fc2ブログ

日本映画の鉄道シーンを語る

日本映画における鉄道が登場する場面(特に昭和20~40年代の鉄道黄金期)を作品毎に解説するブログ

300. 張込み

1958年1月 松竹 製作 公開   監督 野村芳太郎

質屋強盗殺人事件の共犯者 石井(田村高廣)が拳銃を持って逃走し、昔の恋人の元に現れると ふんだ二人の刑事が張り込んで 逮捕に迫る過程を柚木隆雄(大木実)刑事の目線で描いたサスペンス映画です。

本作の冒頭から7分半を掛けて 横浜から佐賀まで鉄道で至る道程を 描いた導入部分は、「映画の中の鉄道シーン」の筆頭格に値する名画として 昔から語り継がれている有名作です。
横浜駅6番ホームに「停車中の列車は 23:06 発の鹿児島行 急行列車さつま号です」と放送が流れる中、
300-1.jpg
3番線に京浜線の桜木町行が到着して
300-2.jpg
二人の刑事が6番線への乗り換え通路へ向かいます。
乗り換える列車を牽引する電機の 発車ホイッスルが聞こえる中 階段を駆け下りて
300-51.jpg
地下通路から隣のホームへと 駆け上がり、既に動いている列車の 13号車デッキに下岡雄次(宮口精二)刑事と柚木は飛び乗りました。
300-52.jpg

300-4.jpg

横浜崎陽軒のシウマイ娘にも見送られて 列車は横浜駅を去り行きますが、
300-5.jpg
混み合った車内で 空席を探す二人は徒労に終わり 仕方なく通路に座るのでした。
300-7.jpg

蒸し暑い中 夜行列車は静岡・浜松・名古屋と過ぎ行き、夜が明ける頃 漸く京都で降りる人の一席分だけ空きました。
300-8.jpg
EF58に牽かれて淀川らしきを渡り、C59形蒸機に替わって山陽本線を走ります。
300-9.jpg
ここらで漸く東京駅から乗った、石井の本籍地である小郡へ向かう組の刑事の所へ合流します。
300-10.jpg
C5933 蒸機に牽かれて広島へ着くと、
300-13.jpg
柚木がホームで4人分の駅弁を買って 更に酒売りを呼びます。
300-14.jpg

その後 戸田~豊海の中間付近でしょうか、海沿いの景勝地を C6214 が颯爽と急行を牽き 走り抜けて行きます。
300-16.jpg

300-56.jpg

そして C59187 に牽かれて小郡へ着き、
300-17.jpg
石井の本籍地担当の二人と分かれます。
300-18.jpg
暗くなる頃 EF10形関門用の電機が牽いて関門トンネルを抜け、
300-20.jpg
九州へ入ると C595 蒸機が
300-58.jpg
博多夜船の流れる博多駅を出発して行きます。
300-23.jpg
そして佐賀駅舎から二人が降りてきて、冒頭の鉄道シーンが終わります。
300-24.jpg

翌日佐賀署に挨拶し 石井の元恋人 横川さだ子(高峰秀子)が住む家の向かいの宿で、張込みを開始したところでタイトルとなります。ここから6日間は何事も無く、猛暑の中 張込みが続きます。
その合間・合間に質屋強盗殺人事件の 捜査過程が映り、東京晴海通りを 三原橋方面へ行くパトカーが 都電9系統車輛とすれ違います。
300-25.jpg
また柚木と恋人 高倉弓子(高千穂ひづる)との、難航する交際経緯も流れます。

終盤の7日目 張込みの成果が出ない中 下岡が本庁の指示を仰ぎに 佐賀警察署へ出掛けた留守に、さだ子がいつもより早く 買い物袋を持たずに 出掛けるのを柚木は 不審に感じて尾行します。
ところが丁度その日は 祭りの日で、人混みの中 さだ子を見失ってしまいます。佐賀駅舎内を見回しても見つからず、
300-28.jpg
発車案内時刻表から 汽車ではなく バスで移動したと推察します。
300-27.jpg

