日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

210. 一粒の麦

1958年9月 大映 製作 公開  カラー作品   監督 吉村公三郎

福島県の中学校 教師の井上正治(菅原謙二)が、引率して集団就職した生徒のその後に遭う 苦難に対応して奮闘する姿を追うセミドキュメンタリータッチの青春映画です。

この作品で鉄道シーンはセット部分も含めると合計 17 分余り有り、冒頭から夜の福島駅1番線で集団就職臨時列車に乗車・出発する場面があります。
テープによる県知事挨拶に続き「仙台発 上野行 就職臨時列車がまいります」と構内放送が流れて、見送り人で溢れる1番線にD50 形蒸機らしきに牽かれた臨時列車が到着します。
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井上は就職者を車内へ誘導しながら小泉夕子(安城啓子)が未だ来ないことを心配して相沢校長(東野英冶郎)らと話しています。そこへ沼田イチ子先生(若尾文子)が改札を通り、夕子を連れて到着しました。
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やがて発車時刻となり、井上はデッキに乗り込み出発の挨拶を交わします。するとイチ子から弁当が渡され、大勢の人達に見送られて列車は福島駅を離れて行きました。

続いての車内シーンはセット撮影の様です。井上先生の説明が終わった頃
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渡辺梅夫(高島稔)が反対側の窓を開け「村の人が見送ってくれるから」と言ったので、皆窓から顔を出しました。
線路の両側で提灯を振る村人達の間に蒸機が近付き 
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続いて盛大に提灯や手を振り見送る人達に、客車の窓から大勢の子供たちが手を振って答える中 列車は通過して行きました。
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次に列車はD50 336蒸機が牽いて、二本松駅へ到着します。
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こちらのホームでも大勢の人達に見送られ、同じ車両に乗ってきました。発車する時、手に手に紙テープを持って 賑やかな見送りです。
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そして翌朝 6:00 重連の電機に牽かれて、上野駅へと就職臨時列車は到着します。隣のホームには高崎線用らしき 80系電車が停車しています。東北本線 宇都宮電化は映画公開年の4月14日なので少々苦しいですね。
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井上とイチ子の結婚式が行われている夜、東京のガラス工場から斎藤誠(金沢義彦)と坂田四郎(小林信介)が逃げ出した電報が届きます。
校長の依頼もあって、井上はイチ子と共に急遽 上京することになりました。セットらしき三等車内で済まないと謝る井上に、イチ子は「新婚旅行だと思えばいいわ」と明るく答えます。
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斎藤と坂田はガラス工場に戻るのを拒否したので、東京にある福島県人会館に連れて来ました。井上は浜松の紡績工場で男子社員を募集していたのを思い出し、浜松へと向かいます。
EF 58 148らしき電機が牽引する列車が高速で近付くカットの後、小型の連絡船上に井上の姿があります。当時 全線電化されて2年目の東海道本線ですが、未だ大半の電車は沼津迄の運転でした。
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自動車修理工場で働く西山強(木下雅弘)は三輪車の運転免許を取得し、休日 医院で働く新井香代(田中三津子)を助手席に乗せてドライブします。
くろがねKD型と思われるオープン三輪車で、銀座・皇居前・神宮外苑と走ります。松坂屋百貨店前では都電 40系統の 1100形らしきが前方を走っています。
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トラックの修理不良から事故の賠償を負い、西山の働く工場は傾いてしまいます。夜 工場解散の相談をしているところへ香代が訪ねて来て、医院が名古屋へ移転するので引越すことになったと告げます。
その工場横の柵も踏切も無い線路を 8620形蒸機牽引の貨物列車が、警戒汽笛を盛んに鳴らしながら ゆっくり通過して行きます。江東区の越中島貨物線から分岐した、南砂町5丁目付近の引き込み線でしょうか。
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井上は就職担当の仕事を当初は嫌っていましたが、重要性に気が付き次年度も続ける決意を固めます。ラストシーンは福島駅を発車する翌年の就職臨時列車と、懐妊したイチ子をはじめとする見送る人々の姿です。


