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日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

350.飢餓海峡

1965年1月 東映 製作 公開   監督 内田吐夢

戦後間もない混乱した時代を背景に 貧困故に犯した罪と 運命に翻弄された男を中心に、純愛映画的要素を含んで描いた 長編サスペンス映画です。
本作は 1954年9月26日に起きた青函連絡船洞爺丸沈没事故と 同夜岩内町で発生した大火事を絡め、終戦から未だ日浅く 世の中が混乱している 1947年9月に時代設定して描いています。

冒頭 犬飼多吉(三國連太郎)が待つ 岩内線岩内駅へ、
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質屋で強盗殺人事件を起こした上に 放火した沼田八郎(最上逸馬)と木島忠吉(安藤三男)が到着しました。
木島は犬飼に金を渡し、「函館まで切符を買ってこい」と命じます。犬飼は出札口へ行き「函館3枚」と言って切符を買うと、
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三人はホームへ急ぎます。
既に汽笛が聞こえて 発車し始めている汽車に、三人は駆け寄りデッキへ飛び乗りました。
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車内では落ち着かない様子の 沼田と木島ですが、犬飼は経緯を聞いていないので 落ち着いています。
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その後 途中駅に停車すると
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車掌が現れ、「台風が接近しているので、当駅で暫く停車します」と告げました。
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乗客の一人が「函館まで歩くとどの位か」と尋ねると、「さぁ~男の足で一時間半位ですか」と答えます。
木島が「おい歩くぞ 早く函館から内地へ ズラかるんだ」と言うや
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三人はデッキから線路に飛び降りて、
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函館までひたすら歩くのでした。函館に近付くと 踏切を凄い数の消防車が 通り過ぎて行きます。
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遭難した連絡船乗客の 救助に向かう人達の様です。

そして 消防団員と偽った犬飼は 小さな漁船を借り三人で、遭難現場のドサクサに紛れ 対岸の大間を目指して 船を漕ぎ出します。
未だ波が高い海峡で 木島は金の独り占めを図って 沼田を襲い、更に犬飼を襲いますが 返り討ちに会い 海へ転落死してしまいます。

犬飼は一人で 下北半島の仏が浦へ接岸し、船を崖上に引き上げて 焼いて逃走します。野山を歩き 川の水を飲んでいると 突然カン高い汽笛が聞こえ、鉄橋を森林鉄道の 混合列車が渡って行きました。
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小型内燃機に牽かれた 無蓋貨車には、太い青森ヒバ材が 高々と積まれています。
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その丸太の上には 何人かの職員が、馬乗りになっている様子が 映っています。
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急いで犬飼は 線路が在る方向の斜面を上がると ノロノロ走る列車に向かって走り、
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最後部の客車に飛び付き 車内へ乗り込むことが出来ました。

犬飼の横に座る老婆が 床に落ちているシケモクを拾い キセルに詰めて吸うと、犬飼はポケットから煙草を出して 一箱そのまま「俺は吸わないから」と言いながら渡しました。
その様子を 握り飯を食べながら見ていた 杉戸八重(左幸子)は
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犬飼の所へ移動して 握り飯の残り二個共にあげると、余程腹が減っていたのか 犬飼はガツガツと全て食べたのでした。
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八重は「あんたも大湊へ行くの」と犬飼に聞くと 頷きます。やがて終点川内から バスに乗り換えたのでしょう、国鉄大湊線の大湊駅で 八重と犬飼は下車しました。
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その後 八重が働く娼館へ犬飼が現れ 八重の境遇と優しい接待に対し、五十円の請求に 持ち金から三万四千円を 古新聞に包んで渡しました。
八重はその金で 娼館の借金を返すと、現れた函館署の弓坂刑事(伴淳三郎)から逃れる様に 東京へ出ました。東京まで八重を追いかけて来た弓坂が 諦めて帰る時、上野駅入口へ向かう場面もあります。
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それから十年間 亀戸の娼館(梨花)で働いた八重は、名前は違えど 恩義ある犬飼そっくりの写真が載っている 新聞記事を発見します。
借金地獄から脱出できたお礼を 一言でもしたいと 十年間思い続けていた八重は、直ぐに記事に載っていた舞鶴へと 遠路旅立ち
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舞鶴線の終点である 東舞鶴駅から降りてきました。
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ところが「自分は樽見京一郎であって 犬飼多吉などという名前ではない」と頑なに否定しますが、八重に手の親指にある大きな傷跡を 指摘されたので 最後には犬飼だったと認め 八重は感激して抱き付きます。
しかし樽見京一郎として成功した人生が ここで崩れてしまうと思い、樽見は八重を絞め殺してしまいました。更に騒ぎに気付かず お茶を運んできた 書生の竹中誠一(高須準之助)も、遺体を見られたので 殺してしまいます。

そして遺体を三輪車で 海に投棄したので 当初は心中事件と見立てられ、八重の父 杉戸長左衛門(加藤嘉)と 梨花店主の 本島進市(三井浩次)が 東舞鶴駅に到着しました。
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八重の服から樽見が{刑余者更生事業に私財三千万を寄贈}との写真付きの 新聞の切り抜きが発見されたことから、弓坂も呼ばれて 樽見は殺人事件として追及され 遂には自白に追い込まれました。
されど樽見は 質屋での強盗殺人事件には関与していないし、海峡の船上では 木島に襲われての正当防衛であり 金の横領罪だけは認める立場を変えません。

