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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

 65. 無頼 黒匕首

 1968年12月 日活 製作 公開   カラー作品     監督 小沢啓一


 (10.「無頼」より 大幹部)、(47.大幹部 無頼)で扱った無頼シリーズの第五弾。この年だけで五作公開され、当時日活がいかに無頼シリーズに頼っていたかが分る任侠アクション映画です。

舞台は 1962年頃の東京 立川。 流れ者 藤川五郎( 渡哲也 )は元ヤクザの先輩 三浦健介( 中谷一郎 )を頼って訪ね、三浦が営む建材屋で働くことになります。
立川に暴力団 武相会が進出してきて、三浦の会社は狙われます。更に藤川と縁ある人を脅した武相会幹部を倒した藤川も、会長の息子 志下末雄( 川地民夫 )と長い間もめていることもあり狙われます。

武相会は三浦を脅迫し、藤川を誘き出そうとします。三浦は仕方なく藤川を騙し、武相会から逃がすからと八王子駅から列車に乗せようと呼び出します。
八王子駅 改札内跨線橋を急ぎ足で三浦が先導して歩き、藤川が続きます。4番線、3番線への降り口を通過 更に先へ進みます。時々藤川は後ろを振り向き、追っ手が居ないか警戒しながら歩きます。

(松本発 14時27分 新宿行)と白地の看板に書かれた案内板が出ている次の降り口の所に来ると、三浦はここだと言わんばかりに顎をしゃくり通路を右に曲がります。65-1.jpg


そして中央本線上り線・八高線の乗り場がある、0番線~2番線ホームへの階段を降り始めます。前方には当時存在した0番線の案内表示板が見て取れます。下り階段部分では、藤川が前方で降りて行きます。
階段の中程まで降りた時、突然前方から そのスジの男が3人現れ行く手を塞ぎます。立ち止まる二人。後ろを振り返ると、8人程のスジ者が退路を塞いでいます。どうする五郎・・・

藤川が懐の黒匕首に手を掛けた時、腰にヤッパを突き立てられる気配。フリーズする藤川。なんと三浦が藤川にヤッパを突き立て、藤川の懐から黒匕首を取り上げます。思わず「売ったな先輩」と呻く藤川。
「すまねぇ お前をこうしねぇと俺の身が立たねぇんだ」と三浦。藤川は武相会の組員に両脇を抱えられ階段を降りていきます。

続いてのシーンではEF13電機らしきが次位にマヌ34らしき暖房車 その後ろに旧形客車を従え、走り抜けます。65-2.jpg
そしてデッキでは武相会組員に監視された藤川と三浦が話しています。
車内のボックス席に座る武相会々長の志下寛市( 菅井一郎 )が「そろそろ立川かな」と呟き、降りる準備を始めようかと思った後 デッキでは藤川の逆襲がが始まります。

武相会の組員は次々に匕首を手にした藤川の逆襲にやられて、数が減っていきます。そして会長に迫った時、息子の末雄が散弾銃を取り出し藤川に銃口を向けます。
咄嗟に三浦が藤川の盾になり、顔を撃たれてしまいますが藤川はデッキから飛び降ります。ロケでは人形を落とすんですが、ちょっと残念な感じです。
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撮影当時のダイヤでは八王子 14:43 発の新宿行がありますが、甲府発の電車です。それ以外にもこの頃は日中の客車列車は岡谷 5:43 発の 422ㇾただ1本のみで、八王子発 10:19 で 11:05 に新宿到着です。
この映画設定の 1962 年のダイヤを見ても、松本発の 426 ㇾが八王子 13:54 発で長野発の 428 ㇾが 15:24 であり該当する列車はありません。乗車案内板と共に製作したと思われます。

その後SG搭載の電機が牽引するようになり、暖房車は廃止となりました。旧客車列車も山岳夜行列車として残りましたが、1975年3月 中央本線新宿方から消えて電車化されました。

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 64. 雑草のようないのち

 1960年1月 日活 製作公開      監督 滝沢英輔

 原作は、森山 啓(若いいのち)で発表即映画化となった浅丘ルリ子主演の純愛悲恋映画です。

 若村待子( 浅丘ルリ子 )と朝野純一( 川地民夫 )は共に金沢の高校に通う同級生です。学校の帰り道、汽車で帰る待子 自転車の朝野は友達連れで途中にある踏切にどちらが早く着くか競います。
 遠く汽笛が聞こえる中 警報機が鳴り始め、遮断ワイヤーが降り始めた踏切を朝野は突っ切ります。やや遅れて後ろに続いていた友達は、ワイヤーの踏切標板に遮られ渡れません。

 踏切の向こうへ渡った朝野の横をC57牽引の列車が通過して行きます。複線非電化の北陸本線ですが、どの辺りかは分りません。
 この時代 北陸本線では一部区間で複線化が始まった頃で、後述の待子の家付近では単線です。電化も先の話で、福井~金沢でも1963年4月なのです。

