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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

 52. 裸女と殺人迷路

 1959年1月 新東宝 配給 公開     監督 小野田嘉幹

 気弱なチョイ悪 矢代五郎(和田桂之助)のプロ野球々場売上金強盗にからむ犯罪ドラマです。矢代のことを心配する恋人 ユリを若き日の三ツ矢歌子さんが演じています。
 なお 刺激的なタイトルが付いていますが、お約束の肩すかしです。

 最初の鉄道シーンは女の土左衛門が川で見つかり、野次馬が集まって橋から見ているシーン。背後の鉄橋をツートンカラーの東急 3000系車両らしきが通過している。
 池上線の五反田駅に到着直前の目黒川を渡る所かと思えたが、支流と合流している川の様子からして東横線の中目黒~代官山で目黒川を渡る地点かと思われる。

 次に矢代と逃亡する為上野駅に来たユリ。パタパタ案内板が映り、13:30 発急行越路 上越線経由新潟行きの案内放送をしています。
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 矢代は現れず、ハイカーの女性グループが持つトランジスターラジオから「強盗犯の矢代が上野方面へ逃走している」と流れています。

 ユリは矢代を捜しに行きます。次のシーンでは警官に腹を撃たれた矢代が上野駅地平ホームへ向かう線路をフラつきながら逃げようとしています。
 ユリは都電 21 系統(千住四丁目~水天宮前)3000 形が走る坂本二丁目電停で道路を横断し、線路に近付きます。

 そしてELが後方から警笛を鳴らしながら近付いて来る線路内をハイヒールで走り、矢代を探し周ります。背後の一段高い常磐線線路を 72 系らしき国電が走っています。
 矢代の方は一段と腹が痛むのか遂に線路内に倒れ込みます。同じく背後の線路を上野へ向かう、C62 蒸機+荷物車3両+帯付客車・・・が通って行きます。52-2.jpg


 常磐線はこの当時 取手までしか電化されず、取手までの国電以外の長距離列車はDF90 などを使った一部列車以外C62をはじめ蒸機牽引で運行されていました。
 C62の次位に3両も荷物車が連結され日中上野へ向かう急行列車。この当時の時刻表で見ると、上野 10:10 着の青森発急行十和田号と思われます。4両目は二等寝台車のもようです。

 その直後 倒れている矢代を遂にユリが発見し、話し込む内に警官隊に発見され捕まってしまいます。この様子を野次馬に混じって見ていたのが、事件の首謀者 安斎(清水将夫)です。
 それから何食わぬ顔で立ち去ろうとする安斎を、カンの鋭い稲村刑事(倉橋宏明)が見つけ検挙したのであります。

 

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 51. 黄線地帯(イエローライン)

  1960年4月 新東宝 配給 公開   カラー作品    監督 石井輝男

 新東宝ラインシリーズ第3弾 ニヒルな殺し屋 衆木一広(天地茂)を巡る追跡アクション映画です。

 殺しの依頼主に裏切られた衆木は追跡をかわす為東京駅で踊り子の小月ルミを脅かし、同行を強要しアベックを装い神戸へ復讐に向かおうとする。
 異変を察知したルミの恋人 真山俊夫(吉田輝雄)の追跡もかわし、発車寸前の神戸行夜行列車に飛び乗ります。

 アフレコでしょうが、22時発の神戸行と放送していました。当時の時刻表によると、神戸行夜行は 21:00発の急行銀河だけで、22:00発は急行彗星 大阪行です。
 混雑するホームで真山が必死でルミの姿を捜しますが、発車のベルが鳴るまでホームへ衆木は上がらなかったので見つからなかったのです。

 しかしルミは動き出した列車のデッキから右足の赤いハイヒールをホームへ放り飛ばした。この列車 15番線から発車の急行らしいが、どう見ても昼行列車だ。
 続いて車内へ入ると、並ロのセットの様で夜行列車のシーンとなる。ルミは右足が裸足のまま席に座り、衆木に自分の茶のボストンバックを網棚へ上げてもらう。