バス会社で尋ねると、似た二人連れが(東多久?行に)乗った様です。柚木はタクシーでバスを追い駆け、D60形蒸機が5連客車を牽く 久大本線らしきに沿って進みます。
300-30.jpg
工事現場で足止めに会った後、C11形蒸機さしきがバックで牽く混合列車を 追い越す勢いですが
300-31.jpg
追い付けませんでした。二人が5つ手前で降りたことを聞き出し、佐賀警察へ役場の電話を借りて連絡します。

柚木は二人の目的地らしい 宝泉寺温泉へ向かい 土手を登ると、戦時型の C11 が客車2輌と緩急車を バックで牽く宮原線らしき列車に遭遇します。
300-29.jpg
宝泉寺温泉で 佐賀警察署の応援も得て 石井を逮捕し、さだ子にも つかの間の夢から覚めて 元の生活に戻る様諭して 無事 事件は解決しました。

ラストは夜行列車で 東京まで犯人を護送するべく、急行西海号に乗って佐賀駅を後にする 本作第二の重要な場面です。
夜遅い佐賀駅舎内 殆どの人は東京直通急行 西海号を待っている様です。300-37.jpg
柚木は東京までの3人分の急行券と3等乗車券を買った後、
300-34.jpg
台東区役所総務課の弓子に宛てて「カエリシダイケツコンスル」と電報を打ちます。
300-36.jpg

「お待たせしました 22:40発 東京行 急行西海号の改札を開始致します」と放送されると、待合の人々は一斉に改札口へ向かい
300-38.jpg
やや遅れて3人と佐賀警察の佐々木刑事もホームまで同行します。
4人が改札口から入ると、
300-39.jpg
「この列車の停車駅は、鳥栖・博多・遠賀川・折尾・~・新橋・東京です」と全ての停車駅を告げます。米原辺りに掛った頃 C57形蒸機を先頭にした急行西海号が入線して来ました。
300-41-2.jpg
そして「さぁがぁ~・さぁがぁ~」と独特の節回しで駅名が放送される中 停止すると、エンドクレジットが延々と映り 終わると汽笛が長々と鳴り響き
300-44.jpg
西海号が出発して行きながら エンドマークとなります。






PS.
 皆様の応援のお蔭で、遂に300回記念号を迎えることが出来ました。 それに相応しい名作として、お待たせしておりました( 張込み )を取り上げました。

 昔から当時 急行さつま号の横浜発は 22:19なのに、何故 23:06発としたのか?・東京駅で知り合いの新聞記者に見つかったのなら、何故 品川駅から乗らなかったのか?等々の議論があったそうです。

 小生の推理では 早い時間帯での横浜駅構内と さつま号が混んでいてロケの許可が下りなかった? さつま号より遅い 23:06発の201レ湊町行の急行大和号を さつま号に見立ててロケが行われたのでは?

 でも実際に二人が飛び乗ったのは、23:34発の203レ鳥羽行の急行伊勢号の様です。飛び乗った13号車の前の12号車がスロハ32なのと、大和号に無い14号車スハフ42が連結されている点で伊勢号と思われます。

 当時九州直通急行は常に混んでおり 三等車の場合 大和号や伊勢号の方が2割程 乗車率が低かった点も、飛び乗りロケをする時に考慮したのでしょう。昔映画に数ある飛び乗りシーンの中で、再難度の飛び乗りをスタント・特撮無しで映像に記録されています。

 さて 混み合う さつま号の車内場面ですが【(松本清張研究2号 1997年砂書房)の〔座談会〕映画『張込み』(野村芳太郎監督)撮影現場からの証言】に依ると、国鉄と交渉して東京 20:30発の41レ博多行急行筑紫号の最後部に貸切三等車を1輌増結して スタッフの輸送を兼ねて博多までの道中 ロケを行いながら移動したので 真夏の暑さを感じる 本物の迫力ある映像を撮ることが出来たのでしょう。
300-12.jpg


