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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

193. 夫婦百景

1958年3月 日活 製作 公開   監督 井上梅次

売れない童話作家 大川蒼馬(大阪志郎)と女性誌の編集長 みはる(月丘夢路)夫婦を中心に、様々な夫婦の形態を描くコメディ映画です。

みはるの従姉で電気屋店主の妻 誉田松江(山根寿子)が店員に惚れた挙句 冷たい夫に呆れて家出し、みはるの勤務先を尋ねて来ます。そして経緯を話す中で、最初の鉄道シーンが有ります。
先ず国府津区所属の D52形蒸機 D52 70 が牽引する旅客列車が、豪快な汽笛と共に走り来るシーンがあります。
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続いて松江が乗車している車内場面があるので、御殿場線沿線の嫁ぎ先を出て来たのでしょうか。

座席で松江がぼんやりと車窓を眺めていると電気屋の店員 河内明(青山恭二)が現れ、「女将さんに付いて行きます」と言うのでデッキへ連れ出し 店に帰る様に諭します。
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松江は後に「河内とは東京駅で別れた」と言ってるので、当時 日中に御殿場線内を蒸機牽引で走り東京駅迄直通で 9:27着の914ㇾか 13:11着の 916ㇾを想定してのセット撮影と思われます。

続いて 小田急電鉄 世田谷代田~梅ヶ丘らしきの線路沿いの道を みはると鞄を持った松江が並んで歩く横を、開業時以来走る 1100形らしき4連の上り列車が通過して行きます。
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更に歩いて行くと反対側の下り線を、1400形らしき2ドアの3連が通過して行きます。この辺りは近年 複々線化・地下化工事が続いており、沿線の様子は激変しています。
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みはるが松江を家に連れて行くと、大川が姪の倉田ノリ子(浅丘ルリ子)・倉田達夫(岡田眞澄)の学生夫婦を勝手に同居させています。これに怒ったみはるは家出しますが、泰然自若の大川です。
主夫兼 自宅勤務作家の大川が毎日落ち着いた様子で外出するのを不審に思い、浮気をしているのではと倉田夫婦が後を付ける場面でも小田急電鉄が登場します。

ロングシートで大川が居眠りするシーンでは、逢引と違ったのかと倉田が言います。窓外には貨車が映っているので、経堂駅辺りでしょうか。更に進んで大川は停車した駅で、突然跳ね起きて下車します。
慌てて倉田夫婦も後を追い、ホームに直結している改札口から大川に続いて外へ出ます。
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小振りな木造駅舎で向かいのホームの先に{当駅前 みや古ホテル}の広告看板があることから、この駅は参宮橋駅と思われます。

そして倉田夫婦の誤解からひと騒動となり 大川宅から引越すことにした倉田夫婦が、倉田のバイト仲間 楢井詮造(長門裕之)の隣部屋を紹介されて尋ねる場面が後半にあります。
72系らしき7連 国電の走行シーンに続いて、車内ではドア付近に立つ倉田夫婦が楢井夫婦のことをあれこれ話しています。
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そして非電化線路の築堤が横にある広い道路の歩道を、二人は歩いて行きます。
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その背後を都電 6000形らしきが追い抜いて行きます。目印となる店を沿道の人に聞いて二人が大通りを反対側に横断すると、築堤の先の線路はこちら側に大通りを斜めにオーバークロスしています。
この架道橋の形態と都電から この線は前作(192.恋人)でも登場した総武本線貨物支線であり、亀戸駅を出て併走する総武本線上り線から分岐した直後の地点と思われます。

したがって都電は須田町へ向かう 29系統か、錦糸堀車庫前へ向かう 38系統の車両と思われます。架道橋脇の空き地では紙芝居屋が営業中で、時代を感じさせます。
その後二人は、総武本線 72系電車が窓から見える楢井夫婦の部屋に上がります。最後は8つの都電系統が行き交う日比谷交差点の姿が映りながらエンドマークとなります。
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192. 恋人

1960年1月 松竹 製作 公開  カラー作品   監督 中村 登

信州から上京した学生 吉野英夫(山本豊三)と東京での頼れる先輩である医師の小野雄一郎(南原宏治)の友人 奥野克己(大泉滉)の妹 和子(桑野みゆき)との交際を軸にした青春映画です。

序盤 貨物操車場らしき所の横を小野が歩き、やや離れて吉野が続く場面があります。横では黒煙を吹き上げながら 8620形蒸機がバックで入れ替え作業をしています。
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この場所でのロケは後半にもありますが、かつて訪問した記憶から総武本線貨物支線(越中島支線)の小名木川貨物駅構内ではなかろうかと思われます。

