死に早瀬を捜すお蔦ですが会うことが出来ません。

時計の針が十一時を指す頃 何時しか雪が降りだし、停車している列車の屋根にも積り始めています。冷え切ったベンチに寂しく座る お蔦にも雪が降りかかっている様です。

かくして悲しい結末へと転がって行くのでした。
PS.
原作は明治末期の話ですが、本作の時代設定は登場人物の服装や街並みが10年以上先の様に思えます。(上野不忍池の畔で、ひと時の逢瀬を楽しんでいる場面は除く)
そこで早瀬が乗った列車ですが 東京駅から出発しているので、明治期ではなく東京駅が開業した 1914年(大正3年)12月以後です。(東京駅は予算を掛けて作り込んだセットで、エキストラも多数動員しています)
早瀬の記事が一面に載った東都大学新聞も日付は不鮮明で具体的な時期が分からないままでしてが、終盤 危篤のお蔦を見た酒井が早瀬に打った電報に(2.1.22)と日付があるので 昭和 2年(1927年)と思われます。
そこから考えると早瀬が九州へ向かったのは、1925年末か翌年初め頃と推定します。そして電報の宛名の「タカナベ」から、早瀬の故郷は宮崎県高鍋と思われます。
1926年発行の時間表(1925年10月改訂版)によると、早瀬が乗ったのは東京 20:10(当時は太字で 8:10)発 三等急行下関行5レと思われます(後続の急行下関行は一・二等専用) この列車は終着駅 下関に翌日の 21:38の到着です。(所要25時間28分)
続いて 21:58発の関門連絡船に乗り換え、門司に 22:13に到着して宿に泊まります。翌朝 6:40 発 吉松行 241レに乗れば高鍋には 17:15頃の到着となり、大変な長旅です。
鉄道シーンは殆どセット撮影ですが、9枚目の画像は両国駅を去り行く蒸機牽引列車と思われます。カラー作品は当時 夜間撮影は苦手で、仕方なく夕方出発する列車のカットを入れたのでしょう。
また10枚目の C58形蒸機の登場シーンは、同じく両国駅へC58牽引の列車が到着した時 先頭部分を映したものと思われます。


