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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

288.情炎

1967年5月 松竹 配給 公開  現代映画社 製作   監督 吉田喜重

愛の無い結婚生活に悩む 社長夫人 古畑織子(岡田茉莉子)が 亡き母の愛人に魅かれながらも、行きずりの男と関係して 更に苦悩する 女の情念と心の移ろいを描いた映画です。

母の死後 久しぶりに短歌の集いに出席した織子は 母の愛人だった能登光晴(木村功)に再会し、終了後 連れ立って話ながら踏切を渡って行き その後を 横須賀線らしき電車が通過します。
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その後 回想場面で織子は能登に「桃井繁子(南美江)の娘です お話があります」と告げると、能登の家で話そうと歩く道中で江ノ島電鉄(当時は江ノ島鎌倉観光)の線路内を歩いて行きます。後ろから 500形の501を先頭にした藤沢行2連が左右に車体を振りながら近付いて来ました。
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二人は左右に分かれて線路から離れ、電車が通り過ぎるのを待ちます。 
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そして織子は「もう母に会うのは止めて下さい」と能登に願い出ます。しかし能登は話をはぐらかし、会わないという約束はできないと断るのでした。織子は怒ったのか、来た線路内を足早に戻って行きました。
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母親をふしだらな女だと言う織子ですが、能登に魅かれながらも 行きずりの労務者(高橋悦史)と関係してしまう自分に 苦悩する織子でした。
そんな自分のことを能登に話そうと、前に能登と歩いた江ノ電の線路内を歩く場面があります。
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その後 線路沿いの道を歩くと、500形の502が後ろ側の2連とすれ違います。
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能登の家に行くと不在で、夏の間は真鶴の石切り場で活動しているとのこと。真鶴迄の東海道本線の道中でしょうか、混んだ車内で立つ織子の周りの男は皆タバコを吸って煙たい様子です。
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織子は古畑と別れる決意を家の襖に短歌で残して、最後の場面である北鎌倉駅へと向かいました。ホームを歩くと、反対側のホームに あの労務者を見付けます。
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やがて横須賀線の111系らしき電車が 反対ホームへ到着し
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出発して行くと、一瞬目を合わせたあの男はもうホームから消えていたのでした。







PS.
 古畑織子と能登光晴が最初に連れ立って渡る踏切は、北鎌倉駅に近い 第一円覚寺踏切の様です。当時は遮断機も警報器も無い、第4種踏切だった様ですね。

 回想場面で初めて織子と能登が会った時、能登の家へ行くのに長々と線路内を歩く場面は由比ヶ浜~長谷の区間でしょうか。思い切った織子の願い出には、閉鎖的空間でという 監督の表現の為 江ノ電の協力を仰いだのでしょう。
 江ノ電初代500形の 501は 501と551が組んだ 2連で、1956年に製造されて連接台車で繋がっていました。1979年に前照灯を窓下に2灯配置する様に改造され、見た目の印象が大きく変わりました。

 織子が能登の家に向かう時 江ノ電 502とすれ違う場面は、稲村ケ崎~七里ヶ浜の区間でしょうか。電車が通り過ぎた後 織子は線路を渡るので、能登の家はこの辺りにある様です。
 同じ500形でも 501の前照灯は前面の上部に丸形と一般的なのに、502は大型のケース内に角型の前照灯とその左右にタイフォンと特徴ある姿でかなり印象が違いますね。

 東海道本線の車内場面はセットでの撮影の様ですが、当時の東海道本線は東京~平塚が禁煙区間であり 織子が乗る平塚~真鶴は喫煙可能なのでした。


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141. みれん

1963年10月 東京映画製作 東宝 配給 公開   監督 千葉泰樹

着物の図案作家 相沢知子(池内淳子)と売れない小説家 小杉慎吾(仲谷昇)の、8年に及ぶ愛人関係の果てに訪れた別れまでのドラマを描く映画です。

知子と小杉は8年前、心中を考えながら宮城県 秋保温泉へと向かった。不鮮明ですが、C61形蒸機らしきが 7両程の客車を牽いて橋梁を渡って行く映像が先ず映ります。
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車内では窓側に知子が座り、通路側に小杉が座って本を開いています。8年前ですから 1955年なので、長町駅から秋保電鉄(1961年廃止)を使って秋保温泉へ向かう計画と思われます。
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この映画公開8年前の時刻表で見ると、上野 9:00発 101ㇾ急行 青葉で出発して 14:58白石で降り 15:10発 125ㇾ各停に乗り換え 16:15に東北本線 長町駅に着きます。
ここから 16:50発の秋保電鉄 秋保温泉行に乗り換えて、路面電車規格のポール電車で 16km.の道程をゆっくり進み 17:43に到着します。

8年もの愛人生活の後 小杉の妻 ゆき(岸田今日子)から小杉宛の手紙を読んでしまった知子は、今後の行く末を考え思い切って藤沢の小杉家を訪ねます。
先ず 鎌倉高校前付近でしょうか、海沿いの車窓が広がる江ノ電に乗っている知子の様子が映ります。鎌倉駅から藤沢行に乗ったのでしょう。
車窓に江ノ島が映り込んでいますので「次は湘南海岸公園」とアナウンスをしていますが、アフレコで本当は腰越ですね。

続いては 300形の2両編成のポール集電 江ノ電車両が、 351を後部に湘南海岸公園駅へと入って行きます。301と連接車を組んで、1992年迄走っていた車両です。
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江ノ電ではこの映画が公開された年の秋 ポールからZパンタへと一斉に交換 近代化されているので、ロケが行われたのは正にポール最末期だったのです。

江ノ電のポール集電といえば同じ年の3月 同じ東宝から公開された( 天国と地獄 )の中で犯人からの電話の背後からポール集電特有の音が聞こえ、隠れ家が江ノ電沿線と推測され江ノ電も登場しています。
そして現在とは別世界のバラックの様な湘南海岸公園駅から知子が和服姿で降りてきました。
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その後 かつて駆け落ちした仲の木下涼太(仲代達也)とも別れ、一人旅に出ます。草原を6両編成の東武鉄道 1720系特急電車が走り抜けて行きます。
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次にこの 1720系独特の設備であるサロンルームで寛ぐ知子がいます。知子の背後には、日本の鉄道では唯一の存在であるジュークボックスが鎮座して異彩を放っています。
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