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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

188.妻という名の女たち

1963年5月 東宝 製作 公開  カラー作品   監督 筧正典

主婦 魚住雪子(司葉子)は夫 浩三(小泉博)の浮気発覚後も相手のバーのマダム 八杉夏代(左幸子)と別れられない夫の帰りを待つ雪子であったが、やがて自立に目覚める過程を描く映画です。

小田急電鉄 代々木上原駅上りホームをNSE 3100形特急ロマンスカーが通過して行く場面からこの映画の鉄道シーンが始まります。下りホーム沿いの道を魚住の息子 一郎(田中伸司)が走って来ました。
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魚住が到着した 2400形らしき電車に乗りドアが閉まりかけた時 一郎に気付きますが
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閉まったので近くの窓を開けて息子を呼ぶと「パパ~」と応えます。
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残念ながら、窓から手を振り 去り行く魚住でした。
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この当時の代々木上原駅ホームはコンクリート平板舗装で、先端2両分程は砂利敷きの様です。その後地下鉄千代田線との相互乗り入れ工事の為、東北沢方向に移転 高架化され 1977年10月現在の駅舎となりました。
かつての代々木上原駅は現在の東口を出て、右に曲がった先に出入り口がありました。またホームの新宿寄りはカーブしていましたが、移転したので現在は直線状です

魚住夫婦の仲は家庭裁判所での調停にもちこまれ 最後は魚住が夏代と別れることにし、来訪した夏代も雪子の前で別れることを告げます。しかしこれを聞いて雪子は、魚住と別れる決心がついたのでした。
最後 別れの場面に鉄道シーンがあります。代々木上原駅ホームで雪子が一郎を連れて、電車を待っています。そこへ 2400形らしき普通電車がカーブの先から到着し、雪子と一郎は乗車しました。
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その直後 階段を駆け上がって魚住がホームに現れます。そして雪子と一郎を捜して停車中の車内やホームに目をやります。一方 座席についた二人は、一郎が「窓を開けて」と言うので雪子は開けてあげます。
外へ顔を出した一郎が「アッ パパだ!」と叫ぶと、魚住が窓際に駆け寄りました。魚住と雪子は至近距離で顔を合わせますが、お互い一言も発しません。
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直に電車が動き出すと、魚住は電車に合わせて移動しながら一郎に「気を付けて行くんだよ」とだけ告げます。この窓越しの場面はセット撮影の様で、背景を後から合成した感じです。
続いてのカットでは、代々木上原駅ホームに一人残された魚住の姿が哀れです。反対側の上りホームからは、一時代前のこげ茶色塗装の 2100形らしきが発車して行きます。
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車内では窓から風が穏やかに吹き込み、雪子は「あ~いい風」と呟き すべてが終わったからか サッパリとした表情です。
ラストは代々木上原~東北沢の井ノ頭通りらしき道路と斜め交差する踏切を通過する 2400形らしき電車の走行シーンでエンドマークとなります。
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187. 人間の壁

1959年10月 新東宝 配給 公開  企画 大東映画  製作 山本プロダクション  監督 山本薩夫

佐賀県内の小さな炭鉱町の小学校を舞台に 教職員の退職勧告撤回闘争や、児童に対する体罰から起こった父母による教師の辞職要求運動等の教育現場を描いた映画です。

序盤 新しく五年三組の担任となった志野田ふみ子(香川京子)は、問題を抱える浅井宅を家庭訪問することにした。先ず D51形蒸機が貨車を押して左方向へ通過後、ふみ子が踏切を渡って来ました。
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その直ぐ後ろを 9600形蒸機が後退運転で逆方向へと通過して行きます。ふみ子とすれ違った自転車に乗る男は、このキューロクの鼻先を横断して行きます。現在では考えられない日常がそこには在ります。
画像は一般型とは違って前部に給水温め器が取り付けられた珍しい 9600形蒸機です。操車場らしきを横断する踏切には「危険 無人踏切につき注意 津田山駅長」と看板が立てられています。

D51形蒸機が入換作業をしている横をふみ子が歩いて行くと、地面に石で絵を描いている浅井吉男(伊藤宗高)を見かけて微笑む ふみ子でした。
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次にふみ子の夫で県教祖の執行委員である志野田健一郎(南原伸二)が通勤する場面で鉄道シーンがあります。先ず津田山駅舎(横浜線の実在駅ではなく架空駅)が映ります。
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「間もなく 7:45発 下り佐世保行」の放送がある中、志野田が駅員に挨拶しながら改札を通過してホームへと向かいます。構内は通学生や会社員でかなり混んでいます。
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そして跨線橋を渡ってきた人々で込み合い「つだやま」と駅名板が表示されたホームへ、C61形らしき蒸機に牽引された普通列車が入って来ました。志野田も学生に混じって現れ、乗り込むデッキを選んでいる様です。
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客車のサボを見ると、不明瞭ですが (上野⇔平) と見えます。常磐線沿線で 上の津田山駅舎の画像に当てはまる駅を探すと、若干改装されていますが駅舎が現存する高萩駅ではなかろうかと思われます。

