
質屋強盗殺人事件の共犯者 石井(田村高廣)が拳銃を持って逃走し、昔の恋人の元に現れると ふんだ二人の刑事が張り込んで 逮捕に迫る過程を柚木隆雄(大木実)刑事の目線で描いたサスペンス映画です。
本作の冒頭から7分半を掛けて 横浜から佐賀まで鉄道で至る道程を 描いた導入部分は、「映画の中の鉄道シーン」の筆頭格に値する名画として 昔から語り継がれている有名作です。
横浜駅6番ホームに「停車中の列車は 23:06 発の鹿児島行 急行列車さつま号です」と放送が流れる中、

3番線に京浜線の桜木町行が到着して

二人の刑事が6番線への乗り換え通路へ向かいます。
乗り換える列車を牽引する電機の 発車ホイッスルが聞こえる中 階段を駆け下りて

地下通路から隣のホームへと 駆け上がり、既に動いている列車の 13号車デッキに下岡雄次(宮口精二)刑事と柚木は飛び乗りました。


横浜崎陽軒のシウマイ娘にも見送られて 列車は横浜駅を去り行きますが、

混み合った車内で 空席を探す二人は徒労に終わり 仕方なく通路に座るのでした。

蒸し暑い中 夜行列車は静岡・浜松・名古屋と過ぎ行き、夜が明ける頃 漸く京都で降りる人の一席分だけ空きました。

EF58に牽かれて淀川らしきを渡り、C59形蒸機に替わって山陽本線を走ります。

ここらで漸く東京駅から乗った、石井の本籍地である小郡へ向かう組の刑事の所へ合流します。

C5933 蒸機に牽かれて広島へ着くと、

柚木がホームで4人分の駅弁を買って 更に酒売りを呼びます。

その後 戸田~豊海の中間付近でしょうか、海沿いの景勝地を C6214 が颯爽と急行を牽き 走り抜けて行きます。


そして C59187 に牽かれて小郡へ着き、

石井の本籍地担当の二人と分かれます。

暗くなる頃 EF10形関門用の電機が牽いて関門トンネルを抜け、

九州へ入ると C595 蒸機が

博多夜船の流れる博多駅を出発して行きます。

そして佐賀駅舎から二人が降りてきて、冒頭の鉄道シーンが終わります。

翌日佐賀署に挨拶し 石井の元恋人 横川さだ子(高峰秀子)が住む家の向かいの宿で、張込みを開始したところでタイトルとなります。ここから6日間は何事も無く、猛暑の中 張込みが続きます。
その合間・合間に質屋強盗殺人事件の 捜査過程が映り、東京晴海通りを 三原橋方面へ行くパトカーが 都電9系統車輛とすれ違います。

また柚木と恋人 高倉弓子(高千穂ひづる)との、難航する交際経緯も流れます。
終盤の7日目 張込みの成果が出ない中 下岡が本庁の指示を仰ぎに 佐賀警察署へ出掛けた留守に、さだ子がいつもより早く 買い物袋を持たずに 出掛けるのを柚木は 不審に感じて尾行します。
ところが丁度その日は 祭りの日で、人混みの中 さだ子を見失ってしまいます。佐賀駅舎内を見回しても見つからず、

発車案内時刻表から 汽車ではなく バスで移動したと推察します。

バス会社で尋ねると、似た二人連れが(東多久?行に)乗った様です。柚木はタクシーでバスを追い駆け、D60形蒸機が5連客車を牽く 久大本線らしきに沿って進みます。

工事現場で足止めに会った後、C11形蒸機さしきがバックで牽く混合列車を 追い越す勢いですが

追い付けませんでした。二人が5つ手前で降りたことを聞き出し、佐賀警察へ役場の電話を借りて連絡します。
柚木は二人の目的地らしい 宝泉寺温泉へ向かい 土手を登ると、戦時型の C11 が客車2輌と緩急車を バックで牽く宮原線らしき列車に遭遇します。

宝泉寺温泉で 佐賀警察署の応援も得て 石井を逮捕し、さだ子にも つかの間の夢から覚めて 元の生活に戻る様諭して 無事 事件は解決しました。
ラストは夜行列車で 東京まで犯人を護送するべく、急行西海号に乗って佐賀駅を後にする 本作第二の重要な場面です。
夜遅い佐賀駅舎内 殆どの人は東京直通急行 西海号を待っている様です。

柚木は東京までの3人分の急行券と3等乗車券を買った後、

台東区役所総務課の弓子に宛てて「カエリシダイケツコンスル」と電報を打ちます。

「お待たせしました 22:40発 東京行 急行西海号の改札を開始致します」と放送されると、待合の人々は一斉に改札口へ向かい

やや遅れて3人と佐賀警察の佐々木刑事もホームまで同行します。
4人が改札口から入ると、

「この列車の停車駅は、鳥栖・博多・遠賀川・折尾・~・新橋・東京です」と全ての停車駅を告げます。米原辺りに掛った頃 C57形蒸機を先頭にした急行西海号が入線して来ました。