 車内では待子と友人の井田さと子( 中川姿子 )が並んで後方を見ています。
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さと子は左手に朝野がいないのを見て、「朝野君は向こうよ」と右手を指します。
 待子は曇る窓ガラスを拭きながら、朝野を見つけて手を振ります。 朝野も力一杯手を振り返します。
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さと子が「まるで今日限り別れる人みたい」などと冷やかしますが、待子は気にしない様子です。汽車は煙を残して去り行きました。
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 その後 待子の家には不幸が続き、高校を辞めて働くこととなるのです。朝野は東大に合格し、いよいよ二人は遠く離れ離れになることに。
 朝野が上京する列車が通る時刻 待子は家の近くの踏切に駆け付けます。遠く汽笛が響き、左手からカーブを曲がりC57を先頭に急行列車らしきが高速で通過して行きます。
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 待子は列車の先頭から必死で朝野の顔を捜します。朝野も察知したのか寒いのに窓を大きく開け、帽子を取って大きく振り待子の方を見ます。
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 それを見て待子は「純一さ~ん」と精一杯の声で叫ぶのでした。
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高速の列車はあっという間に白煙の彼方に消えて行きました。線路端には整然とハエタタキが並ぶ単線路です。
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 春まだ浅い北陸の肌寒そうな鉛色の空が、二人の行く末を暗示している様です・・・
 
 

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63. 秋津温泉

 1962年6月  松竹 製作 公開   カラー作品     監督 吉田喜重

 岡山県 秋津温泉(架空ですが奥津温泉郷の大釣温泉でロケ)を舞台に旅館の娘 新子( 岡田茉莉子 )とタマニしか来ない東京の男 河本周作( 長門裕之 )の悲恋映画です。

 1945年夏 東京の学生 河本周作( 長門裕之 )は空襲で焼出され、更に肺病を病み生きる希望が薄くなりながら鳥取の親戚を頼って津山線の無蓋貨車の荷台に乗っているのが最初の鉄道シーンです。63-1.jpg

 C11蒸機が牽く貨物列車には大勢の人が乗っています。旅館の女中 お民( 日高澄子 )と話している時、突然 非常時の汽笛が連呼され列車は急停車します。

 退避の声が掛り、皆 貨車から飛び降り逃げ出して行きます。しかし河本は一人そのまま列車に残り、気だるそうに遥か高空を行く飛行機を眺めています。
 暫くして皆 列車に戻り、再び走り始めます。お民は河本の顔色が悪いのを見て心配し、河本もお民の働く秋津温泉に連れてって欲しいと頼みます。

 秋津荘の娘 新子は河本が自殺に至りそうなのを救ってから惹かれ合いますが、河本は数年おきにしか秋津へやって来ません。そして東京に妻子までいるようになります。でも秋津へ河本が来ると新子は都合のいい女になってしまいます。
 次の鉄道シーンは津山駅4番線 停車中の列車の横を並んで歩く二人から始まります。63-2.jpg
発車間際なのかホームには他に誰もいません。河本が2両目あたりのデッキから列車に乗り込みます。

 河本は車内通路を 新子はホームを歩き、6番目の窓の所の席に座ります。その時発車ベルが鳴り始めると、握手して「 行きたまえ 」と一言。
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新子は無言で出口の方へ歩いて行きます。
 地下通路への階段を二・三段降りた時 汽笛が鳴り、新子はハッとして顔を上げます。動き出した列車のデッキに河本が移動して、階段に近付くと「新子さん」と呼びかけます。

 その声に新子は着物姿で駆け出しますが、加速した列車はあっという間に去り行きます。左手には津山機関区の給水塔が見えています。
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ここまで新子は一言も発していません。
 その後も河本は数年ごとにしか現れません。次第に生活が落ち着いてゆく河本 だんだん生活が荒んでゆく新子。そのゆく末は・・・

 ロケが行われた頃の津山線 津山発下り岡山行列車は一日15本あり、DC準急1本 ・DC普通10本 ・SL牽引普通列車4本でした。
 このうち撮影は日中唯一の蒸機牽引列車である 津山11:37発の 615ㇾ 列車で行われたと思われます。情緒ある蒸気機関車が悲しい別れの場面をより一層印象深くしていますが、1971年3月蒸機は消えてゆきました。
 

 

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 62. 踏みはずした春

 1958年6月 日活 製作 公開     監督 鈴木清順

 非行少年少女の更生を手助けするBBS運動に参加したバス会社に勤める緑川奎子( 左幸子 )の奮闘と心の葛藤を描いた映画です。

 父親殺し未遂で少年院を出所した笠原信夫( 小林旭 )の担当になった奎子は、なかなか笠原と馴染めません。
 東急電鉄東横線 代官山駅を降りてきた奎子を笠原が追い駆けて来て、絡むシーンがあります。駅舎は1927年開業以来手が入っていないのでは?と思われる程くたびれた感じです。62-0.jpg


 駅出口からコンクリート舗装された急な下り坂道で二人は言い合いになり、笠原が奎子の腕を捻り上げますがハッとして再び駅に向かいます。
 ホームへ3000系電車が入って来ると、笠原が改札からのコンクリート製下り階段を急ぎ足で降りてきます。この駅も来週 渋谷~代官山の地下化により1989年以来二度目の変身を遂げます。