中盤 吉野が奥野兄妹を故郷の信州へ招待する場面があり、D51形蒸機が牽引する列車が高速で走り抜けるシーンがあります。
上野 23:00発の信越本線 309ㇾ準急 妙高 新潟行あたりを想定しているのか、朝方の雪山をバックに快走しています。この列車は長野から各停 317ㇾとなるので、時間帯から 317ㇾの姿でしょう。
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後半 不祥事から大学を休んで働く吉野が、和子と序盤と同じ場所で土手に腰掛け話す場面があります。背後では新小岩機関区所属の 28641号機が入換作業で貨車を押して停車しました。
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そして短笛の後 停車している 8620形蒸機の横をすり抜け、前方へと貨車を押して行きました。この貨物支線はロケの前年 越中島貨物駅まで延伸開業して、勢いの有る時期の様です。
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終盤 和子の父 奥野健三(十朱久雄)の九州転勤が決まり、一家は転居することになります。旅立ちの日 東京駅 15番線ホームでは、奥野夫妻が見送りを受けています。
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ホームには 21:30発 博多行2・3等急行筑紫の標示が有ります。2等車のデッキでは克己を前に小野と吉野の仲間が集まって、吉野と和子が未だ来ないと心配顔です。
隣の 14番線には次に出る 21:45発の 17ㇾ急行 月光 大阪行が停車しています。
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その頃 中央通路のベンチでは、和子が吉野との別れを惜しんで座ったままホームへ上がろうとしません。そして筑紫号の発車ベルが鳴り出す頃、漸く吉野の説得を聞き入れホームへと向かいます。
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皆が心配する中 吉野は和子の手を牽いて駆け寄り、デッキに居る克己の横へと乗せました。見送る一同は万歳三唱し、それと同時にブザーが鳴って列車は動き出しました。克己は淡々と手を振り、皆に応えています。
一瞬 吉野の顔を見た和子は涙で顔を伏せ 吉野の「カズちゃん」との呼びかけにも応えられぬまま、
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和子を乗せた筑紫号は遠い九州へと悲しげな赤いテールランプと共に去り行くのでした。
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この当時 41ㇾ急行 筑紫号 博多行は、東京~姫路を EF58形電機・姫路~下関は C59形蒸機・下関~門司を EF10形電機・門司~博多は C59形蒸機に牽かれて翌日 20:05に博多到着でした。
編成は①2等C寝台②スロ53指定二等車③オロ35自由席二等車④⑤ナハネ10三等寝台⑥マシ29食堂車⑦~⑪ナハ11系三等車+⑫⑬スハ43系三等車(⑫⑬は東京~岡山)と多彩です。
1950年代前半は九州行の急行列車の代表格らしい豪華編成だった筑紫号ですが、博多行(あさかぜ)・鹿児島行(はやぶさ)・長崎行(さくら)と特急が3本体制となったこの頃は割と平凡な編成です。



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191. 明日は日曜日

1952年11月 大映 製作 公開   監督 佐伯幸三

貿易会社に勤務する桜井大伍(菅原謙次)と山吹桃子(若尾文子)の恋愛過程の紆余曲折を、コメディタッチで描く青春映画です。

冒頭 早朝の中央線 三鷹駅3番線に、東京行の 40系らしき始発電車が入線して来ました。
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ベンチで寝ていた桜井に駅員が近寄り、「もしもし始発電車が出ますよ」と声を掛けました。
それに対して「今日は何曜日」と寝ぼけた様子の桜井に、駅員は「金曜日ですよ」 と優しく答えます。駅ネの櫻井が欠伸をしながら乗り込むと、一枚扉が閉まり次の吉祥寺へと発車して行きました。
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当時の時刻表によりますと、三鷹発の始発 東京行は 4:13です。薄暗いながらも夜明け近い夏場なので、ホームのベンチで駅ネしても大丈夫の様です。

中盤 人の良い桜井が友達に部屋を一晩貸したことから桃子の誤解を受けて、デートの待ち合わせ場所の渋谷駅前で待ちぼうけを食らう場面があります。
渋谷駅西口ハチ公前広場を山手線方向へ撮影していますが、現在 東急 5000系電車が展示してある辺りを山手線に平行して都電が走っています。
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そして更に右にパンしてゆくと、玉電ビル(現 東急東横店)の下から頭を出している都電 青山線の車両も見えます。
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更に右へとパンすると、北向きのハチ公像の傍らに桜井が立っています。
桜井は煙草を吸いながら八チ公像の身体を撫で、「お前と同じ気持ちだよ」などと嘆いています。足元には吸殻が散らばり、スッポカされた長さを演出しています。
また ハチ公の背後には 玉電ビルと東口の東横百貨店の屋上を山手線越しに結んでいた、子供用遊覧ロープウェイのひばり号が進んでいる姿が映っています。
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現在のハチ公前広場とは隔世の感があります。都電 青山線は市電時代の 1923年 ここまで延伸したのですが、1957年には東口の新ターミナル新設に伴い短縮 撤退となりました。(しかし11年後の1968年には廃線)
また遊覧ロープウェイひばり号も、僅か2年少々で廃止となったので貴重なカットと思われます。なお(東京のえくぼ 1952年7月新東宝公開)という作中で、上原謙・丹阿弥谷津子が乗り込むシーンがあります。

終盤 桜井は運よく仕事が成功し 社長主催の宴会で酔いつぶれて、深夜 新橋駅ホームのベンチで桃子に介抱されています。山手線電車が横を通っても、コートを頭から被ったままで 寝込んだ様にも見えます。
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やがて起きると、「悪い夢から覚めたようだ」「私も」「明日は何曜日」「日曜日」「明日こそ十時に」「ハチ公前で」と見つめ合う二人は急接近の様子です。
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そこへ「池袋止まりの山手線終電車です」のアナウンスと共に 63系電車らしきが到着し、二人は手を取り合って乗り込み新橋駅から去って行くのでした。
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時刻は 0:23でしょう。去り行く電車に駅員がカンテラを振って確認合図を送り、エンドマークとなります。
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