 そして神戸駅到着のシーン。EF58に牽引された列車が「こうべ」とホームの柱に名板が付いた7番線に入って来ます。しかし何か雰囲気が違う!51-1.jpg

 列車の右手を見ると見覚えのある三角屋根の一部が見え、その左には中央郵便局の建物が・・・隣のホームは一段低く・・・そう東京駅なんです。

 降りようとする衆木に「 あたしを裸足で歩かせるつもり 」と足を見せる。でも右足ではなく左足が裸足になっています。衆木が降ろすバックも茶から赤いチェック柄に変わっています。
 7番線で降りる人達の様子が映り、駅の通路を赤帽と衆木の二人でルミを左右から支え歩くシーンがあります。この時は右足に包帯の様なものを巻いています。バックは赤チェックです。

 しかし3秒余りのこの通路を歩くシーン、背後の壁に{ 12,13番線 小田原 熱海 沼津 伊東 鎌倉 逗子 方面 }と大書した看板がわざわざ映っています。51-2.jpg

 ここまでくると単なるロケ費用の節約ではなく偶然でもない、監督の遊び心からの間違い捜し的な観客へのメッセージかなとも思います。

 極め付けは次の靴屋のシーンです。タクシーから降りた二人は衆木がルミを支え靴屋へ向かいます。このシーンでは右足に包帯が巻かれていますが、バックは茶のボストンに戻っています。
 この時背後には1系統の札を付けた都電 6000形 6227 がゆっくり走り抜けて行きます。51-3.jpg
意図して都電が映り込む様に撮影したともとれるカットであります。
 ちなみに都電 6000形が神戸市電に譲渡された記録はありません。何より赤帽さん達、靴屋のおじさん、店員の女性の何れもが関西弁を使わないのも?です。特に赤帽さんが仲間内で話すのに標準語とは・・・

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 50. 若い瞳

  1954年2月 宝塚映画 製作  東宝 配給 公開     監督 鈴木英夫

 勝気で純情な高校3年生 松川ひろ子(八千草薫)を中心とした青春映画です。50回記念に思い入れのあるこの作品を取り上げました。

 ひろ子が京阪神急行電鉄(現 阪急電鉄)六甲駅を降り、学校へ向かう朝の風景から鉄道シーンが始まります。
 改札は木製のラッチで、そこを覆う小さな木造駅舎は仮設のバラック風です。1973年に現在の阪急電鉄に改称しますが、この頃も略称 阪急で通用していたそうです。

 元々隣に住んでいた大学生の中山治夫(太刀川洋一)と付き合い始めたひろ子だが、中山が就職試験に連敗したことから冷たくなり自殺をも考えるようになる。
 暗い顔で阪急神戸駅(1968年より現 三宮駅)のホームに上がるひろ子。大阪行最終電車ですと放送していますが停車している 920系966に乗ろうとせず、ホームのベンチに座り込みます。
 阪急神戸駅は当時阪急の神戸方終着駅で櫛型ホームでした。その後改造され 1968年神戸高速鉄道、山陽電鉄との相互乗り入れ開始時に通過駅となり駅名が三宮に改称されました。

 それでもなんとか ひろ子は900形 918 に乗車します。下車駅である芦屋川駅に920系 956 で着いた時にはすっかり笑顔に変わっています。
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 当時の時刻表によれば、この終電は阪急神戸 23:30 発で 23:44 芦屋川ですから今より終電が早いですね。改札には弟の松川保(井上大助)が迎えに来ていました。

 この芦屋川駅舎も木造の小さなバラック風で、本作の翌 1955年公開の東宝製作「不滅の熱球(監督 鈴木英夫)」でも同じ姿で映っています。
 また 1959年 大映製作「細雪(監督 島耕二)」や 1966年 日活製作「青春のお通り 愛して泣いて突走れ!(監督 斎藤武市)」でも各時代の駅の姿を見ることができます。

 そして東京で就職口が見つかった中山は別れを告げるべく六甲駅でひろ子を待ちます。ホームで話す内 961 を含む3連が到着しますが見送ります。
 遠ざかる 920系3連 構内の外れでは踏切警手が白旗を振っています。50-2.jpg
この頃六甲駅は構内踏切付の島式2面4線構造であったんですね。
 この 920系は 1934年より製造された2扉の名車でした。本作中では2連か3連で登場しますが、特急では4連で走っていました。

 続いて二人は国鉄神戸駅に着きます。やや迷った様子の中山は意を決した感じで 17:20 ホームへ向かいます。ホームへ上がると同時にC59129蒸機が牽引する神戸 17:35発の急行列車が到着します。50-3.jpg