300-57.jpg
 
 ですから裏方や助手なども エキストラ役を兼務して、映らない部分に小道具や各種用品も積み込んでの移動だった様です。勿論 映らない高峰秀子さんなどは、3号車の特ロに乗って行った様です。終点博多には翌日19:45に到着し、貸切バスに乗換えて佐賀へ向かったそうです。

 すると柚木と下岡が乗る急行さつま号が博多駅を出発して行くシーンですが、バスに乗るさだ子を尾行するロケの後 博多へ移動し 19:45に終着した急行筑紫号に乗り込み客車区へ回送する車輌のサボを鹿児島行に替えてロケを行ったそうです。
 ロケ終了後 0:52発 411レ長崎行に乗って、02:25の真夜中に佐賀へ帰ったそうです。作中に鹿児島行の急行さつま号から鳥栖で乗換える場面がありませんが、使うとするとこの 411レに乗換えるしかありません。

地元紙である佐賀新聞が「今日の撮影予定」の記事を連日載せるなど 撮影の様子を連日細かく書くので、街頭ロケには一万人程の見物人が集まって 柚木がさだ子を追って佐賀駅で捜す場面等は 佐賀警察の総力を挙げての警備でも苦戦したそうです。

 宝泉寺温泉駅もある宮原線は久大本線恵良~肥後小国までの 26.6㎞で、豊後森区のC11形蒸機に牽かれて 当時は豊後森から全6本の列車が発着していましたが 1984年12月に廃線となりました。

 ラストの佐賀駅夜間撮影は野村監督が拘った場面であり、佐賀商工会議所全面協力の元 九州電力から200キロのトランスを借りて強力なライトを使ってクレーン撮影も行った様です。
 門デフ仕様の C57175機関車がライトに照らされて停車しますが、発車シーンでは標準デフの C57159機関車です。これは機関士が眩しさか・緊張からか停止位置より手前に停まってしまい、発車シーンがNGとなり 翌日撮り直しとなったからの様です。
 
 参考文献 【(清張映画にかけた男たち 張込みから砂の器へ)西村雄一郎著 2014年:新潮社刊】・【娯楽よみうり 1957年11月号】



続PS
 山陽本線の戸田~豊海らしき景勝区間で C6214機関車の走行場面は、ベテラン井上晴二カメラマンによって静止画でも鮮やかな流し撮りの様です。
300-55.jpg

 東京行 34レ急行西海号は 柚木がさだ子を追って佐賀駅へ行った場面で、上り時刻表に 19:51発と映っているのに何故 22:50発としたのでしょうか不明です。

 地元 佐賀警察署の佐々木(多々良純)が「今度のは長崎発だから大丈夫ですよ」と座れる可能性が大だと言ってますが、西海号が佐世保発着なのは地元では常識なので先行上映を観た地元の方は・・・

 以上疑問点もありますが、何度見直しても素晴らしく 映画史に残る名作であることは間違いありません。大木実氏が観たという沿線の琵琶湖や姫路城のシーンがある、タイトルまで20分近くあるバージョン(試写会版?)を是非観たいものです。 

次回から 1970~1990年代の作品特集をして、その後は通常運転に戻す予定です。
関連記事

PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する
 

張込み

鉄道ファン垂涎の映画「張込み」の鉄道シーンについては、インターネットのあちらこちらに部分的には掲載されているが、これで完璧版が登場したことになるであろう。

原作者と(映画化)監督には相性(chemistry)というものがあって、原作がどれほど優れていても、「原作殺し」と呼ばれるほど、映画になると詰まらないものもあるし、その正反対の場合、薄っぺらな原作が映画化で大化けする「原作はだし」も見られる。

その点、松本清張と野村芳太郎はゴールデン・コンビで、お互いの持ち味が相乗効果をもたらして珠玉の作品(その中でも「張込み」は最高作だ!)を生み出した。

「張込み」がこのブログにまだ紹介されていなかったのは不思議なくらいで、300回記念に特別にリザーブされていたのだろう。

タイトルは11分15秒後に出る。
「やさぐれ刑事」は開始18分で最長だと思うが、アバンタイトルが20分近くあるバージョン(試写会版?)があったのを初めて知った。

勿論、見たいです! 百万円の入場料を払っても見たい!

