fc2ブログ

日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

373. 指導物語

1941年10月 東宝 製作 公開   監督 熊谷久虎 

戦地で機関士として 軍用列車を運転出来る様に 鉄道連隊の特業兵を、短期間での猛特訓で 指導する様子と 師弟愛を描いた 良質な国策映画です。

千葉機関区の 老機関士 瀬木角市(丸山定夫)は 機関助士 北原實(北沢彪)と 組んで乗務した帰りに、省線電車が走る線路際を 二人で話しながら歩いています。
373-1.jpg
右側が千葉機関区の西端で、給水塔の下に気動車があり 左側を三連の省線電車が走っています。

やがて千葉機関区で受け入れた 16名の特業兵の内、母子家庭育ちの 佐川新太郎(藤田進)が 8620形蒸機の前で瀬木と初対面です。
373-2.jpg
指導する内 佐川を気に入った瀬木は 機関車の専門書を古書店で購入し、翌日 早目に出勤して カマの点検をして佐川を待ちます
373-6.jpg

一方佐川は 鉄道連隊を出て、省線電車で仲間と千葉機関区へと向かいます。
373-7.jpg
佐川が現れると 瀬木は駆け寄って、アメリカ製B6の 2500形蒸機をバックに渡すと 感激する佐川です。
373-10.jpg
機関区には 瀬木の長女邦子(原節子)が現れ
373-11.jpg
慌てて忘れた弁当を瀬木に渡し、「こんな事は初めてだわ」と言いつつ 佐川と初対面するのでした。
373-12.jpg

その後 瀬木の厳しい指導に なんとか応える ある日、
373-62.jpg
千葉駅で 盛大な出征見送りが行われている中 バックで機関区へ向かいます。
373-14.jpg
房総線ホームに 停車しているのは、区間運転用の キハ42000形気動車でしょうか。やがて機関区の 扇形庫をバックに、転車台に載り 帰庫となります。
373-15.jpg

佐川が 蒸機の運転に大分慣れて 快調に走っていた折に、並走区間で 左側から同僚の特業兵 草野淳(中村彰)が運転する C58217牽引列車に抜かれて行きます。
373-61.jpg
これを見た瀬木は 佐川に加速する様命じて、一時は最後部まで 完全に抜かれていた隣の列車を 抜き返してしまいます。

すると 隣の指導機関士 田町信治(藤輪欣司)も草野にハッパを掛け、再び抜き返す 217号機と218号機の併走状態となります。
373-18.jpg

373-19.jpg

やがて並走区間は終わり、草野が運転する列車が 左カーブで離れて行きます。
373-20.jpg
田町機関士と志村淳三機関助士(津田光男)でしょうか、爽やかに手を振りながら 去り行きました。
373-21.jpg

それからも 佐川の訓練運転は 昼に夜に続き 御宿駅で対向列車の到着を待っていると、助役が飛んで来て 佐川に「至急隊の方へ帰る様に電話があった」と伝えました。
373-25.jpg
そこへ対向列車が到着したので、佐川は急いで 先頭の機関室へ乗り込みました。
373-26.jpg
するとそこには 草野が乗務していたので 最後の機会と機関士にお願いして、草野が機関士・佐川が機関助士として組んで
373-63.jpg
海辺を走らせたのでした。
373-28.jpg

いよいよ佐川達が出征する日 佐倉駅全てのホームには、大勢の見送り人で溢れています。邦子達三姉妹も割烹着に(大日本國防婦人會)の襷を掛けて、国旗を手に並んでいます。  C58202号機が牽く客車には 出征兵士が大勢乗り込み、
373-30.jpg
ホームの見送り人と 別れの挨拶を交わす人もいます。佐川の母親も 遠路はるばる、前夜に駆け付けることが出来ました。

やがて汽笛と共に 列車が動き出すと、見送り人達は 一斉に万歳の連呼です。
373-31.jpg
列車が機関区の前に来ると全職員が総出で、特業兵士が乗る列車を見送ります。
373-34.jpg
草野を見送りたい田町は列車に駆け寄り、瀬木も追い駆けて 佐川と最後の別れを交わすことが出来ました。
373-33.jpg

