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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

242.女性に関する十二章

1954年11月 東宝 製作 配給 公開   監督 市川崑

銀行員 呉小平太(小泉博)とバレリーナ 飛鳥ミナ子(津島恵子)が、お互いタイミングが合わずに結婚に至らない日々を描いたラブコメディー映画です。

日曜日に銀座の喫茶店でデートする二人ですが ミナ子が所属するバレー団員の脱退騒動の連絡が入り、ミナ子は注文したコーヒーも飲まずに飛び出して行ってしまいます。
仕方なく呉は都電の停留所で待つ間、ミナ子が忘れていった伊藤整著の(女性に関する十二章)を読んでいます。バックの高架線後方に服部時計や日劇らしき建物が見えるので、走っているのは山手線でしょうか。
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故に この広い道路は晴海通りで、呉がいるのは日比谷電停です。そこへ9系統(渋谷駅前~浜町中ノ橋)の 6000形 6210が到着します。
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車内から呉の同僚が子連れで降りてきました。
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思わず挨拶している内に、都電は出て行ってしまいます。同僚に「乗るんじゃなかったのでは?」と聞かれますが、「いや!」と返して 一緒に映画館へ入って彼の子供に苦労するのでした。

中盤 EF57形電機らしきが牽引する列車が高速で走り抜けるシーンの後、
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特ロ車内では 舞踏評論家 車田龍夫(上原謙)と呉の先輩 倉石そで(久慈あさみ)が並んで座っています。
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初対面なので車田は そでのことを、色々詮索しますが的外れの連続です。しかし そでの目にゴミが入つた様子を見た車田は、洗面所でハンカチを濡らして来て そでの目に優しく当ててあげます。
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この場面はセット撮影の様ですが、洗面所へ向かう車田の上方にスロ 1352らしき表示があります。スロ 13? せっかくスロ53らしき立派なセットなのに、東宝美術の忖度でしょうか。


その後ミナ子は主役としてのバレー公演日が迫り、呉も突然 妻帯してのフィリピン転勤を言われます。遂にミナ子は呉との結婚を諦め 後輩の三枝千栄里(有馬稲子)を紹介すると、あっさり双方共 結婚に同意します。
呉と千栄里の挙式当日 招待されたミナ子は、落ち着かない様子で会場へ向かいます。一方 呉も開始直前に式場を出て トイレへ行くと遅れて来たミナ子と丁度会い、お互い笑顔で手をとって屋上へ上がります。

そしてこれまでの9年間、その時々 お互いの事情で結婚に至らなかった二人のこれまでを振り返るのです。その中で大阪へ転勤となって結婚が延期となった時、東京駅で見送る場面があります。
8番線に停車している急行列車の7号車に乗る呉が、ミナ子の見送りを受けています。乗車している車両はスハフ 42 151なので、当時としては新しく 旧型客車晩年期迄 活躍した形式です。
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会話の最後にはお互い心中することに同意して、二人はホテルテートの非常階段から逃げ出してしまうのでした。

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241.どっこい生きてる

1951年7月 新星映画社・前進座 製作 北星映画 配給   監督 今井正

時代は戦後復興初期。定職に就いて安定した生活を目指す 日雇い労働者 毛利修三(河原崎長十郎)の、だらしなくも前向きに苦闘する生活を描いた社会派映画です。

冒頭 早朝から日雇い労働を紹介する職安の様な所を目指す人々を映した場面で、薄暗い中 千住大橋らしきを越えて来た都電の前後に軌道敷を走る男がいます。
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続いて 高架駅を出発する京成電鉄 200形らしき電車が映り、駅の出口から走り出して来る人々がいます。推測すると 千住大橋駅でしょうか、「防犯強化デー」と書かれた大きな立て看板が目立っていますね。
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次に都電 3000形 3105が停止しない内から飛び降りて 駆け出す男達がいます。行先表示が北千住と読めるので、都電 21系統(千住四丁目~水天宮前)ですね。
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カーブを曲がった所で停車したので、千住中組電停でしょうか 殆どの人が降りた様です。他の車が走っていないので、日光街道の路上を広がって走って行く様です。かつて千住橋戸町にあった職安を想定している模様です。

この日雇い労働の仕事もアブレる日もあって苦しいのに 借家も立ち退きを迫られ、妻 さと(河原崎しづ江)は長男 雄一(河原崎労作)長女 民代(町田よし子)を連れて東北の姉宅を頼って行くことにします。
出発の日 上野駅へ行く前に、アメ横近くの高架線沿いを歩く一家が映ります。山手線か京浜線の 63系電車が5連らしきで走行する姿が映ります。この界隈は現在と殆ど変わりない感じです。
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そして一家は上野駅前へやって来て、露店の本屋で毛利は児童書を二人に買ってあげます。戦後6年目の上野駅前ではアメ車らしき乗用車が溢れて、復興期に入った様子です。
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中央改札口前の明り取りのある大屋根が映り、行列に並ぶ一家の姿があります。やがて「10番線から 11:25発 各駅停車 青森行の改札を開始します」と放送があり、行列は進み始めます。