今回見直して、あることに気づいた。

松本清張原作、「張込み」というタイトル、それに宮口精二のハンチング帽の先入観で、観客は汽車に乗り込んだ二人は刑事だと思い込んで見てしまうが、実際に二人が佐賀警察署に出向いて名刺を差し出すまでは、(映画では)彼らが刑事だとは一切伝えられていないし、匂わせる伏線もない。

そのため、「二人の刑事が6番線への乗り換え通路へ向かいます」というブログの説明は、この時点では二人が刑事だと知らされておらず、より正確を記するなら「二人の男が6番線への~」とするべきではないでしょうか。

冒頭7分15秒間は鉄道シーンの魅力炸裂、(映画館の)観客をも「さつま号」に詰め込んで佐賀まで送り込むのだ。

二人の刑事が夜行列車に乗り込み、蒸し暑い車内で22時間もの長旅に耐え、西へ、西へ、西へ、目的地の佐賀に到着するまでを、これでもかと言うほど克明に描いている。

何度見ても見飽きない、他の映画の鉄道シーンなど、もう見続けてゆく気力が無くなってしまいそう。

鉄道ファン達よ、正座して見給え!

赤松 幸吉 | URL | 2019-12-21(Sat)17:37 [編集]


Re: 張込み

 赤松様 熱烈なコメントありがとうございます。

松本清張と野村芳太郎は確かにゴールデン・コンビで、脚本を担当した橋本忍の才能がこの映画の魅力を倍増させたと思います。

(300回記念に特別にリザーブされていたのだろう)とは正にその通りです この機会を待っていました。

これからも時に甘く、時に辛いコメントをドシドシお願い致します。

テツエイダ | URL | 2019-12-22(Sun)22:04 [編集]


300回

更新ありがとうございます
懐かしい映画、未見の映画、毎回楽しんで読ましていただいています

200回の時は「点と線」
今回は「張り込み」

昔ビデオで見たとき長い長い九州までの汽車の旅で何時から始まるのかイライラしてみていた思い出が
冒頭の飛び乗りも良く撮れた物だと

鉄ちゃんでは無いので列車番号などわかりませんが映っているいる汽車からの色々の考察、大変参考になり興味深いでる

「400回」にはどんな映画が・・・楽しみにしております

辺境の民 | URL | 2019-12-23(Mon)10:49 [編集]


Re: 300回

辺境の民 様  コメントありがとうございます。

 本作の最初の見せ場である 飛び乗りシーンですが、最初は アナウンス通り 23:06発の急行大和号でチャレンジした様です。
 でもタイミングが合わなかった様で、次の急行伊勢号で撮り直し OKが出た様です。

 400回と言わず印象に残った映画がありましたら、今後も気軽にコメントを寄せてください。

テツエイダ | URL | 2019-12-23(Mon)18:49 [編集]


連載300回、心よりおめでとうございます。
質の高さを保ちながら、コンスタントにブログを続ける大変さは、わたしもわかっているつもりです。それだけに、300回続けられたということには、ただ感心するばかりです。
わたしは、テツエイダ様のブログを見るまで、鉄道趣味でもこのようなジャンルがある、ということを知りませんでした。そこから、自分の興味がある部分にも新しい発見がありましたし、興味がなかった(知らなかった)部分に対しても、興味を持てるようになりました。
今回ご紹介の “張込み”、DVD化されているようですので、ぜひ観てみます。

鉄道青年 | URL | 2020-01-07(Tue)18:42 [編集]


Re: タイトルなし

鉄道青年様 お祝いコメントありがとうございました。
 皆様の応援コメントは、小生にとって何よりの活力になっております。

 初期の頃は鉄道シーンのみに拘り、映画の内容との関わりに殆ど触れない回が多かったと思います。
 2週間毎の更新にしてから なるべく深く掘り下げ、小ネタも盛り込む方針にしました。

 これからも コメントを寄せて頂きます様 お願いします。

 