373-66.jpg






PS.
  中国との戦争が5年目に入り 太平洋戦争開戦の2か月前に 公開された本作は、国策に従って製作されながらも 暗くなる世相・別れの悲しみ・仄かな恋心・喜劇心を表現できた 最後の戦中映画かもしれません。

  撮影は 1941年冬から8か月間に及びましたが、鉄道省の後援もあって 千葉機関区の協力の元で 併走シーン等の 画期的な撮影も出来ました。
  小生が本作の製作に 影響を与えたと思う映画は、NHKの番組で一部放送された 1940年鉄道省 製作映画(機関車物語)です。その中で併走場面こそありませんが、10m程の距離を保って同速度で走りながら 後方を走る C57形蒸機の前面走行シーンを撮っています。

  むしろ苦心したのは 機関室のセット製作と、実写では光量不足で不可能な 夜間走行シーンを ミニチュアで行った撮影だったそうです。
373-49.jpg

  機関室のセット製作は 鉄道省に相談し 560kg以上に及ぶ本物の部品を借用して、それに耐えられる 厚いベニヤ板に取り付け 薄鉄板を被せたそうです。

  焚口内部は トタン板の上にレンガを積み、外部は木材の骨組みに ベニヤ板の上にトタン板を張って ペンキ3回塗りの上に 煤を押さえて実感を出したそうです。
  組立には 大宮工場から 専門家に来てもらい、監修の上に 製作したそうです。このセットは自由に方向転換が可能で 送風機で風・雨・吹雪を再現し、前後左右からスクリーンプロセスで 実写に迫る 臨場感ある作品に 出来上がっています。

一方 C58形蒸機のミニチュアは 当初22分の1模型を 5月頃から製作しようとしましたが、予算を遥かにオーバーしそうなので 鉄道博物館に陳列されている10分の1模型を お願いして借りたそうです。
  車内燈付きの木製客車を作り 家屋は15分の1で 各種ジオラマを製作し、9月1日に C58の模型を借り出して 細いワイヤーを巻取り式に引っ張って 動かしたそうです。
   (参考:映画技術 1941年11・12月号)



  佐川の所属は 鉄道第二連隊と思われ、4枚目の画像で 佐川が乗り込む駅は 津田沼と思われます。

  12~15枚目の画像で紹介する 併走シーンは、総武本線佐倉駅を過ぎて 総武本線と成田線が3㎞程に渡って並走する区間で 何度も撮り直して 迫力ある作品へと仕上げています。
  上記(機関車物語)の撮影も この区間で撮影されたと思われ、本作の前年に製作されているので 参考資料や撮影方法の意見を頂けたのでは・・・

  13枚目の画像は キャブの下に鉄材で組んだ 吊り下げ式の台を作り、カメラを載せて 撮影しています。
  続く画像は 炭水車の上でカメラを構えて、両方の蒸機が 併走から別れ行く 迫力あるシーンを見事に捉えています。

   それまでの佐倉駅での 出征兵士見送り場面 撮影部分から、何故か一転して 21枚目の画像から 千葉機関区横からの見送りシーンへと 移っています。 去り行く列車の手前には、キハ41000形らしき気動車がいます。

  23枚目の画像で 瀬木と田町が客車に駆け寄り 佐川と草野を探すシーンで映っている客車は、ターンバックルも厳つい 木造二重屋根の ホハ12000形客車です。

  最後の見送りシーンは 桁外れに大勢の エキストラを動員して感動させ、ラストシーンでは 一転して 仲の悪い瀬木と田町が 師弟愛を表現しつつ 喜劇映画の様な絡み合いで エンドマークとなっている点が 並の国策映画と違うところでしょう。

PageTop

332.美わしき歳月

1955年5月 松竹 製作 公開    監督 小林正樹

中学校の同級生三人が 戦後の生き方に悩みながらも、お互いに友情で繋がる姿と 各々の恋愛を描いた 松竹らしい青春映画です。

職探し中の医師今西(木村功)・キャバレーのドラマー 仲尾(佐田啓二)・工員の袴田(織本順吉)は中学校の同級生で、昔はお互い友情に厚い仲だった。
戦死した同級生 時岡の妹 桜子(久我美子)の墓参りに 四ツ谷駅西口らしきで 待ち合わせる場面があり、墓地での仲尾の不真面目な態度に 袴田は怒って殴りつけてしまいます。

