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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

386.見事な娘

1956年 3月  東宝 製作 公開   監督 瑞穂春海

丸の内の明和商事で働く 高原桐子(司葉子)が 経済的に困窮する家庭で暮らしながら、明るく着実に 問題を乗り越えて行く姿を描いた 青春映画です。

冒頭 3扉と4扉が混在の 通勤形国電が 行き交う走行シーンに続いて、
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車内セットで 桐子は隣の男性から「腕時計に注意して」と言われます。
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やがて 京浜線大宮行電車は 東京駅へ到着し、
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二人は降りて 桐子はスリに逢わずに済んだ御礼を伝え 改札口を出た所で別れました。
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構内通路から 二人の様子を見ていた 桐子の同僚 山上周子(北川町子)は、急いで改札口を出て
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「いまの人は誰じゃ」と 問い詰めますが 桐子は名前も聞いていませんでした。

同じ同僚の 毛利鈴子(森啓子)が 流産して入院したので 桐子は相手の雪村達夫(伊豆肇)の元へ 費用請求に行き 拒否されますが、この男の弟が 先日車内で助けられた 雪村志郎(小泉博)と分かり 二万円を彼の尽力で 鈴子に届けることが出来ました。

また桐子には 兄 高原信夫(土屋嘉男)がいますが、ダンサーの久美子(杉葉子)と 駆け落ちして 大阪へ行ったままです。その久美子が 桐子の前に現れ 生活が苦しいのでと頼まれ、三万円を 自分の貯金から 渡してあげます。

ところが 大阪の島木という人から葉書で、「信男が病気になっているので 迎えに来てほしい」と連絡があります。父 高原耕三(笠智衆)は 自分の会社が 倒産の危機に瀕している状況なので、桐子が単身大阪へ向かいます。

葉書の住所を頼りに 大阪城が見える 場末の街角で 通りすがりの人に 尋ねていると、背後を 2扉流線形私鉄電車らしきが 走り抜けて行きました。
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結局 病身の兄 信男は久美子に捨てられ、半月前から親切な 島木竜吉(山本廉)の家で 寝込んでいたのでした。

その後 桐子は 父親の会社の為に 雪村の父 鉄太郎から借金をして、毎月給料日に 四千円を持参して 返してゆく約束をします。

それでも 結局父の会社は潰れ、家を売却して 蒲田の借家に 引っ越す事になりました。
日曜日に父親と桐子は 下見に行く事になり、京浜線 蒲田駅から降りてきました。
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そして 蒲田電車庫裏の 小道を歩いて、引っ越し先の家に向かいます。
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それから 何回か返済の為 桐子が雪村家を訪問した折、母親の栄子(吉川満子)から「父親や兄の状況から 志郎との結婚は無理ね」と言われ 桐子は家から飛び出してしまいます。

志郎が追いかけて来ますが、桐子は「さようなら!」と言って 東横線田園調布駅へ走ります。酔っ払いが寝ている車内で、悲しみに暮れる桐子でした。
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ある日 日頃から何かと親切で 頼りになる同僚の 新井弥太(小林桂樹)から 帰宅時に「話がある」と呼ばれ、二人で有楽町駅方向へと歩くと 志郎が現れますが 桐子は無視します。

でも新井は「もういいんだ」と 話を辞め、有楽町駅改札口で あっさり桐子を見送るのでした。
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何か新井からの 言葉を期待していた 桐子は落胆し、ホームまで上がりましたが
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引き返し 映画館へ向かったのでした・・・







PS.
  1枚目の画像の先頭はN.Nlc33100様の御意見で クハ16だそうです。 3枚目の画像は 63系の大宮行で、山手線と分離運転されるのは 本作公開の8か月後です。

  6枚目の画像も 流線形らしき顔の 2扉電車で 京阪電車の雰囲気ですが、ミヤ爺さんからのコメントで 京阪電鉄 初代特急の 1000型だそうです。

  9枚目の画像は 蒲田電車庫ですが 当時の裏側は 簡単な柵しかない様で、入換用の 小型蒸機の汽笛音が 聞こえています。当ブログでは(165.本日休診)(201.早春)以来3度目の登場です。

  11・12枚目の画像は 有楽町駅ホームで 山手線との 分離運転前の状況ですが、既に2面4線の設備があって 朝夕に東北本線・常磐線からの 通勤列車が乗り入れていました。


  撮影が 1956年早々に 行われた様で 高原家の中は元より、豊かな 雪村家応接間シーンでも 全員がセリフを発する度に 白息が映っています。(当時は今より寒かった!)