この映画は佐賀県が舞台として描かれていますが、海辺の洞窟を住居としている児童の家庭訪問場面等 撮影は高萩周辺の茨城県内で殆ど行われた様です。
故に 1,2 番目の画像は、高萩炭鉱等への専用線を抱えた広い側線群のある 高萩駅構内でロケが行われたのでは?と思われます。入換作業が忙しく行われ、大規模な操車場の様にも見えます。

続いて 込み合った車内で、志野田と県教祖 婦人部長の庄司春子(沢村貞子)が並んで座っています。志野田は「教師の指名退職勧告撤回闘争に励もうにも、辞めてしまう人が多いのではマイルな~」などとグチっています。
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また東京での中央大会に行った帰りの夜汽車内の場面では、志野田は吉沢県委員長(永田靖)に 中央委員の悪口をクドクド言うので「君のような存在が組織にとって一番困る」と鼻を折られてしまいます。
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中盤 激しく雨が降る日に 例の無人踏切を渡って3円安いノートを買いに行った浅井が、入換作業中の貨車と接触事故にあった旨の通報が学校に入ります。
知らせを聞いた ふみ子は駅へ駆け付け 駅長にケガの程度を尋ねますが、「とんだことになりまして、傘を差していたので貨車が見えなかったのでは」と言われ亡くなったことを告げられました。
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186.神々の深き欲望

1968年11月 日活 配給 公開  今村プロ製作  カラー作品   監督 今村昌平

古い因習が残る 南海に浮かぶ架空の離島 クラゲ島で、太根吉(三國連太郎)一家が信仰心と近代化のハザマで悲劇に至る過程とその後を描いた映画です。

製糖会社の技師 刈谷(北村和夫)が水源開発に来島し、都会に憧れる太亀太郎(河原崎長一郎)を助手にします。仕事が進まない中 亀太郎の妹 トリ子(沖山秀子)に溺れるも、社命で帰京します。
その後 悲劇が起こり、5年後 刈谷が妻(扇千景)と義母(細川ちか子)を伴い再び島を訪れる終盤に鉄道シーンが有ります。

島を訪れた刈谷達 観光客一行は島の実力者で地区長でもある竜立元(加藤嘉)の案内で、観光列車の乗り場へと歩いて来ました。
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一行の横へ1号蒸気機関車が先頭となり客車や貨車を牽いて、観光列車が亀太郎の運転でゆっくりと到着しました。傍らでは傷痍軍人のイザリ 里徳里(浜村純)が蛇皮線を弾きながら島唄を唄っています。
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蒸機の前ではスーツ姿の米国人らしき二人が、連れの男に記念写真を撮ってもらっています。
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そして一行は蒸機の次に連結された木造客車にオープンデッキから乗車しました。
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刈谷は乗らずに蒸機の足回りに給油している亀太郎の所へ行き、「どうして島に帰ったんだ」と聞くと「東京にいるとバラバラになりそうで自分が自分でないような」と呟いて島の生活の方が合っている様です。
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次に砂糖キビ畑の中を走る観光列車の姿が映ります。
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続いては走行中の車内。珊瑚礁が連なる海沿いを走っていると刈谷の妻が「アラ変わった岩だこと」と言うと竜立元が「あれは昔 帰らぬ恋人をを待ち続けた女の化身という言い伝えです」と説明します。
すると一緒に乗り込んだコカ・コーラ売り女で里の妻 ウト(中村たつ)が「トリ子岩ちゅんじゃ。実際あった話じゃ ついこの間」と言うので、「昔語りと現実の区別がつかんのであります」と困り顔です。