中盤 そんな仲尾ですが 未亡人となった由美子(小林トシ子)の境遇に 親切に接するので、跨線橋の上に呼び出した由美子から 母親の療養所入所相談を受けています。
何本も線路が続く跨線橋上で待つ仲尾の下を 72系国電らしきが通り、
332-1.jpg
由美子と話す場面では 蒸機牽引列車が駅横の通過線を 走り抜けて行きます。
332-4.jpg

仲尾から 由美子の母親の件を頼まれた今西は、上野駅から鶯谷駅方面に 線路沿いの道を由美子と歩きながら 療養所の件と二人の仲を話しています。
332-5.jpg
この道路からは 常磐線からの列車を牽いて来た C62形蒸機が上野駅へ入る姿や、72系らしき国電が頻繁に行き交う様子が見えています。
332-6.jpg

その後 傷害事件を起こした袴田を 保釈する為 仲尾は奔走して金を集め、就職の為に秋田へ引越すので 桜子と別れようとする今西を諫め 仲を取り持つのでした。
終盤 秋田へ向かう今西を見送る為、上野駅には妹の紀久子(野添ひとみ)母親(沢村貞子)が来て話しています。

そこへ 保釈された袴田が駆け付けたのに 紀久子が気付き、
332-9.jpg

332-10.jpg
今西は袴田に「お前が出られたのは 仲尾のお陰なんだ」と明かします。
332-11.jpg
短めの汽笛が鳴ると 列車は動き出し、
332-12.jpg
別れの言葉を交わす中 青森行の汽車はホームを離れて行きます。
332-13.jpg

332-14.jpg
窓から手を振るのを止めた今西が 前を向いて座り直すと、視線の先に桜子の姿が映り 微笑を浮かべています。
332-16.jpg
今西も微笑みを返すと、桜子は荷物を持って移動して来ます。「おばあさんが一緒に行ってこいって言うの」と今西に告げるのでした。

続いて 上野駅高架ホームを出発した 蒸機牽引列車が、両大師橋へ向かって速度を上げて来ました。
332-18.jpg
橋の上からは 仲尾に由美子と娘が、秋田へ向かう今西が乗った汽車を 仲良く見送る姿でエンドマークとなります。
332-19.jpg






PS.
 由美子が仲尾を呼び出して 待ち合わせる跨線橋ですが、配線状況から 上野駅近くの両大師橋でも 日暮里駅手前の跨線人道橋でもない様です。
思い当たるのが 東十条駅北側の跨線人道橋で、上野へ向かう汽車の 左側に東十条駅と下十条電車区が 広がっているのでは?と思われます。

 今西と由美子が歩いた 上野駅近くの線路沿い道路は「306.女中ッ子」でも登場した所で、今なら垂涎の的の様な撮影地ですね。

 今西が秋田へ向かう為 上野駅から旅立つ場面の撮影は、5番線の背後に 留置されている客車が映っている点や ホーム天井の駅名板等に違和感があります。
 また 当時大人気の 久我美子・木村功が出演するロケを、実際に上野駅で行ったら?と考えると大混乱必至です。

 想像ですが ホームの封鎖貸切が可能な 両国駅5番線に列車を仕立ててもらい、青森行のサボを架けて 大勢のエキストラを動員しての 撮影だったと推察します。(その後 各社が見送りシーンに使う場所の 先鞭をつけた様に思います)

 アフレコと思われる放送では「10:30発奥羽線周り青森行」と聞こえますが、当時 該当する列車は 上野 10:20発の111レ普通 青森行があります。
 しかしこの列車は、全線東北本線を走る列車です。(到着は翌日8:29)

 当日秋田着なら 9:00発101レ急行青葉 秋田行(福島まで青森行と併結)に乗り 21:53到着で、この列車を使うのが最速です。(福島~秋田は427レ普通列車ですが 新庄までは急行同等の快速運転)