  本作では 東京駅から丸ビルへの地下通路や 有楽町駅、毛利鈴子の家から 千住のお化け煙突が見えたりと 1956年当時の様子が 鮮明に映っています。


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201. 早春

1956年1月 松竹 製作 公開   監督 小津安二郎

毎朝 蒲田駅から国電に乗る 杉山正二(池部良)と通勤仲間の一人 金子千代(岸恵子)の、浮気が発覚したことから生じた妻 昌子(淡島千景)との夫婦仲の危機から修復に至る過程を描くホームドラマです。

早朝 未だ薄暗い 六郷川橋梁方向から京浜線上り 72系電車がやって来るところから、この映画は始まります。
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杉山は蒲田駅近くに住んでいる様で、蒲田電車庫の横を歩いて駅へ向かいます。
あちこちから勤め人が続々と、東急 目蒲線・池上線の蒲田駅横を歩いて国電蒲田駅へと向かっています。東急 蒲田駅舎は今だ戦災からの仮復旧状態の様で、蒲田駅に到着する京浜線の姿が前方に見えます。
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次のカットでは蒲田電車庫の横を通って、続々と蒲田駅を目指す勤め人や学生が映っています。留置されているのは、クモハ 73形を先頭とした編成の様です。
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蒲田電車庫は 1923年開設で 1996年より車両無配置電車区となりましたが、現在でも京浜東北線車両の車庫として使われています。

そして杉山達 通勤通学客で混み合う蒲田駅上りホームへ、8:28発の蒲田始発電車が入線して来ました。
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続くカットでは、クハ79168 を最後尾とする大宮行が停車します。三段窓が目を引きますね。
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続いて東京駅丸の内駅舎が映り 丸ビル・会社内へと繋がるので、杉山が勤める「東亞耐火煉瓦」は丸ビルにある設定です。当時 蒲田~東京の所要は 21分なので、随分ギリギリの出社ですね。

中盤 昌子が実家に寄る場面では、車両は登場しませんが東急 池上線 五反田駅が映ります。特徴あるトレッスル橋と 1928年開業時からと思われる木造ホーム屋根が見て取れます。
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終盤 杉山の浮気が発覚したことから昌子が家を出た頃 岡山に転勤の話があり、行くことを決意する杉山でした。杉山は岡山への途上 大津に居る 仲人でもある先輩の小野寺喜一(笠智衆)に会い、経緯を報告 相談します。
場所は(瀬田の唐橋)の足元であり 小野寺の息子が呼びに来たので立ち上がると、背後に遠く 東海道本線 瀬田川橋梁を渡る蒸機牽引の長大な貨物列車が映っています。
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この区間は、東海道本線 最後の未電化区間(米原~京都)であり、D51かD52形蒸機が単機で東海道本線最後の活躍している様です。

岡山県の三石工場に転勤して事務所で勤務していると、工場横の山陽本線をD52形蒸機牽引の貨物列車が苦しそうに上り勾配をゆっくり登って行きます。
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当時の山陽本線は全線で貨物は、D52形を中心に蒸気機関車が牽いていました。撮影は現在も盛業中の三石耐火煉瓦(株)に於いて行われた模様です。

赴任して暫くたったある日の夕方、帰宅すると昌子が来ていました。昼前に着いたそうで、東京 20:15発 ー( 1005ㇾ急行早鞆 )→ 9:01 姫路 9:56 ー (731ㇾ) → 11:02 三石着と乗って来たのでしょう。
杉山は謝罪し、二人はお互いこの地でやり直そうと誓ったのでした。夕陽に染まる窓から上りの急行列車が見えると、杉山が「あれに乗ると明日の朝は東京に着くんだな」と呟きます。
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C59形蒸機らしきが牽引する急行列車は、貨物列車と違って軽々と高速で工場横を通過して行くのでした。時間帯から宇野発24ㇾ急行せと号か、博多発40ㇾ急行筑紫号と思われます。

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