更に列車が砂糖キビ畑の中を進むと、運転する亀太郎の目に前方の線路を走る妹 トリ子の姿が入ります。
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死んだ筈のトリ子は楽しそうに時折飛び跳ねながら、線路の真ん中をゆっくりと走って行きます。
亀太郎はキャブから身を乗り出して「トリ子~!」と叫びますが、トリ子は聞こえないのかそのまま走ります。トリ子は砂糖キビの葉を手に、亀太郎が心配しているのを分かっていて前を走っているようです。
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なおも亀太郎が「トリ子~!」と叫び続けると、突然トリ子はこちらを向いて立ち止まりました。亀太郎は急制動を掛け 客車内も動揺しますが、間に合わずトリ子を轢いてしまった様です。
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停止後 亀太郎は飛び降りて 前方や足回りを探しますが、幻影だったのかトリ子の姿は何処にも見えません。驚いて降りてきた刈谷に謝罪すると、汽笛を鳴らして運転を再開する亀太郎でした。
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この映画は石垣島でのロケでしたが、最後の場面に蒸機列車が欠かせないので南大東島でロケが行われました。ところが現地 大東糖業では3年前に最後の蒸機が引退し、全てDL化されていたのです。
そこで 1964年1月に廃車となった独 ヘンシェル社製1号機関車をペンキ塗りして、細断した古タイヤを燃やして黒煙を出して客車の後ろからDLで押してロケが行われたそうです。

その後この1号機関車は沖縄本島で第二の活躍をする話しで送られましたが、計画頓挫となって野ざらしで朽ち果て 現在 足回りだけが公園で保存されています。
南大東島では 1983年に鉄道が廃止となり、2号蒸気機関車とDL・客車・貨車が立派な施設で静態保存されています。

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185. くちづけ  第二話 霧の中の少女

1955年9月 東宝 製作 公開   監督 鈴木英夫

オムニバス形式映画の第二話です。大学生の金井由子(司葉子)が帰省中に、同級生の上村英吉(小泉博)が旅行帰りに寄り 小さな騒動が起こる青春映画です。

鉄道シーンは上村が金井家の最寄駅 国鉄会津線の門田駅に到着する場面と、帰る場面の二つです。上村は北海道の学友の帰省先を訪ね歩き、旭川から出した速達の葉書で帰り道に由子の家に寄りたい旨 伝えてきました。
ところがよく読むと葉書が到着した「その日の夕方 4時半頃に着く汽車で行くので、ダメならそのまま乗って帰る」という内容で皆を慌てさせます。父と祖母が了承したので、由子は妹と弟を連れて出迎えに駅に向かいました。

会津線の門田駅のホームでは、由子と妹 妙子(中原ひとみ)弟 信次(伊東隆)が出迎えています。
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遠く汽車が見えた信次が「来たよ~」と叫ぶと、妙子は「どんな人かしら胸がドキドキ」と興奮気味ですが由子は落ち着いた様子です。
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やがて C11 234 蒸機が3両程の客車と後部に材木を積んだ無蓋車2両を牽いて到着します。
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何処に上村が乗っているのかと捜す 3人を余所に、当人は客車の最後部デッキから悠然と降りて来ました。
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そして近寄った由子に上村は「よ~泊めてもらえる?」由子は笑顔で頷き、
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「助かった~サンキュー」とこれまた笑顔で返します
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寄って来た妙子と信次を上村に紹介すると、妙子は「まア~汗臭い!」と嫌な顔をします。
妙子にはとんだ第一印象で、上村を慌てさせます。この4時半頃到着の列車とは? 当時の時刻表を見ると、会津若松 15:55発の会津線 39ㇾ会津滝ノ原行が門田に 16:24着で該当します。
只 映像を見ますに駅舎との位置関係から盲腸線であった会津線の会津田島側からの上り列車に乗って来たと見えるので、地元の人は野岩鉄道開通前なので上村が何処から来たのやら?と思われたでしょう。

温泉での小さな騒動が有り、妙子の後押しもあって上村と由子の仲も急接近で迎えた最終場面。上村が見送りを受けて、門田駅から東京へ帰る場面がもう一つの鉄道シーンです。
既に到着した列車に乗り込んだ上村が、窓から顔を出して三人から見送りを受けます。
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やがて発車した汽車の窓から手を振る上村の姿が段々小さくなる中
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妙子は「学校を卒業したら上村さんと結婚するってホント?」と聞きます。
「ええ本当よ」と由子の言葉を聞いた妙子は、飛び上がって去り行く汽車の方へ走り出しました。

帰りの汽車も後部に無蓋貨車を連ねた混合列車です。到着時と同じ向きの列車なので、今度は正しい会津若松行上り列車です。貨車の最後部には、後部標識の赤円盤が取り付けられています。
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会津線は乗客・貨物量共に少なく、昭和40年代半ば迄 C11形蒸機による混合列車が走っていました。画像に映っている門田駅の古風な木造駅舎も今では無く、会津鉄道に転換され今風の簡素な駅舎で無人駅となっています。

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