普通列車で行くなら 5:40発の 125レ沼宮内行が 13:29に福島着で、ここで上記と同じ14:17発427レに乗り換えると 終着秋田21:53に着き これが唯一の当日着です。
 一般には 20:35発411レ青森行(奥羽本線周り)を使い、秋田には翌日 12:34の到着の列車に乗るのが多数派でした。


 本作は観客が期待している結末に向かい、安心して観ていられる松竹らしい女性向け作品と言えるでしょう。


PageTop

298.裸の大将

1958年10月 東宝 製作 公開  カラー作品   監督 堀川弘通

「山下清の放浪日記」を元に水木洋子が脚色し、放浪の天才画家として有名な山下清氏の青年期を描いたコメディ映画です。

冒頭 線路を歩く山下清(小林桂樹)を止めようと、山田巡査(市村俊幸)が後から追い駆けてトンネルへ入ります。
298-1.jpg
その背後から、C57形蒸機牽引列車が来ました。
298-2.jpg

トンネルの出口から汽笛を鳴らしながら C57形蒸機が7輌の客車を牽いて海沿いを駆け抜けて行くと、
298-3.jpg
後から煤だらけの二人が出てきて追い駆けっこを続けます。

各地で「両親が死んで天涯孤独なので、食べ物を下さい」と言いながら放浪を続け 機関区に出入りする蒸機を眺めていると、
298-4.jpg

298-5.jpg

同情した汲み取り屋のおばさん(沢村貞子)が阿武田の駅弁屋を紹介してくれます。
298-6.jpg

何とか阿武田駅前の駅弁田中屋へ 住み込みで働き始めた山下ですが、何をやらせても不器用で失敗が続き 駅弁の立売を命じられます。

阿武田駅2番ホームへ上野行の列車が到着し、先輩の駅弁売りが声の掛かった所へ行って 次々に売り上げます。
298-8.jpg
遅れて跨線橋の階段を降りて来た山下に、早速「おーいコーヒーくれ」と声が掛かります。
298-9.jpg

ところが反対方向から「あんぱんくれ」と声が掛かると、そちらの方へ近寄ってしまう山下です。
298-10.jpg
すかさず最初の客が「おーいコーヒーだよ」と呼びます。

どちらも気になる山下は 混乱して右往左往する内に汽笛が鳴り響き、
298-11.jpg
列車が動き出したので 前方の客にコーヒーを渡し 後ろの客にあんぱんを渡すとホッとします。
298-12.jpg
客から「おーい金だよ金!」と呼ばれてから追い駆けますが、ホームの端迄行っても追いつけませんでした。
298-13.jpg

中盤 駅弁屋の同僚 中村よしお(大塚国夫)が出征するので、阿武田駅前で駅弁屋の皆が見送る場面があります。
298-16.jpg
何組もの見送り集団が、各々「露営の歌」などを歌っています。

放浪中に精神病院へ入れられた山下は 入浴中に空襲警報が鳴った隙に 逃げ出した場面で、踏切で待たされた時 通る電車は小田急線か西武線の様です。
298-17.jpg








PS.
 4枚目画像の山下が眺めている手前の機関車はC58形の様で、雰囲気から総武本線の佐倉機関区と思われます。奥にC57形や8620形もいる様ですが、山下が映っている6枚目の画像は千葉駅近くで撮った様です。
 
 史実でも1940年から1954年にかけて各地を放浪していたそうで、阿武田駅の田中屋(史実では常磐線 我孫子駅の弥生軒)での立売場面は史実通り 1942年の設定でしょう。あんぱんはともかくコーヒー(コーヒー牛乳?)は・・・

 最後の出征兵士を見送る場面の阿武田駅ではホームに70系電車らしきが映っていますので、中央本線か横須賀線の何れかの駅前でロケが行われた様です。(趣のある木造駅舎ですね)

 主演の小林桂樹さんは本人に会って 喋り方を研究し、無理な暴飲暴食で体形を似せて演じたそうです。作中で世の中を俯瞰する視点で鋭く論評する語りは、物事の本質を突いていて 反論しかねるシーンが多々あります。

 最後に有名人となった山下が 新聞記者同士の取材争いに巻き込まれる場面で、クレイジーキャッツの面々が映画初出演している等々 有名俳優女優が意外な役で多数出ています。