テツエイダ | URL | 2020-01-07(Tue)22:56 [編集]


冒頭の名シーン

テツエイダ 様

 ED76であります。

本作の準主役と言っても過言ではない「高峰秀子」様が演じる「横川さだ子」。この姿が本作の中で掛け替えのない存在として、小生は忘れることができません。平凡な後妻としての生活。しかし、「過去の男・石井(田村3兄弟の長兄「田村高廣」氏)」が現れるや否や、全てを投げ捨てるがごとくの逃避行という行動に出る大胆さ。そして、「柚木刑事(渋い悪役が光る「大木 実」氏)」から、「まだ帰りのバスに間に合います」の言葉で哀しい現実に引き戻される表情の切なさ・・・。地味であり、根気のいる苛立だしさや単調さをかえって印象深くしている「高峰」様の姿が、淡々とした「さだ子」に乗り移っているかのようであります。

 
 「高峰」様の演じる役柄で小生の心に残るのは、本作の「さだ子」に加えて、昭和29年制作の「二十四の瞳」の「大石久子先生」。そして、昭和41年制作の「ひき逃げ」の「伴内国子」であります。
 「大石先生」は言わずもがなの理想的な教師であり、小生のような「デモシカ高校教師」にしてみれば、最も対照的な存在と言っても過言ではないほどの優しさ。そして、子どもたちを見つめる眼差しの暖かさ。号泣しながら鑑賞しました。
 が、一方の「ひき逃げ」の「伴内国子」役は、我が子をひき逃げされて復讐の女と化す母親であり、加害者である「柿沼絹子(Winkの相田翔子様の姑である「司 葉子」様)」を親子ともども追いつめて・・・という役どころを演じて、幼子すら手にかけようとする狂気の母親の姿に、小生は背筋が寒くなったことを覚えております。


小生、「張込み」は原作を講読しており、短編である同作を長編が如くの映画作品に仕立て上げた「橋本 忍」氏と「野村芳太郎」氏の名コンビ(この二人によって、あの「砂の器」が完成したことは多言無用でしょう)は、高く評価したいところです。
 前述しましたが、「さだ子」は地味な存在として描かれており、主に「柚木刑事」の視点から物語が語られていきます。息が詰まるような変化のない張込みシーンが延々と続いた後、起承転結の転の動きから、一気に雪崩れ込む展開は見事の一言。
 そして、最後に「さだ子」に訪れる後妻の単調な現実。情緒的に描かれていた「砂の器の高木理恵子(薄幸な女役の「島田陽子」様)」とは、異なる生活感が強く感じられるからこそ、感傷的なシーンではない部分が、小生には快く感じられました。「さだ子」を諭す「柚木刑事」も、許嫁である「弓子(ゼロの焦点の悲劇的ヒロイン「高千穂ひづる」様)」との関係に悩んでおり、後半の展開の中では「さだ子」の女としての悲しみが、自分自身の現実と等質のものであることに気づくのです。ですから、犯人の「石井」に対して発した一言、「今日からやり直すんだよ」は「柚木」自身にも言い聞かせる決意の言葉でもあり、小生には胸が熱くなるシーンとなりました。
 繰り返しになってしまいますが、本作は全体的に地味であり、突き刺さる現実が描かれております。しかし、本作を小生はあえてその「現実」を、人間に対して一歩引いた視点で描いている力作であると考えております。


