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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

208.愛と憎しみの彼方へ

1951年1月 東宝 配給 公開   製作 映画芸術協会   監督 谷口千吉

網走刑務所に模範囚として服役中の坂田五郎(三船敏郎)が、脱獄を図る鎌田与助(小沢栄)の計画で妻の不義を吹き込まれ 脱獄して妻を追い駆けるアクション映画です。

雨が降る夜更けに6人が脱獄します。夜明けとなり捜索隊は、踏切まで来ました。警報機が鳴り出し「一番列車だな」の声が聞こえます。遠く黒煙を吹き上げ、蒸機牽引の列車が近付きました。
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その時 看守部長 久保(志村喬)が前方の線路上に脱獄囚の一人が倒れているのを発見し、同僚と共に汽笛を連呼しながら近付く列車から救出したのでした。
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牽引機はC58形と思われます。
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捜索隊は朝までに6名中4名を確保しましたが、坂田と鎌田は夜中に釧路行の貨物列車に飛び付き逃走したので見付からず 以後は警察による捜査に委ねられます。
久保は首謀者が仮釈放も近い坂田であったことに疑問を抱いていましたが、 坂田が親切にしていた伊達の告白から真相を知ると 坂田に妻の潔白を伝えるべく警察の捜索隊に同行させてもらいます。

坂田の妻 まさ江(水戸光子)は夫と思い出の炭焼き小屋へと脱獄した坂田が必ずやって来ると思い、息子を連れて 民生委員でもある小児科医の北原浩二(池部良)と共に向かいます。
ダイヤモンド形煙突を付けた小型蒸機が甲高い汽笛を鳴らしながら牽引する営林署の森林鉄道らしき木材運搬列車に
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まさ江と息子の誠(伊東孝)と北原は無言で便乗しています。
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左右に揺れながら走る列車は人車を連結していないので、切り出した樹木の上に腰掛けているだけです。更に誠がハイハイで北原に近寄ろうとするなど、現在ではあり得ない撮影です。
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ところが妻が自宅から姿を消し 男が同行していたことから、新聞は{情夫と逃げた脱獄囚の妻}と坂田脱獄の原因が痴情に因るものだと書き立てたのでした。

最初のC58牽引貨物列車は湖畔を走っているので、網走湖だとすると網走本線(現 石北本線)の北見方面へ向かう上り列車で呼人駅手前と思われます。ただ踏切の警報機はセットの気がします。
森林鉄道については撮影当時 道内各地に盛業中なので、津別森林鉄道等の候補はありますが特定はできません。内燃機が登場する映画はいくつかありますが、蒸機が牽く林鉄は希少です。

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207.ゆがんだ月

1959年7月 日活 製作 公開   監督 松尾昭典

ヤクザ組織の若い組員 桂木正夫(長門裕之)が組織内の抗争に巻き込まれ、正義を通したことから追っ手の恐怖に直面するサスペンス映画です。

桂木の兄貴分 米山辰吉(高原駿雄)が組幹部の立石純平(梅野泰靖)に射殺され、チンピラの五郎(神戸瓢介)が生田警察署に身代り出頭する場面で先ず神戸市電10系統 900形 910が登場します。
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米山の組葬に出席する為、東京から妹の米山文枝(芦川いづみ)が神戸にやって来ます。神戸駅5番線に EF58電機が荷物車・二等車・二等車・・・と帯付が連なる列車を牽引して到着します。
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構内に「次の上り急行は 8:37発東京行です」と放送が流れているので、5番線に到着の列車は 7:57終着である 15ㇾ急行銀河と思われ 次の上り急行とは長崎始発の 34ㇾ急行雲仙 東京行です。
そして降車口から降りてきた文枝を立花組の二人が出迎え、外車で葬儀会場の寺まで送り届けます。神戸駅前を車が出る場面では、神戸市電 3系統 須磨駅行の電車が見えます。
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文枝の接待と神戸の案内を任された桂木は、六甲見物へ向かうべく摩耶鋼索鉄道に乗ります。途中で山を下る対向車とすれ違う辺りで、桂木は車内で文枝に米山射殺の真相を口走ります。
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続いて日東新聞神戸支局に社会部記者の木元明(大坂志郎)を尋ね、支局屋上で事件の真相を打ち明けるのです。背後には急行列車らしき、帯付の車両が連なる列車が走り抜けて行きます。

スクープを頂戴した木元記者は桂木の身の安全の為、東京本社にいる兄 木元宏(大坂志郎の二役)に桂木の潜伏先を依頼して東京への逃亡を勧めます。
桂木が東京へと逃亡した場面では、新橋~有楽町の東京高速道路沿いを走る 特急用青大将塗装の EF58電機牽引 上り東京行と思われるヘッドマーク付 特別急行列車が映ります。
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この道路は(205.銀座の恋の物語)でも記した様に この映画公開の一か月前に開通したばかりの自動車専用道で、走行しているのはマツダT1100 三輪車と思われます。
このマツダ三輪車走行中の影の様子から、午前中でのロケと思われます。当時午前中に東京駅に到着する特急列車は既に 20系ブルートレイン化された あさかぜ号を除くと、9:30着 鹿児島からの 10ㇾはやぶさ号と 11:10着 長崎からの 6ㇾ平和号でした。

桂木は荒川区の白髭橋近くの円筒形ガスタンクが見える南千住町辺りにある文枝宅へ招かれ行くと、童謡「赤とんぼ」の口笛が聞こえて来て 追手がやって来たことを悟ります。
文枝宅から慌てて離れた桂木は、口笛が聞こえたことから走って高架線下を潜り 跨線橋まで来て背後を振り返りながら逃走します。
ここで高架線と並行する地平線を C58 150蒸機牽引の列車が、猛然と黒煙を吹き上げながら通過して行きます。桂木は煤煙に包まれながら跨線橋を駆け上がり、追っ手を気にしながら歩みます。
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高架線は電化されていて、地平線を佐倉区の C58が走るこのロケ地は何処でしょうか。想像するに高架線が常磐線で、C58は田端方面から貨物線を隅田川貨物駅へ向かう列車では?と仮定します。

木元の手配で下町のアパートに住み始めた桂木はバーテンの職に就き、大阪から恋人の江田奈美子(南田洋子)もやって来て同居したので一安心でした。しかしその後も次第に追っ手が迫り来る恐怖に苛まれてくるのでした・・・。

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