PageTop

192. 恋人

1960年1月 松竹 製作 公開  カラー作品   監督 中村 登

信州から上京した学生 吉野英夫(山本豊三)と東京での頼れる先輩である医師の小野雄一郎(南原宏治)の友人 奥野克己(大泉滉)の妹 和子(桑野みゆき)との交際を軸にした青春映画です。

序盤 貨物操車場らしき所の横を小野が歩き、やや離れて吉野が続く場面があります。横では黒煙を吹き上げながら 8620形蒸機がバックで入れ替え作業をしています。
192-1-1.jpg
この場所でのロケは後半にもありますが、かつて訪問した記憶から総武本線貨物支線(越中島支線)の小名木川貨物駅構内ではなかろうかと思われます。

中盤 吉野が奥野兄妹を故郷の信州へ招待する場面があり、D51形蒸機が牽引する列車が高速で走り抜けるシーンがあります。
上野 23:00発の信越本線 309ㇾ準急 妙高 新潟行あたりを想定しているのか、朝方の雪山をバックに快走しています。この列車は長野から各停 317ㇾとなるので、時間帯から 317ㇾの姿でしょう。
192-2-1.jpg

後半 不祥事から大学を休んで働く吉野が、和子と序盤と同じ場所で土手に腰掛け話す場面があります。背後では新小岩機関区所属の 28641号機が入換作業で貨車を押して停車しました。
192-3-1.jpg
そして短笛の後 停車している 8620形蒸機の横をすり抜け、前方へと貨車を押して行きました。この貨物支線はロケの前年 越中島貨物駅まで延伸開業して、勢いの有る時期の様です。
192-5-1.jpg

終盤 和子の父 奥野健三(十朱久雄)の九州転勤が決まり、一家は転居することになります。旅立ちの日 東京駅 15番線ホームでは、奥野夫妻が見送りを受けています。
192-6.jpg
ホームには 21:30発 博多行2・3等急行筑紫の標示が有ります。2等車のデッキでは克己を前に小野と吉野の仲間が集まって、吉野と和子が未だ来ないと心配顔です。
隣の 14番線には次に出る 21:45発の 17ㇾ急行 月光 大阪行が停車しています。
192-7.jpg

その頃 中央通路のベンチでは、和子が吉野との別れを惜しんで座ったままホームへ上がろうとしません。そして筑紫号の発車ベルが鳴り出す頃、漸く吉野の説得を聞き入れホームへと向かいます。
192-9.jpg
皆が心配する中 吉野は和子の手を牽いて駆け寄り、デッキに居る克己の横へと乗せました。見送る一同は万歳三唱し、それと同時にブザーが鳴って列車は動き出しました。克己は淡々と手を振り、皆に応えています。
一瞬 吉野の顔を見た和子は涙で顔を伏せ 吉野の「カズちゃん」との呼びかけにも応えられぬまま、
192-11.jpg
和子を乗せた筑紫号は遠い九州へと悲しげな赤いテールランプと共に去り行くのでした。
192-12.jpg

この当時 41ㇾ急行 筑紫号 博多行は、東京~姫路を EF58形電機・姫路~下関は C59形蒸機・下関~門司を EF10形電機・門司~博多は C59形蒸機に牽かれて翌日 20:05に博多到着でした。
編成は①2等C寝台②スロ53指定二等車③オロ35自由席二等車④⑤ナハネ10三等寝台⑥マシ29食堂車⑦~⑪ナハ11系三等車+⑫⑬スハ43系三等車(⑫⑬は東京~岡山)と多彩です。
1950年代前半は九州行の急行列車の代表格らしい豪華編成だった筑紫号ですが、博多行(あさかぜ)・鹿児島行(はやぶさ)・長崎行(さくら)と特急が3本体制となったこの頃は割と平凡な編成です。