弓坂から 今夜の終列車で北海道へ帰ると聞かされると「一緒に連れて行ってくれ 北海道へ行けば何もかも知っている」と懇願する姿を見た 荻村利吉署長(藤田進)と 味村時雄主任(高倉健)は、ドロを吐きそうなので 北海道へ連れて行き 下北から舞鶴への足取りを洗うことになります。
北海度へ樽見を護送する 車内で樽見は、じっと目を閉じて 八重とのことを思い出している様子です。
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そして函館へ渡る青函連絡船上から
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弓坂に続いて八重の為に 海へ献花するふりをして、
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いきなり海へ飛び込み 自殺してしまいました。
皆が呆然と見ている連絡船の 航跡のバックに 御詠歌の様な歌が 長々と流れる中 エンドマークとなります。







PS.
  内田監督は 水上勉原作の作品を 映画化するに当り 16ミリカメラで撮影したフィルムを 35ミリワイドに拡大することで 粒子を5倍に拡大し、ザラついた粗い映像で 北海道の荒涼とした風景描写や 1947年当時の荒廃した人々の心情を 表現したかった様です。

  内田監督が編集した 当初の作品は 3時間20分でしたが、会社から短くしろと要請されて 3時間13分に直しました。会社は更に短くする様 要請し、3時間3分に編集したのが 小生が今回観た作品です。
しかし2本立てにする都合から 会社は、直営館以外では 監督に無断で 2時間47分にカットした作品で公開して 内田監督退社の原因となったそうです。

  冒頭で登場する 岩内線の岩内駅舎は(271.終わりなき生命を)でも登場していますが、同一の駅舎で 看板が旧字体で書いてあります。実際には 大火の翌年1955年完成の駅舎ですが、1947年当時の雰囲気はありますね。

  作中では 岩内から函館まで 直通の列車かの様に 描かれていますが、函館まで男の足で 一時間半以上掛かる駅で運転停止となります。1947年当時の時刻表では、岩内 8:59 ―(22レ)― 9:46 小沢 9:59 ―(408レ)― 16:34 桔梗(函館迄8.3㎞)が想像できます。
9600形蒸機 79616号機に牽かれて着いた駅は 不明ですが、二つ目のキューロクと言えば 今では廃線となった胆振線を思い出しますね。

  次に本作で 一番興味がわくのが、川内森林鉄道ですね。仏ヶ浦に上陸した犬飼は 野平(のだい)近くから 川内森林鉄道に乗り込み、畑を経由して 起点の川内の町まで乗りました。沿線住民用の 便乗扱いなので、乗車料金は不要の様です。

  丸太を積んだ貨車を牽く内燃機は DLで、この機関車酒井工作所製5t機です。 川内森林鉄道は 1923年完成で、1970年10月に廃止されています。

  川内から大湊へは バスに乗って大湊駅まで逃走し、八重が働く花屋へ寄りました。そして八重に 三万四千円を渡しますが、横領した七十八万円が 現在の価値で七千万円だそうなので、三百六万円相当となります。

八重が舞鶴へ向かう19枚目の画像では トンネルを出る D5272 号機が映っていますが、72号機は長年国府津区に所属して 御殿場線で活躍していた機関車です。
舞鶴迄ロケに出掛けたのですから、8620形やC58形の蒸機が 撮影できたでしょうに謎ですね。
全てのロケを終えて編集中に、蒸機牽引列車の映像を入れたくなって 急きょ近場の 御殿場線で撮影したのでしょうか?

  八重が死亡した旨の連絡で、杉戸と本島は 東京を夜九時に出て 舞鶴へ向かいます。東京 21:00 ―(15レ急行銀河)― 6:43 京都 6:50 ―(911レ山陰本線・舞鶴線)― 9:49 東舞鶴でしょうが、老人の杉戸には 7分以内で 東海道本線下りホームから 奥まった山陰本線ホームへの乗り換えは・・・

  舞鶴から北海道へ護送する場面は 日本海沿いを走る 普通列車らしき 旧客車内でのワンシーンから 青函連絡船甲板上へ 飛んでしまいますが、当時は未だ 連絡船の便数は少なく 日中 海峡を渡る下り便は 青森 6:25発の3便と :9:50発の17便です。

  これを元に映像と合致する行程を推理すると 東舞鶴 19:39 ―(931レ)― 21:53 敦賀 1:43 ―(513レ)― 5:00(三日目)青森6:25 ―(3便)― 10:55 函館との予定だったと思われます。

樽見が飛び込む直前の 最後の画像では、護衛する味村と 左の刑事両名共 何故か樽見から視線を外している様に見えますね。この青函連絡船でのシーンは、北海道での全てのロケが終わり 青森に向かっての帰路で 撮影したそうです。
 
  東映のスチール写真では 東舞鶴駅から出発する場面か 青森到着時の 護送一団の画像がありますが、
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本編中に この様なシーンはありません。(3時間20分版に 存在したシーンならば残念です!)

  また プロ野球の東映フライヤーズを退団して東映に入った 八名信夫氏の回想では、三國連太郎は 犬飼多吉の 役作りの為に 上野駅地下道の 浮浪者群に混じって寝起きして 飢えや焦燥感を体に覚えさせたそうです。


  参考:(夢を吐く 人間内田吐夢)太田浩児著 ・ 週刊現代 2021年5月29日号(熱討スタジアム第398回)

  

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