 中山は席に荷物を置いて再び降りてきます。ホーム中央で別れの言葉を交わす内、遂に汽笛が響き渡ります。
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デッキに乗り込み尚も手紙の約束などする内、加速する列車は二人を引き離します。
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 悲しい BGM が流れる中、煙を残して中山の乗る列車はひろ子の視界から消え去って行くのでした。このC59129機関車はお召列車の先頭を牽いたこともある優良機で当時岡山区に所属していました。

 中山が乗った急行 アフレコと思われる構内放送では 17:35発の急行東京行らしいのですが、語尾がハッキリ聞こえず急行何号?か分りません。
 1953年は3月と11月に時刻改正がありました。ロケが行われたと思われる 11月以後も以前も17時台に上りの急行列車はありません。
 たぶん ひろ子の下校時刻に会い、神戸駅まで来て明るい内に別れのシーンなので架空の 17時台半ば発車とのシナリオになったと思われます。

 当時の時刻表では 17時台は姫路発各停 928ㇾ三宮行が 17:17 これだけです。その後は 18:28 に佐世保発の 1006ㇾ東京行の特殊急行列車(後の急行早鞆)があり東京には 6:40 到着です。
 その前は熊本発の 32ㇾ東京行急行阿蘇であり神戸 9:16発で終着東京は 20:08です。つまり 17時台では東京着が早すぎるので東京行の急行が存在しないのです。
 できれば急行券の発売枚数制限の付いた豪華編成の特殊列車 1006ㇾで撮影してほしかったものです。当時の山陽本線は西明石以西が非電化で、電化区間もC59はじめ全線で蒸機天国でした。

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 49. 結婚の條件

 1963年5月 日活 配給 公開   カラー作品    監督 斎藤武市

 興亜化学総務部勤務の水戸まひる(浅丘ルリ子)は姉 ますみ(南田洋子)夫婦と同居している。東都物産総務係長の義兄 桜井史郎(二谷英明)の浮気相手 青山暎子(桂木洋子)に気付かない姉にイラついています。

 鉄道シーンは桜井が博多出張からの帰り、東京駅到着のシーンからあります。まず旧客一等車内(セット撮影)に乗る桜井が映り、まもなく東京到着を告げます。
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 14番線にEF58牽引の急行列車が到着し、
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3号車の一等車から桜井が降りてきます。
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ホームで出迎えに来た暎子と会い、お土産なんぞを渡します。
博多での仕事を終え接待の後 乗り東京に夜の到着となると、博多発 22:49 の急行霧島だと思われます。この列車は 18:20 東京に到着します。

 次に京王帝都電鉄井の頭線 高井戸駅の階段を降りてくる桜井と部下の三好忠義(山田吾一)のシーンもあります。「31.宇宙人東京に現わる」でも既述の場所です。
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 三好は桜井が浮気相手と会っていて遅くなった言い訳の偽アリバイ証言者になろうと、同行しようとしますが桜井は断ります。

 まひる 桜井夫婦の一家3人で線路際を歩いていると、東急東横線 5000系 5連 急行が後方より通過して行き
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踏切の所で反対方向からの同じく 5000系 5連と高速ですれ違います。
 ロケ地は不明ですが、青ガエル 5000系の全盛期の様です。驚きは、4m程巾のある踏切で警報機こそありますが東急の本線なのに遮断機が無い第3種踏切である点です。




 PS
  
  東京駅到着のシーンですが、14番線から明らかに丸の内方面を向いて撮影しているのです。しかしてEF58牽引の列車は右手から進入してきます。しかも機関車の次は1号車?
 つまり撮影の向きですと神田方面からの到着です。いったい何処からの列車でしょう。1956年11月迄の急行十和田号やその後の電車特急時代の一時期などに東北方面の一部列車が東京駅発着でしたが・・・

 また客車特急つばめ の時代など起終点で列車全体を方向転換していた一部例外を除いて、東海道本線の上り列車の先頭が1号車というのはあり得ません。
 さて画面の列車は? 思うに終列車後に撮影用列車を仕立て大勢のエキストラを用意して撮ったかのかな。

 あるいは23:30発の 145ㇾ普通大阪行が回送列車として 22:57に14番線に神田方から入線するのを使い 予め頼んで品川区でエキストラを乗り込ませ、急行の札を入れて到着シーンとして撮影したのか?
 145ㇾだと2号車か3号車に一等車が連結されているので( 画面では車体帯だけで、形式までは分らない )辻褄が合うのですが・・・
 

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