PageTop

159.勝利者の復讐

1958年3月 新東宝 製作 公開   監督 小森白

天才的 金庫破りの前島清一(細川俊夫)は刑務所を出所したが就職出来ず、宝石強盗の一味に加わったことから妻を失い復讐に燃えるサスペンス・アクション映画です。

前島は逮捕されたが事件の全容を話して保釈となり、皆川警部(沼田曜一)の口利きでタクシー運転手として働きだします。その一方で娘 啓子(北村真知子)にも危険が迫ったことから、大家の娘 由美子が千葉の親戚の家に避難させようとします。
前島が運転するタクシーで、12系統の都電車両も停まる総武本線 両国駅へ啓子と由美子は送り届けられます。三人が降りた後 後ろをつけてきた深沢正夫(天知茂)配下の男達が乗った車が、高架線を行く総武本線 72系電車をバックに到着します。

両国駅 地平列車ホームに停まる列車内で前島は、由美子に改めて啓子を託します。
159-1.jpg
発車時刻が迫り 前島はホームから二人を見送り
159-3.jpg
C57形蒸機に牽かれた列車は荷物車を最後に出発して行きました。
159-2.jpg
当時 千葉県方面では無煙化が進んでいましたが、総武本線 千葉~銚子間では比較的 蒸機牽引列車が残っていました。
159-6.jpg
4本あった両国発の蒸機列車の内 12:44発 319ㇾ総武本線 銚子行が唯一の昼便なので、この列車でロケが行われたと思われます。

その後 1958年10月の時刻改正でこの列車は消滅してしまい、以後 両国発の蒸機列車は夕方の 3本体制で 1969年の千葉県 蒸機旅客列車廃止まで続きました。
発車後 啓子は移り行く車窓に興奮して 父親不在の不安感が消えたかの様ですが、尾行する深沢 配下の男達が由美子達の近くに座って様子をうかがっています。
159-7.jpg

前島がタクシーで営業中 深沢の双子の弟 西村登(天知茂の二役)を偶然乗せたことから深沢のアリバイのカラクリが判明し、前島は深沢一味に拉致されてしまいます。
そして 72系電車が走る上の山手線と山手貨物線が立体交差する恵比寿~目黒の目黒道架道橋を車で潜り
159-8.jpg
長者丸踏切を渡って前島は降ろされ線路端に連れていかれます。

やがてEF13形電機らしきが牽く貨物列車が、轟音と共に接近して来ました。
159-9.jpg
一味はニヤニヤして、この後列車通過の直前に前島を線路に突き出して自殺に見せかけて殺害しようとしています。
ところが前島は隙を見て 連中の計画より一瞬早く 自ら線路に飛び出し、向こう側に渡って土手を駆け上がって マンマと逃げ出したのでした。
159-10.jpg
しかし前島の前途は、マダマダ困難の連続でした。
この当時は車も通れた長者丸踏切ですが、その後に歩行者専用踏切となり 現在に至っています。




PageTop

 158.闘牛に賭ける男

1960年12月 日活 製作 公開  カラー作品   監督 舛田利男

元 新聞記者の北見徹(石原裕次郎)は闘牛に魅せられ、スペインから闘牛の興行を人生を賭けて日本へ呼ぼうと奮闘する姿を佐倉冴子(北原三枝)の目線で追う作品です。

冴子は財閥の御曹司 江藤良一(二谷英明)の婚約者だったが、北見に魅かれ結婚を承諾する。北見の故郷 青森へ向かう時の出来事を、回想する部分に鉄道シーンがあります。
夜の上野駅 青森行 急行列車が出るホームで北見は冴子を待っています。漸くやって来た冴子が挨拶すると、早くも発車ベルが鳴り二人は一等車に乗り込みました。
158-2.jpg

ホームの案内放送は「 12番線より 20:32発 青森行 普通急行みちのく号 発車です」と告げています。みちのく号はずっと昼行列車ですし、12番線だと主に東北本線なので架空列車のアフレコです。
EF57らしき先輪が映り発車なので、東北本線を行く 401ㇾ急行 津軽号を想定しているのでしょう。

発車後ゆっくりと加速している時 二人のボックス席横の窓に同僚の山川信悟(高原駿雄)が走り寄り、キャンセルの通知がはいった旨 北見に伝えます。
158-3.jpg
これを聞いた北見は降りようとしますが、冴子は「私達はもう出発したんです 降りたらお終いよ」と拒否します。
158-4.jpg
北見はその声を振り切ってホームへ飛び降りてしまいました。
158-5.jpg
ホームを転がりながらも降りた北見の目には、暗闇に消え行く冴子の乗った列車が映っていました。
158-11.jpg