そして「さぁがぁ~・さぁがぁ~」と独特の節回しで駅名が放送される中 停止すると、エンドクレジットが延々と映り 終わると汽笛が長々と鳴り響き

西海号が出発して行きながら エンドマークとなります。
PS.
皆様の応援のお蔭で、遂に300回記念号を迎えることが出来ました。 それに相応しい名作として、お待たせしておりました( 張込み )を取り上げました。
昔から当時 急行さつま号の横浜発は 22:19なのに、何故 23:06発としたのか?・東京駅で知り合いの新聞記者に見つかったのなら、何故 品川駅から乗らなかったのか?等々の議論があったそうです。
小生の推理では 早い時間帯での横浜駅構内と さつま号が混んでいてロケの許可が下りなかった? さつま号より遅い 23:06発の201レ湊町行の急行大和号を さつま号に見立ててロケが行われたのでは?
でも実際に二人が飛び乗ったのは、23:34発の203レ鳥羽行の急行伊勢号の様です。飛び乗った13号車の前の12号車がスロハ32なのと、大和号に無い14号車スハフ42が連結されている点で伊勢号と思われます。
当時九州直通急行は常に混んでおり 三等車の場合 大和号や伊勢号の方が2割程 乗車率が低かった点も、飛び乗りロケをする時に考慮したのでしょう。昔映画に数ある飛び乗りシーンの中で、再難度の飛び乗りをスタント・特撮無しで映像に記録されています。
さて 混み合う さつま号の車内場面ですが【(松本清張研究2号 1997年砂書房)の〔座談会〕映画『張込み』(野村芳太郎監督)撮影現場からの証言】に依ると、国鉄と交渉して東京 20:30発の41レ博多行急行筑紫号の最後部に貸切三等車を1輌増結して スタッフの輸送を兼ねて博多までの道中 ロケを行いながら移動したので 真夏の暑さを感じる 本物の迫力ある映像を撮ることが出来たのでしょう。


ですから裏方や助手なども エキストラ役を兼務して、映らない部分に小道具や各種用品も積み込んでの移動だった様です。勿論 映らない高峰秀子さんなどは、3号車の特ロに乗って行った様です。終点博多には翌日19:45に到着し、貸切バスに乗換えて佐賀へ向かったそうです。
すると柚木と下岡が乗る急行さつま号が博多駅を出発して行くシーンですが、バスに乗るさだ子を尾行するロケの後 博多へ移動し 19:45に終着した急行筑紫号に乗り込み客車区へ回送する車輌のサボを鹿児島行に替えてロケを行ったそうです。
ロケ終了後 0:52発 411レ長崎行に乗って、02:25の真夜中に佐賀へ帰ったそうです。作中に鹿児島行の急行さつま号から鳥栖で乗換える場面がありませんが、使うとするとこの 411レに乗換えるしかありません。
地元紙である佐賀新聞が「今日の撮影予定」の記事を連日載せるなど 撮影の様子を連日細かく書くので、街頭ロケには一万人程の見物人が集まって 柚木がさだ子を追って佐賀駅で捜す場面等は 佐賀警察の総力を挙げての警備でも苦戦したそうです。
宝泉寺温泉駅もある宮原線は久大本線恵良~肥後小国までの 26.6㎞で、豊後森区のC11形蒸機に牽かれて 当時は豊後森から全6本の列車が発着していましたが 1984年12月に廃線となりました。
ラストの佐賀駅夜間撮影は野村監督が拘った場面であり、佐賀商工会議所全面協力の元 九州電力から200キロのトランスを借りて強力なライトを使ってクレーン撮影も行った様です。
門デフ仕様の C57175機関車がライトに照らされて停車しますが、発車シーンでは標準デフの C57159機関車です。これは機関士が眩しさか・緊張からか停止位置より手前に停まってしまい、発車シーンがNGとなり 翌日撮り直しとなったからの様です。
参考文献 【(清張映画にかけた男たち 張込みから砂の器へ)西村雄一郎著 2014年:新潮社刊】・【娯楽よみうり 1957年11月号】
続PS
山陽本線の戸田~豊海らしき景勝区間で C6214機関車の走行場面は、ベテラン井上晴二カメラマンによって静止画でも鮮やかな流し撮りの様です。

東京行 34レ急行西海号は 柚木がさだ子を追って佐賀駅へ行った場面で、上り時刻表に 19:51発と映っているのに何故 22:50発としたのでしょうか不明です。
地元 佐賀警察署の佐々木(多々良純)が「今度のは長崎発だから大丈夫ですよ」と座れる可能性が大だと言ってますが、西海号が佐世保発着なのは地元では常識なので先行上映を観た地元の方は・・・
以上疑問点もありますが、何度見直しても素晴らしく 映画史に残る名作であることは間違いありません。大木実氏が観たという沿線の琵琶湖や姫路城のシーンがある、タイトルまで20分近くあるバージョン(試写会版?)を是非観たいものです。
次回から 1970~1990年代の作品特集をして、その後は通常運転に戻す予定です。
- 関連記事
-
- 375. 集金旅行
- 300. 張込み
- 284.夜来香(イェライシャン)


