日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

163. 現代の欲望

1956年6月 東宝 製作 公開   監督 丸山誠治

高利貸しの金融屋 谷川宏(池部良)は、自分が愛する飯塚せつ子(司葉子)が強引な取り立てから自殺に追い込んだ男の娘であることが分かり 苦しみ悩む 現在にも通じる経済もの青春映画です。

大金持ちをパトロンに持つバーのマダム 美沙子(淡路恵子)を情婦にするなどして順調に会社を拡大させていった谷川ですが、ある会社の乗っ取りを仕掛けて失敗し無一文となってしまいます。
せつ子一家にも正直に父親との事を話したことから嫌われ、失意の内に一人 故郷 松本へ向かう谷川なのでした。中央本線の鈍行列車がトンネルを抜け明るくなった進行左手の車窓を見ると、甲斐駒ケ岳らしき見事な雪山が見えます。日野春辺りでしょうか。

それから夕闇迫るとある駅に列車が滑り込んで行くと、ホームで駅員が「ひろおか~ひろおか~」と叫んでいます。車内では車掌が「皆様 この列車の松本到着は 18:27です」と伝えています。
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そして汽笛が鳴り響き 列車が動き出すと、谷川は突然立ち上がりデッキからホームへ飛び降りました。
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当時の時刻表に依ると この列車は、新宿 10:20発 長野行 413ㇾ鈍行列車と思われ 篠ノ井線 廣岡へは 18:12です。

次に 寒風吹きすさぶ廣岡駅前からクラシックな路線バスが発車して行った後ろから、トボトボと谷川が歩いて来ました。更にその後ろで、駅員が改札口を閉めています。
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その後 駅近くの飲み屋で酒を飲みながら、悩み 考えている谷川の姿を映す場面が続きます。やがて小雪が寒風に混じる中 少々ふらつく足取りで廣岡駅へ谷川が戻って来ました。

事務室の中からチンチンと通票閉塞器の電鈴音らしきが聞こえています。壁の時計は 23:54です。黒地に白文字の時刻表では 23:55に上り最終列車 新宿行が有るのが見えます。
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しかし谷川は切符を求めるでもなく、老婆の隣のベンチに座ります。頭上には浅間温泉 美鈴湖の観光ポスターが有ります。やがてD51らしき蒸機が牽く列車が入って来ると、老婆は改札を入って行きました。
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遅れているのか完全停車から 10秒程で、早くも汽笛が鳴り響きました。その音で谷川はガバッと立ち上がり、窓口へ行き「東京一枚」と告げ たぶん五百円札を渡してお釣り 50円玉を受け取ります。
既に汽車は動き始めているのですが、窓口氏も改札員も平然と発券・改札を行い 谷川はさして慌てるでもなく再起を図るべく 勢いよく上り列車のデッキへ飛び乗って行きました。
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PS.
フトコロも心もボロボロとなった谷川が故郷 松本へ向かうべく、中央本線 413ㇾに乗車しているところからこの映画の鉄道シーンは始まっています。
ところが松本の僅か3駅手前の廣岡駅の名を聞いて、何故か突然 動き出している列車から飛び降りてしまいます。その後ふらりと入った飲み屋でも、迷っているのか考え直しているのか暗い顔をして飲んでいます。

そして迷った末に日付が変わるギリギリ 23:55発車の最終列車の汽笛で、東京へ戻り再起を図る決断をして乗り込んだのでした。
しかしこの 23:55発 新宿行列車は架空列車で、存在しません。実際には駅の時刻表で二段上の 20:48発 418ㇾ新宿行が上り東京方面 直通鈍行最終列車です。

東京へ戻るには次の上り最終列車である 22:09発 666ㇾ塩尻行に乗り、塩尻で 23:06発 410ㇾ準急アルプス 新宿行に乗り換えて終着 新宿 4:47着といったルートが最終です。
夕方 廣岡で飛び降り 僅か2時間21分後に上り列車乗車では絵にならないので、日付が変わるギリギリまで迷って決断したことを強調する為 時刻表の 666ㇾの次の空欄に 23:55発 新宿行最終列車を設定したのでしょう。

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