毛利は妻に金を渡そうとしますが辞退され、二人の子供を連れて改札を通ります。さとは走って12番線を目指す人々の流れの中で、後ろを振り返りながら進んで行くのでした。
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毛利は三人が乗った列車を見送るべく、北方向にある両大師橋に上がります。やがて3番線らしき高架ホームを出発した蒸機牽引列車が、白い煙を吹き出しながら毛利の下を通過して行きます。去り行く妻子に向かって再起を誓っている様な表情ですね。
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その後 努力しても不運や毛利のだらしなさもあって、遂には盗人の片棒まで担ぐ始末の毛利です。逃げ回った末に 簡易宿に戻ると、警官が待ち構えていました。しかし上野署へ出頭すると、妻がキセルをして捕まった故の呼び出しでした。
聞けば「姉宅も極貧状態なので、黒沢尻(現 北上)から二駅程の切符で戻って来た」そうです。余程不憫に見えたのか「本当は3倍の罰金なのだが」と言って、警察では説諭で放免してくれました。

警察を出て 鶯谷~上野らしき線炉端の高台を一家はとぼとぼと歩き、仕切り壁に座り込んで途方に暮れた顔の夫婦です。一家の背後では回送か入れ替え中なのか、小型蒸機が白煙を上げて走っています。
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さとは「今夜子供たちを何処へ寝かせたらいいのか」と呟き 雨も降り出して、毛利も今後どうしたらいいのか迷っている様子です。雨の中 常磐線の 63系電車らしきが走行する姿があります。
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PS.
 毛利の妻が子供たちを連れて乗ったのは 上野 11:30発 113レと思われますが、この列車が黒沢尻に到着するのが 3:26頃と 真夜中です。到着後の行動を考えたら、12:35頃到着する上野 21:30発 常磐線経由の青森行 211レが適当でしょう。
また当時の運賃では、上野~黒沢尻の 3等運賃が 560円です。行きは払えた切符も、帰りは隣の六原までの 10円切符を買うのがやっとだったのでしょう。







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240.サザエさんの青春

1957年12月 東宝 製作 公開  カラー作品   監督 青柳信雄

サザエさん(江利チエミ)とフグ田(小泉博)は婚約しますが、フグ田の一年間九州転勤により結婚延期となったので 花嫁修業を始めます。その間の数々の失敗・ドタバタを描く、シリーズ3作目のコメディ映画です。

前半 サザエさん一家がピクニックに出掛けることになりますが、父親の磯野松太郎(藤原釜足)を始め 次々と忘れ物を思い出しては取りに帰る始末です。
サザエさん・父親・母親(清川虹子)・カツオ(白田肇)・ワカメ(松島トモ子)・ノリオ君(藤木悠)の一行6人が漸く駅に到着すると
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(本日スト決行中)の立て看板があり 改札口前に机が置かれて駅員らしき男が来た人に説明しています。
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駅舎に掲げられている筈の駅名は、映らないように撮影されています。でも周囲の様子と看板等から、この駅は小田急電鉄 喜多見駅と思われます。
直前の商店街シーンは東宝撮影所最寄りの成城学園前駅付近と思われるのに、何故かしら駅前のシーンでは喜多見駅を使っている様です。その後 フグ田がタクシーで現れ、サザエは母親から弁当の入ったバックを渡され(6人分?)出掛けます。

中盤 花嫁修業の一つとして家計管理を担うサザエですが 保険屋の口車に乗せられてしまい、赤字となった家計の穴埋めにデパートでアルバイトすることになります。
いよいよ初出勤の日 スーツにハイヒール姿で、軽やかに歌い踊りながら喜多見駅へやって来ます。折しも小田急電鉄の茶色い4連電車が、出発して行くところです。3扉の車両ですが、形式は不明です。
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サザエが駅舎直前に来た時 一瞬 駅舎上部の駅名板の一部分が映り、「ENOKI-ZAKA」と書かれた部分が見えます。作中 カツオが通っている学校が、「榎坂学園」らしいので、この地を榎坂という架空名に設定している様です。
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改札口を入って 上り線ホームへ階段を上がると、小田急電鉄標準形三角屋根駅舎や下りホームへの構内踏切が映っています。この頃は未だ跨線橋がありませんし、ホームも4連用の様です。
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サザエは更にホームを進むと、ベンチに置かれた帽子の上にいきなり座ってしまいます。
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持ち主の男はそっと取り返そうとしますが、怪しい動きにサザエは怒り出します。
でもお尻で潰した帽子を見て、慌てて逃げるように到着した電車の前方に乗り込むサザエなのでした。
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ベンチの後方に「大和学園」の看板がありますが、これは現在 駅の東に在る( 聖セシリア喜多見幼稚園 )と思われます。

続いて 72系らしき山手線内回り電車が、新橋~有楽町を走行する姿が映ります。山手線と分離運転化されて一年後の、南行 京浜東北線電車も映っています。
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そしてカメラが左へ回ると、建設中の東京高速道路の高架線が晴海通りとクロスする所で止まっている部分が映っています。東京初の高速道路で、この映画公開の1年半後に開通します。
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サザエは銀座三越で働く様なので、小田急電鉄で新宿へ出て 山手線か中央線+京浜東北線で有楽町まで来ていたのでしょう。



PS.
   本作からカラー作品となり、東宝としても当たり作として長いシリーズ作品に決めた様な筋立てになっています。 鉄道シーンとしては短いのですが、現在とは隔世の感がある喜多見駅周辺・ホーム等 印象深い作品です。
  喜多見の名が入った看板を映しておいて、何故 駅名を架空名にしたのか不思議ですね。また表札の父親名が磯野波平ではなく 松太郎となっていたのは、原作でもこの頃は表記が無いので 脚本家が付けたのかもしれません。
  作中で松太郎は女房を長年「おい」とか「お前」と呼んでいたので 名前を忘れてしまい、サザエから「フネ」であると教えてもらい 当人から呆れられる場面があります。原作者もここから母親の名を「フネ」としたのかも・・・

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