 続いて走行中のデハ3450形 ラストのデハ3499の前面中央の窓から上半身を出した笠原が、積もった鬱積を冷やすようにしているシーンがあります。62-3.jpg

 1936年川崎車両製で片隅式の運転台・非貫通であった時代の姿ゆえに、正面中央の窓ガラスを下し上半身を乗り出す様にして風に向かっています。

 その後この車両は全室運転台・正面貫通化に改造され1989年の旅客営業引退まで長きに渡って東急各線で活躍しました。更にその後も両運転台車であることから東急車両構内で入れ替え作業に従事しました。
 使用停止後 構内で保管されていましたが、解体されてしまう直前 劇的に保存会に引き取られ現在では群馬県前橋市々内で余生を送っています。

 なかなか更生の糸口を見い出せない笠原に、渋谷の銀座線車庫横の道で説得する奎子の場面もあります。まだ砂利道の時代で、急な下り坂が渋谷駅方向に延びています。
二人の背後に停車しているのは1938年東京高速鉄道として表参道~虎ノ門で初開業した時製造された100形と思われます。
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別れ際、右端に1500形と思われる車両も単独で映っています。

 今では渋谷マークシティビルに飲み込まれた感じのこの場所は{43.泥だらけの純情}でも既述しましたが、この作品を始め1965年日活作の{青春前期 青い果実}でも登場しています。

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61. 女妖(じょよう)

 1960年6月  大映 製作公開 カラー作品    監督 三隅研次

 原作は西條八十の「女妖記」 作家で大学教授の尾形十九( 船越英二 )が出会う女遍歴三話のオムニバス映画です。

 第一話では浅草大和組二代目となる お粂( 山本富士子 )との話で、浅草松屋デパート横を走るトロリーバスの青い車体が登場します。
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 都内4系統の内 最後の1958年8月に開通した104系統(池袋~浅草雷門)と思われ、運用面での予想外の不評で僅か十年も経たない1968年3月末には廃止されてしまった短命路線でした。

 その後 走り去る車から浅草駅正面を映す場面があります。浅草駅に沿って走り、前面の顔が見えているのは22系統(南千住~新橋)の路線。
 駅前で直角に交差しているのが24系統(福神橋~須田町)の路線で、車体の横腹が映っています。両系統共比較的遅くまで営業していたが、22系統が1971年3月 24系統が1972年11月廃止されました。

 メインは第二話にあります。箱根で若い女 赤木千鳥( 野添ひとみ )と知り合った尾形は、小田原駅から急行で熱海を目指します。先ず木造ながら堂々とした大きな小田原駅舎が映ります。61-2.jpg

 続いて並ロ(二等自由席)車内のシーンで尾形は千鳥に熱海への同行の確認をすると同意し、着席します。窓から顔を出し、ホームの駅弁立売にお茶の注文をします。

 その時 ガクンとショックがあり発車します。と同時に千鳥は立ち上がり「私やっぱり東京へ帰ります」と告げ、あっという間に降りてしまいます。
 尾形が追い掛けデッキからホームへ顔を出すと、千鳥が能天気に挨拶しています。尾形が乗る列車の向こうには対向の上り列車か、追い越される普通列車が映っています。

 この小田原駅のシーンはセット撮影と思われます。ですが隣り合った列車まで作り、尾形が乗った列車のみ動いて行く様子などは流石 全盛期の大映美術の腕が分かります。
 でも並ロの車内セットは1960年当時としてはいささか古い感じがします。この映画公開の6月から二等車が一等車に繰り上げになったのにイスが古い感じに見えるのです。

 次のカットでは千鳥の背後上部に小田原駅ホームの駅名板が映った後、屋根の無いホームを発進して行く急行列車の姿があります。
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 ELの次に郵便車か荷物車が2両あり、青帯の二等客車が3両連なっています。撮影は5月以前の3等級制時代のもので、昼行列車の前部に3連続二等車は珍しいと思われます。

 該当する列車は東京10:00発の31ㇾ熊本行 急行阿蘇と思われます。この列車は、EF58電機+ユ、ニ、二等寝台C、指定二等車、自由席二等車・・・との編成の列車です。
 この列車は長躯九州へ上陸後 博多へ寄らず、筑豊本線を通って原田から鹿児島本線へ戻って熊本へは24時間ギリギリの9:51到着というユニークな列車です。

 それから尾形が高井戸の千鳥の家を訪ねる場面があります。京王帝都電鉄高井戸駅吉祥寺方面ホームに1900形から降りた尾形は、遮断棒も無い構内踏切を渡り出口へ。
 長い階段を降りた所に新聞売りの露店があり、尾形は千鳥の住むひかり荘の場所を尋ねます。今の環八にあたる細い道が線路の下を立体交差しています。
 「31,宇宙人東京へ現る」や「49,結婚の條件」でも高井戸駅の描写があります。

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