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209.悪魔の囁き

1955年5月 新東宝 製作 公開   監督 内川清一郎

身代金受け取りに短波無線機に繋げたイヤホンで取引相手を操り、「囁く男」として世間を恐怖に陥れた誘拐犯による犯罪ミステリー・アクション映画です。

冒頭 娘を誘拐された父親が、取引場所の東京駅へとやって来ます。 地下鉄丸ノ内線の工事も始まっている丸の内口駅舎が映った後
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一転 未だ舗装されていない凸凹砂利道の八重洲口側へ大型外車が到着します。
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鞄と風呂敷包を持った金持ち風の男が車から前年完成したばかりの八重洲本屋へと入ると、刑事が待ち構えており 母親に依る通報と知るや男は怒り出し 事件は悲劇へと至るのでした。

ある日美術館の学芸員である平田哲夫(中山昭二)の恋人 久美陽子(筑紫あけみ)が誘拐されます。短波無線機のイヤホンから流れる「囁く男」の命令で、平田は宿直日に古美術の仏像を盗み出すのです。
明け方 鞄に入れて無線機を持ち タクシーに乗ると、「渋谷へ行け」と指令されます。都電が撤去された渋谷駅西口へ向かい 運転手が気付いて通報すると、パトカーの尾行が付く中「新橋へ向かえ」と指示されます。

続いては東急 3000系とすれ違うカットの後
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クロスシートが並ぶ電車内の
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進行窓側に平田が座り、周りを刑事が囲んで座り 平田はイヤホンを耳に次の指令を待っています。
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すると不気味な声で「その電車は 9:18発 桜木町行 準急 ダイヤ通り発車した筈だ 左の窓を開けよ 次の駅で注意!」とイヤホンから平田に指令が有りますが、周りの刑事には聞こえません。
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早春らしき時期なのに いきなり窓を全開にしたので 横に座る中塚刑事(舟橋元)が「どうしたんですか」と問うと、「息苦しいんですよ」と平田は汗を拭きながら誤魔化します。
自由が丘らしき高架区間を走り、跨線橋の有る田園調布駅らしき3番線も通過します。次駅のカットでは、ホーム端からトンネルへ入りました。形と様子から、代官山トンネルです。
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トンネルを抜けると平田の耳だけに、「陸橋を過ぎたら白い旗が立っている。それを見たら直に包を窓の外に投げろ 陽子のためだ 命令はこれで終わりだ」と聞こえてきます。
続いて鉄橋らしき上をを電車が走り出すと、平田はイヤホンを外したので中塚刑事が耳に付けますが何も聞こえません。左前方の堤防上には白いジープが停まり、傍らに立つ男が白い大きな旗を振っています。
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そして男は合図するかの様に旗を振り下ろしたので、平田は窓から鞄をいきなり投げました。男は鞄を拾うと走り始めたジープに飛び乗って、慌てる刑事達を横目に悠々 逃走したのでした。
逃走するジープの背後に特徴ある中原街道の丸子橋が映っているので、この場所は東急東横線 多摩川園前~新丸子の多摩川橋梁と思われます。
刑事達には全く予想外の展開で右往左往する中
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中塚刑事は「停めろ~停めろ~」と叫んで電車を急停止させただけです。
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平田は緊張が続いた受け渡しが済んで、無線機を抱えたままグッタリした様子です。

この映画の鉄道シーンは前半のここまでですが、その後平田は犯罪組織に引き込まれたフリをして逆襲し 意外な真犯人に辿り着く 印象深い作品です。







PS.

 東京急行電鉄 東横線でロケが行われた様ですが、「東京急行」の広告が下っている車内シーンはオールクロスシートなので車両は何を使ったのでしょうか?
 窓から外を注視し 合図で鞄を投げたのでクロスシート車両での撮影が必要ですが、あの当時 東急に存在したのか小生には分かりません。

 作中で平田達が乗った桜木町行 準急電車は、自由が丘・田園調布と通過しています。映画公開の前月に復活した当時速達の東横線急行でも、両駅は停車していましたからロケ用の貸切列車を走らせたのでしょうか。
 田園調布駅の先で代官山駅を通過したのは編集上の都合でしょう。

 それにしても身代金の受け取り方で有名な「天国と地獄」が公開される8年も前に、列車から投げ渡すアイデアの映画があったのは流石 新東宝映画ですね。
 只 投げ落とす鞄の中身が、札束ではなく 古美術品である点が・・・

 また独特の低く凄味のある(囁く男)の声を「ぶらり途中下車の旅」のナレーション等で有名で、5年前に亡くなられた滝口順平氏が当時 24歳で担当されていたのも驚きです。



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