上野駅としてロケが行われたこの駅は? 逆ガル形ホーム屋根・ホーム上の木製電柱・ホーム端の建物・ホーム表面が平板舗装してある 等々から、両国駅地平ホームなのではと思われます。
そしてこの列車は、両国 17:57発 321ㇾ銚子行と思われます。この列車には両国始発唯一の オロ 35など 一等車が連結されていたので、室内の低品位ぶりとピッタリ合います。

また 321ㇾは蒸機牽引列車なので、主力の常磐線経由 長距離急行列車としてはピッタリなのにあえて 電機牽引列車として映しています。
この時代 青森行 急行など長距離急行には元特ロのスロ 53・54などが使われていたので、二人が座った時点で普通列車用 並ロでは違和感がありました。

話しが暫く進んだ後、再びこの日の事が冴子の回想シーンとして登場します。今度は山川が「エージェントがキャンセルしてきた」とハッキリ述べ、
158-9.jpg
北見が冴子を振り切って飛び降りました。
158-10.jpg
こうして一度は北見を諦め 江藤の元へ走った冴子でしたが、揺れ動いた果てに二人とは決別してアメリカ留学へと進むのでした。

PageTop

 53. 昭和のいのち

 1968年6月 日活 配給 公開   カラー作品    監督 舛田利雄

 時は昭和初期 暗い世相のなかで憂国の士、日下真介(石原裕次郎)をめぐる任侠アクション映画です。

 広い操車場を横断する橋の上に極右集団 七誠会のメンバー四谷隆(中村賀津雄)が佇んでぼんやりと下の線路を見ています。
 やがて汽笛が聞こえてきて轟音を響かせ D51 蒸機牽引の貨物列車が猛烈な黒煙を四谷に吹き上げ通過して行きますが、四谷はピクリともしません。

 そしてシガレットケースからタバコを取り出し銜えケースの蓋を閉めたとき、蓋に近付く人影が映ります。刹那 タバコを捨て四谷は走り出します。
 追いかけているのは特高刑事の郷田竜作(南原宏治)です。D51 が走り去った線路には架線が張られていますが、それ以外の広い操車場は非電化です。
 ロケ地は新小岩操車場のようで、広い構内を横断する長い橋は小松橋かと思われます。

 続いて客車区での追跡のシーンがあり、C57 125 蒸機が映り 汽笛一声 旅客列車が走り出します。53-1.jpg
ホームへ上がった四谷は全速で汽車を追い掛けます。
 ホームを走る四谷に気付いた列車内の日下が見るうち後ろから2両目のデッキへ四谷は飛び乗ります。刑事の郷田もギリギリ追い付き、最後部のデッキへ飛び乗りました。

 四谷が前部へ逃げれば、郷田は追い掛け車内の通路を前へ前への緊迫感ある追跡劇です。当時の乗客に扮装したエキストラや役者で満員の車内での迫力あるアクションシーンです。
 そして遂に最前部の機関車前 何故かテンダーのプレートはC5092 になっています。追い詰めニヤリとする郷田。しかしその時横合いから日下が現れ、郷田と格闘になります。
 お互い走行中のデッキから相手を突き落そうと格闘し、合間にC57の高速走行シーンが入る展開でこのアクションシーンは続きます。
53-2.jpg


 撮影時C57 125 機は新小岩機関区に所属し、超早朝 3:58 勝浦を発車 房総東線(現在の外房線)周りで 7:00 両国着と館山発 5:35 房総西線(現・内房線)周りで 9:10 両国着
 日中 新小岩区で待機し、夕刻 17:19 両国発125ㇾ館山行と 17:39 両国発221ㇾ勝浦行などのスジで働いていました。

 なので朝両国到着後の間合いに撮影用臨時列車を牽引して四谷の飛び乗りシーンなどを撮り、デッキでの格闘シーンはセット撮影だったので 1962年廃車のC50 92 のプレートが登場したのかと思われます。
 なお C57 125 機は両国駅からの蒸機牽引列車の最後まで走り、この映画公開の翌年 1969年9月 廃車となりました。

PageTop