 「テツエイダ」様が記述されているように、本作での「佐賀への旅路」は実際、急行「筑紫(39レ)」の最後尾にハザ(ナハ10系)を1両増結して撮影されたものです。特に一昼夜乗りつづけながらの旅の様子は、夜行区間で通路に座り込み、気怠い昼行区間でシャツを脱いで下着姿で暑さをしのぐ姿に、昭和の列車旅の強いリアリティーが感じられてなりません。
 昭和33年の夏に、小生の「鉄」親父が叔父の結婚に係るお礼がてらに、叔父2人と「鹿児島県出水」に在する伯母のところへの道中に「さつまのハザ」で2晩を過ごしたことがあったのですが、「鉄」親父曰く「人いきれと暑さで、2日間殆ど徹夜だった」とのこと。
 「東京」からやっと3日目の早暁の「出水」に到着したのは、夜明け前の午前3時過ぎ。「出水」の駅務員だった伯母の連れ合いに、伯母宅のある「西出水」に停まる出水始発の旧客鈍行レのボックス(スハ32系)で休ませてもらい、「西出水」に午前6時前にようやくたどり着いたのでした。
 伯母たちは、日焼けと煤で汚れた「鉄」親父たちを見て、「東京から逃げてきた指名手配の犯人にしか見えなかった」と大笑い。「鉄」親父たちが健在だったころは、酒宴になると「さつま」での思い出話に、いつも大盛り上がりとなったことを覚えております(笑)。

失礼いたします。

ED76 | URL | 2022-02-11(Fri)23:30 [編集]


Re: 冒頭の名シーン

ED76 様  コメントありがとうございます。

「横川さだ子」が石井が現れるや、全てを投げ捨てるがごとくの 逃避行という行動に出る大胆さには 小生も驚きました。

そして厳しい現実を突き付けられるや ひとしきり泣くと、柚木刑事の忠告に従い さっぱりとした様子に見えて 女は怖いナという印象でした。

それにしても「さつまのハ座」に二晩連続とは!想像を絶する厳しさと思います。「東京から逃げてきた指名手配の犯人にしか見えなかった」とは言い得て妙でしたね。

テツエイダ | URL | 2022-02-12(Sat)16:54 [編集]


切符発売窓口

 今晩は。先日の書き込み以来読み続けて、ここまで来ました。途中いくつか触れておきたい作品もありましたが、それを置いて先を急いでいました。それらは日を改めて書くことにします。

 当時のダイヤと映画の進行との照合調査、推測、車両の種類、ロケの位置等、良くこれだけ調べるものだと感心しきりです。これを更に読者がそれぞれの知識や見解で盛り上げるので、楽しいことこの上ありません。
 さて、この作品の末尾、容疑者確保後帰京するに当たって切符を窓口で求めます。4番窓口の係りの左奥に有る細かな仕切りが付いた棚が券箱でしょう。
 私はこの形状にややや、となりました。話に聞いていた、国鉄九州局では切符を平積みにしていたというのを初めて見たからです。私は作品そのものはもう30年以上前に見ていましたが、その頃はまだ切符を系統立てて集めていたわけでなく、これに気が付いていませんでした。
 日本の駅の大部分では硬券切符は裏面の券番を見えるように傾斜ケースにセットして保管していました。売り上げ集計の際もその裏面にペンや色鉛筆で✓を書き込んで目印としていました。✓のある券は前日以来売れていない切符というわけです。
 これに対して九州では、表を上にした平積みで、切符の端の券番が見えるように90度ほど折って目印としたとのこと。切符収集者としてはこれはありがたくないのですが、このように折られた切符を見ることが時々あります。
 このスチル写真では切符の山の最上部が白く光っている=切符が折られている仕切りが多く目につきます。当日の集計が完了して、翌日分になってから撮影が行われたのでしょう。
 日計は21時頃に行われることが多かったようです。駅側から撮影は集計が完了してから行うよう指示されていたかもしれません。

大森山谷 | URL | 2022-06-05(Sun)20:53 [編集]


Re: 切符発売窓口

大森山谷 様  コメントありがとうございます。

成る程 佐賀駅の券箱は見慣れた傾斜ケースではなく、平積みで並べてありますね。
国鉄九州局独自のルールで、行われていたのでしょうか。

硬券時代の西日本では関西・四国で傾斜ケース形だった様に記憶していますが、九州へ行ったのが遅くて平積みの出札口は見かけませんでした。

本作のロケは通常の営業と並行して行われた様なので、当日の集計が完了して、翌日分になってから撮影が行われたことでしょう。

今後も過去ブログの掘り起こしを歓迎致しますので、宜しくお願い致します。。

テツエイダ | URL | 2022-06-06(Mon)23:32 [編集]